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人類ガバガバ保護記   作者: にっしー
南極編
158/207

呼びかけたら

https://www.youtube.com/watch?v=Sg7qgZI0R5Y

Rance IX Soundtrack - Before the Decisive Battle (決戦前)


MD215年 11/02 09:51


「さぁて巨兵に喧嘩を売ったのは良いが……どうだシトリー、勝てると思うか?」


 大砲を更に巨大化させた様な砲塔の先端に立ちながら、山坂は楽しそうに言った。


<そういった相談は、実際の行動を起こされる前にされるべきかと思われます>


 口角を上げ、本当に楽しそうに巨兵を地上から見上げる山坂にスーツに内蔵されたAIは本来搭載されていない感情がある様な抑揚で山坂を諫めた。


「へっ、そう言うな。 運良く助かったとは言え、本来なら俺を殺してた奴が相手となっちゃ先に手が出るのもしょうがねぇ」


 そう言って、山坂は首元をめくると頭部から流れる血を拭った。

 山坂が巨兵の攻撃を生き延びたのは、彼が持つ悪運によるものだった。

 彼が蹴り飛ばされた実験棟があった第四層の周囲は粘土質の土壌で出来ており、それが彼が受ける衝撃のクッションとなり続けることによって死を免れたのだ。


「なぁ、お前もそう思うだろぉー!?」


 山坂は視線を下へ向け、自らが乗っている砲塔の下へ叫んだ。


「アオーーーーン!」


 呼びかけに、遠吠えが答えた。

 以前アリスが友と紹介した白狼である。

 粘土質の土壌に埋まっていた山坂を掘り出し、基地の異変を感じ取った白狼は彼を外へと連れ出していたのだ。

 その後、目を覚ました山坂は応急処置を済ませると早々に南極を蠢く生命を持った機械を制圧した。


「良い返事だ。 まぁ当然か、中にはまだアリスが棺桶で寝てるからな……死んでないだろうな」


 額に手を当て、遠くに見える山脈を見る。

 山脈は以前は白く染まった美しさと恐ろしさを感じさせる見た目だったが、現在は雪を覆いつくす黒だけが彼の視界で蠢いていた。

 その山脈の下にある基地の内部には、未だに棺桶と呼ばれる冬眠装置で眠ったままのアリスが放置されている。

 白狼は彼女を心配して、現在自分と一緒に居るのだろうと何となく山坂は思っていた。


「とりあえず調査はあれを何とかしてからだ……シトリー、準備はどうだ!」


 視線を再び上へと戻し、悠々と空を飛ぶ巨体を睨みつけながら山坂はAIへ呼びかけた。


<滞りなく完了しています、ご指示を戴ければ直ぐにでも>


「へっ……それじゃあ一つ、永村の真似でもしてみるかねぇ!」


 AIの回答に満足したのか、山坂は斜めに構えられた砲塔から滑り落ちながら人型をした機械生命のコックピット部分へ侵入した。

 内部は戦前の戦車と同じ作りになっており、山坂はすぐに目当ての物を発見した。

 通信機。

 即座に受話器を取ると、山坂は大きく息を吸い込んだ。


「あー、あー、マイクテスト、マイクテスト、千年前の機械が生命を得たと言ってもこういう機器はメンテしないとすぐ死ぬからなぁ……あー、通じてる?」


 キィィンと甲高い音が一瞬周囲に発せられた後、南極に山坂の声が響き渡った。

 無事に音が出ることを確認した山坂は、一度咳ばらいをしてから口を開いた。

 

「聞け! 未だ使命の為に、その身に命を宿らせた兵器達よ!」


 声は高らかに響いた。


「諸君らが魔族との戦争に向かったのは、今からおよそ千年前の事だ」


 千年前、人類は魔族との戦争に乗り出した。

 徐々に人類よりも数を増す、人類よりも優れた存在に人類が恐怖した為だ。

 人類はあらゆる兵器を動員し、核ミサイルすら用いた。

 

「その際に諸君らは役目を果たすべき場所であった戦地へ辿り着く前に船ごと沈んだ、さぞや無念だっただろう」

 

 人類は必死の抵抗を行った。

 だが、実際には戦争というほどの物すら起こらなかった。

 長老級と呼ばれる、居偉大な霊力を持つ魔族達。

 その内の三名が攻撃を行ってきた人類へ対し反撃を行った。


「たった三名の攻撃によって、諸君らは活躍の機会を奪われたのだ!」


 一名が核ミサイルの迎撃を、残りの二名がアメリカから発進した地上最強の呼び声高かった海軍……アメリカ第六艦隊を撃破した。

 長老級の、魔法の前に人類に成す術はなかった。

 

「さぞや無念だろう、悲しいだろう……! だからこそ、お前たちはここで荒れ狂っているのだろう? 流れ着いたこの地で!」


 そして千年の時が経ち……彼らは霊力によって意思を得た。


「ならば、この俺がお前たちに死に場を与えてやる! お前たちが生まれた意味を果たすべき場所を! 役目を全うさせてやる!」


 実際の所、彼らが南極で蠢いている理由がその通りなのかは分からない。

 だが山坂は、一切の迷いなく彼らが蠢く理由をそうだと断定し、尚言葉を続けた。


「さぁ目覚めの時だ! 人類の管理者としてお前たちに命令する! 立ち上がり、義務を果たせ! 総員起動!」


 演説の後、周囲は沈黙に包まれた。

 気が付けば吹雪の音も消え……遠くから聞こえてくる地鳴りだけがコックピットに聞こえていた。


「……シトリー、ちゃんと起動信号送ったのか?」


<はい、ですが起動する確率は五分だと事前に説明した筈ですが>


「ギャンブル失敗かぁ……演説してる間に連中も随分近くまで来てるっぽいし……ほらぁ~地鳴りの音とか大きくなってきて振動まで……」


 コックピット内が揺れていた。

 揺れは徐々に強くなり、地鳴りの音も強さを増し……次第に山坂はコックピット内で立っていられなくなった。


「なん、なんだぁ!? ショ=ゴスの近づいてくる速度が速すぎないかぁ!?」


<いえ、これは────>


 続いて一際強烈な振動が起きると揺れは収まり、山坂は急いでコックピットの外を見ると……先ほどの演説が間違いではなかったことを知った。

 南極大陸は土の上に氷が張った、氷漬けの大陸である。

 その南極の大地を砕きながら、大きさ五メートル程の歪な巨人達が次々と集結していた。

 先ほど山坂が感じた地鳴りは巨人達のエンジン音であり、振動は彼らの歩行音だったのだ。


「へっ……全員千年も遅刻しやがって」


<南極圏に居る全兵器の起動完了、並びに指揮権を管理者へ移譲完了>


 最初、巨兵へ砲撃を行った際には一機しか居なかった機械生命は短時間の間にどんどん数を増し……。

 最終的な数は二百体を超えた。

 正しく壮観であった。

 集まった機械生命は右腕が無いもの、あるいは下半身が無い、壊れかけているととても戦える状態ではないものも居たが……。

 彼らはそれでも山坂の演説を聞いて、自らの役目を全うする為に集まったのだ。


<ご命令を>


「…………………………」


 再び山坂は息を吸い、吐いた。


「突撃ーーーーッ!!!」


 かくして、人類最後の兵器達とショ=ゴス達の最後の戦いが始まった。



我が家のモデムが死んで危うくエターナルところだったので初投稿です。


機械巨人/Gear Hulk ⑥


クリーチャー・アーティファクト/構築物


トランプル


5/5


かつては恐怖の象徴。

現在は希望の象徴。

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