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人類ガバガバ保護記   作者: にっしー
南極編
149/207

何かが見えたら

https://www.youtube.com/watch?v=oa4JoCOrZgI

Persona 5 自由と安心

MD215年 10/31 17:20


「…………ッ」


 室内に入った時、一瞬その眩しさに目を覆い掛け山坂は驚いた。

 この基地は全てをこの基地で賄える様に設計されているとは聞いていたが……この部屋の内部はほぼ千年前と同じ姿を維持しているのだろうという事が直ぐに分かった。

 だが……一つ違和感があった。


「ここもか」


 天井から刺さるように照らす光で最初は目が慣れなかったが……次第に部屋の輪郭が掴めて来た。

 入り口付近は開けていたが、青白いコンテナが山積みされその奥を見る事は叶わなかった。

 また確かに機材や天井のライト等は千年前の姿を維持していたが、地面や壁には黒い染みと何かが暴れた様な後が無数に残っていた。

 巨大なハンマーで壁を叩いたかの様な、そんな巨大なへこみが無数にだ。


「山坂さ~ん、待ってくだ──まぶしっ!」


 自らの後方から遅れてやってきたアリスが、言葉の途中部屋の眩しさで目を両手で覆う。


「な、なんでこんなに照明強いんですかぁ……!」


「さぁな、どっかで調整してるんだろ。 確かに眩しくて行動し難いがこの程度ならまだ……」


「むぅぅ、スーツ着てるから山坂さんは大丈夫でしょうけど私には辛い……ちょっとコントロールパネル操作してきます!」


「あ、おいっ! 行っちまったよ……」


 あまりの照明の強さにアリスは頬を膨らませると、部屋の隅へと走り去って行った。


「ったく、しょうがねぇ女だ」


 山坂は視界から即座に消えたアリスを追うのを早々に諦めると、再び部屋を見回した。

 入り口から見えるのはやはり山積みにされた巨大なコンテナ郡だ。

 その青白いコンテナの合間をアリスが縫うように移動して行く姿が垣間見えた。


「部屋の内部に詳しい奴が居るのは便利だなぁ……」


 等と呟きながら、山坂は人がすれ違うのがやっとの狭さであるコンテナの合間を歩き始めた。

 目的地はスーツが示す熱源である。


「熱源数は二つ……どっちも奥地か、ったくやれやれだ」


 山坂は先ほど扉を『蒸発』させた様にコンテナを燃やしたい気分になったが、それを押しとどめた。

 今は無駄なエネルギーを使うべきではないし、もしこの部屋に化け物が居るのなら煙に紛れて襲われるかもしれない。

 とそこまで考えて、山坂は今一人で行動しているアリスの事をふと考えたが……。


「まぁいいか……多分生き残るだろあいつなら」


 と、彼女を守るというつい一時間ほど前の言葉は何処へ消えたのか。

 山坂は彼女を守るという選択肢を頭から消した。


「にしても邪魔だなこのコンテナ」


 目的地までの移動を阻害するコンテナに、山坂は悪態を吐いた。

 真っ直ぐ進ませてくれたかと思えば左に折れ、次は右へ……巨大な迷路の中を歩かされているようで山坂は少し辟易した。


「これなら上登った方が早いか?」


 と頭上を見上げても見えるのは競り立つように積まれたコンテナだけである。

 恐らく天井近くまで積まれているであろうこの箱は、上まで登っても再び今と同じ迷路を見せてくれるのだろう。


「んなこともねぇか……」


 山坂は、強く溜息を吐いた。

 そして再び根気強く迷路の中を歩き続け……再び開けた場所へと躍り出た。


「おっと、ゴール地点か」


 まず視界に入ってきたのは、高さ二メートル程の棺桶の様な装置郡だった。

 それらは壁際に10個ほど並んでおり、上部に透明なガラスが貼り付けられていた。


「あれは……」


 次にその横にあるコンソールの様な装置が目に付いた。

 それらには幾つかの赤と緑のボタンが備え付けられ、ケーブル類は一つのコンソールに付き一つの棺桶へと接続されていた。

 棺桶以外はコンテナが山坂の背後に積まれているだけであり、この一画は棺桶の為に場所を開けられているように山坂には思えた。

 山坂はゆっくりと棺桶に近づきながら、舌打ちをした。


「…………チッ」


 スーツで素顔は見えないが、山坂の顔は忌々しげな表情になっていた。

 彼は棺桶の一つへ近づくと埃が積もったガラスを手で拭き、中を覗きこんだ。


「あぁ!?」


 棺桶の中に見えた顔に、山坂は大声を上げた。

 その時、室内の照明が完全に消えた。

 それと同時に、棺桶の中も見通せなくなる。


「あいつか、照明の強さ落とすって言っても落としすぎだ。 シトリー、暗視モード起動」


<了解>


 スーツに内蔵されたAIへ機能の起動を指示すると、山坂は棺桶を再び覗きこもうとした。


「…………り」


「?」


 だが、何処からか掠れた声が聞こえ山坂は後ろへ振り返った。

 しかし背後には山積みのコンテナと、先ほど通ってきた道があるだけで他には何も存在していなかった。


「疲れてきたか?」


 山坂は右肩を左腕で揉む様な動作をしながら、自嘲した。

 南極に到着した朝の四時から現在まで13時間の間、彼は動き続けていた。

 多少の休憩は取ったが、それでも相当の疲労が蓄積している事は彼自身容易に理解できた。


「こいつを解凍したら、少し休む───」


 棺桶を軽くノックしながら、山坂は横のコンソールへ目を向けた。


「て…………」


 だが直ぐに、彼の視線はコンソールからずれた。

 再び、声が聞こえた。


「シトリー、俺が今聞いたのは幻聴か?」


