頂点生物と邂逅したら
MD215年 11/11 17:37
「さて、それじゃあ管理者会議を始めようか田崎君」
「お、おう……」
何時ものようにエクィローのメインルームに集まった田崎と永村の二人。
永村はいつも通りの表情だが、相対する田崎の表情はぎこちなかった。
それもその筈である、管理者のもう一人山坂の席には現在本人の代わりに遺影が置かれていた。
「何かあった?」
「あー、いや、何でもない」
ぎこちない態度を取る田崎に、永村は表情一つ変えず何かあったのかと質問する。
だが田崎は眉間をひくつかせながら、首を横に振った。
「(あいつが独断で動いたのが気に入らないんだな永村……)」
「さて、それじゃ今回の会議の内容だけど……次に攻める場所を決めようと思う」
「あいよ、っても現状残ってるのってオーストラリアとロシアと中国だけじゃねーか?」
二人の前に世界地図が浮かび上がった。
実質的に支配した地域は黒、そうでない地域は赤で塗られている。
永村はアメリカ大陸の中心と、その下をペンで指差す。
「一応中米と南米もあるね、北米を抑えた以上時間の問題とも言えるけど」
「それを言ったら中国も時間の問題とも言える、マンジェニを止めるのは理論上不可能だからな」
「とはいえ一番最初に決めたゲームの期限でもある、マンジェニにあまり暴れられると私たちの楽しみが減っちゃうからね」
「だな、どうせ結末は決まってるんだしその間は楽しい方が良い」
マンジェニ。
管理者たちが作った地球浄化装置、三神。
その一体であり、山坂の手違いで地上へ送られた怪物は現在中国大陸を蹂躙していた。
田崎は地図を見ながら、その向こうに透けて見える永村の顔を見て自分と同じ顔をしていることを確認する。
「しかし、山坂は毎度問題ばっか起こすな」
「優秀な時六割なんだけど、残りの四割が割と洒落にならなかったりするからねぇ……」
椅子を後ろへ傾けながら、田崎は視線を上へ向ける。
二人は少しの間視線を彷徨わせ……田崎がそういえば、と口を開いた。
「そういやあいつの怪我はまだ回復しないのか?」
「あの様子じゃ暫くは無理だね、何やったのか知らないけど良く生きてたと思うよあの状態で」
「全身大火傷だったからな、個人的にびびったのは持ち帰ってきたものだが」
「それはどっちの話?」
「両方」
だろうね、と永村は苦笑した。
「生き残りの人類と……」
「南極の一部を吹っ飛ばしたなんて情報持って帰ってきやがって、笑うしかねぇ」
「あれは後始末が大変そうだ……けど、楽しんでるようで何より」
「俺も生身で降りるかねぇ」
「コストに見合う成果を持って帰ってくるなら、構わないよ?」
笑いながら、天井へ向けていた顔を永村は下ろし田崎を真っすぐ見据えた。
「んじゃ、山坂以上に派手な結果を持ってきますかね」
「よろしい、じゃあ後は何処を攻めるかだけど……オーストラリアは現状戦力の集まり的にまだ無理だ」
「となると、実質ロシア一択か」
ロシアかぁ……と、二人は顔を少し濁らせた。
「あそこは最終戦争時に核ミサイルが六発も着弾してるから……生身で行くのはお勧めしないよ僕は」
「半島ごと消滅したマレーシアに比べればまだマシだろ」
「馬鹿とアホどっちがマシみたいな話?」
「そういう話」
二人は互いに笑い合い、田崎は後ろに傾けていた椅子を元の位置へと戻した。
「んじゃ、次攻める場所は──」
「ロシアで決定で!」
─────────────────────────────────────
「というわけでやって参りました、ロシアです」
