リーグ・リーク
https://www.youtube.com/watch?v=wufMtXl355o&list=PLAZWvST_9F8MEyNuLt1Qx_pqfYXUxQYbP&index=6
Signs of Love - 「ペルソナ4」オリジナル・サウンドトラック
─────────────────────────────────────
「……眠ったのかい?」
「えぇ、ぐっすり寝てる。 こうなったらドク、絶対起きない」
「彼の事、よく知ってるんだね」
「初めて会ってからまだ一年だけど……ほぼ毎日一緒に過ごしてたら嫌でも覚えるわよ」
苦笑しながら、彼女がその笑みを俺から奴へ移した。
「嫉妬してしまうよ」
「え?」
「君と彼の関係に」
奴はそう言うと、彼女へ近寄り……。
「僕も、君とそういう関係にはなれないのかな?」
そう言って彼女の手を取る奴。
満更でも無さそうな彼女。
「……ろ」
それを見て、俺は……。
「やめろぉ!!!!!! 彼女にその薄汚い手で、触るなぁ!!!!!!!!」
─────────────────────────────────────
MD215年 11/01 08:44
「この、屑野郎……!! げはぁっ!」
怒声と共に、衝撃音が室内に響いた。
寝転がっていた椅子から落ちた山坂は、そのまま勢いよく立ち上がろうとし……机に頭をぶつけた。
「ぶっ殺し……ってぇ! なんだぁ、敵襲か!?」
<バイタルが不安定です、落ち着いてください>
「黙れぇ! あの屑野郎はどこだ! 殺してやる!!」
<鎮静剤を投与>
「いてっ」
拳銃を引き抜き、スーツの戦闘機能を最大開放しようとしていた山坂にシトリーは鎮静剤を投与する。
鎮静剤は起き抜けの山坂の体に即座に浸透し、山坂はふらつきながら地面へへたり込む。
<おはようございます、ご気分はいかがですか?>
「最低だ」
<それは残念です>
シトリーの全く残念そうに聞こえない言葉を聞きながら、山坂は床に倒れこんだ。
「……夢か」
<と思われます>
ようやく冷静になったのか、山坂は呆けた顔をして天井を見つめる。
天井を見ながら思い出すのは、先ほどの夢である。
「シトリー」
<何でしょう>
「すまん、助かった」
<非常に珍しい発言ですね、記録しておきます>
言うんじゃなかった、そう思いながら山坂は鎮静剤が切れるまで天井を見続けていた。
今は、二度と会えない彼女の事を思いながら。
「…………何か変った事はあったか?」
<いいえ>
「そうか」
他愛のない会話をし、山坂は近場に椅子に手を付きゆっくりと立ち上がる。
<出立なさいますか?>
「あぁ、アリスの様子を見て……それからもう少し基地の調査をする」
<了解、ナビゲーションを開始します>
体の調子を確かめる様に動かすと、山坂は食堂を出ていく。
まだ一日しか居ない筈だが、既に通いなれた道の如く彼は迷うことなくアリスの居る医務室へと近づいていく。
<彼女の殺害については、どの様に実行されるおつもりですか?>
「今それ聞くぅ?」
<実行するおつもりではないのですか?>
「何れな、今はまだ、だ」
AIの問いかけにうんざりしながら、山坂は医務室の前に到着した。
扉を開けるのをほんの少し躊躇したが、すぐに気持ちを切り替えると扉を開けた。
「おーう、起きてるか女ー」
だが、彼女からの返事は無かった。
代わりに……。
「あぁ、何だ……寝てるのか」
無遠慮に入り口から右奥にあるベッドへ歩いていくと、そこには静かに寝息を立てるアリスが居た。
「ぐっすり眠りやがって……、人の気も知らんで」
<バイタル正常です、このまま安静状態にしておくべきかと>
「そうだな」
山坂は頷くと、彼女の枕元にある机にコップと水差しを置いた。
そして気持ちよさそうな顔で眠る彼女の顔を一瞥すると、体を翻した。
「…坂さん、………とう」
