蟻と機械が戦ったら2
MD215年 4月29日 AM9:42
バサバサバサという音を響かせ、風を巻き起こしながら5匹の羽蟻が地面に着地する。
周囲は程よく開けた森の中で、先ほど動く何かを確認した位置から然程離れてはいない場所だった、距離にして1キロ程度か。
残りの4人も無事に降りてきたのを確認すると俺は倖、ジャザル、ガリアに声を掛けた。
「よし…倖、ジャザル、ガリアの3人はここで待機、ガリアの警護に当たると同時に拠点の設置に当たれ。」
「「「ヤー!」」」
命じられた三人はそう答えると蟻から降り、蟻に詰まれた荷物の荷解きを始めた。
そして残った一人、リザードマンのトカへと向き直り。
「トカ、お前は俺とだ。久しぶりの実戦だ、腕は鈍ってないだろうな?」
「は、ぬかせ豚野郎。」
「てめーこそ歳で腕が鈍ったとか後で言い訳すんなよ?」
「なあに、俺が言い訳してる時はお前は先に死んでるよ。」
「…よし、じゃあ行くぞ!」
トカとのいつものやり取りをこなすと、手綱を握り締め目的の位置へ向け蟻を歩かせ始める。
トカもまた俺の後ろを守るように蟻を歩かせ二人で移動を始める。
「たいちょ~、いってらっしゃ~い、温かいご飯作って待ってるねー。」
「後お土産宜しくー!」
と倖が手を振りながら俺を見送るのを尻目に見ながら、森へと入っていった。
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「ちっ…鬱陶しいな、だから森ってのは嫌いなんだ。」
俺は腰の小剣を振り、森の茨を断ち切りながら蟻を進ませていた。
倖やガリアみてーに小さかったら多少は楽なんだろうがよ。
「ハハハ、相変わらず森との相性は悪いみたいだな?トカ。」
と俺が茨を切りながら進んでいるとガラールが話しかけてくる、こいつは一々俺に何か言わないと気がすまないのか?
「ふん、うるせーよ、それよりまだ着かないのか?そのさっき何かが見えたって場所にはよ。」
「もうかれこれ20分程度は移動してると思うんだが?あんまりこういう森を二人で居るってのは勘弁だぜ?ベイロスの餌になっちまう。」
俺はそう言うと腰の鞄から瓶を取り出し、中の粉を見つめた。
最初に降りた地点から移動してかれこれ20分、道中所々樹木が白くなっているのを発見した。
樹は完全に霊力が感じられなくなっていて完全に白色になっており、手で触ると粉状に崩れ落ちてしまった。
この粉はそれを拾い集め瓶に詰めたもんだ、粉っつーか砂みてーな手触りだけどな。
「そろそろ着くと思ったんだが…おかしいな。」
ガラールは右手を額に当て、周囲を見渡す。
「おいおい…まさか方向間違ってましたなんて言うつもりじゃねえだろうな?勘弁──」
俺が次の言葉を紡ごうとした時、騎乗している蟻が首を左右に二、三度振り体の向きを横に向けた。
「っと…!おい、何だいきなり…。」
俺は手綱を手繰り寄せ、蟻を制止させる。
手綱から目線を正面に戻すと、50メートル程先に何かが3体ほど其処に立っていた。
それの頭は顔の無い仮面をしていて、左右の腕はむき出しの金属の骨が捩れたような形で手先はシャベルに人間の親指だけを付けたようだった。
胴体には謎の光る球体を一つむき出しで備えており、足もまた腕同様に捩れた骨の形ををしていた。
俺は咄嗟に背負っていた斧を外し、構えた。
ガラールもまた背負っていた建物の瓦礫で作ったハンマーを構えた。
「…おい、もしかしてさっき見えたって言ってたのはあれか?」
「ゴーレムって奴じゃねえのか、あれ。」
俺はガラールへ問いただした、もしあれがガラールが見た奴だってんなら好都合だ。
探す手間が省けた、後はあれをぶっ壊して確保するだけだが…ゴーレムって結構硬かった気がするんだよなぁ…。
「ああ、こいつらだ。」
「態々出向いてきてくれるとはツイてる、さっさとぶっ壊して…持ち帰るとするか!」
ガラールのその声と同時に俺たちは二手に別れ、樹木を盾にするように移動を開始した。
俺は左手で蟻の手綱を握り、蟻の腹を右足で強く蹴り速く走るように指示をした。
蟻は俺の意思に応え、森の苔むした、滑りやすい地面を颯爽と駆け抜けていく。
「おい!どっちが最後の一匹を潰すか競争と行こうぜ!勝った方が…次の隊長だ!」
