戦力が不足したら
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【MOTHER2】魔天楼に抱かれて
MD215年 11/15 15:44
暗い室内に、水音が響く。
狭いカプセルの中に浮かぶ脳味噌は、まるで呼吸をしているかのようにその中で泡を産み出す。
泡はゆっくりと円筒のカプセルの中を浮上していき、天井に触れるとパチンと消えた。
「…………暇ですねぇ」
図書館の、文字通りの頭脳であるイボンコは暇を持て余していた。
千年前に製造されて以来、彼はずっとこの容器の内部で過ごしていた。
戦争が起きる前は検索エンジンとして利用者たちに使用されていた彼も、今では稀に迷い込んでくる蛮族か、あるいは動物達との会話だけが日常の楽しみだった。
「ターモ達が戻ってくれば、またある程度の暇は潰せるのですがねぇフヒヒ。 あるいは文明の国を興したような連中が来てくれれば私も神として再び崇められる時が……」
イボンコは再び大きな水泡を産み出しながら、ターモや昔の事をを考えていた。
ターモ。
身長百センチ弱の少女は、現在機械の体を持つ人間──ここでの人間とは文字通り、霊力に汚染されていない人だ──とその連れ合いの魔族と共に旅立っていった。
彼らは現在ロシアを荒らしまわるゾンビ達に対抗する為……かどうかは怪しいが、ともあれ対抗する戦力を求め数日前に出ていった。
「計算ではそろそろの筈ですが……」
イボンコの、まだ生き残っている監視装置が警報を鳴らした。
「おやおや、噂をすればハゲ……影でしたかぁ? ともあれ皆さま────」
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「おぉかえりなさいませぇ!」
「うるさっ!」
「ウ、タダ、イ、マ」
「うーむ、何時見ても面妖な……」
「むっ! 瓶詰の脳みそ、何と趣味の悪い! やはり田崎殿は今すぐ成敗すべきでござるな!」
「俺の趣味じゃねえよ! っていうか俺がやったわけでもねぇよ!」
と、四人は三者三葉の行動をする。
「おや、新しいお客人ですか? ではでは改めて自己紹介を、ミーは当図書館の検索エンジン件案内役のAIを務めておりますイボンコと申します。 以後お見知りおきをボンジュールムッシュ」
「何でロシア製なのにフランス語使ってるんだこいつ……」
「あ、ミーは中国アメリカフランスロシア人の混合ですのでそのせいですねホホホ!」
「…………?? むぅ、何言ってるのか全然分からんのでござるがとりあえず良いでござるかハハハ!」
「ホホホホホ!」
「ワハハハハ!」
イボンコと虎牙は即座に意気投合したのか、笑い始める。
そんな二人を芽衣子と田崎はジト目で見るのだった。
「…………大丈夫かこいつ等」
「さぁのう」
「ウ、ハラ、ヘッタ」
「む、ターモは本当によく食べるのー、ほれほれそれじゃあ儂秘蔵のお菓子をじゃな」
「ムム? おやおやおや?」
芽衣子とターモのやり取りに、イボンコが声を上げた。
「ターモ、あなた……少し成長しましたね?」
「ウ?」
「そりゃまああんだけ食えば少しは成長するだろ、一日どの位飯食ってると思ってるんだこいつが」
「この時期の彼女なら、およそ百キロ……いえ、一トンは食べるでしょうねぇ」
「一トン? 幾ら大食らいのこいつでもそんなには物理的に入らないだろ」
田崎の言葉に、ごぽりと大きな気泡が発生した。
「いえいえ、ターモなら余裕でしょう。 というかむしろ食べさせないで正解です」
「どういうことだ?」
「ま、それは追々……前にも申しましたが彼女のプライバシーに関わりますので!」
「勿体ぶるなこいつ」
「ホホホホ、ところで首尾はどうでしたか皆さま」
イボンコは唐突に笑い声をあげると、話を切り替えた。
「とりあえず、秩序の国を焚きつけるのには成功した」
「今頃は儂等を探して前線を天使が飛び交ってるじゃろうな」
「エークセレン! とはいえ現状あの国単体では死の国とはやりあえないでしょう、野生の国はいかがでしたか?」
「エルフを怒らせるのには成功した、と言ったところでござるか。 あの国は今はハイドラの様な毒を持った生物が荒らしまわってるでござるからなぁ」
「おや、あの辺りにそんな生物が居た記録はここ千年ではありませんが……死の国の影響ですかな?」
虎牙は首を捻る。
「さて、拙者も此処に流れ着いてそんなに日が長くない故な」
「成程成程、では目的の半分を達成して戻ってきたという事ですな隊長殿?」
「そうなるな、とはいえ怒れる天使とエルフをゾンビにぶつけても恐らくゾンビが増えて終わりだろうからなぁ……」
「ぶっちゃけ元の計画に無理があったとしか言えないんじゃが? じゃがじゃが?」
「無難にやるのは永村の専売特許なんだよ、俺は楽しくやりてぇんだ」
ターモに卵を食べさせていた芽衣子は、現状に思わず苦言を呈する。
だが田崎は苦言に対してイラつきを隠さずに、次なる一手を模索する。
「おい脳味噌、何か良い案はねえのか」
「ン~、あります」
「おっ、マジか」
「ロシアは千年前の核弾頭直撃の余波で山脈が隆起し、現在は活火山として国境沿いを覆っているのですが~、ロシアの中央部にある最大の活火山にある生物が居ます」
「火山~? 何か碌でもないパワーストーンでもあんのか?」
「げっ、もしかしてお主……」
ロシアの中央にある火山と聞いて、芽衣子が露骨に嫌そうな顔を浮かべた。
「心当たりがあるようですが、一応ご説明しましょう。 火山の内部にはドラゴンが住んでいます、それを手懐けましょう、そしてゾンビを空から焼くのです」
「なにそれすげぇ楽しそう! よっしゃ、行こうぜ!」
「うむ、よくわからんが室内に籠っていては体も鈍るでござるしな!」
「ウ、ゴハン、カル?」
「いやぁ皆さん決断がお早い!」
「あ、儂はお断りじゃから……気を付けての!」
ドラゴンと聞いて、まず田崎が声を上げた。
次に虎牙、ターモの順に。
芽衣子は即座に拒否をしたが、田崎に腕を掴まれるとそのまま引きずられていく。
「お前が来ないと誰が案内するんだよ」
「ぎゃー! 横暴じゃ! 乱暴じゃ! 人権無視じゃー!」
「魔族に人権はねぇんだよなぁ……おらっ! 来い!」
「いやじゃー! あんな地獄みたいな所に行くのは嫌じゃああああぁぁぁぁぁぁ……」
悲しいエコーが、図書館に響いた。
「うむ、諸行無常でござる」
「カリ、イク!」
引きずられていく芽衣子を、虎牙とターモはゆっくりと歩きながら追って部屋を出ていく。
そうして、再び部屋にはイボンコが鎮座するのみとなった。
「おやおや、全て言い切る前に出て行ってしまうとは……まぁ問題ないでしょう、ドラゴンの巣だと言う事は到着すれば分かりますから」
不穏な単語を呟きながら、イボンコは再び孤独になるのだった。
再び彼らが戻ってくるまで。
ミシックに戻るのにこんなにも時間が掛かってしまったので初投稿です
炎の刃、虎牙/Flame Blade、Koga 赤緑白
伝説のクリーチャー:人間
二段攻撃、トランプル、速攻
3/3
「いやはや、実に居心地の良い国でござるな此処は!」
────ロシア到着三日目の虎牙