そんな声を背中に受けながら、彼は医務室を後にした。
<では、第四層までのルートを表示します>
「あぁ」
医務室を出た山坂の胸中は複雑だった。
今、ベッドで寝ていたアリスはもしかしたら人間ではないのかもしれない。
ショ=ゴスが化けている可能性を考慮した場合、彼は彼女を殺すべきだ。
だが……理解していてもそれを即座に実行できない自身がふがいなかった。
「たった一日だが、接しすぎたか」
<許可さえ頂ければ、お手を煩わせる事無く処理が可能ですが>
「……お前は黙って道案内だけしてろ」
<了解>
医務室を出て、そんな会話をシトリーとした後は一切の会話は無かった。
AIとしては決断が出来ない主に対しての提案だったのだろうが、山坂の胸中は余計に複雑な物となってしまった。
「殺そうか救おうか、それが問題だ……ってこんな事言うキャラゲームで居たな、あいつガチャで引けないままサービス終わったな……切ねぇ」
昔やっていたゲームの事を思い出しながら、山坂は再び地下四階……実験棟へとたどり着いた。
実験棟へ入るための巨大なゲートは、半開きの状態を維持しており奥からは冷気が漂って来る。
<室内温度の上昇を確認>
「……中の奴ら溶けてないだろうな」
<室温は六度、凍結解除までの必要温度は残りおよそ四十度>
「砂漠にでも放り出さないと溶けないってのが売りだし、まぁ大丈夫か……とはいえ触れたら即死ゾーンに入るのはちょっと勇気要りますねぇ!」
軽口を叩きながら、山坂は半開きの状態になっている扉に体を滑り込ませる。
中に入ると、昨日と変わらぬ格好のまま凍った研究員が山坂を出迎えた。
一瞬体が跳ねるが、すぐにそれから距離を取るとブースターを吹かして空中へ浮かび上がる。
「全く……分かっていてもああいうのはびびる」
<臆病なくらいが丁度いい、という格言がございます>
「当然だ、この俺の命は何者にも代えられないからな」
そう言って、自らを肯定すると山坂は研究棟を見渡した。
電気が灯っているため、内部がよく見える。
彼の位置からは別室への入り口が三つ見えた。
一つは右奥、その次は左奥、そして左側の三つである。
「右奥が発電室で、左側は昨日行ったから~……左奥か」
<眼前の運搬用大型エレベーターもお忘れなく>
「エレベーター……あぁ、そういうこと」
シトリーの指摘に、山坂はエレベーターが本来収まっている筈の場所を見た。
その場所には本来荷物を載せている鉄板ではなく、底知れない穴が広がっていた。
ショ=ゴス達はここから溢れ出てきており、この穴が恐らく基地の発電を賄っている龍脈へ続いているのだろうということが予想できた。
「この穴降りて調査しろって?」
<判断はお任せします>
「情報投げるだけ投げて放置はやめろ、永村かおめーは」
シトリーへ文句を漏らすと、山坂は運搬用エレベーターを動かす機械の前に降り立った。
<行かれるのですか?>
「誰が行くかこんな怪しい所、基地自爆させるときに入念に吹き飛ばすわ」
穴へ身を乗り出して覗き込むが、見えるのは闇だけである。
近場に転がっていたライターを放り投げるが、落下音は一分近く経っても帰ってこなかった。
「どんだけ深いんだこの穴……とりあえず蓋しておくか」
そう言うと、山坂は機械を操作しエレベーターを下降させる。
エレベーターが下降を始めると赤いランプが点灯を始め、サイレンが鳴り始める。
「とりあえず、これで一安心────だ、な?」
エレベーターの下降音とサイレンが鳴り響く中、山坂は上階から来るエレベーターを眺めていた。
そして、それが積んでいた物を見て絶句した。
「オイオイオイ!」
<巨兵を確認>
「起動状態か!?」
<計測中……………………稼働、確認できません>
ゆっくりと降りてくるエレベーターに積まれたそれは、大昔の重装騎士を模した巨大なロボットだった。
その大きさは実験棟の天井よりも少し低いくらいで、目算で9メートル程度と感じられた。
