魂の導管/Soul Conduit
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MD215年 11/01 12:35
吹雪が視界一面を覆っていた。
南極の空は今も荒れ狂い、生命の侵入を拒む。
大地には霊力によって生命を得た機械や、変異しつつある動物達が蔓延る。
「相変わらず辛気臭い空だな」
ガラス越しに見える外を眺めながら、山坂は悪態を吐いた。
「あなたって……そうやって一々何かに毒を吐かないと生きていけないの?」
ガラスに手を当てながら、リークは振り返ることなく言った。
「文句も言えない世界がご所望ってか? 魔族様はよ」
「ほら、また」
「五月蠅い女だなぁ……俺の親かお前はよぉ」
山坂は椅子の背もたれに寄り掛かると、 彼女の話になど興味は無いとでも言いたげに机の上に足を置いた。
「まぁいい、それじゃあ幾つか質問させてもらおうか」
「横柄な態度で気に入らないけどいいわ、答えてあげる」
「けっ……それじゃあまず一つ目だ、何時からアリスと切り替わった?」
「あなたが朝に彼女の様子を見に来たすぐ後よ。 ……この子の中で意識が覚醒したのはもっと前だけど」
「つまりアリスと初めて会った時から目覚めていたってのか?」
リークは頷いた。
「あなたが何者なのか気づいたのは、この子に経歴を語った時だけどね」
「成程? んじゃ次の質問だが……お前、この基地についてどこまで知ってる?」
「何処までとはまた、抽象的な質問ね」
そして顎に手を当て、少し考え始めた。
「…………そうね、ここで何があったのか位は知ってる。 けどこの基地で実行されていた事に関してはあなたの方が詳しいと思うけど?」
「俺はショ=ゴスを作っただけだ、計画の内容全ては知らん。 とりあえず何があったのかを話せ」
「じゃ、少し話しましょうか。 と言ってもあなたも知ってるかもしれないけど……ショ=ゴスが反乱を起こしたのよ」
「反乱?」
「そう、反乱」
リークは右手でネズミ位の大きさを表す。
「最初はゴキブリ掃除用に作られたんだけど……ゴキブリを食べながらカロリーを蓄えて徐々に進化していった。 そして無限に増えてついにはここの基地をという顛末よ」
「じゃあ地下で凍ってたのは誰がやったんだ?」
「私、だと思う」
「だと思う?」
疑問符に、山坂も疑問符を返した。
「昔の記憶が少し曖昧なの、誰かに起こされて凍らせた気もするし……自分でやった気もする」
「年寄りはこれだから……」
「寝てた期間考えたらあなたとそんなに変わりません! ごほんっ、兎も角過去に起きたのはそこまでです」
「……一つ疑問が生じるんだが、仮にショ=ゴスを凍らせたのがお前だとして、どっちのお前がやったんだ? 本体か? 今のお前か?」
「その時この子は寝ていたから、あっちの私だとは思う」
今度は山坂が考える番だった。
「ってことは、眠っていたとは言え当時お前は二人居たってことか」
「今も、だとは思うけどその通りね」
「そうか……そうか、魂に関してもう少し色々実験しておくべきだったか」
山坂はそう呟くと、椅子を後ろに傾ける。
「んじゃ起きてからは何してたんだ?」
「別に何も、この子の記憶と貯蔵庫に近づかない様に少し細工をしたけどそれ以外は眠っていたわ」
「逃げ延びたショ=ゴスが居たことを知ってたのか?」
リークは首を振った。
「いいえ、知りようがないもの。 あれに襲われなかったのは不幸中の幸いだったわね」
「なら何から遠ざけようと……」
そこまで口に出して、山坂は気づいた。
「もう一人のアリスか」
「その通り、あっちが本当の肉体なの」
「……ってことは今のお前は」
「そう、ショ=ゴス産。 さっき魔法が使えたのもそのお陰。 本体に私の魂を入れても復活しなかったから、ショ=ゴスで作った体に魂を流用したのよ」
「成程、本体から今の体に移す時に一緒にアリスの魂も混ざって移動したのか」
リークは頷くと山坂は深くため息を吐く。
そして浮かび上がっていた椅子の前足を地面に着けた。
「なら、殺すしかねぇな」
「いいえ、それは駄目」
「あ? お前の指図を受ける理由は……」
「言ったでしょう、貯蔵庫であなたが見たアリスは本物だって、そして私はある装置でこの体に魂を入れられた……ここまで言えば分かる?」
「オイオイオイ、魂の分離装置を使うってか!?」
