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人類ガバガバ保護記   作者: にっしー
南極編
157/207

狂気の山脈にて

https://www.youtube.com/watch?v=hnbsolj8LSQ

伝説巨神イデオン 弦がとぶ Ideon - The Bowstrings Fly


─────────────────────────────────────


「はい?」


 リークは、不思議そうな声を上げた。


「だから、どうしてそんなに死にたがるんだ?」


「……どうしてそんな事を聞くの? あなたにとって私は──」


「殺すべき対象だ。 だがだからと言ってお前の経歴に興味が無いわけでもない」


「そう……興味本位ってこと」


 彼女はそう言うとそっぽを向き、ベッドの上に座った。

 ベッドは緩やかに軋み、どことなく頼りなさげな音を立てる。


「大した理由じゃ無いわ、単純に……生きる事に疲れただけよ」


「ブラック企業に勤めるOLみたいな事言ってるな」


「ブラック企業、ね……それで済むならどれだけ良かったか」


「あん?」


 過去を懐かしむように、リークはベッドに置いてあった枕へ手を添えた。


「前に言ったわよね、私は変異しただけの普通の女だって」


「あぁ、何か言ってたな。 正直魔族ってだけで人間としちゃ普通ですらないが」


「あなた達にとってはね、でも魔族の中にもヒエラルキーみたいのはある。 扱える霊力の量が多ければ多い程、地位は盤石。 対して私は……」


「青だけだもんな」


 スーツのスキャン機能を用いて覗き見たリーク本体のデータを山坂は口にする。


「そういうこと、だから一般的には虐げられるだけ……でも私は違った、体に流れるこのが血、私をそうはさせなかった」


「ICE9か」


 ICE9。

 氷の結晶体の一つで、通常気圧下における融点は摂氏45.8度。

 通常の水に接触すると、その全てを連鎖反応的にアイス・ナインとして凝固させる働きをもつ液体の総称である。


「最初は私を殴った父が私の血に触れて、次は私を助けようとした母が凍った」


 リークはそう言うと、枕をぎゅっと強く握りしめた。

 そして山坂もそこまで聞いて、彼女の経歴が何となく予想できた。

 自身を利用しよう、あるいは実験しようとする悪意ある連中とのやり取りに彼女は……。


「分かるでしょう、私の人生がどういうものだったのか。 だから、私は私の痕跡が残らない様に死にたいの」


「だが体液が飛び散るような死に方では、世界が凍り付くから駄目と」


「そういうこと、それに……死にたくはあるけど自分で死ぬ度胸は無いの、私」


 そう言って、リークは乾いた笑みを浮かべた。

 今にも潰れてしまいそうな、そんな笑みだった。



─────────────────────────────────────


MD215年 11/02 09:39


 南極の空に、吹雪とは違う音が響いていた。

 打ち付ける雪を物ともせず溶かす、そんなブースターの音が。

 続いて、山が崩れる音が響いた。

 南緯82度、東経60度から南緯70度、東経115度にわたって大きな弧を描いて南極を横断する大山脈。

 最高峰は35,000フィート、約10.66kmを超える高さであり……これはエベレストを2キロも超える地球最高峰の山脈である。


「cs!cs!」


 高度21,000フィート、約6.4km以上のところでは雪が完全に吹き飛ばされている。

 この、1900年代に発見された狂気の山脈から今……あらゆる生命の原型となる細胞群が噴出していた。

 まるで石油が吹き上げたように、山頂から内部にあった粘土質の土壌や基地の残骸を諸共吹き上げ……何かを祝う様に沸き立っていた。

 沸き立つタールの様に黒い玉虫色の粘液の中から、一際異質な金色の巨兵が現れた。

 西洋甲冑の様な全身からブースターを吹かして飛び、それは粘液を先導するようにゆっくりと前進し始めた。


「25.!25.!」


 粘液……ショ=ゴス達は自身の体から発生させた発声器官で意味不明な言葉を叫びながら、山脈をゆっくりと滑り落ちてゆく。

 そんな光景を、南極に住む生物達と変異し生命を得た機械達が眺めていた。


「ん、んん……? こ、こは?」


 そんな中で、彼女は意識を取り戻した。

 リーグ・リーク。

 初期に魔族になった者たちが言われる長老級の称号を持つこの女性は、先ほど自らが眠った場所とは違う場所で覚醒した。

 まず彼女の目に映ったのは、様々な計器類だった。

 それらは様々な光を発し、数字や空中に映し出されたウィンドウに単語の羅列が下から上へ流れていく。

 

