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人類ガバガバ保護記   作者: にっしー
南極編
145/207

生存者を発見したら

https://www.youtube.com/watch?v=5K5PsF5Y2dM&index=4&list=PL661A11D31F39D470

Ever 17: The Out of Infinity [Soundtrack] - Hologramm

MD215年 10/31 11:24


「なるほど、つまりお前は一年位前に目覚めたばっかりで何も知らないと」


「はい!」


「おまけに第三層に閉じ込められてたからそれ以外の場所がどうなってるのかも知らないし、むしろ今日ようやく三層以外に出れたと」


「はい! エレベーターの認証システムを山坂さんが起動してくれたお陰です!」


「はぁー……」


 アリスと名乗るふくよかな女性と山坂が出会って、一時間ほどが経過していた。

 山坂は最初彼女の事を化け物か何かの類と疑って掛かったが、この基地に関する質問にすらすらと答えた事や肉体から霊力反応が出なかった事ですっかりその疑いは晴れていた。

 また山坂が最終戦争後に出会った管理者以外の人類でもあり、女性嫌いの彼もほんの少しだが心を許し始めていた。

 そんな彼女との会話の最後は、山坂の溜息で終焉を迎えた。


「あ、あれ? 何か私がっかりさせる様な事言いました?」


「大した情報がなくて使えんなぁと」


「酷くないですか!? 私だってこの一年間一生懸命生きてきたんですよ!?」


「食料生産プラントが併設された場所に閉じ込められてたんならそりゃ生きていけるだろ……」


 そう言うと、山坂は椅子の背もたれに深く寄りかかりアリスを見た。

 出会った当初に付けていた目だし帽は脱ぎ、少しだけ緑掛かった瞳と長い髪を青い髪留めで束ねる女。

 肉体はそこはかとなく全身に肉が付いているが痩せすぎと言うわけでもなく、健康状態にも問題はなさそうである。


「ちょ、ちょっと何処見てるんですか!」


「あ? お前の体だが」


「セクハラです!」


 上から下を眺めていた山坂の視線にアリスが気付き、椅子ごと後ろを向いて視線から逃れる。

 そんなアリスに山坂は苦笑すると、考えを再び彼女について戻した。

 彼女が言うには、最終戦争前からのこの基地のスタッフであり食糧生産を管理する業務を主に担っていたらしい。

 その後最終戦争が起きてから一年後に、とある設備の調整中にゴキブリに驚いて設備に落下。

 そのまま誤作動で冬眠処理が施され、誰にも起こされず……といった流れを辿ったらしい。


「(そんなドジな奴居るのか……?)」


 だが居る、居るのだ。

 彼女と出会った後、山坂は後ろにある職員用のPCを起動して職員リストを閲覧した。

 其処には確かに彼女の顔と名前があり、備考欄にはこう書かれていた。

 不慮の事故により凍死、と。


「(だが実際は冬眠装置が千年規模で作動していただけだったというオチか……運が良いのか悪いのか、いや良いのか?)」


 冬眠装置に誤って落ちるアリスを想像していた山坂は、そんな想像から現実へと帰還し未だに彼に背を向けているアリスへと目を向けた。


「(ま、生きてるってんなら貴重な人類だ。 保護する対象が千人から一人増えても大して変わるめぇ)」


 じっとアリスを見つめていた山坂の視線に気付いたのか、アリスもゆっくりと山坂へ顔を向けた。

 互いに目が合うと、アリスは急いで顔を前へ向ける。

 そんな彼女が少し馬鹿らしくて、山坂は気の抜けた笑いをする。


「くっく……」


「な、なんで笑ってるんですかー!」


「いやいや何でもない何でも無い、くっくっく」


「絶対私の事馬鹿にしてると思うんですけどぉ!?」


「はっはっはっはっは!」


