奇妙な旅が始まったら
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hin Megami Tensei Strange Journey OST Area 1
MD215年 11/13 08:12
「儂が近くの村まで案内してやろう、そうこのナーガが発言してから既に……三日が経ちました」
「体感では二週間近いがのう……いやそれにしても流石に二百年経ってればそりゃ村も消えてなくなるってもんじゃな!」
「おまけに夜が安全とか抜かした癖に普通に危険だったじゃねーか! 脳味噌ボケてんのかてめぇは!」
廃墟から旅立って三日後、田崎と芽衣子の二人は……道に迷っていた。
「二百年前の記憶を頼るのはいかんのう……ほっほっほ」
「突然ボケ婆っぽいムーヴをしても許されねぇよ?」
「それは困ったのう……」
と、芽衣子は廃墟の中で唯一無事だったベンチに腰を下ろし、周囲を見た。
彼らが居る場所は木で組まれた家……の廃墟であり、内部は爪や牙の様な物でズタズタに引き裂かれていた。
少し目を退けると、何かの骨すら転がっているような有様だ。
「肝心の記憶にあった村はこんな有様じゃしな、どうしたものか」
「やっぱ火山登って上から見下ろした方が良かったんじゃねえか?」
「いやいや儂死ぬから、ドラゴンに焼かれた後に食われて終わりじゃから儂」
「死ねばいいじゃない」
「管理者って屑しか居ないんじゃが?」
と軽口をたたき合いながら、芽衣子は次の一手を考えていた。
彼らは三日間、村の残骸を見つけては其処に巣食っていたゴブリンやリザードマン、あるいは恐竜を倒すということを繰り返していた。
邂逅する存在は総じて言語を理解せず、ただ本能の赴くままに目に入る存在を殺しては食うといった存在であり、そのせいで彼らはまともな文明を見つけられずに居たのだ。
「しっかしロシアの連中ってのはどうしてこう敵意丸出しなんだ? いや戦えるのは良いんだけどよ」
「うーむ、恐らく今までに出会った連中はチャンドの連中じゃな」
「チャンド?」
「国というか、部族の名前というか、地方の名前というか……」
少し言いにくそうにしてから、芽衣子は説明を始めた。
「元々このロージアには五つの国があった、古の技術の国、秩序の国、自然の国、戦いの国、そして死の国」
「……何か物騒な名前が幾つかあるな」
「うむ、その内の一つが今言ったチャンドという戦の国じゃ。 国全体が一つの野盗みたいな国での、朝起きて夜寝るまでに生きてる奴の数の方が少ないっていう場所じゃったよ」
「薩摩かな?」
「薩摩? まぁよく分からんが、とりあえず物騒な連中じゃった。 そしてその連中は皆体の何処かに印を刻んでおるわけよ」
印、と言われ今まで蹴散らしてきたゴブリンやリザードマンを思い返す田崎。
「あぁ、そういや何か引きちぎった右手に何かあったような」
「あの印じゃな、けどのー……今居る場所は自然の国の筈なんじゃよなぁ、国を跨いで連中は争ってなかったと思ったんじゃが」
「二百年も経ってるんだ、勢力図も変わったんじゃねえか?」
「かのう……、とりあえず地図でも探して昔自然の国の首都があった場所を目指すしかないかのう今は」
「二百年前の地図なんて役に立つのか?」
「い、今の地図が残ってるかもしれんし──ん?」
ふと、芽衣子の視線の先で何かが映った。
球状の部屋に幾つか備え付けられた窓の外に黒い影がこそこそとしているのが彼女には見えたのだ。
「どうした?」
「しっ、外に何か居るようじゃ」
「にしては俺のセンサーが反応しねぇが……老眼でゴミが舞ったのを見間違えたんじゃないのかぁ?」
壁に寄り掛かっていた田崎は、体を反動をつけて窓から離れると外を覗き見る。
しかしそこには誰も居らず、彼は呆れるように首を横に振った。
「何も居ないじゃねえ…………居たわ」
窓から芽衣子の方へ振り向いた田崎は、その先で一メートル程の少女に組み付かれている芽衣子を見つけた。
「ひえーー!」
「ウウウウ!」
芽衣子に組み付いている少女は、腕や足などから棘の様な物が無数に突き出ていた。
また口から見える歯も牙の様に鋭く、その外見からはかなりの野生を田崎に感じさせた。