俺は斧を右手に持ちながらガラールへ大声を上げた。
「はは、構わんぞ!どうせ俺が勝つからな!」
「抜かせ!」
俺はガラールへそう応えると、右手の斧を振りかぶってゴーレムの胸目掛けて投擲した。
その斧は何の抵抗も無くゴーレムの胸へ直撃し、その衝撃でゴーレムは自身の後方の樹へ吹き飛ばされる。
「よっしゃ!まずは一匹!」
3機の内一機がやられたことで残りの二機は同時に俺へ振り向き、胸の球体をより輝かせ始めた。
その輝きが頂点へ達すると、二機のゴーレムの胸から紫色の波の様な物が発射される。
俺は樹木を盾にするように蟻を移動させ、波を樹木へ誘導する。
波は樹木へ当たり、其処で止まるかに思えたが…波は止まらず樹木を貫通した。
「なにっ!?」
樹を貫通してきた事には驚いたが、すぐさま蟻を加速させ波を回避する。
ゴーレムどもは再び胸の球体を発光させ、二発目を撃とうとするが──
「ピイイイイッ!」
「ぬぅん!!」
という声と共に、ゴーレムの背後から飛び掛る蟻とガラール。
蟻が一機のゴーレムを背後から体重で押しつぶし、頭部をその強靭な顎で挟む。
徐々に頭部を顎で押しつぶした後、胸へと噛み付き球体を完全に変形させ破壊する。
ガラールはもう一機のゴーレムへ飛び掛り、自慢の巨体と膂力を振るい縦にハンマーを振り下ろしゴーレムの頭部、胸、股に掛け一直線に叩き潰してしまう。
おいおい…幾らトロールだからってあのパワーはやべえだろ…。
「ハハハハ、どうやら次の隊長も俺らしいな?トカ。」
「大体いきなり自分の獲物を投げるとは…あれは俺に隊長の座を譲りたくてやったんだよな?」
俺は蟻の向きを変え、ガラールの元へ近寄った。
「ちっ、うるせーよ…つい気分が高まると投げちまうんだよあれは。」
俺は蟻から降りると、先ほどゴーレムへ投げた斧を引き抜きにゴーレムへと近寄った。
「しっかし…何なんだこいつら?一応抵抗はしてきたが…俺の知ってるゴーレムに比べて随分柔らかいな。」
「それに攻撃方法も俺の知ってるのとは違う…あんなよく分からん波出してくるのなんて初めて見たぜ。」
俺は斧を引き抜くとそれを背負い、破壊したゴーレムの頭部を右手で掴んで持ち上げた。
「ああ…確かにこんなタイプは見た事が無いな、それに…見てみろ、この波が通った所。」
ガラールは先ほど波が貫通した樹を観察していた。
俺はゴーレムを自分の蟻に括り付け、ガラールの下へ行き貫通した部分を眺めてみた。
「おわ、なんだこりゃ…完全に穴開いてるじゃねーか…」
その貫通部分は完全に空洞になっていて、綺麗な円を描いていた。
「こんなもん当たったら俺の腹にもでっけーホクロが出来る所だったな…。」
「つーかこれ防げるのか?」
また、貫通した部分の周囲が白化していた。
「…また白か、どうやらこいつらが樹を白化させてたとみて間違いないみてーだな。」
「だろうな、目的は分からんが…とりあえずこいつらを一旦ガリア達の元に運んでオシマンベの村付近まで出て…。」
ガラールがそう言った次の瞬間、ザザ、ザザザザ──という音が周囲に響く。
ガラールは俺に目配せし、俺は急いで自分の蟻へと騎乗した。
騎乗するまでの間も更に音は増し、バチバチバチという音も響き始める。
「ソーレンの機能停止を確認、敵生命体の戦力分析完了──。」
「転移門、起動。」
「無人機、出撃。」
音と共に何かの声が響くと同時に、俺たちの少し真上に閃光が迸った。
その閃光から目を見開くと…先ほど俺たちが破壊したゴーレムが居た。
今度は……9体、先ほどの3倍の数が。
「おいおい……!」
「流石に2対9は不利か…ガリア達の元に戻るぞ!」
「遅れるな!トカ!」
ガラールと俺は蟻の腹を思い切り蹴り上げ、向きを反転させ元来た道へと蟻を走らせた。
ゴーレムどもは再び胸の球体を輝かせ、俺たちへ向かって波を放つ。
「へへ、倖…!お土産は沢山持って帰るから喜べよぉ!」
俺はその波を避けながら一人、倖へと呟くのだった。
暇つぶしで以下略
次:撤退が上手くいったら
http://nagato-iwasaki.com/img/works/trs/img11.jpg
ゴーレムイメージ画
岩崎永人様のサイトより引用
すっげぇいい出来でいいゾ~これ




