彼女について考えたら
https://www.youtube.com/watch?v=i5VC0lp8SJQ
そこにいるのは誰?(Who's There?) - 「ペルソナ4」オリジナル・サウンドトラック
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…………酷い揺れだった。
未だに気分が悪い。
どうやら地上では最終戦争が始まったらしい、軍部の連中も堪えられなかったという事か?
それとも噂に聞く箱舟プロジェクトが完成したからか?
だが外がどうなるにせよ、僕のやることは変わらないわけだ。
念の為、今後の記録を残しておく。
僕の名前はフィーリクス・ハニカー。
しがない研究員だ。
もっともこの基地で研究を任せられる程度には優秀だが。
……基地司令官からの呼び出しだ、恐らく今後の方針についてだろう。
どうせなら我々の未来についてだけでなく、生産課に居るゴキブリの対処についても話してくれると良いんだが
大方、これから困難が予想されるが~とかそういった演説をして職員の一致団結を図るのだろう。
言われなくともやってやるさ。
この場所には地球人類の全DNAデータが含まれている……。
自称大天才が残したあの細胞を使うのは癪だが、僕ならもっと上手くやってみせる。
そして……人類をもう一度作り直し、偉大な科学者として名を馳せるのだ。
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基地が人類再興を宣言して、三か月が経過しようとしていた。
ショ=ゴスの調整は上々だ。
虫や植物と言ったものの原型を作成することに成功している。
だが……これではあの男がやったことをただ再現しているだけだ。
それにまだ動物等の意識を持つ生命は、作成が成功していない。
やはり魂の有無か?
だからこそ、あの男もこのショ=ゴスを完成後に放棄したのか?
……いや、仮にそうだとしても僕は以前に決めたはずだ。
あの男が残していった設備もまだある。
肉体と魂の分離装置……。
これを使えば、人間が作成できるはずだ。
必ず、やってみせる。
ところで最近、司令官からゴキブリが増えてきたので対処用の道具を作ってほしいと要請が来た。
生産課は完璧なバランスで食物連鎖が作成されているはずだが……誰かがゴミでも捨てたのだろうか。
とりあえず、忘れていなければ作ってみるとしよう。
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実験は成功だ!
やはり私の考えは間違っていなかった、生命を動かしているのはやはり魂なのだ。
より正確に言えば、魂という名前の生命エネルギーという事になるだろうか。
生物は肉体を動かすためにエネルギーを必要とするが、その際に意思の力を必要とする。
魂の無い生物は、文字通りの肉塊である。
それ故にショ=ゴスで動物を作成しても、それらは生きていなかったのだ。
ではどの様にして魂は発生するのか。
小さい生物であれば、周囲の生命からそのエネルギーを無意識化に奪うが大型の生物はその限りではない。
だから……あれを使った。
リーグ・リーク。
最終戦争前にこの南極に来た長老級の魔族だ。
あの時の基地の蜂の巣を突いた様な騒ぎは未だに覚えている。
基地に単独で魔族が近づいてきて、言い放った言葉が私を殺してくださいだ。
防衛担当の奴らが顔を見合わせていたのは、中々愉快だった。
ともあれ、その女の望みは叶えてやった。
体中の体液がICE9で出来た女を物理的に殺す事は問題だったのでカーボナイトによる凍結ではあるが、奴には死をくれてやった。
話が横に逸れた。
魂の話だった……熱くなるとつい語りすぎてしまうな。
今回はそれ位実験の結果に満足しているのだが。
さて、魂の話だったな。
そういうわけで足りない魂を、僕はカーボナイト凍結した魔族をショ=ゴスの中に漬け込むことで補充することにした。
カーボナイト凍結されていても実際に奴は死んでるわけじゃない、意識もないし体も動かせないし呼吸も止まっているがそれでも奴は生きているんだ。
つまり……理想的な魂の補充容器ってことだ。
今回はゴキブリを捕食する為に一匹、ネズミを作ってみた。
データの解析でも通常のネズミとなんら変わりは無い。
……ここからだ、ここから僕の栄光の道が始まる!
とりあえず、今度はあの凍死した女に魂を注入してみよう。
魂の理論が正しいのなら、蘇るはずだ!
