蟻と機械が戦ったら
MD215年 4月29日 AM9:22
ヴーーーンという羽音と共に五匹の巨大な羽蟻が空を飛んでいる、その上には五人の全く違った種族の存在が跨っていた。
「はー…眠い、市長直々の命令だってから出発したが…この二日間何もありゃしねえ。」
巨大な羽蟻に付けられた鞍に跨り、金属の鎧に身を包んだ緑肌の大男…トロールが愚痴をこぼす。
5日前、市長命令とやらで急遽命令を受けた俺たちはこうして斥候任務とやらへ繰り出されている。
編制はこうだ、隊長として俺、蟻を抑える巫女が一人、レオニンが一人、リザードマンが一人、人間が一人の計五名。
そして何と全員に羽蟻付きと来た、何という大盤振る舞い!有難くって涙が出らぁ。
「いい事じゃないですか、特に何も無いなら何も無いと報告すれば良いわけですし。」
「何も無いに越したことはありませんよ、平和が一番です。」
隊員の一人、俺の左隣を飛んでいた猫の魔族、レオニンのジャザルがそう話しかけてきた。
「つってもなぁ…市長命令っつーから戦いがあるかと思って街から出てきたってのにこうも安心な空の旅じゃあなぁ?」
「お前だって戦いたいよなぁ?蜥蜴野郎?」
と俺の右隣を飛ぶリザードマンのトカへ声を掛けた。
「うるせえぶち殺すぞ豚野郎。」
「何なら今すぐ此処から地面までの旅行へ送り出してやろうか。」
俺の挑発にトカが右手を腰の剣へと伸ばす。
「ちょっと、馬鹿なことは止めて、じゃないと今すぐ私があんた達を落下させるわよ。」
隊の最後尾に居た雪女の巫女、ガリアが俺たちへ怒鳴った。
「おいおい、そんなにがなり立てるなよガリア、俺たちは別に…。」
「黙って、それ以上何か言うと本当に落とすわよ。」
「ただでさえ蟻の制御に集中力が必要だってのに…なんでこんな面子と組まされてるのかしら…。」
左手で手綱を握り、右手でこめかみを抑えながら頭を振るガリア。
「……隊長!」
とこの部隊で唯一の人間、倖が声を上げた。
俺は倖の方へ振り返った。
「あぁ?どしたぁ倖、久しぶりの飛行でびびって帰りたくなったかぁ?」
「まあ確かに私高い所苦手ですから…って、そんな冗談はいいんですよ!」
「…何か周囲の景色、おかしくないですか?今僕達が居る場所から先…徐々に自然の色が薄くなっていってません?」
「白が混じってるっていうか…。」
倖のその言葉に俺は正面へ振り返り、周囲の景色を眺める。
…確かにおかしい、俺たちが今まで飛んできた後ろの森は完全な緑だったが徐々にその緑が薄くなりつつある。
蟻にぶら下げておいた荷物袋から単眼鏡と呼ばれる物を取り出し、覗き込む。
こいつを使えばかなり遠くが見えるってんだから便利なもんだぜ…。
「…おいおい、何だこりゃ。」
単眼鏡を覗き込んだ先に映ったのは完全に白になった森だった。
いや森と言うべきか? 白い樹みたいなのが沢山生えてる場所っていうのが正しくないか? これ。
「どうです?隊長、何か見えましたか?」
倖が俺にそう尋ねてくる。
俺はそれには答えず、更に周囲に単眼鏡を向けると…きらりと何かが光を反射したのが見えた。
「んん?」
光った周囲をもう少し注意深く探してみると、体が捩れた金属で覆われた何かが複数忙しなく走り回っているのが見えた。
それがまだ緑を残す樹へ近寄ると、徐々に樹が色を失っていき白化していく。
「隊長ー、どーなんですかー?何か見えたんですかー?」
「倖、隊長が今調べ物をしているんですからそういう風に集中を乱させるような発言はいけませんよ。」
「あらジャザル、あたしの時には何も言ってくれなかったのにそのトロール隊長の肩は持つのね?」
「いや、手厳しいですな…いえ私はガリア殿の邪魔をするのもいけないとは思いますが…ははは。」
「ガハハハ、ジャザルは雌じゃなくて雄の方に興味があるんだもんな?そりゃ隊長のことしか気にかけねーよ!」
「へー、ふーん…。ジャザルって変態?」
「ジャザルってそういう趣味だったの…。」
「トカ殿!そういうあらぬ誤解を生む様な発言は…!」
俺が単眼鏡を覗いている間、隊員達が好き勝手に喚いている、元気な奴らだぜ…。
「おいお前ら、開けた場所を見つけたら下に降りるぞ。」
「今回の斥候任務の探し物が見つかった。」
今回の任務、それはオシマンベ村付近へ羽蟻を使い上空から接近、不審な生命体や物があればそれを確保あるいは情報を持ち帰ることだ。
神木を倒した相手と言う事で実戦経験豊富な俺たちが回されたが…今見たあれが神木を倒したってのか?
ともあれ油断は禁物か…。
「よし、降りるぞ!」
「「「「ヤー!」」」」
こうして俺たちは、森の中に開けた場所を見つけ、降下していった。
背筋にチリチリとした感覚を覚えながら。
暇つぶしで書いているので以下略、段々題名と内容が乖離してきた気がしますね…
次:蟻と機械が戦ったら2という映画が作られたら投稿します