「人間か……? にしてはえらく、刺々しいな」
「見てないで助けんんかー!」
「弱肉強食だ、諦めるんだな」
「この人でなし! 悪魔! 我七回生まれ変わってもこの恨み晴らすからのぅ!?」
「分かった分かった、ほれ、そこのよくわからん少女、離れなさい」
慌てる芽衣子と彼女の首筋に今にも噛みつきそうな少女。
そしてそれをボケっと見ている田崎だったが芽衣子の必死の訴えに面倒くさそうにしつつも少女へ話しかける。
「ガウ! ガウッ!」
だが少女は芽衣子の肩越しに口を大きく開き、牙を見せ威嚇する。
「うおっ、何だこいつ」
「ガルル……」
一瞬怯んだ田崎だったが、顎に手を当て少し考えるとポケットから小さな袋を取り出した。
中からは芳醇な香りが漂い、それは直ぐに少女の鼻に届いた。
「ウ?」
「お前は腹が減っていると見た、俺は犬を飼っていたから犬の扱いには詳しいのだ!」
少女は鼻をヒクヒクと動かし、匂いの元である袋に視線が釘付けとなる。
田崎は袋を少し動かすと、少女の顔も釣られて動き出す。
そうして袋を幾度か動かした後、それを部屋の隅へ放り投げた。
「ウッ!」
少女は直ぐに芽衣子を踏み台にして、袋に飛びついた。
袋は飛びついた少女によって無残にも引き千切られ、その中身である干し肉を部屋にばら撒いた。
「げほっ、ごほっ! い、いたたた……爪が首に食い込んで……老体には堪える」
「ウっ、ウッー!」
久しぶりの食糧だったのか、警戒することも忘れ少女は干し肉に噛り付く。
「全くやれやれだな……無事か?」
「何とかの、にしても何なんじゃこの子は……」
必死にむしゃぶりつく少女を、二人は憐みの目で見る。
そんな二人の視線に気づいた少女は、指に干し肉を掴んだまま顔だけを振り向かせ威嚇した。
「ウルル……」
「可愛い」
「いやそれペットとか犬みたいな目線での話じゃろ?」
「まぁな」
威嚇する少女に芽衣子は田崎の後ろにそそくさと隠れ、田崎は威嚇を物ともせずそれをじっと見ていた。
「お前、名前は」
「ウ?」
「名前だよ名前、無いのか?」
「ナ、マエ……ウ、ウゥ……タ……」
「た?」
干し肉を頬張りながら、田崎の問いかけに一定の答えを返す少女。
田崎から干し肉を貰った──正確には放り投げたのだが──と思い恩義を感じているのかもしれない。
「ター……モ」
「ターモか、悪くない名前だな」
「ウ、ウ!」
「ターモォ? うーむ、何処かで聞いた様な……」
名前に首を傾げる芽衣子を無視して、田崎はゆっくりとターモと名乗った少女へ近づく。
ターモは警戒し、体から再び棘を無数に生やすが田崎はそれを無視し、彼女の前にゆっくりと腰を下ろした。
「ウゥ……ガウッ!」
田崎の行動に驚き、ターモは爪で彼を引っ掻く。
「いでっ」
「おぉ……だ、大丈夫かお主」
「掠り傷だ、それよりターモ、俺をよく見ろ」
爪は田崎の右頬を切り裂き、頬からは管理者達が用いる義体特有の濁った血が染み出た。
「ガウ……?」
だが田崎はまるで怯まず、ターモに対して話をつづけた。
彼女はそれが不思議で、田崎から少し距離を取る。
「俺たちは道に迷って困っている、お前は道案内できるか?」
「ア……ンナイ?」
「そうだ、お前と同じく言葉が分かる奴らが居る場所までだ。 もし連れてってくれるなら、今のと同じものをもう一つやる」
「ウ、ホシ……イ! アンナイ、スル!」
「よーし、決まりだ!」
田崎は笑みを作り、握手の為に右手をターモの前に差し出す。
だがその意味が分からなかったのか、ターモは大きく口を開けると……田崎の右手をそのまま噛み千切った。
「マジか!」
「ウゥ、ウマイ!」
「え、何か犬感覚で仲間にしたっぽいんじゃけどこれ儂命の危機なのでは?」
機械と生身が半々で出来た義体を美味そうに食べるターモと、右手が無くなった事に驚く田崎。
そしてそんな二人を遠巻きに眺め、これからの旅路を考えて不安になる芽衣子。
そんな三人の奇妙な旅が今始まった。
ハワイ時間なので事実上月曜日ですので初投稿です。
ま、間に合った・・!(間に合ってない
忙しくてゲームしてる暇もねぇんだ…すまねぇ…インフルには皆も気を付けてくれよな!




