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人類ガバガバ保護記   作者: にっしー
南極編
152/207

発電機を動かしたら

https://www.youtube.com/watch?v=GkHm1ba-Alo

PERSONA 5 - 不穏


MD215年 10/31 18:44



「っ…………!!」


 中途半端に開いた扉を抜けた先で見えた光景に、山坂は一瞬悲鳴を上げた。

 まず、最初に視界に入ったのは指だった。

 山坂の目前に恐怖の形相を保ったままの人間が石像の様に固まっていた。


「何だ……びびらせやがって」


 数秒ほど固まっていた山坂だが、それが動かないと気付くとすぐに悪態を吐く。

 後ろから迫る何かから逃げようとしたまま固まっているそれから、少し距離を取って彼はその人間の視線の先を追った。

 視線の先には……軟体に飲み込まれゆく人間や既に飲み込まれもがく者、力尽き軟体の中を漂い始めている者が無数に居た。


「こいつは──さっきの!」


 その光景──正確には軟体──はこの室内のずっと奥、資材搬入用の大型エレベーターを迎え入れる空洞。

 更にその下まで続いていた。

 本来そこで止まっている筈のエレベーターは何処にも見えず、恐らくは上の階層で止まっているであろう事が予想できた。

 山坂は視線を目の前の石像に戻すと、ゆっくりと近づいてそれを観察した。


「ん?」


 まず最初に観察して気が付いたのは……。


「こいつ等、凍ってる……のか?」


 山坂は最初、彼らが所謂永久死体……即ち死蝋の状態にあると断定的に見ていた。

 死蝋。

 死体が何らかの理由で腐敗菌が繁殖しない条件下にあると、外気と長期間遮断された果てに腐敗を免れ……。

 その内部の脂肪が変性して死体全体が蝋状もしくはチーズ状になったものである。

 だが山坂のその推測は外れた。


「どうして、こんな──」


 その人間の表皮には微かに霜が降り、それは全身を巡っていた。

 そしてそれは彼の後ろに続く軟体や人間、その全てがそうなっていた。

 山坂は何となしに、眼前のそれに指先を触れようとした。


<警告、対象物への接触は危険です>


 瞬間、山坂の体は勝手にブースターを起動させ猛烈な勢いで壁まで後退し……山坂は全身を強打した。


「いってぇ! てめぇ、何を勝手に……」


ICE9( アイスナイン)を検知>  


「────何?」


<眼前の人物よりICE9を検知しました、触れた場合当スーツへの被害は甚大です>


 ICE9という単語に、山坂は壁から一歩も動けなくなった。

 それは、別に壁に猛烈に頭を打ち付けた痛みからではなく……シトリーが示した単語の物体が猛烈にやばいものであるからだ。


「ど、どうして……ICE9がここにある……?」


<不明です>


「ぐっ……くっ! それじゃあここで凍ってる連中は──」


<全てICE9に因るものです>


 山坂は、その言葉に眩暈を覚えた。


「ICE9……氷の結晶体の一つで、通常気圧下における融点は摂氏45.8度……」


 そして、ぽつぽつと記憶から手繰り寄せる様にそれについて呟き始めた。


「通常の水に接触すると、その全てを連鎖反応的にICE9として凝固させる……」


<完璧な記憶力を称賛いたします。 何故ここにICE9が存在するかは不明ですが、これを外部に僅かでも持ち込むことは世界の破滅を意味します>


「分かってる! 川や海、それにここで凍ってる連中の様に水分が通ってるものは全て凍り付くと言いたいんだろう」


<その通りです。 先ほど室内のスキャンを完了しましたので、ICE9が付着していない部分の移動を推奨します>


 シトリーがそう言うと、山坂の視界は赤と緑で埋め尽くされた。


「赤がICE9が付着している部分で…緑が無事な部分か」


 室内をぐるっと見渡して、山坂はふと気づいた。


「……ICE9を使用した割には、付着している範囲がえらく狭いな」


<指向性を持たせていたものと思われます、理由は不明>


「どんな化け物だ、全く体に水分を持ってない生き物とでも?」


