主人公が樹になったら
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KOWLOON YOU-MA GAKUEN KI ~BGM~『Cross Quarter battle』
MD215年 11/22 10:30
「オォラァーーー!」
初めに衝撃が発生した。
それは周囲に風を巻き起こし、それの周りに居たエルフ達をたじろがせた。
衝撃と風の後に、ようやく音が遅れてやってきた。
「ジョッシュ!」
「ば、化け物だ……」
「怯むな、奴を倒せばゾンビどもは止まる! 対ビヒモス戦闘、用意!」
彼らを指揮する天使は自らの脇を吹き飛んでいったエルフを物ともせず、周囲のエルフ達に指示を送る。
指示を受け、エルフ達は樹の蔦で編まれた網を一斉に標的に向かって投擲する。
「あぁ?」
投網に絡み付かれ、男──田崎は鬱陶しそうに声を上げた。
機械の体を遠隔操作で動かしているとはいえ、その体の動作が鈍るのは彼にとって心地よいものではなかった。
「放て!」
幾重にも絡み付いた網を引き剥がそうとする田崎だったが、彼らはその隙を与えなかった。
網が絡みついた瞬間、エルフ達は手元から網を伝い緑の霊力を田崎へ送り込んでいた。
「歌唱、開始!」
「歌う暇なんざ──」
右の拳を握り締めようとし、田崎は画面に映る赤文字に気づいた。
<<致命的なエラー>>
「エラーだぁ!? 一体何の……駆動系!? いや、まだ増える!?」
画面にエラーの文字が映ると、次第にその文字が無数に増えていく。
田崎は原因を直ぐに発見するが、その異常を修復するよりも更に早く異常が増えていく。
次第に、田崎はある事に気が付いた。
「なんだ……? 視界がおかしくなってきた、それに足がまるで根が張ったみたいに動かねぇ……!」
田崎の言う通り、まっすぐだった視界は徐々にねじくれ、両足は完全に動かず、かろうじて右手だけが上に上がった。
その腕を見た時、田崎は驚愕した。
「樹、樹だ! 腕が……いや、義体が樹になってやがる!」
そう言葉を発する田崎に合わせて、ロシアに居る義体も口を動かそうとするが最早完全に体を動かすことが出来なくなっていた。
先ほどまで体に掛かっていた網は葉に、指は枝となり、目の奥からも枝が突きでて、胴体は幹となっていた。
「お前の体は強靭だったが……破壊する以外にもお前の罪を自覚させる方法はある」
天使はそう言って、樹木となった義体に深々と剣を突き立てる。
義体からは赤黒い液体が噴出し、暫く流れ落ちた末にそれは止まった。
「我々の勝利だ! 後は残りのゾンビを駆逐すれば──」
剣から手を離し、周囲のエルフ達に言葉を掛けている最中の事だった。
それが現れたのは。
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「おぉ、ここが龍脈でござるか。 拙者初めて来た」
「儂は二回目じゃな、巫女の儀式の時に来たが……思い出すのと探すのにこんなに時間が掛かるとは、歳は取りたくないもんじゃ」
「ウ、ココ……ターモ、キライ」
「高濃度のアンモニアを検知、ナルホドナルホド、どうやらこの辺りには死骸が積もり積もっているようですねぇ~」
物珍し気に丘の上から、眼前に空いた広大な穴を眺める3人と一つ。
彼らは今、ロシア東部にある龍脈まで来ていた。
「しかしどでかい穴でござるな、何かとてつもなく大きな石でも落ちたのでござろうか」
「う~む……昔来たときはこんなにばかでかい穴ではなかった筈なんじゃが」
眼前の大地に穿たれた穴は、最早穴というよりは別世界への入り口のようでもあった。
その証拠に、大穴からはどす黒い空気やゾンビがよろめきながら無数に姿を現していた。
「とは言えやはりこの場所で正解じゃったな、ゾンビがどんどん沸いてきよる」
「して、死体の指揮官とはどれにござるか?」
額に手を当て、広大な穴を凝視する虎牙の言葉に芽衣子も併せて穴を眺める。
だが……。
「う~む……広すぎてわからん」
半径一キロ以上に渡って広がっている大穴の如き窪み。
その周囲に蠢く無数のゾンビの中から、指揮官らしきゾンビを探すのはかなり困難な仕事の様に思われた。
「ウ……ワカ、ンナイ」
「こりゃ困ったのう、指揮官っぽいのが見つからんと秘奥を使わないといかんくなるんじゃが」
「秘奥? 中々ファンタスティックな響きですねぇ」
「……何を期待してるのかは知らんが、面白いもんではないぞ」
秘奥と言う言葉に、イボンコが興味を示す。
いつもの声色よりも更に一オクターブ高い声で質問をするが、芽衣子は逆にいつもよりも低い声で反応を返す。
「オウ、ならば私も秘奥の為に情報を出し惜しみする必要はナッシングですね」