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とんでもない事になってしまった。
僕は、怪物を産み出してしまった。
以前作成したショ=ゴスの分裂が止まらない。
ゴキブリだけを食べる様に設定した筈なのに、奴らはいつの間にかその設定を解除した。
いや……解除ではなく、新たに別に脳を作り出しそこから指令を送り出しているのかもしれない。
何れにせよ、もう制御が出来ない。
職員にも行方不明者が何人も出ている。
だが、だがまだ止められる筈だ。
あいつ等の根城もあらかた検討は付いている。
恐らくは地下にある龍脈、其処に居るのだろう。
何故其処を選んだのかは定かではない。
ショ=ゴスは増える為に魂が必要であり、その代替として霊力を選んだのか。
それとも魔族の様に変異する為か……どうであるにせよ、対処をしに行かなければならない。
早速司令官に相談をして、部隊の派遣を
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MD215年 10/31 22:04
「ふー……やっと終わった」
山坂は、体の汗を拭いながら一人食堂で佇んでいた。
先ほどまで行っていた大手術に加えて、朝から働き続けていた彼に訪れたようやくの休みだった。
「あの怪我なら全治二週間ってところか、暫くは安静状態だな」
先ほどの手術を思い出すと、アリスについて考えを寄せた。
山坂が自由に動ける時間は残り50時間ほど。
その間、残念ながら彼女は医務室からは動けないだろう。
「ま、問題は無い。 それよりもこの日誌の内容だ」
山坂は数時間前に地下四階、実験棟で長老級を発見した。
彼は持ち出せる資料を持ち出すとアリスの居る三層へ帰還。
その後彼女に本格的な治療を施し、今休憩を兼ねてそのデータを読み終わった所だった。
「しっかしまぁた俺のせいかぁ、(世界が)壊れるなぁ」
山坂は乾燥食を口に放り込みながら、苦笑した。
いつもなら自分の作品に手を加えられたことを怒りそうな彼だが、研究員の日誌を見てそんな気持ちは全く起こらなかった。
むしろ逆だった。
自らに対して反骨心を持ち、改良を加えようというその気概に彼は楽しさを見出していた。
「まぁそれが原因で死んでたら元も子もないが」
研究員の日誌は、最後は不自然な形で終わっていた。
恐らく、日誌を書いている途中にショ=ゴスに襲われて死亡したのだろう。
「その後、群れが地下から大挙して押し寄せた……か?」
地下での惨劇を見て、そう想像するが……彼には少し腑に落ちない点があった。
「だとすると、一体誰がICE9を使ったんだ?」
他にも気になる点があった。
貯蔵庫で襲われる前に見た棺桶の中に入っていた人物。
「あれは……間違いなくアリスだった」
それはアリスだった。
少なくとも、外見はだが。
「……日誌には、魂を死体に移すということが書かれていたがその後の結果は無かった。」
山坂はペットボトルのキャップを開けると、それを口に含み飲み干した。
「つまり、さっき俺が治療した奴が本物かどうかは分からんということだ」
そう呟くと、不機嫌そうに空いたペットボトルを部屋の片隅に放る。
「もしかしたらあの棺桶の中の奴が本物で、俺が治療したのはショ=ゴスが化けてる可能性もある」
判断が付かなかった。
もし仮に今のアリスが偽物だとしても、生命の原型であるショ=ゴスが化けた人間はDNAの上では完璧に人間なのだ。
となると残りは記憶や経験の差だけになるが……今日初めて出会った人間が凍死したアリスと同様の人間かなど分かるはずがない。
「やはり……判別する方法は無いか」
ため息を吐き、山坂はそこでハッとした。
何故、自分は今ため息を?
「ふっ……ふふ、はははは!」
その理由に気づき、彼は笑った。
山坂は彼女が偽物かもしれない事に落胆していたのだ。
彼女を殺さなければならないという事実に。
「何で俺が残念に思わなきゃならんのだ、馬鹿馬鹿しい」
頭を振り、先ほどの考えを払うと山坂は時計を見た。
午後十時二十分。
休むには丁度良い時間だった。
「そろそろ寝るか……シトリー、防護膜は解除するなよ」
<了解です、大天才>
「そのネタまだ引っ張ってるの?」
AIの嫌味に辟易としながら、山坂は椅子を幾つか並べるとその上に横になり瞼を閉じた。
「明日はもう少し四層を調べて、その後……いや、これ以上頭使うのは止めておくか。 今日は、疲れたぜ……」
アリスを殺す。
という言葉は彼の口からは出てこなかった。
そのまま、山坂は深い眠りに落ちていった。
一人でとうきび3本食ったので初投稿です
クローン/Clone ③青
クリーチャー:多相の戦士
クローンが戦場に出るに際し、あなたはクローンを戦場に居るクリーチャーのコピーとして場に出して良い。
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