<情報不足です>


「ちっ、役立たずが」


 山坂はスーツを空中に浮かび上がらせると、奥へと向かい始めた。

 部屋を真上から見下ろすと、氷は確かに奥から手前へ放射状に伸びており誰かがICE9を放ったという事は見て取れた。


「だが……」


 ICE9の特性は異常である、いかなる水分も即座に自らと同じ性質に変容させ、増え続ける。

 水で出来た癌と言い換えても差し支えのないレベルの物質。

 それを放射状にばらまくなど、正気の沙汰とは彼には思えなかった。

 また、それが可能な存在についても彼は思いつかなかった。


「ふん、まぁいい。 どうせこの基地は元々自爆させるつもりだったしな」


 山坂は脳内に浮かんだ疑問を振り払うと、本来の目的地である発電室に繋がる扉の前に降り立った。

 どうやらこの扉以降は凍結を免れているらしく、山坂は少し安堵した。

 彼が今置かれた状況を例えるなら、広大な地雷原の中に裸で放り出されたも同然だった。


「スーツの感知機能、もう少し上げておくんだったなぁ」


 ぼやきながら、山坂は電源が落ちた為作動しない扉を無理やりこじ開け、通路へ侵入した。

 通路は配管などがむき出しで設置され、入り口からすぐの曲がり角を左に曲がると出口の扉が見えた。

 山坂は出口をスーツの力で強化された脚力で、無理やり蹴破った。


<慎重な行動を要求します>


「次覚えてたらやってやるよ」


 通路から発電室へ侵入し、山坂は内部を見回した。


「特段、異常はねえな」


 部屋の中央には巨大な炉が設置されており、その周囲には備え付けの機器類が眠るように沈黙していた。

 頭上を見上げると二階部分は鉄製の足場が設置されており、二階部分にも操作用の弁や機器類が置かれていることが確認できた。


「シトリー、分析結果」


<安全弁の作動を確認、霊力調整用の弁を何者かが開いた結果、安全弁が作動したものと思われます>


「つまり地道な作業が必要ってことね」


<ファイトです>


 シトリーの心無い応援が、山坂のやる気を急速に削いだがとりあえず彼は動き出した。

 管理者達の本部、エクィローは完全に機械による制御がされその管理も全て機械任せだが……彼らにはいざという時の為にあらゆる知識が詰め込まれているのだ。

 故に、こういった補修行為も彼は難なくこなし……一時間も経った頃には全ての作業が終了していた。


「ふっふっふ……実に素晴らしい、やはり俺は大天才」


<以降は大天才とお呼びしますか?>


「おう呼べ呼べ、一仕事こなした後は俺様は機械にも優しいのだ」


 キーボードの操作を終え、全ての数値が正常に戻っていることを確認すると彼は緑色のボタンに指をかけた。


「それでは早速……ポチっとな!」


 ボタンを押すと、一度低い音が響き……暫く時間を置いてから重低音が室内に響き始めた。

 音が響き始めて更に少しすると、室内のライトが一斉に点灯する。


「んっん~、ボタンを押してから17秒後……計算通りで実に気分が良い、物事が思う通りに進むのは実に良いことだ」


 満足げな顔をスーツの中で作りながら、山坂は改めて電気が灯った発電室を見渡した。

 作業をしている時は気にもしなかったが、二階の部分をよく見ると通風孔部分が開け放たれていた。


「ふむ……さっきの奴はあそこから侵入してここを止めたのか?」


 微かに残る粘液に気づき、山坂は顔を顰めた。

 もし、そうなのだとすると先ほど殺した奴はかなりの知能を有していることになる。


<十分に可能性としては高いと思われます>


「……となると、部屋の外で凍ってる連中も相応の知能を持ってると見るべきか」


 外で固まっている軟体どもを思い出し、山坂は面倒そうな表情を作った。

 ICE9の融点は45.8度。

 現在の室温は2度であり、溶けることはまず有り得ない。


「幾つか疑問も残る、電気も点いたしもう少しここを調べるべきか」


 山坂は搬入用の大型エレベーターがあるフロアまで戻ると、電気が灯った室内を観察した。

 先ほどとの違いは搬入用エレベーターを操作するのであろうコンソールに明かりが灯った事と……山坂の正面に扉を見つけたことだ。

 

