野良猫
https://www.youtube.com/watch?v=owB3u1At5hw
Persona 5 OST - Alleycat
MD215年 10/31 12:44
獣の唸り声が響いた。
それは人間の本能に確かに訴えかける響きである。
即ち、死を告げる声だ。
彼はその唸り声を聞いた時、咄嗟に銃を引き抜いた。
それが不味かった。
「んもー、駄目ですよ山坂さん。 スナッチに銃なんて抜いたらー、スナッチ、ぺっしなさいぺっ!」
巨大な狼が、洞窟の暗闇の中に居た。
それは下顎が少しだけ前にしゃくれて飛び出ており、更にその下顎の先からは山坂の下半身だけがぶら下がっていた。
アリスは狼の下顎を撫でながら、口の中で咀嚼されている山坂へと注意を促した。
「グルルル…………ぺっ!」
「ぐえー!」
狼はアリスに一度目線をずらすと、渋々その指示に従い山坂を地面に吐き出した。
山坂は唾液塗れの状態で更に土と埃に塗れる事になった。
「な、なんなんだこのクソ犬は!」
「犬じゃなくて狼です、名前はスナッチって言います! 可愛いですよね!」
「こんなしゃくれた顎した大型狼が可愛いわけねーだろ!」
山坂はスーツに付いた唾液や土を拭き取りながら、その巨大な狼を指差した。
白狼はそんな山坂の事など気にもせず、洞窟の中に寝そべりながらアリスを見つめる。
「と言うか何なんだこの犬は、お前のペットか?」
「ペットじゃないです、家族です! それと狼ですから!」
「あーはいはい……んで、態々お前の家族に会わせに俺を連れてきたのかお前」
「そうですよ? スナッチと触れ合って癒されてもらおうかなと思いまして」
目をキラキラさせながら、スナッチの前足に抱きつくアリスに山坂は呆れた顔しか出来なかった。
「…………そうか」
彼は犬が嫌いである。
昔犬に襲われて右腕を持っていかれ掛けた事があるからだ。
だから全く癒されなかった。
だが彼女が本心から言っているであろう事に対して無下に否定するのも躊躇らわられた。
「もしかして……迷惑でした?」
「…………別に、それに一つ確認できた事もあるしな」
「?」
「熱源反応の事だ、第四層にあった熱源反応ってこいつじゃないのか?」
「あっ……そういえば、この洞窟……」
言われてアリスは思い至った。
山坂を連れ出したこの洞窟は第三層のとある部屋の壁が崩れた先にあった道から繋がっており、それは下へ下へと続いていたのだ。
位置的に言えば……。
「そう、丁度第四層程度の深さにある筈だ」
山坂はそう考えていた。
最初に彼がこの基地の入り口に着いた時は第二層の高さだった。
その時の洞窟と今の洞窟では地面の層が変化しているのだ。
古い粘板岩状の層に。
「どうかしましたか?」
粘土状の地面を眺めていた山坂に、アリスが声を掛ける。
山坂の表情はスーツによって遮られている為見れなかったが、彼が何か考え事をしていることは見て取れた。
「いいや、何でも無い」
声色からは特におかしな所を感じなかったが、アリスはその言葉を素直に受け取れなかった。
「しかしこうなると熱源数が正しい事になるか」
「そう……ですか? この洞窟は確かに第四層の辺りにはあると思いますけど、そこまで熱源探知が届くなんて事あるんでしょうか」
「むっ、それは……」
「それに四層のどの場所に熱源あるかも確認してませんでしたよね? ちょっと早計過ぎる様な──」
「五月蝿い五月蝿い! この俺がそうだと言ったらそうなんだよ! 多分、きっと、恐らく!」
アリスに反論された事で、何故かムキになった山坂は喚きたてると洞窟の入り口へと足を向けた。
「え、えー!?」
「全く! 女が俺に指図するなんて五億年早い!」
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ山坂さーん!」
早足で出ていく山坂を追いかけようと、アリスが駆け足で駆けていく。
そして洞窟の入り口から消えようとした時、彼女は白狼へ向けて振り返った。
「スナッチー! ちょっと出てくるからー!」
「ウォン!」
手を振るアリスに白狼は、一度顔を上げると泣き声を返した。
その返事に彼女は満面の笑みを浮かべながら、再び駆け足で山坂を追うのだった。
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「そういえば……」
「あん?」
洞窟から基地へと歩いている途中、ふとアリスが顎に手を当てながら尋ねてきた。
「山坂さん以外の人って、どうしてこの基地の救助に来ないんですか?」
「あー……」
その質問に、山坂は答えを窮した。
最初のアリスの質問に彼は適当に答えていた為、彼女はまだ山坂が用事を片付けるついでにこの基地の生存者を助けに来た人間だと思っている。
