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人類ガバガバ保護記   作者: にっしー
南極編
160/207

抹消/Obliterate

https://www.youtube.com/watch?v=3Sq7hTWj_P4

【雪解け】-Yukidoke|Japan BGM


 暖かい感覚に包まれていた。

 浮遊感と共に何もない平原に。

 視線の先には見覚えのある女が一人立っていた。


「…………」


 女はこちらを悲しそうな、だが慈しみを込めた目で見ている。

 俺はそんな女が気になって近づこうとするが、直ぐに透明な壁にぶつかった。


「いてっ、なんだこれ」


 眼前に手を伸ばすと、掌に硬い感触が伝わった。

 ガラスの様な何かが広がっている。

 俺は少し横に歩いてどこまで壁が繋がっているか確かめてみたが、それはどこまでも無限に続いているように感じられた。


「おい、何なんだ此処」


 透明な壁を右手で打ち付け、その向こう側に居る女へ呼びかけた。

 俺の呼びかけに女はこちらへ近づいてくる。


「…………」


「無言で寄ってくるのはこえぇから止めてくれ……」


「ふふっ……」


 俺のそんな一言に、女は笑った。


「あなたには、最後にお礼を言いたかったの」


「最後? お礼?」


「……私を殺してくれてありがとう」


 女は深々と頭を下げた。

 そして、頭を上げると俺から背を向ける。


「もう行く時間なの、だからさようなら。 アリスの事、守ってあげて」


 そうして女は奥に見える光へと去っていった。


─────────────────────────────────────

MD215年 11/02 16:50


<バイタル正常、覚醒します>


「うっ…………ん? コ、ククォハ?」


 固い床の上で、山坂は目を覚ました。

 上体をゆっくりと起こそうとし、痛みが走った。


「いてっ! いたたたっ! うおおぉ、体が死ぬほどいてぇ!」


<おはようございます、ご気分はいかがですか?>


「最悪だな!」


<それは残念です、鎮痛剤を投与します>


「うぐっ」


 右腕にチクリと痛みを感じたが、次第に全身に走る痛みが引いていくのを山坂は感じた。


「あーこれこれ、お薬気持ちいいの~」


<その発言は人間で言う気持ち悪い発言であると推測されます>


「壊されたいのかな? ったく……」


 寝転がったまま、右腕を地面に当てるとそれを支えに山坂は上体を起こす。

 広がった視界で見えたのは滅茶苦茶に壊れた実験棟だった。

 天井は崩落し、あらゆる実験機器が瓦礫で押しつぶされ地面の殆どが黒い粘液で覆いつくされている。


「あー……そうか、終わったのか」


 山坂は右手に付着した粘液を腕を振って振り払うと、立ち上がる。


「どれくらい寝てた?」


<およそ7時間です>


「結構死んでたな、状況は? って聞くまでもねぇか」


 そう言って、山坂は歩き出す。


<はい、南極全土に居たショ=ゴス全ての生命活動の停止を確認しています>


「俺が集めた巨人どもは?」


<全機機能停止しています、再起動も不可能かと思われます>


「巨兵と龍脈はどうなった?」


 彼は実験棟の端で倒れており、真っすぐにそれがあるであろう場所へ瓦礫を破壊しながら近づいていく。


<巨兵、龍脈共に現実からの消滅を確認しています。 向こう側へ引きずり込まれたものと推測されます>

  

「そうか……おっ、あったあった」


 一瞬苦い顔を山坂はするが直ぐに真顔へと戻る。

 そして周囲に散乱する中でも特に一際巨大な瓦礫を蹴りで破壊すると、その向こう側に山坂より少しだけ大きい棺桶の様な装置が見えた。

 棺桶は奇跡的に瓦礫を全て避けており、未だにその冷凍装置としての機能を動かし続けていた。


「異常に運がいいなこいつ……」


 棺桶の内部を見ると、中では目を閉じたまま眠る女性が居た。

 アリス・ハート。

 この南極にある人類再生基地に於いて、唯一生き残った人類である。

  