全体的なカラーリングはカラフルで、各腕、各脚、胴体に別々の国の国旗が塗られていた。
そんな巨兵を見て、山坂は驚いていた。
「どうして巨兵がここに居る、全機最終戦争で出撃したはずだろ」
<不明です>
「不明ですってお前……何のために情報サーキットを積んでると……ん?」
自らのAIの不甲斐なさにため息を吐こうとして、山坂はある事に気が付いた。
「こいつ……巨兵じゃねえ」
<分類は巨兵と思われます>
「そうだが、それでもこいつは巨兵じゃねえ」
地響きが室内に響いた。
エレベーターが龍脈への穴を塞ぐと、山坂は巨兵へ向かって歩き出した。
そして右足部分へ向かう。
「こいつはプロトタイプだ、見ろ、ここに作成日と番号が振ってあるだろ」
巨兵の足元にしゃがみ込むと、山坂は大きく刻印されたそれを見た。
そこには2408/03/04 NO.000と書かれていた。
「……こんなん作ったかな俺」
<エクィローにアクセス中…………発見しました、作成者の名前には山坂様ともう一名の名前が記されています>
「えぇー、俺こんなん作ったかぁ? いやでも見覚えが無いわけでも……因みにもう一人って誰」
<クレケンズ・カーノウスです>
「成程、そりゃ記憶にも残ってねぇわ」
その名前が出た途端、山坂の顔色が変わる。
ナンバープレート部分へ蹴りを入れると、もう欠片も興味がないという体で奥へと歩き始めた。
<巨兵は如何しますか?>
「こんなガラクタに興味は無い、基地と一緒に運命を共にさせる」
そう言い捨てると、山坂はまだ行った事のない部屋へと入っていった。
通路はまっすぐに伸び、突き当りにはカードキーが必要な扉が設置されている。
山坂はその扉を複製したカードキーを用いて開くと、内部へと侵入した。
「割と小奇麗……か?」
その部屋の中は、昨日最後に入った部屋と大して変わりは無かった。
「まぁ第一実験室って名前だったしな、そりゃそうか」
最終戦争前に来た時と変わらない部屋を眺めながら、山坂は部屋の奥にある窓ガラスを見つめた。
中には黒い粘液が大量に詰まっており、内部には女が一人浮かんでいた。
「第二実験室と見えるものは同じか……こりゃ大したものは無さそうだな」
めんどくさそうに首を鳴らすと、山坂は室内を物色し始める。
パソコンの記録データ、実験記録、隠されていたエロ本……色々な物を見つけるがどれも大した情報を彼にはもたらさなかった。
唯一、魂と肉体の分離装置についての記述を発見した程度である。
内容はこうだ。
「装置は危険性が高いため廃棄、か……」
三時間を掛けた捜索はその情報を手に入れるのみとなり、山坂は疲れから息を吐いた。
「無駄骨だったな」
<それを知るために必要な作業でした>
「励ましのつもりか? 機械の癖に生意気だぞ」
<申し訳ありません>
イラつきを覚えながら椅子から立ち上がると、山坂は出口へ向かった。
これ以上調べる場所はこの階層には無いと思い、上の階層を目指そうと思ったのだ。
「基地の自爆スイッチの情報位は出てくると思ってたんだが……ん?」
そうして、部屋を出た時巨兵の足元に人影が見えた。
それはアリスだった。
「………………はぁ、面倒なことばかり起きる」
<注意してください、戦闘になる可能性があります>
シトリーの忠告を無視し、山坂はアリスへとゆっくりと近づいていく。
彼女は山坂に気づかないのか、巨兵の足に触れたままそれをじっと見上げていた。
「巨兵、そう、此処にあったの」
「……よう、体調はもう良いのか?」
彼女の呟きが聞こえる背後まで近寄ると、山坂は銃を彼女の頭部へ突き付けた。
「えぇ、見事な腕前ね。 一時は死を覚悟したけれど……助かったわ」
「それがお前の素か? 軟体野郎、人間に化けて一体何をするつもりだ」
「間違っているところが二つあるわ、山坂」
「あ?」
銃口を向けられているというのに、アリスは態度を変えず、振り返りもせずに山坂との会話に興じる。