だが実際はそうではない、山坂がこの場所に来たのはとある目的の為でしかない。
「あっ、もしかして今は世界のあちこちで救助任務中とかですか? アメリカはもう復興してます? あっ、私の故郷はですね……」
「いやお前の故郷は聞いてねぇよ」
「す、すみません……でもでも、気になってですね! 今の世界は一体どうなってるんですか?」
「世界……ねぇ、そんなに気になるのか?」
「そりゃもう! やっぱり人類が戦争に勝ってるんですよね? だってそうじゃないと、山坂さん──」
アリスの問いかけに、山坂は重々しく首を横に振った。
「人類は負けた」
「そうそう! 負け……え?」
「完敗だった、アメリカ軍は手持ちの核爆弾全てを発射したが数発以外は全て打ち返されたよ……長老級の連中にな」
「う、嘘……ですよね? だって人類側には巨兵も巨大戦車も居た筈です! それに最強を誇るアメリカ第六艦隊だって──」
「確かに居たさ、だが全員海の藻屑か塵になった。 第六艦隊は氷漬けで海の底に行ったし、巨兵に関しても同じくだ」
「そんな──嘘……」
アリスは山坂の話が信じられないのか、四肢から徐々に力が抜けると地面にへたり込んだ。
「お、おい」
「う────」
「う?」
「うえぇぇぇぇぇぇぇええええええええええん!! おしまいですううううううう! 人類が魔族に蹂躙された世界なんて、おしまいでずよぉおおおお!」
「うるさっ!」
彼女はへたり込むと、目尻に徐々に涙を浮かべ始め……最後には大泣きを始めた。
山坂は咄嗟に耳を塞ぎながら、泣き喚くアリスを迷惑そうに見ていた。
「うわあああああああああん!」
「うるせぇな! おい、泣くんじゃねえよ!」
「びえええええええええぇぇぇぇぇぇん!」
山坂に、彼女が泣く理由は理解出来なかった。
彼は最終戦争前、ある程度の予測をしていた。
即ち人類の敗北をだ、故にこの計画に志願した。
だが彼女は違う、人類の勝利を信じていたのだ。
彼女は単なる弱い個人でしかない、それが彼には理解出来なかった。
「あぁくそ、これだから凡人は困る……落ち着けよ!」
耳を塞ぎながら山坂はアリスへ怒鳴るが、彼女の鳴き声は一向に収まらない。
むしろそれどころかどんどん大きくなるばかりである。
そんな彼女に辟易としたのか、山坂はアリスを見捨て一人で基地へ戻ろうと前を向いた時に白い何かにぶつかる。
「あん? なんだぁ、このモフモフしたのは」
数歩後ろに下がり、巨大なそれを見上げて彼は気付いた。
先ほどの白狼である。
「い、いつの間に……」
白狼は道を塞ぐように横たわっており、その顔は山坂を見つめていた。
「なんだよ、その目は」
「グルルル…………ウォンッ!」
「ひぇっ」
犬嫌いの山坂は、つい吼えられたことで後ずさる。
その時、踵がアリスに触れた。
「…………」
白狼は変わらず、山坂を見つめている。
「慰めろってか? 俺が? こいつを?」
「ウォン」
「冗談じゃない、凡人の面倒なんぞを何で俺が……」
言い掛けて、山坂は少し後悔した。
洞窟の内部は明かりも無く、暗いが……今の彼の目の前には赤色が。
狼の口内の赤が映っていた。
白狼は大きく口を開け、牙を見せる。
やれと、人間のお前が彼女を助けるのだと言わんばかりに。
「………………ちっ! わーったよ、やりゃいいんだろ! どっちにしろ人類なら俺が救ってやる対象ではあるからな!」
白狼に背を向け、山坂はアリスを見た。
立っていた頃はふとましく、言葉の毒を吐き掛けても何ともなさそうだと思っていた彼女が。
今の彼にはとても小さく弱々しい存在に見えた。
「あー…………おい、『アリス』」
「ひっく……ひっく…………山、坂さん……」
「確かに人類は負けた、それはどうしようもない事実だ。 だがな、人類は同時に未来への希望も残した……それが俺だ」
アリスの目線に合わせるように、山坂はしゃがみ込んだ。
「俺の本当の仕事は、最終戦争後に人類を再興させることであり人類の守護」
「しゅ、ご?」
「そうだ、俺は……必ず人類を復興させてみせる。 ……だからあんまり絶望して泣くな、俺が必ず守ってやるから」
「うっ…………うわぁぁぁぁぁぁあああああああああん!!」
「お、おい!! 何で泣くんだよ!? 今最高に決まってただろ!」
両手を顔に押し付け、再びわんわんと声を上げて泣くアリスに山坂は困惑したが……そんな彼の顔は笑っていた。
アリスもまた、泣きながら確かに笑っていた。
白狼は……二人へ近寄ると包み込むように寝そべった。
「何なんだこの狼は……」
「びえぇぇぇぇぇぇぇぇん! あり、ありがどぉぉぉふだりどもぉぉぉぉ!」
「おわっ、鼻水が! おい、やめろ! 近寄るな! くそぁっ!」
暫く、アリスの感動の涙は止まらなかった。
FGOで大成功教を少し信じそうになってきたので初投稿です
やべぇよやべぇよ…