 山坂は腰のホルスターに納められた拳銃に手を掛けながら、AIへと問いかけた。


<いいえ、人類のものと思われる音声を認識しました>


 彼の問いかけに、AIは幻聴という答えを完全に否定した。


「アリス、ここから逃げろ! 今すぐにだ!!」


 山坂は叫び、アリスへ警告を発した。

 彼の声は広い倉庫の中に反響し……恐らくは彼女に伝わっただろう。

 だがそれが良くなかった。


「て……・り!」


 入り口へ向かって叫んでいた山坂は、必然棺桶に背を向けている。

 故に気付けなかった。

 タールの様にどろりとした漆黒の玉虫色をした物体が、棺桶に落下する事を。


「!!」


「テ……ケ……リ……リ!!!」


 そして、気付いた時には遅かった。


「ぐおおおおおおおっ!!」


 広い貯蔵庫の中に、山坂の声が響き渡った。


────────────────────────────────────────


 時を少し遡って……アリスが山坂と別れた頃。

 彼女は、貯蔵庫の中を自らの庭の様に移動していた。


「ふんふんふふ~ん♪」


 鼻歌を歌いながら、軽快に。

 その足取りは軽い。


「ふふ……嬉しいなぁ」


 彼女は笑っていた。


「私以外にも生き残りの人が居たなんて!」


 その事実に彼女は喜びを隠せなかった。

 無論、それが確定しているわけではないが……彼女の心境を考えればそう考えるのもおかしくはないだろう。

 何せ自らも冬眠していたのだから。

 そんな想いが、今の彼女を支配していた。


「ふふふ~んっと」


 再び鼻歌を口ずさみながら、彼女はコンテナの角を曲がり目的の場所へ到着した。

 貯蔵庫の片隅にその場所はあった。

 扉が一つあり、長いガラス張りで内部がよく見えた。

 部屋の中には壁に添うように机が続いていた。


「えーっと……入室パスワードは……Our Future begin」


 アリスは扉の前に立ち、指紋認証システムに手を合わせながらパスワードを言った。


<認証完了、ようこそそそそそ、アリリリリ────>


「ば、バグっちゃいました……?」


 機械が壊れ掛けていたのか、発せられた音声は所々言葉を詰まらせたり、同じ単語を連続させた。

 ちゃんと扉が開くのか心配になったアリスは、不安げにパネルを見つめていたが扉はゆっくりと開き始める。


<認証完了、ようこそリーグ・リーク>

 

 と言う言葉を残して。


「リーグ……リーク? う、うぅっ……な、何?」


 その言葉を聞いた途端、突然強烈な頭痛が彼女を襲った。

 アリスは頭を抑えながら、開いていく扉に体を預け……扉が開ききると部屋に倒れこむ。


「私は、その名前を……知っている?」


 埃塗れの地面に這い蹲りながら、彼女は必死にその名前を思い出していた。


「あぅっ! あぁ、あぁ…………!」


 アリスの脳内に、見知らぬ光景が過ぎった。

 南極を一人で歩く女性。

 基地へと招かれる女性。

 玉虫色の粘液と相対する女性。

 そして……何かの装置で眠る女性。


「い、今の、光景は……! 一体、何なの……? 私は、何を見たの……!?」


 幻覚を見た彼女の呼吸は乱れ、頭痛が彼女を襲うが……暫くするとそれは蜃気楼の様に消え去った。

 アリスはよろめきながら立ち上がると、頭を振って両頬を強く叩いた。


「大丈夫、大丈夫……! 私はアリス・ハート、強い子なんだから!」


 そうして、ふらつきながらアリスはコンソールへと辿り着いた。

 馴れた手つきでコンソールを叩き、照明の調整を行い、息を吐いた。


「ふー……うん、よし! それじゃあ伝統の言葉と共に……ポチっとな!」


 胸に手を当て、深呼吸をしながら掛け声と共にエンターキーを押すアリス。

 キーが押されるのと同時に、室内の照明は徐々に暗くなり……次第に全ての電源が落ちた。

 少しすると、非常用電源があったのか非常灯が施設内を照らした。


「あれ、え? あれ? あれ!?」


 アリスは慌ててコンソールを叩くが、先ほどとは打って変わってそれは全く動かない。


「嘘、完全に電源が……動力室で何かあったの?」


 電源が完全に落ちた事により、真っ暗になった室内でアリスは原因について考えていると遠くから山坂の声が聞こえてきた。


「アリス、ここから逃げろ! 今すぐにだ!!」


「はえ? や、山坂さん?」


 アリスは机へ体を載せ、外の様子を伺うが外は暗闇で何も見えない。

 机から急いで降りると、彼女は外へと繋がる扉の前に立つがそれも電源が落ちている為全く動かなかった。


「ぐおおおおおおおっ!!」


 そうこうする内に、山坂の悲鳴が響き……。


「山坂さん!! 助けにいかなきゃ……!」


 山坂の悲鳴に、ただならぬ事態である事を察したアリスは部屋に転がっていた椅子を担ぎ上げると部屋の隅まで下がり……。


「てぇぇぇぇーーい!」


 思い切り助走を付けると、それを勢い良くガラスへ向かって放り投げた。

 放たれた椅子はかなりの勢いで楕円状の軌跡を描きながら目標へ飛んで行き、それをぶち割った。


「よし! 成功です!」


 ガラスの破片を裂けながら机に載り、慎重に部屋の外へと出たアリスは先ほど放り投げた椅子を担ぐと走り出した。


「待っててくださいね、山坂さん! 今、助けに行きますから!」


 先ほど自らに逃げろと言った男を救いに。




雌阿寒だけを踏破したので初投稿です

やっぱりRPGのキャラはすげえよ…山を戦いながら登っていくとか正気の沙汰じゃねぇ……

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