さよならを告げたら
https://www.youtube.com/watch?v=BGcm_6fA14U
Day After Day (Full size)
MD215年 11/02 10:00
南極に、轟音が響いていた。
音の原因は無数の金属の巨人達の移動音である。
巨人たちの大きさは各々によって違ったが中には十メートルを超える巨体も居り、それらは全て眼前から迫る黒い粘液……ショ=ゴスへと向かっていた。
「進めぇ巨人ども! あいつ等をマイクロ単位まで分解してやれ!」
巨人たちを指揮するのは、その後方にて小型の巨人の肩に乗る一人の男。
山坂憲章であった。
彼は楽しそうに前方を見据え、スーツの中で口角を上げた。
<ショ=ゴスとの会敵まで残り二分>
「彼我戦力差は?」
<約十五倍です>
「だったら対等だな、全機攻撃準備! 粘液どもに文明の力を教えてやれ!」
顔にほど近い梯子をしっかりと握ったまま、山坂は肩から前を行く巨人達へ無線機を用いて指示を飛ばす。
すると、前進している巨人達そのほぼ全ての体の至る所からミサイル発射口が現れる。
<会敵まで残り1分>
「派手に出迎えてやろうぜ! 撃ちまくれぇぇぇぇぇぇぇ!!」
号令と共に、号砲は放たれた。
大量のミサイルが一斉に発射されると、それらは眼前に広がる黒い大地……ショ=ゴスへ着弾する。
着弾と同時、南極に初めて人類の兵器の花火が灯る。
それは一時的に南極の吹雪を掻き消すような威力と衝撃だった。
「綺麗な花火じゃねぇか……」
<相手戦力、三十%の消滅を確認。 並びに山脈から追加のショ=ゴスを確認>
「サンドバッグとしちゃ上出来だな。 シトリー、鉄球の位置は?」
<ここから前方十キロの位置に鎮座しています>
山坂は鼻を鳴らす。
「ふん、まさかてきとーに選んだあれを使う時が来るとはな……文字通り適当だったか?」
<どうされるおつもりですか?>
「あいつでやることなんざ一つしかないだろうが」
額に手を当て、前方で陽光を反射しながら鎮座する銀色の鉄球を見る。
鉄球は巨人よりも一回り程大きく、直ぐに何処にあるのか分かるほどだった。
その時、前方で爆発が起こった
「今の爆発は?」
<A小隊、一機大破、巨兵からの攻撃が直撃した様です>
小さい火の粉が、山坂まで届いた。
「ふん……味方の損害には目もくれるな! 俺が大鉄球に到達するまで持てばいい!」
<了解、AからT小隊全機に通達、輪形陣から単横陣へ戦列を変更せよ>
AIの指示は、即座に全部隊へ通達される。
巨人達はその指示を即座に実行する。
初期は山坂を中心に円を描くような形の陣形を取っていた巨人たちは、次第に少しずつ横へと広がっていく。
少しすると、巨人たちは山坂の前でまるで延々と並ぶ鉄の壁を思わせた。
「リーク……待ってろ」
その鉄の壁の先、上空で浮かぶ巨兵を山坂は睨みつけていた。
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「う、うぅ……うぐぅぁぁぁ!」
コックピットの中に、呻き声が響いた。
無数のコードを差し込まれヘルメットを着けられた女性が、痛みに身を捩る。
「ははは、流石は山坂君だ。 どうやって対抗するのかと思ったがまさか南極に流れ着いた兵器を利用するとはね」
その呻き声とは別に、極めて明るい声が響く。
「楽しみだなぁ、一体どうやってこの状況を打破するのか」
声は自らへ向かってくる軍勢と男に対して、本当に興味深そうに声を上げる。
「さぁ彼が目当ての物に到達したみたいだ」
「て、き……アメリカの、兵器……殺す!」
「どうやってこの巨兵を止めるのか……ふふふ、見せてもらおうか」
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<周囲のショ=ゴス、掃討を完了しました>
「鉄球は?」
<無事です>
「上出来!」
山坂は、目的の鉄球を見つけると巨人のコックピットへ滑り込んだ。
コックピットの内部にある椅子へ座ると、徐に右側面に拳を突き入れる。
<何を?>
「こいつらが霊力で命を得たってんなら、ここは人間で言う脳味噌だ」
そして拳を引き戻すと、何本かのケーブルを右手で引きずり出す。
「このケーブルは所謂神経、これを俺に接続する」
<理解不能です、その行動にはリスクしか検出できません>
「だが勝つ為にはこれが必要だ、そして俺は……嫌いな奴を殺す為なら命だって捨ててやる!」
山坂は続いて、左側面にも腕を突き入れるとケーブルを引きずり出した。
そしてそれを自らが着用しているスーツと同期していく。
<不明な回路が接続されました>
「ぬっ、ぐ……!」
<システムに深刻な障害が発生しています>
「なぁ人類の兵器……よく千年も彷徨った。 お前たちが作られた目的は酷く利己的な物だったが……」
<直ちに使用を停止してください>
回路を握る両手が赤熱していく。
「それでも目的があって作られたんなら、その目的を果たす為に全力を振り絞るのが使命ってもんだろぉ!」