 山坂は、久しぶりに管理者達以外の会話で笑った。


────────────────────────────────────────


 狭い箱型の室内に、モーターの駆動音が響く。

 体は下降による若干の浮遊感の様なものを感じている。


「さて、おさらいだ女」


「は、はい……あと私の名前はアリスです」


「僕達はこれから第四層、つまり実験棟へ向かって他の生存者を探しながら移動していく訳だが……道中何があるか分からん」


「……山坂さんがさっき聞いてきた、その化け物? が居るかもしれないってことですよね」


 エレベーターの入り口付近に立ちながら、山坂は頷いた。


「そうだ、ここに何かが居るのは間違い無いが……そいつと出くわした時にお前を守れる確証は無い」


「そ、そんなぁ……それじゃあ私はどうすればいいんですか?」


「非常に不本意だが僕から離れるな、守ってやる」


「わーい! ありがとうございます、山坂さん!」


「だからって近寄るんじゃねぇよ! 僕は女嫌いだってさっき言っただろ!」


 山坂の言葉に喜び、手を取ろうとするアリスを咄嗟に避けると山坂はそう怒った。


「でも私の体には興味あるんですよね?」


「女体は好きだけど女っていう存在が嫌いなの! 分かる!? 性欲だけ満たしたいの!」


「ほんと屑ですね山坂さん!」


「会って一時間程度の人間にそう言えるお前も大したもんだよ!」


 笑顔で背後から罵倒してくるアリスに、山坂はそう返す。

 すると直後に微かな振動音と、機械音声が流れてきた。


<第三層、生産課です>


「……俺が良いって言うまで出てくるなよ」


「りょ、了承です!」


 ゆっくりと開いていく扉に合わせて山坂はアリスへそう言うと、腰から拳銃を抜いて構えた。

 アリスはそんな山坂の背後にぴったりとくっつき、ガタガタと震えながらそれでも顔だけは気丈そうに振るまい、彼の言葉に頷いた。


「行くぞ!」


「ひゃ、ひゃいいい!」


 扉が開くと、山坂は即座に飛び出し左右上下のクリアリングを行う。

 エレベーター前の空間は丁度箱型の様に広がっており、山坂は右の隅を陣取ると銃を構えたまま一本だけ伸びる通路の方を凝視した。

 直線的に伸びる通路は、今まで通ってきた道と同じく簡素な照明器具で照らされ、奥の曲がり角で見えなくなるまでの部分におかしなところは無かった。


「クリア! 出てきていいぞ女」


「は、はーい……」


 エレベーターの入り口からそーっと顔を出し、アリスは本人的にはこそこそとしているのであろう動作をしながら山坂の横に密着した。


「だからちけぇって言ってんだろ!」


「そんな事言ったって怖いものは怖いんですよぉ! さっきまで居た場所に実は良く分からない化け物がいるかもしれないなんて山坂さんが脅かすからぁ!」


「やめろ胸を押し付けるな! 鳥肌と生理的現象が同時に起きちまうー!」


 左腕に絡み付いてくるアリスの顔面を右腕で引き剥がしながら、山坂は叫ぶ。


「見捨てないでください~!」


「うぜぇぇぇぇ!」


 数分後────


「わー、これなら安心です!」


「…………げっそり」


 げっそりした表情で、山坂は通路を進んでいた。

 彼の腰には一メートル程度のロープが巻かれ、そのロープの先はアリスの腰に結ばれていた。


「その紐が撓みきる距離までは近づくなよ! いいな!」


「はーい!」


 紐で繋がっているという事が彼女の安心感を増しているのか、先ほどとは打って変わってアリスは落ち着きを取り戻していた。

 そんな彼女にげんなりとした顔をしながら、山坂は通路の窓から見える景色を眺めていた。


「あ、ここはですね皆が食べるお米や小麦、他には野菜とかの製造をしてる畑ですね~」


 山坂が何処を見ているのか察したアリスは、気分よさげにそう説明した。

 