「え、何!?」


 最初はぼんやりと眺めているだけだったが、次第に彼女は現状を認識した。

 リークは周囲を慌てた様子で周囲の状況を確認する。

 今彼女が居る場所は球形の形となっており、人が一人座るのがやっとの小さい場所だった。


「ちょっと、山坂!? どういうこと!? 居るなら返事しなさいよ!」


 リークはあぁ、またかと思った。

 彼女はこうして捕らえられるのは両手の指で数えられる以上にあった。

 その度に彼女はもう誰も信じまいとし、そしてまた自殺衝動に駆られ他人に自身の殺害を依頼し捕まる……を繰り返していた。

 

「ちょっと……またなの?」


 だから、少しの落胆だけが彼女を襲った。

 恐らくこのまま何処かに移送されて、また実験をされるのだろうと言う諦めが彼女の脳内を支配した。


「ほんと……嫌になるわね」


「だろうね、いや君には申し訳ないことをしていると思っている」


 両手で顔を覆い、今後の事を考えていたリークは突然の声に顔を上げた。


「山坂……じゃないわね、誰?」


「望み通りの相手ではなくて申し訳ない、僕はクレケンズ……君とは一応初対面になるかな」


「……クレケンズ? その名前、何処かで……」


 先ほどまで朦朧とした意識だったのが幸いしたのか、彼女はすぐにその名前に聞き覚えがある事に気づいた。


「あぁ、僕の名前に君は聞き覚えがある筈だ。 昔、長老級全員での会合を提案したことがあるからね」


「会合?」


 一瞬首を捻り、リークはすぐに思い出した。


「思い出した……気取った手紙を送ってきた人ね?」


「その覚えられ方は不名誉だね……とは言えその通り、君と同じ長老級だ」


「そう、それじゃあ今度は私と同じ長老級が私を利用するって訳」


 諦めの溜息を吐き、軽蔑の眼差しで中空を見るリークにクレケンズは肯定を返した。


「そうだ、君には利用価値がある。 他人との魂の融合やその体の性質等色々とね」


「今まで私を捕まえてきた三流連中と同じことを言うのね」


「だが腕前は一流だ」


「あなたの腕前なんてどうでもいい、それよりも山坂はどうしたの、それに此処は何処?」


 目の前に見える二本の操縦桿を靴下越しに足で触りながら、彼女は改めて内部を見渡した。


「巨兵のコックピットだ、格納するのに丁度いい部分がそこしか無くてね」


「彼は、山坂はどうしたの」


 リークの問いかけに、クレケンズは少し間を置いてから口を開いた。


「巨兵で攻撃した、恐らくは死んだだろう」


「…………! そう、あの人……死んだの」


 一瞬、リークは目を見開くが直ぐに表情は平静に戻った。


「あぁ、後はこのまま僕の本拠まで君を移送して……下に居るショ=ゴス達を世界に解き放つだけだ」


「下に居る? ショ=ゴス……解き放つ!? ちょっと、正気なの?」


 途中まで平静を保っていた彼女だが、クレケンズの言葉に狼狽した。


「勿論だ、彼らの望みが地上での繁栄なのでね。 協力してもらう代わりに手伝ってもらうことにした」


「冗談でしょう……? あれは生き物に成り代わるのよ、地上の生物全てがあれになっても良いというの!?」


「だがそういう約束だからなぁ……僕は約束は守る男なんだ」


「イカれてる……」


「それを判断するのは後の人民さ。 では後はオートパイロットで到着する予定だ、快適な旅を楽しむと良い」


 それっきり、クレケンズの声は聞こえてこなかった。

 リークはクレケンズの言葉に絶望を覚えた。

 この男は、他者への被害がどうなろうとどうでもいいのだ。

 仮に全ての動植物がショ=ゴスに置き換わり人間や魔族が居た痕跡すら消えても良いと思っている。

 自分が彼らと約束をしたからという、その一点の為に。

 そして今後訪れるであろう自らの未来が、今までの中でも最悪の未来であろうことは想像に難くなかった。


「(この男は不味い……逃げなければ、今までよりももっと酷い事になる!)」


 リークは室内の計器を手当たり次第に調べ始めた。


「(何処かに、何処かにマニュアルがある筈……)」