「あん? 前に来た時あそこに扉なんてあったか?」


<増築されたものと思われます>


「何用の部屋だ?」


<不明です、調査を推奨します>


「ヘイヘイ」


 意見が一致したのか、山坂は首を鳴らしながら飛び上がり一気に向かいの扉まで移動した。

 

「熱源反応は?」


<ありません>


「あいよ!」


 自動ドアへ向けて一歩を踏み出し、山坂は進み始めた。

 通路は直線で、10メートルもしない内に出口まで到達した。

 彼はそのまま臆することなく、一歩を踏み出し部屋の中へと進み出る。


「おぉ?」


 部屋の中は右側が一面のガラス張りとなっており、そのガラスから離れる位置に何台かのパソコンが設置されていた。

 

「研究施設だからしょうがねぇが、置き方に芸がねぇよなぁ」


<合理性よりも重要なものでしょうか、大天才>


「人間は機械と違って真新しさが無いと心が死ぬもんなんだよ」


<非合理的な回答、ありがとうございます大天才>


「様を付けて呼べ、様を」


 等と軽く会話を楽しみながら、山坂は手前のPCを起動した。

 相変わらずIDカードを求められた為以前拾ったIDカードを試すが……。


「エラーぁ!? ファッキン!」


 どうやら、初期に拾った警備員のIDカードでは許可されないらしかった。


「……しょうがねぇ、面倒だがやるか」


 山坂は両指を組み、それを前に突き出しながら指を鳴らし椅子へ腰を下ろす。

 エラーを吐き出す金属製の箱と向き合い、一瞬だけ真顔になると彼は持ち前のクラッキング技術を駆使し始める。

 幾度かの錯誤でPCは何度かエラーを吐き出すが、やがて観念したのか通常通りに起動を始め、山坂にその無防備な画面を曝け出す。


「さぁて……連中がここで何をやっていたのか、調べさえてもらおうか」


 そうして、山坂は様々なデータを閲覧していく。

 五分ほどしてから、彼はエンターキーを押し、椅子の背もたれにもたれかかった。

  

「…………」


 正面のガラスは部屋に入った当初は曇った状態で何も映ってはいなかったが、山坂が操作した直後から徐々にその向こう側を映し始めた。

 まず最初に見えてきたのは、タールの様な漆黒だった。

 次に見えたのは眼球だった、続いて、口。

 歯、腕、鼻、心臓、内臓、そして脳。

 それらは人間の臓器も、他の動物の臓器も、あらゆる物を内包していた。

 だが────彼が注目していたのはそれらではなく、更にその奥に浮かんでいるものだった。


「正直、予想外だが……間違いない」


 氷を思わせる色の髪。

 透き通るような肌。

 そして、全てを諦めたかのような憂いを帯びた表情。


「こんな場所に居たとはな────」


 それは、今回の本来の目的。

 南極から広がりつつある氷の原因と思われる長老級魔族。

 

「リーグ・リーク」


 その本人であった。




311に続いて二度目の震災にあったので初投稿です

人生で二回も大災害に巻き込まれるとか呪われているのでは?


停滞、リーグ・リーク/League・Leak’Stasis 青


伝説のクリーチャー:人間・ウィザード


停滞、リーグ・リークが戦場に出た時、全てのパーマネントをタップする。

全てのパーマネントは停滞、リーグ・リークが戦場に居る間アンタップしない。

あなたのアップキープの開始時、あなたは青を支払う。

支払うことが出来ない場合、停滞、リーグ・リークを生贄に捧げる。


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「私はただ……静かに生きていきたいだけ」

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