「…………のう」
「いやー何処もかしこも瓦礫だらけかと思っていたが結構植物多いな! 何か異常に成長してるけど」
「のーう!」
「何だよ」
噴火する火山を遠巻きに見ながら、アルビノナーガの女性が田崎へ大声で呼びかけた。
火口近くでは、大きな鳥の様な物が何羽か飛んでいるのが見える。
また空気は乾燥しており、大地は罅割れ、足を動かすたびにその亀裂は増えていく。
「何だよじゃないわー! この間は命を落とすレベルの寒さの所に連れてきたと思ったら今度はこんなくそ暑い所とかどういうことじゃー!」
「え、もしかして暑い所も駄目なの?」
「当たり前じゃー! というかそもそもワシ本来ならこの季節は冬眠の準備しとるからな!? なんでワシを同行者に選んだんじゃ!?」
「寒い所で死にかけてたから暑い所が良いかなって……」
「エンリコー! 助けてー、ワシの周囲には馬鹿しか居ないーーー!」
ナーガの女性……芽衣子は地面に倒れこむとわんわん泣き始め、田崎は困惑した表情で頭を掻いた。
二人は場所は林の中にある、少し開けた場所で居た。
芽衣子の鳴き声と地面でのたうち回る音は、遠方から時折聞こえる火山の噴火音で掻き消えた。
「ん?」
そんな中で、田崎は木々が揺れ動く音を聞いた。
その音は幾つかの足音を伴い、一直線に彼らへ向かっていた。
「おい、何か来るぞ」
「え、何そのワシにも戦えよ? みたいな圧力、ワシ戦闘とかほんと苦手なんじゃけど」
地面でのた打ち回っていた芽衣子は動きをぴたりと止めると、真顔で田崎へ不満を言った。
「死にたいなら良いが」
「ワシ、お主達のそういう態度嫌い……」
芽衣子はむくりと起き上がると、口から舌を出し、再び仕舞う。
「……火薬の匂い、数が多いのう」
「分かるのか?」
「少しだけの、来るぞ」
言葉と同時に、茂みの中から右手に棍棒を持ち腰布だけを付けたゴブリンが三体程現れる。
ゴブリン達は言葉ですらない、金属をぶつけ合うような叫び声をしきりに上げる。
「何て言ってんだ?」
「知らんのう、じゃが……少なくとも好意的には見えんの」
ゴブリン達は叫び声をあげ終えると、手に持った棍棒を一斉に掲げ、芽衣子へ向けて走りかかった。
「良い夢をな」
溜息を吐くと、芽衣子は右手の親指と中指を合わせ……打ち鳴らした。
すると芽衣子へ向かっていたゴブリン達は彼女をすり抜け、後ろにある藪の中へと走り去っていった。
「……何したんだ?」
今の光景を見ていた田崎が、芽衣子へ尋ねた。
「子供騙しじゃよ」
芽衣子は笑い、そして再び地面へぐったりと倒れこんだ。
「しかし本当に暑い……せめて水場があれば体温調節が楽なんじゃが」
「蛇って大変だな」
「いやお主が連れてこなければ問題なかったんじゃが?」
田崎からは普通そうに見えるが、実際芽衣子はかなり参っていた。
蛇は恒温動物であり、体温調節は湿気が無いと融通が利かないのだ。
半分人間の為、普通の蛇よりは暑さや寒さに耐性はあるがそれでもかなりの負荷を彼女へ齎していた。
そんな最中……。
「ギャギャギャ!」
先ほどゴブリン達が走ってきた場所から更に複数のゴブリン達が現れる。
「一匹見たら三十匹居ると思え、とはよく言うたもんじゃのう」
「ゴキブリならぬゴブリン退治と洒落こみます……か?」
田崎は両手を合わせると骨を鳴らすと戦闘へ移ろうとしたが……ゴブリン達は田崎達には脇目もくれず彼らの横をすり抜けていった。
「お前、また何か使ったのか?」
「ここは青の霊力が薄い、さっきの一回で弾切れじゃワシ。 それより……また何か近づいてきとらんか?」