 幸い、巨兵が作られたのは最終戦争前であり計器に流れる文字やパネルに書かれた文字は彼女が読めるものだった。


「(兵器の使用方法……違う。 歩行の方法、これも違う。 長時間移動中の暇つぶしの仕方……これも違う! っていうか何よこれ!)」


 座席の手前や後ろを捜索し、風化してボロボロになった本を読み解き始めるリークはその内容に思わず突っ込みを入れながらもある項目を探した。


「(あった、緊急脱出方法……!)


 今にも崩れ落ちそうな本を、慎重に読み解きながらその書かれた手順に従って計器の操作を進めていく。


「よし……行ける、逃げられるかもしれない」


 手順を一通り終え、ウィンドウにエマージェンシーの文字が浮かび上がる。

 リークは座席のシートベルトをきつく締めると、操縦桿を二本とも握り同時にそれに備え付けられたスイッチを押した。

 だが……。


<操作権限がありません、マスターオーナーからの許可が無い限り緊急脱出は認められません、国の為に死ぬまで戦闘続行を>


「は……? え、ちょっと、嘘でしょ」


 画面にはそういった文字が並び、同時に座席の上からバイザーの付いたヘルメットがリークの頭に覆いかぶさった。


「な、なに──キャアアアアアアアアア!」


 それは吸い込まれるようにリークの頭部に収まると、電撃を彼女へ与えた。


<パイロットの逃亡行動を確認、強制戦闘プログラムを起動します>


 そうして、彼女の視界は暗闇に包まれていく。

 体にも何本かのケーブルが差し込まれ、体の自由すら奪われていく。


「あぁ、忠告し忘れた……」


 失われつつある意識の中で、クレケンズの声が響いた。

 

「ク、レ、ケンズ……!」


「この兵器は試作段階のでね、一般的にはとても積めないものを全部積み込んだんだ」


 クレケンズの声は、楽しそうだった。


「例えば戦場で巨兵が逃げ出したらどうなると思う? 士気は大崩壊だ、だからこれには実験的に劣勢時にこそ前に進むようにパイロットの体を操る装置を積んだ」


「…………!」


「他にも色々あるんだ、巨兵とパイロットを一体化させるとかね! 最も激痛が全身を襲って廃人化するから後の巨兵には積まなかったんだが……君も不運だね」


 クレケンズが説明する間にも、リークの自由は確実に奪われていった。


「だが安心して欲しい、君が廃人になる前に止めるつもりだ。 あぁ……だが廃人になってしまった後だと遺言も聞けなくなるな、何か最後に言うことはあるかい?」


「こ、の…………クズ!」


 リークには見えなかったが、クレケンズはそれを聞いて笑ったように感じられた。

 そして、彼女の脊髄に子供の腕程の太さの巨大なケーブルが無造作に打ち付けられた。


「───────ッッッ!!」


 麻酔も何も無い状態でのそれは、彼女をショック死させてもおかしくはなかった。

 だが、それでも彼女が生きていたのはこれを作った天才二人の妙か人間の体の頑丈さか。

 彼女は激痛に悶えながら、巨兵との一体化が開始された。


「(痛い、痛い……! 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!! やめて、やめて!! やめて、やめてよ!! お父さん、お母さん!! 誰でもいいから──)」


 それは、彼女の口から発せられた最後の言葉だった。


「誰か、私を助けてよ…………!!」 


 直後に、巨兵に振動が走った。

 巨兵の目が、地表を見た。

 地上には尻もちをついた様な形で、ロボットが砲塔を巨兵へ構えていた。

 その砲塔の先端に、彼は立っていた。


「俺を呼んだな、リーグ・リーク!!!」



何故か自分の金でロシア人を日本へ招待する事になりそうなので初投稿です。




Unnatural Endurance / 異常な忍耐 (黒)

インスタント

欠色(このカードは無色である。)

クリーチャー1体を対象とする。ターン終了時まで、それは+2/+0の修整を受ける。それを再生する。


「死ぬかと思った」

────一瞬死んでた男の言葉

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