「まず一つ目に、私は野郎じゃない」
「細かい事言う奴は嫌いだ」
「ふふ、ごめんなさいね。 もう一つの間違いは私はあの軟体じゃあないわ」
「戯言抜かすな、だったらてめぇは…………まさか!」
山坂が何かに気づくと同時に、彼女も彼に対して振り返った。
顔も、目の色も確かにアリスだが……纏う雰囲気はまるで別人だった。
それはまるで、先ほど実験室で眺めた女と同じものを感じさせた。
「リーグ・リークか」
「流石は音に聞こえた天才、という奴かしら。 正解よ、大天才さん」
「馬鹿馬鹿しい、お前がリーグ・リークだって証拠が何処にある。 大体お前はこの奥で氷漬けになってるはずだが?」
山坂は顎で先ほど出てきた部屋へ指す。
「勿論、私は今もあそこに居る。 でも魂はこの子の体の中にある、理解できるかしら」
「有り得んな、魂ってのは電気と同じでエネルギーでしかない、それが記憶や意思を持つはずが無い。 あくまでも人間の体を動かすのはそいつの脳みそなんだ」
「けど、その脳の状態が通常と異なっていたら?」
「それは……」
「彼女は確かに一度凍死した、けどその後に私の魂が混ざることによってお互いに混ざり合ったの状態で蘇った。 これならどうかしら」
山坂の視線が揺らいだ。
彼は何度か死亡した人間の蘇生を行ったことがあった。
だがその全てが失敗しており、今目の前に居る女が言っているような事は一度も起こらなかったのだ。
「だから言ってるだろ、魂ってのは単なるエネルギーで……」
「そんな事は私も知らないわ、大切なのは今ここに私が居るっていう事実だと思うけど?」
「お前がリーグ・リークだって証拠がねぇと言ってるんだ、どう証明するつもりだ?」
「そうねぇ……それじゃ」
そう言うと、リークは右人差し指を伸ばし、それを軽く円を描くように振る。
そしてそれを勢いよく地面に振り下ろすと、指で刺された場所に雪だるまが即座に出来上がった。
「こんなのはどう?」
「魔法か、まさか本当に……」
「そう言ったでしょ?」
得意げにそう言うアリスに銃口を向けたまま、眼光鋭く山坂は問いかけた。
「一つ聞きたい死者の蘇生は、可能なのか?」
「……分からないわ。 私は霊力で特異体質になっただけの普通の女だもの、あなたに分からない事が私には分かるとは思えない」
「そうか……」
残念そうにそう言うと、山坂は銃口を下ろした。
「あら、殺さないの?」
「生かしておく価値があると思っただけだ、価値がないなら殺すさ」
「ふふ……ありがと」
微笑を浮かべ、リークは頭上を指さした。
「ね、少しお話しない? アリスの中から見てはいたけど、もっと色々聞きたいの」
「俺が質問してお前が答えるって形なら構わんが?」
「そうやって主導権を取ろうとする男は、もてないわよ?」
「うるせぇ!」
山坂はスーツの戦闘機能を切ると、リークへ背を向ける。
飛び上がろうとする山坂にリークは……。
「それじゃ、お邪魔するわね……よっと!」
飛びついた。
「ぎゃーー!」
「きゃーーー!? な、なに!?」
「いきなり飛びつくんじゃねー! っていうか触るんじゃねぇ汚らしい魔族が! 凍ったらどうする!」
「き、汚らしい!? ちょっとそういう言葉使うのやめてもらっていい? というか、体はアリスのなんだから凍るわけないでしょ! あなた本当に天才なの!?」
「うるせー! 離せー! じ、蕁麻疹が出る! 痒い!」
「いいから飛びなさーい!」
フラフラと飛び上がり、リークを乗せたまま二人は上階へと戻っていくのだった。
そして人が居なくなった実験棟で……巨兵の目に火が灯るの、氷像だけが見ていた。
久しぶりに六千字も書いたので初投稿です。
最高レアが当たる確率が0.5から六倍に!とか言われてもそれが普通以下であるということに早く気が付いてほしい
メガテンのソシャゲ、みんなで、やろう!