思い当たった装置に山坂は狼狽えた。
「駄目だ、あれは失敗作なんだ。 何が起こるか分からん」
「でもこのままで居れば、あなたはこの子を殺すでしょう」
「それは、そうだ、が……しかし」
「やっても結果はゼロかもしれない、でもそうならないかもしれない……可能性があるならそれに尽力するのが人間だと私は思っていたけれど?」
そこまで言われて、山坂もたじろぐ。
「だ、だが装置は既に廃棄に──」
「だったら作り直せばいいでしょう! あなた、大天才なんでしょう?」
「こ、こええ……帰りたい……」
すっかり主導権を握られた山坂は、その後リークの執拗な言葉攻めについに根負けした。
「仕方ねぇ……やるか」
「うん、そういう風に素直なあなたは素敵よ」
「魔族の、しかも女に褒められても嬉しくねぇ! ところで──」
「何かしら」
「アリスの本体は魂移し替えして生き返るのか? 既に凍死判定が下ってる肉体は蘇らない気がするんだが」
リークは頷いた。
「えぇ、死後直ぐに冷凍保存されているから恐らく問題無いわ」
「大丈夫なんですかね……」
「それを何とかするのがあなたの仕事よ、ドクター」
「……そう言われるとそうなんだが、こりゃ参ったなぁ」
右手で頭の後ろを掻きながら困惑した表情を浮かべる山坂に、リークは苦笑した。
「むっ、何がおかしい」
「ふふっ、あら……やだ、どうして私笑ってるのかしら」
「えぇ……(困惑)」
苦笑は次第に、大きな笑いになっていく。
「ふ、ふふ……や、やだ、とまらな……ふふふっ!」
「狂ったか……」
可哀想な目でリークを見る山坂と、山坂を見て笑うリーク。
不思議な空間が暫く形成された。
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話し合いが終わったその後の動きはスムーズだった。
山坂は地下四層の実験棟へ赴くと持ち前の製造技術を駆使して魂と肉体の分離装置を作成し始める。
機材は貯蔵庫に山の様に積まれており、一度きりの使用ということもあって盛大に消費されることとなった。
「予算を気にせず作る機械は最高だぜぇー! 既に一回作ったものってのが気に入らないけど!」
リークは一人で基地内に出来た洞窟へ赴き、狼との別れを一日かけて済ませることにした。
そして、アリスとの対話もまた行うことになった。
最初に山坂から説明を受けた時は驚きや魔族への嫌悪感、そしてこれから行われる事に対しての激しい抗議があったが最終的にはそれも全て納得してくれた。
「でぇきたー! ふははははは、俺様天才! 天才だから、寝るっ!!」
そうして、二日目は過ぎていき……装置が完成したのは山坂が一人で行動が出来る最後の三日目、それに突入する寸前だった。
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「さて……それじゃあそろそろ装置を起動するが、アリスはまだ眠ってるのか?」
「えぇ、ぐっすり寝てる」
「ま、寝てる間に終わった方が気が楽か……最悪死ぬかもしれんからな」
「不安になること言うのやめてくれる?」
「ケッケッケ」
薄ら笑いを浮かべながら、山坂はアリスの体をベッドの上に固定していく。
ベッドの隣には貯蔵庫で見た棺桶と呼ばれる冷凍装置。
そしてベッドと棺桶の間には卵の様な白色の装置が備え付けられていた。
「……よし、それじゃあ確認だ。 これが成功すればお前はショ=ゴスの肉体に、アリスは自分の本来の肉体に戻る」
「えぇ」
「その後、俺はアリスを連れて基地を出る。 その際基地の自爆装置を起動させるが……お前はここで死ね」
「言われなくてもそうするわ」
アリスの肉体に入ったリークはそう言いながら、実験棟の頭上にあるライトを遠い瞳で眺めていた。
そんな彼女の横顔を山坂は何とも言えない気持ちを抱えながら見ていた。
「よし、行くぞ……」
「永かった……ようやく、本当の意味で死ねるのね……ありがとう」
リークの最後の言葉を聞き終えると、山坂は装置を起動した。
MTGアリーナがオープンベータになったので初投稿です。
皆もアリーナ、しよう!
Soul Conduit / 魂の導管 (6)
アーティファクト
(6),(T):プレイヤー2人を対象とし、それらのプレイヤーのライフの総量を交換する。