<人体へのダメージを確認、データ領域の拡張開始……リミッター解除>
「さぁ、見せてみろ! お前にその力があるなら!!」
直後、それは咆哮した。
元来戦車を元にしたそれに口は無く、声もなく。
だが……無垢だった命に山坂と接続されたことにより、初めて確固とした自我が芽生えた。
それは正しく、命の誕生であり……その方向は産声だった。
<機械巨人各部に膨大な負荷を確認、稼働時間残り三分二十二秒>
「それだけありゃあ十分だ!」
山坂の意識は、巨人と一体化していた。
右足を前へと意識すれば巨人は一歩を踏み出し、左手を前へ出せば巨人も同様の動きを行う。
彼は巨人へ鉄球へ近づくように命じると、巨人は鉄球へ近づいた。
「さぁシトリー、お前に積んだ情報サーキットの使いどころだ……もう一発無茶行くぜ!」
巨人は山坂の意思を汲み取ると、鉄球へ自らの右腕を突き入れた。
衝撃に周囲は揺れ、部品が砕け散った。
<負荷増大、稼働時間残り二分九秒>
山坂との接続で、急速に負荷が増えた巨人の体は赤熱していたが……鉄球との接続で更にそれは加熱した。
最早元の色が錆色とは思えないほどに白熱し、周囲の雪は蒸発していく。
その熱はどんどん高くなっていき、巨人とそれに接続された鉄球が徐々に炎を上げ始める。
「巨人を何機か集めろ」
<今度はどのような無茶をなさるおつもりで?>
「上空へ鉄球ごと巨兵に向けて放り投げさせろ」
<了解、巨人を十機招集します。 二十秒頂戴します>
山坂は、息を吐いた。
息と共に少量の血も出て、スーツの中を汚す。
巨人と更に鉄球と神経で繋がった今、彼には膨大な情報負荷が掛かっていた。
だがそれでも、彼は笑みを失わない。
不意に体が持ち上がる感覚を覚えた。
<準備完了しました>
「戦況は」
<押されています、先ほど制圧した地点も含めて現状の場所以外は全て再制圧されました>
「そうか」
山坂は、周囲を見た。
下半身が無い巨人が、粘液へ向かい剛腕を叩き付け粘液を飛び散らしていく。
だが飛び散った部分は即座に別のショ=ゴスで埋め尽くされ、粘液は巨人へ殺到していく。
それは内部へと入り込むと、ケーブルや回路を食い荒らし、突き破る。
「…………っ」
不意に、倒れ行く巨人と目が合った。
巨人には元来目など無く。
だが……その形作られた無貌の顔と確かに彼は目が合ったのだ。
<投擲、開始します>
「あぁ……!!」
直後、急激なGが山坂を襲った。
山坂を持ち上げていた巨人達が、上空に居る巨兵へ向けて山坂を投擲したのだ。
<高度百、二百、三百……巨兵まで残り四百メートル>
「大鉄球、全武装開放!」
上昇の最中、山坂は巨人の右腕に着けられた鉄球へ指示を送る。
<高度千百、巨兵、会敵します>
「そろそろ終わりにしようぜ!!」
雲を突き抜け、山坂は視界に巨兵を収めた。
右手に備え付けられた鉄球を大きく振りかぶり、それを叩き付ける。
巨兵もまた、叩き付けられた鉄球を両腕で止める。
「大鉄球、ブースト点火! 目標落下地点……人類再生研究所深部、龍脈!!」
山坂は、鉄球に備え付けられたブースターを点火し勢いを付けると無理やり巨兵ごと地上へ落下していく。
目標地点は彼が先ほどまで居た基地……その最深部に存在する龍脈である。
「リーグ・リーク!!」
絶叫と共に、二機の巨人は地上へ落下していく。
まるで、流星の様に。
<山脈上部に接触します!>
「貫けぇぇぇぇ!!」
衝撃が山坂を、巨人を襲った。
山脈の岩盤に巨兵を叩き付けると、そこでは止まらず二機はどんどん地下へと岩盤を貫いて落下していく。
勢いは留まる所を知らず、むしろより早く岩盤を貫いていく。
そして、一瞬の空白があった。
<基地第三層通過!>
二機は、いつの間にか基地の第三層……食料生産課を突破した。
<第四層突破……龍脈まで残り十秒!>
「楔起動!」
鉄球の中心、巨兵のコックピット前に突如大きな穴が開いた。
その穴の奥には鏃の様な物が存在した。
「リーク……お前の悲鳴、確かに聞いた。 お前の望みは、俺が叶えてやる!」
龍脈が見えた。
深い谷底の中で、ショ=ゴスが蠢くその中で一際輝くエネルギーの坩堝が見えた。
それは渦を巻き、うねり、霊力を無限に吐き出す銀河だった。
龍脈を見た山坂は叫び。
楔は発射された。
「お前を殺してやる、リーグ・リーク!!」
巨大な鏃が巨兵のコックピットに向けて、その奥の龍脈に向けて放たれた。
それは巨兵の壊れるという概念を無くされた装甲を『貫通』し、龍脈へ向け飛翔する。
<巨人の活動時間、限界です。 脱出を>
「あばよ、リーク。 お前は……良い奴だったよ」
山坂は両腕で握っていたコードを外すと、溶融しつつあるコックピットから脱出する。
直後、二機はそのまま落下していき……谷底は閃光に包まれた。
安請け合いしたら大変な仕事だったので初投稿です
でもな、遣り甲斐もあんねん
楔/wedge ⑧
アーティファクト
楔を生贄に捧げる:土地一つと有色のパーマネント一つを対象とし、それをゲームから追放する。
人類にとっての希望、魔族にとっての絶望。