ゴブリンの群れが通り過ぎて行っても、遠くから聞こえる足音は途切れなかった。
むしろ、どんどん近づいてきておりそれが近づいてくるたびに地面の亀裂が大きく広がっていく。
「に、逃げた方が良いんじゃないかとワシの歴戦の生存本能が訴えてるんじゃが」
「逃げるって、何処に」
「そんなもんワシは知らんわ! 無理やり連れてきたんじゃから、お主がワシを守らんかい!」
首を捻る田崎に、芽衣子は怒鳴り……次の瞬間、樹をなぎ倒して現れた存在に絶句した。
「あ──────」
「おぉ!」
恐竜。
かつて人類よりも前に世界を支配していた彼らは、現在ロシアの大地に立っていた。
その恐竜は口元から先ほど走り去っていったゴブリンをぶらさげていたが、田崎達を見て直ぐにそれを丸呑みした。
「アロサウルスじゃん! かっけぇ!」
「よ、よよよ喜んでる場合か! し、死んだふりで誤魔化すか……!?」
「それは熊と遭遇した時の対処法じゃねえかぁ?」
諸手を上げて大喜びする田崎と、狼狽する芽衣子。
その間にも恐竜は新しく表れた二つの食事について観察する。
「何でもいいから、あれを何とかせんかい!」
「しょうがねぇ、こいつは生け捕りにして標本にするか」
田崎は両手を握る。
それを見たアロサウルスは、鼻で息を吸い込むと咆哮を返した。
「ひぇっ!」
「ハウリングって奴か、体がビリビリ来るぜ。 そんじゃあ試合開始だ!」
体に伝わる音の振動を感じながら、田崎は跳躍した。
頭を前に突き出しながら吼える恐竜の真下まで一瞬で移動すると、足に力を込めて大地を蹴り拳を真上へ突き上げた。
拳は恐竜の下顎に強かに打ち付けられ、その強大な体が浮き上がる。
数秒の後、それは大きな振動を立てて乾燥した大地へ意識を失ったまま倒れた。
「一丁上がり」
「おぉ……これマジなんじゃが?」
右手の汚れを払うと、田崎は軽口を叩きながら恐竜へと近寄って行った。
その全長はおよそ8.5メートルもあり、口からは獰猛な肉食竜らしい牙が無数に見えた。
そんな恐竜の体のあちこちを触りながら田崎は観察を始める。
「しっかし驚いたな、恐竜が何で蘇ってるんだ」
「知らん……というか、お主この生物知っとるのか? ワシ初めて見たんじゃが」
恐竜の頭を叩きながら、まじまじと観察を続ける。
体のあちこちには古傷が見え、この恐竜が少なくとも何年かはこの地で生きていた事が見て取れた。
続いて頭から胴、胴から尻尾へと移動していくと……途中でおかしな振動が伝わってきた。
「あぁ、こいつ等は恐竜って言って……ん?」
それは周囲全体の空気を振動させ、遠くから重低音を響かせた。
「の、のう……何かまた起こりそうな予感がするんじゃが」
「奇遇だな、俺もだ」
自然が奏でる音の中に混ざる不協和音が徐々に大きくなると、周囲の木々から一斉に鳥が飛び立った。
空気を吸い込みながら、甲高い音を伴って吐き出す音が徐々に近づいてくる。
「……来る!」
田崎が身構えた瞬間、何かが高速で通り過ぎる際に発生していた衝撃波で二人は空中を舞っていた。
「ごへぁっ!」
数秒の滞空の後、二人は同時に地面に落下する。
芽衣子はそのまま地面に頭を打ち付け気絶したが、田崎は受け身を取ると歓喜の表情と共に起き上がった。
「今の──ドラゴンじゃん!!!!」
歓喜の声と共に、遠方の火山が噴火した。
ここはかつては極寒の地ロシア。
現在は弱肉強食が理の大地。
そんな大地で今日、彼らはこの世界の頂点に立つ生物と邂逅した。
スネークレディが引けなかったので初投稿です
一週間投稿が遅れてすまぬ、すまぬ…