「畑ねぇ」


 畑、とは言うが彼の目に映っていたのは金属製のレーンに横並びに並べられた土とその上に芽を出す野菜。

 そして太陽の代わりに照らされているライトだった。


「南極で畑なんて作れるわけ無いからこうなるのが普通ではあるんだが……」


「でも出来る作物に貴賎はありませんよ! 人類の知恵と技術が産んだ立派な畑です!」


「お前……意外とこういう技術的な事には熱くなるんだな」


「技師ですから!」


「ゴキブリに驚いて冬眠する様なドジでもなれるとか、この基地の技師はレベルが低──ぐえっ!」


 言いきる前に、山坂の腰に巻かれたロープが強く引っ張られる。

 アリスに文句を言おうと振り返った山坂だったが、彼女の顔を見てその言葉は口から発せられなかった。


「確かに、確かに私は馬鹿でドジかもしれません……それでも、私以外のこの基地の人は皆良い人で、優秀な人ばかりでした! だから、それ以上言うと許しません!」


 腰の紐を強く握り、目尻に涙を浮かべながらアリスは強い感情を露わにした。


「あー…………」


「って、す、すみません! 私、助けに来てくれた人に何て事を……」


 数秒、山坂の顔を強く睨んでいたアリスはハッとして手に持っていた紐を緩めると頭を下げた。


「いや……僕も悪かった、すまん」


 アリスの表情に感じ入るものがあったのか、山坂はばつの悪そうな顔で謝罪した。

 無論頭は下げていないが、彼が謝るという事自体が既に珍しいものである。

 この場に管理者の内の誰かが居れば、その言動に大いに驚いた事だろう。


「い、いえ! そんな、私こそ……」


「おっ、そうだな(適当) じゃあお前が悪いって事で」


「え、えー!? ここはお互いに悪かったなって笑いあう所じゃないんですか!?」


「ガハハ、知らん!」


 豪快に笑い飛ばすと、山坂は再び後ろを向いて通路を進み始めた。


「おら、さっさと行くぞ!」


 左手で腰のロープを軽く引き、アリスへ移動を促す。


「あうっ、ま、待ってくださいよ~!」


 急かされながらも、両者は笑みを浮かべながら先を進んで行った。

 道中、実った野菜を機械が回収し、加工される工場を眺めながら進み……数分後に突き当たりの部屋へと辿り着いた。


「あっ、ここは生産課のメインルームですね」


「メインルーム?」


「はい、上にあったパソコンが並んでる部屋と同じ部屋ですね。 格層に一つずつあるんですよ!」


「ほーん……」


「知らなかったんですか?」


 アリスの問いかけに、山坂は過去の記憶を思い出そうとしたが……。


「思い出せんな、前に来た時は実験棟と二層しか行ってねぇし、実験棟も直接目当ての部屋に行ったからな」


「思い出せない……? あれ? もしかして山坂さんって前にもここに来た事あるんですか?」


「前に少しな、それより通路に突っ立ってても仕方ない、中に入るぞ、注意しろよ」


「少し……? あ、あっ、待って、待ってくださいー! まだ心の準備がー!」


 アリスの制止を振りきり、山坂はメインルームへの扉の前に立った。

 扉は戦前と同じく、自動で開き、その最奥の部屋を見せ付ける。

 山坂は扉が開くと同時に、すぐさまクリアリングを行う。

 メインルーム内は先ほど彼らが居た上層と同じ作りであり、机の物陰に隠れながら慎重に行動した。

 アリスもまた紐が伸び切らないように、ゆっくりと追従していく。


「全く、毎度これをやるのも面倒だな……」


 山坂はそうぼやきながら、しっかりとクリアリングを終えるのだった。


「ここも問題は無しか……」


「ほっ……」


 じっくりと時間を掛けて室内のクリアリングを行った山坂は、そう言うと職員用のPCの電源を入れた。


「おい、お前生産課だろ? 職員用のIDカードをよこせ」


「え? あ、IDカード……ですか?」


「おう、少し調べ物がある」


「い、良いのかな……規則だと外の人に貸したら駄目って……」


「お前以外全滅してるかもしれないのに今更規則の事言ってもしょうがねーだろ! いいからよこせ!」


 生真面目なアリスに、山坂は苛つきながら右手を差し出す。

 そんな彼の様子にアリスは怯えながら、渋々右胸に付けられていたIDカードを手渡すのだった。


「ったく、さっさと渡せばいいんだよ」


「す、すみませぇん……ところで調べ物って、何を調べるんですか?」


「さっきこの基地について思い出してる時にある機能があったのを思い出してな、そいつを使う」


「機能、ですか?」


 山坂は頷くと、立ち上がったPCを操作していく。


「こいつだ」


 目当ての画面に辿り着いたのか、山坂はアリスに画面が見えるように場所を空けた。


「えーっと……熱源探知?」


「そうだ、館内の熱源数を調べられる、ここで調べられるのは三層と四層の二箇所だけみたいだがな」


「あ、なるほど! それで他に生存者が居ないか確認するんですね!?」


「ご名答、ついでに言うなら化け物がここから下か同じ階層に居るのかも調べられるってわけだ、と言うわけで早速スキャン開始」


 山坂はエンターキーを押すと、部屋の中央に柱のように立っているメインコンピューターが千年ぶりの唸りを上げた。

 画面には熱源探知中……という文字とパーセントが表示され、少しの時間を置くとパーセントは直ぐに百パーセントを示した。


「おっ、終わったみたいだな……さてさて生存者の数────は──?」


「? どうしたんですか? 山坂さん」


 画面を見て固まった山坂の脇から、アリスが画面を覗きこんだ。


<熱源数:4>


 画面には……そう、書かれていた。

GP千葉まで一週間を切ったので初投稿です。

来週の更新は無い事を此処に宣言しておきますぞー!

ところでEVER17いいよね…

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