「む? どういうことじゃ」
「目当ての相手を発見しました、龍脈の中央部に微かですが反応があります」
芽衣子が抱きかかえるイボンコが、そう答えた。
「目当て、となると……指揮官でござるか!」
「龍脈の中央~?」
虎牙と芽衣子の二人は龍脈の中央を凝視する。
どす黒い気体が無限に溢れる大穴、そこは中心へ向かうほどに気体の濃さが増し、見ることを困難にしていた。
「見間違いとかじゃないかの、瘴気しか見えないんじゃが」
「ミーのセンサーに狂いはアリマセーン、中心部に一つだけ熱源がありまーす」
「熱? 確かにゾンビはひんやりしてるでござるからそれらが跋扈する場所に襲われないで居るというだけで怪しくはあるでござるな」
「むむ、となると本当に……?」
イボンコの発言を補強する様に、虎牙が同意する。
芽衣子もその言葉に信ぴょう性があると思ったのか、唸りながら首を縦に振った。
「まぁ間違ってたら秘奥を出せばいいしの! では指揮官暗殺計画を実行じゃ!」
「ウ!」
「ウラー!」
「うむ! で、一体誰が暗殺しに行くのでござるか?」
「え、そんなんお主に決まっとるじゃろ」
当然の疑問に、当然の答えが返ってきた。
「指揮官の位置は儂が光球を飛ばして案内するから安心して行ってくるのじゃ」
「ガン、バ……」
「うむ! でござるよね!」
虎牙は勢いよく、自分が居た小高い丘から飛び降りるとイボンコが指し示した地点へ向かって走っていく。
「いざいざいざいざいざ!! 尋常に、勝負ーー!」
空に浮かび上がった光球を目印に、虎牙は並み居るゾンビを一刀のもとに蹴散らしていく。
「相変わらず嵐みたいな男じゃな……」
「えぇ、羨ましいボディですねぇ」
「羨ましい? あぁ、そうかお主は体が……」
「イェース、ミーにも頑丈なボディがあればパーフェクトになれるのですが」
そう言って、芽衣子が持つ瓶の中で泡が立った。
瓶にはある程度の器具が装着されているが、あくまでも出来ることを少し増やすだけでイボンコ自体が移動をしたりすることは不可能なことに変わりはなかった。
「そうじゃな、気休めかもしれんが……きっとお主のボディが手に入るときは来るじゃろう、だからあまり気を落とさず前向きにの」
「スパシーバ、気遣い嬉しくおもいまーす」
「ぬふふふ」
光球を動かしながら、芽衣子は笑った。
「イオリ、ツイタ!」
そんな時、ターモが叫んだ。
虎牙が指揮官と思われる相手と会敵していた。
「む、早いの!」
虎牙は刀を構えたまま相手に何かを叫ぶと、打ち合いを始めた。
芽衣子からは相手の姿が良く見えなかったが、全身を鎧か何かに包んでいる相手と戦っている様に見えた。
相手の獲物は大剣であり、二刀の虎牙は多少の苦戦を強いられている様にも見えていたが……芽衣子の考えは杞憂であった。
数合の打ち合いの後、相手の首が空高く舞い上がった。
「おぉ!」
「ハラショー!」
「ヤッ、タ!」
空高く舞った鈍色の首は、ゆっくりと龍脈の窪みの中に沈み込んだ。
「敵将、打ち取ったり!」
虎牙が天高く二刀を掲げる。
上空から降り注ぐ陽光を刀が反射していた。
虎牙が勝ち誇る中、周囲を蠢いていたゾンビ達も徐々に倒れていき、次第に動く者は彼ら三人と一つだけになった。
「おぉ、ゾンビも全員死んだみたいじゃぞ! 儂等の勝利じゃ!」
「ウ!」
ターモに抱き着き、喜びを表現する芽衣子。
そのまま地面に倒れるとターモを抱いたままゴロゴロと転がり始める。
「最初はどうなるかと思ったが何とかなって良かった良かった! やっとサツホロに帰れるのう!」
「ウ……? メイコ、カエル?」
「うむうむ、もちろんターモも一緒じゃよ、お主と離れるなんて大地震が起きても無いから安心すると良いぞ」
「ホン、ト?」
「うむうむ、本当じゃ本当じゃ、ほれ、今正に揺れておるが儂は絶対に離さんぞ~……ってマジで揺れてるんじゃが!?」
地面を転がっていた芽衣子とターモは、自らの体が縦に跳ねている事に気が付いた。
イボンコもまたその振動で地面を転がっていく。
「アーレー」
地震は次第に大きくなっていき、揺れが大きくなるたびに龍脈の中心地点から何かが浮かび上がってきた。
「あ、あれはまさか……」
最初は突起の様な物が現れ、それは徐々に全貌を表していく。
「まさか……!」
その、鳥の様な全貌を。
「……凶鳥!!」
先週は風邪をひいていたので初投稿です
すまぬ、すまぬ……
Song of the Dryads / ドライアドの歌 (2)(緑)
エンチャント — オーラ(Aura)
エンチャント(パーマネント)
エンチャントされているパーマネントは無色の森(Forest)土地である。