「守ってあげて、か」


<如何しましたか?>


「何でもない、それよりエクィローに回収班を送る様に連絡しろ」


<了解>


 山坂は首を振り、先ほどまで見ていた夢を頭から追い払った。

 そして再び棺桶を見つめると、スーツに内蔵されたAIにエクィローへの連絡を送らせた。


「次にお前が起きる時は……お前がもう眠らなくても良いような世界になってるはずだ」


 そして、棺桶を軽く小突くと山坂はそのまま瓦礫を足場にして基地を登っていく。


<どちらまで?>


「一階のメインルームだ」


<この基地にこれ以上探すべきデータがあるとは思いませんが>


「あぁ、だから自爆させる。 ショ=ゴスの死体もそのままにはしてないからな」


 平然と言い放つと、山坂は更に勢い良く瓦礫を踏み台に登っていく。

 そして彼は直ぐに一階へとたどり着いた。

 メインルームもまた他の階層と違わず荒れ果てていたが、部屋の中央にある巨大な柱を模したコンピューターだけは奇跡的に無事な事が見て取れた。


「驚いたな、修理の必要があるかと思ってたんだが……」


<天文学的な確率です、作為的なものを感じます>


「そうだな、だが俺はこういう時に言うべき言葉を知ってるぜ」


 山坂はメインコンピューターへと近づいていく。



<それは、何という言葉でしょうか>


「運命」


 そう言うとマスクの下で、山坂はにやりと口角を上げた。


<気障な台詞、というべきでしょうか>


「うむ、俺もそう思う……だがたまにはこういうのも良いだろ」


 そう言って、山坂はコンピューターの根本にあるコンソールを起動させた。

 戦闘の影響があるのか、起動は少し遅かったがそれは順調に立ち上がった。


「自爆装置は……まだ生きてるか。 回収部隊の到着までの時間は?」


<二時間後です、回収作業を考慮しても二時間半後には此処から撤収出来るかと>


「ふむ」


 シトリーの返事を聞き、山坂は基地の自爆装置のタイマーを三時間後にセットした。


「ま、だったらもう少し色々出来るな」


 コンソールから離れると、山坂は天井に空いた穴から基地の外へと飛んでいく。

 外に出るといつもは猛烈な吹雪が襲い掛かるのだが……今日の戦闘の余波が続いているのか、雪は止んでいた。

 お陰で戦場となった大地をよく見ることが出来た。

 大地に膝を突き、天に手を伸ばしながら力尽きている巨人や龍脈から供給されていた仮初の命が尽きた事により苦悶の表情を体に浮かべたまま固まっているショ=ゴス。

 あらゆるものが彼の視界に収まっていた。


「派手にやったなぁ」


 額に手を当て、スーツの望遠機能で戦場を見渡しているとその中に動くものを彼は見つけた。

 白い毛を纏った大きな狼だ。


「お、生きてたのかあいつ」


 それは息絶えたショ=ゴスを臆することなく食いちぎり、咀嚼していた。


「あれ食うとか度胸あるな……」


 山坂はそう言うと、足元に腰を下ろした。

 日が沈みつつあった。

 夕日が戦場を照らしながら、ゆっくりと一日の幕を下ろしていく。

 何とも言えない気持ちが彼の胸の中に広がっていた。


<お体に触ります、速やかな内部への退避を推奨します>


「へっ、今更あんだけ飛び跳ねて体に障るもクソもねぇさ。 ……今は、この風景を見ていたい」


<感傷ですか?>


「かもな、何だかんだであの魔族の事が嫌いじゃなかったらしい」


<今の発言はログから削除しておきます>


「……ありがとよ」


 その後、回収部隊が来るまで山坂はじっと戦場跡を見つめていた。


─────────────────────────────────────


「ふー……ようやくエクィローに帰れるな」


 二時間後、エクィローから派遣されてきた宇宙船を山坂は眺めていた。

 彼の眼前では棺桶をロボットが宇宙船の中に収納しているところだった。


<報告すべき事は山ほどありますが、暫くは療養が必要です>


「報告ねぇ……まぁ好き勝手遊んだし、色々報告はしなきゃな」


 そう言って、寄り掛かっていた手すりから体を離す。


「お前のことも……報告しておくよ」


 山坂は振り返らず、右手を軽く上げながら宇宙船へと乗り込んでいく。


<シートベルトの装着を>


「へいへい……そんじゃあ帰りますかねぇ、我がエクィローがある『月』まで!」


 山脈の麓に着陸した宇宙船は、そのままジェットを吹かしその鋼鉄の体を前へと進めていく。

 そして十分な加速が付くと、それは宇宙へ向けて飛び上がった。


「あばよ、リーグ・リーク」


 山坂は、窓から先ほど彼が居た位置を眺めていた。

 其処には簡素だが……小さな墓があった。

 その墓は直後に起きた大規模な爆発により山脈と共に、地球から消えた。




オイル入れるの忘れててエンジン焼ける所だったので初投稿です。

こいつ三か月おき位に同じことしてんな?



Rest in Peace / 安らかなる眠り (1)(白)

エンチャント

安らかなる眠りが戦場に出たとき、すべての墓地にあるすべてのカードを追放する。

カードかトークンがいずれかの領域からいずれかの墓地に置かれる場合、代わりにそれを追放する。


──永村が占有できない死体もある。山坂が拘束できない魂もある。


Obliterate / 抹消 (6)(赤)(赤)

ソーサリー

この呪文は打ち消されない。

すべてのアーティファクトと、すべてのクリーチャーと、すべての土地を破壊する。それらは再生できない。


──山坂はリーグ・リークを弔うべく、山脈をまきの山と化した。

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