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人類ガバガバ保護記   作者: にっしー
ロシア編
172/207

火口に落ちたら

https://www.youtube.com/watch?v=EDllGOPr-Vg

Ys VIII -Lacrimosa of DANA- OST - Gens d'Armes

MD215年 11/19 12:00


「おー、見てみろよ! 良い景色だぜ!」


 標高二千メートルもある火山。

 濛々と白煙を吹き上げる火口のその真下。

 火山の九合目にて岩肌がむき出しの坂を駆けあがると、田崎は視界に映った素晴らしい景色に感嘆の声を上げた。


「おぉ~、これはまた絶景にござるなぁ芽衣子殿」


 芽衣子を背負いながら、田崎の後を登っていた虎牙も思わず感嘆の声を漏らす。


「わ、儂にはもう景色を楽しむ様な余力は無いんじゃが……」


 そんな元気な男二人とは対照的に、芽衣子は虎牙の背中の上でぐったりとしていた。


「この暑さはナーガの儂には辛い……み、水をくれぇ」


「鍛え方が足りんのではござらんか芽衣子殿」


「その脳みそ筋肉発言マジ勘弁なんじゃが、そういう風に出来てるものを鍛えたら何とかできると思うのが理解できんのじゃが?」


「心頭滅却すればと言うでござろう? 今のところ拙者はそれで暑さを凌いでいるでござるが」


「えっ、こわっ」


 真顔で言う虎牙に対し、芽衣子は困惑した表情と言葉を返した。


「アツ、イ」


 ターモが、遅れて登ってきた。

 彼女は身の丈の二倍ほどはある大きな鉄屑を背負っていた。


「ターモ、お主本当にそれ背負ってきたのか……重かったじゃろうに」


「ウ、テツニク、クウ!」


「ターモは本当に何でも食べるでござるなぁ、成長したらさぞや大きくなるのでござろうな」


「いや……というか何か少しずつ大きくなってないかの? 何か山登り始める前より少し大きくなったような気がするんじゃが」


 背負っていた鉄屑を地面に下ろすとターモはその一部分を引き千切り、大きく開いた口の中に放り込んでいく。

 そんな彼女の大きさが数時間前に見た時と違っている事に芽衣子は気づいた。


「そうでござるか? まぁ成長期でござろうしそういうこともあるでござろう!」


「そうかのう……」


「それよりも俺としてはさっき殺したその死骸の方が気になるがな、その小型のはなんなんだ?」


 いつの間にか、田崎の興味も景色からターモへと移っていた。

 田崎はターモが先ほどから引き千切っている鉄屑を指差し、興味深そうにそれを見た。


「何と言われてものう……子供のドラゴンじゃよ」


「マジで」


「サジマジバーツじゃ」


 田崎は驚きの表情を浮かべ、改めてそれを見つめた。

 火山の中腹を進んでいると突然襲い掛かってきたそれは、田崎が殴り飛ばした為に原型の三割程度しか留めていなかった。

 だがよく見れば確かに全体のフォルムは竜の様な形をしており、芽衣子の説明にどことなく説得力を持たせていた。


「お主が出てきた瞬間に殴り飛ばさなければもっとじっくり見れたんじゃがのう」


「しょうがねえだろ、突然出てきたからつい反射的に殴り飛ばしちまったんだよ」


「見事に左の裏拳が炸裂したでござるからなぁ……」


「しかし子供のドラゴンを生んだのが上の火口に居るのか」


「そうなるのう、ぶっちゃけここまで近づけるとは思っておらんかったが」


 芽衣子は虎牙の背中から降りると、彼が腰に身に着けていた竹の水筒を手に取り口に含んだ。


「普通ならこの山はさっきの子供ドラゴンや成体のドラゴンが飛び回っておるんじゃが今はそれが殆ど居ない」


「つまり?」


「儂等の侵入がバレていて、その上で何もしてこないという訳じゃな」


「成程」


「「つまりどういうことだってばよ!」」


 田崎と虎牙は二人して首を傾げる。


「罠かもしれないってことじゃよ!」


「「へー」」


 二人は同時に鼻くそをほじりながら答えた。


「え、何なのこの脳みそ筋肉どもは、儂に殺されたいの?」


「ワハハ、冗談だ冗談!」


「うむうむ、大きな戦の前にちょっと気を和ませようとしただけでござるよ」


「そういう気遣いはいらないんじゃけど……お主女にもてないじゃろ」


「え、何で分かるのでござるか?」


 やれやれと諸手を上げ、首を振る芽衣子に虎牙は少し困惑した表情を返すのみだった。


「ま、こいつがもてない理由はどうでもいいとして、そろそろ行くか!」


「……うむ、とりあえず生き残るのを最優先じゃ」


「ドラゴンなる生き物、果たして拙者の剣が何処まで通用するのか……楽しみでござるな!」


「カリ、イク? ターモ、イク!」


「いくぞーー! デッデデデデ カーン!」


 田崎は口でBGMを奏でながら、他のメンバーと共に山肌を一気に駆け上がっていった。


────────────────────────────────────────


「それで余の宮殿まで勢い余って落ちてきたか」


 威厳に満ちた声が、火口の内部に響いた。

 

「実に愚かよな」


 火口の内部は煮えたぎるマグマが遠くに見えるものの、意外とひんやりとしており田崎達はどうにか焼け死ぬことを避けていた。

 しかし……彼らの眼前に聳える巨体によって芽衣子の心臓は今にも止まりそうだった。


「(ひ、ひひひひひひぇぇぇぇぇぇぇ)」


「ウ…………」


「ハハハ、面目次第もござらん!」


「ワハハ、止まろうとしたら後ろからこいつらが突っ込んできてな! 死ぬかと思った!」



 芽衣子は諤々と震え、さながら蛇に睨まれた蛙状態となっていた。

 ターモもまた野生の本能が告げるのか、周囲をきょろきょろと見回し出口を探す。

 そんな中、田崎と虎牙の二人だけは自棄になったのか笑いながら眼前の巨体──ドラゴンと会話をしていた。

 ドラゴンの大きさはかなりのもので、恐らく二十メートルは超えているだろうことが見て取れた。


「ふん──まぁ良い、話程度なら戯れに聞き流してやろう」


 鼻を鳴らすとドラゴンはメタリックな輝きを放つ全身を優雅に動かしながら、器用に四つの足を折りたたんだまま田崎を見下ろした。

 顔に当たる部分は目が無く、代わりに頭の頭頂部にレンズの様な物が付いておりそれが様々な輝きを放ちながら田崎を照らし……。


「────古の技術の申し子、我が同胞よ」


 少しの沈黙の後、彼女はそう言った。



先週は風邪で一週間死んでいたので初投稿です

生まれ変わった我輩は無敵! 魔剣、昼の月見切ったから!

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