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人類ガバガバ保護記   作者: にっしー
南極編
140/207

記憶と言う名の楼閣

https://www.youtube.com/watch?v=uJaNqKMN2m4

Persona 5 OST - Regret

MD215年 10/28 15:56


「嫌な、事件だったね……」


「うん……」


 疲れた顔で白衣を着た男達二人は、ソファーに腰を沈めていた。


「まさか赤の太陽を南極に直接ぶち込むとはな……」


「しかもそれが反射されて、危うくエクィローごと蒸発するところだったね……」


「南極自体が意思でも持ってるのかって位こっちの攻撃に柔軟に反応したな」


「最終戦争前に渡航した長老級が、もしかしたら南極と一体化してるのかもね」


「だったら余計に焼き払うべきだが……」


 ソファに寄りかかった状態から、山坂は体を屈める様に動かした。

 右手で顎を摩りながらどうしたものかと思案を行う時、彼はよくそういった姿勢を取った。


「実は、後二点程報告がある」


「そいつは悪い知らせと良い知らせか?」


「いや、二点とも悪い知らせだね」


「勘弁してくれよ……」


 顎を右手で触りながら、山坂は右隣に座る永村へ辟易とした顔を向けた。


「まず一つ目だけど、市長の氷が溶けない」


「は? アニメみたいに氷漬けになってたわけじゃないだろうあいつ、寒さでぶっ倒れただけだろ」


「の筈なんだけど……どうも全身が冷凍された様な状態になってるんだ」


「どういうことなの」


 疑問の声に、永村は首を傾げる。


「さぁてね、私は君達ほど化学や生物学に精通してるわけじゃないからね」


「ぬぬぅ、出来る事は出来る奴に任せるの弊害がこんな所で……しょうがない後で調べる、んで二つ目の悪い知らせは?」


 心底面倒そうな顔をしながら、山坂は再び勢い良くソファに倒れこんだ。

 両腕も真上に伸ばしきり、何ならこのまま眠りに就くのも厭わない格好である。


「南極の氷が広がる速度が上がった、データでは一年に何ミリって速度だったが赤の太陽の攻撃を反射してからは特に顕著になった」


「今の拡大速度は?」


「一時間に二センチって所かな、何事も無ければだけど」


 それを聞いて、山坂は仰向けにした顔に手を置いて真上からの光を遮った。


「一日に48センチずつ広がっていく氷か……どう対処するにせよいっぺん情報収集が必要だな」


「と言うと思って、あれを起こしておいたよ」


「あれ?」


「第三調整室に行けば分かるよ」


 面倒くさそうな顔をする山坂の肩を左手で軽く叩くと、永村はソファから一足先に立ち上がる。

 両手を合わせ体の前に伸ばすと、そのまま振り返ることも無く部屋から退出して行った。


「第三調整室……ねぇ」


 永村が出て行ってから暫く山坂はソファの上で体を横たえ、ごろごろと転がっていたがいい加減覚悟を決めたのか起き上がるとそのまま部屋を出て行った。

 エクィローの通路は、部屋と同様に一面の白色だった。

 緩いカーブが掛かった通路をゆっくりと歩きながら、山坂は白衣のポケットに手を突っ込んで歩いていた。


「ん?」


 右側にゆったりと曲がって行く際、右側の窓に見えた光景に山坂は立ち止まった。

 巨大な空洞の内部に、千個程の赤い棺桶の様なものが浮かんでいた。

 それらは理路整然と並べられながら、規則的に赤い光と青い光を放つ。


「…………」


 立ち止まり、少しの間それを眺めていた山坂だったが直ぐに小さく声を漏らした。


「あぁ……そうか、今日はあれのバイタルチェックの日だったか」


 そうして先ほどまでの興味を失ったように、冷ややかな目線でそれを最後に見ると彼は再び歩き出して行った。


────────────────────────────────────────


 千年の永きを生きるというのは、中々大変なものだ。

 魔族となり、肉体は寿命と言うものから解き放たれたが記憶はそうではない。

 長命の者の記憶はさながら砂上の楼閣と例えるべきだろうか。

 記憶は砂粒のように平たく降り積もっていき、その上に更にまた別の記憶が積み上がる。

 だがその記憶が降り積もるごとに、昔の記憶は抜け落ち、風化していく……あたかもそんな記憶に残る出来事など無かったかのように。


「………………」


 誰かが近づいてくる足音で、俺は目覚めた。

 体は治療用のポッドに収められている為動かせなかったが、目はしっかりと物を見る事が出来た。

 ポッドの中に液体が満ちているため、最初は視界がぼやけていたがそれも次第に慣れていく。

 身じろぎをするとごぽん、と少し大きな水泡が浮かび上がりそれがポッドの天井で破裂するのと同時に奴は現れた。


「おっと、お休みの邪魔をしたか?」


 いつものようにほんの少し裾を醤油か何かの調味料で汚した白衣を着て、奴は現れた。

 俺は視線を奴の顔に向けると、直ぐにそれを下に向けた。

 出来るだけ奴の顔を見たくはない、自分の頭を弄くった男の顔など。


「だんまりか、それとも声の出し方も忘れたか? せっかく呼吸器にマイクを付けてやってるんだ、自慢の美声を聞かせてくれよ」


「くっ、誰がおま……ご主人様なんぞの……」


 奴の命令に、体は勝手に奴に媚びた態度を取り始める。

 以前の自分であればそんな事は反吐が出る位に嫌な事だったが……今では奴からの命令は俺の中で至上の喜びへと変わりつつあった。


「ほほ~う、やはり報告があった通り洗脳が解け掛けているのか? 魔族って奴はこれだから油断出来んな」


「何の、用事……よ?」


「少し聞きたい事があってな、お前リーグ・リークって奴を知ってるか?」


 その単語に何処か聞き覚えがあって俺は首を傾げる。


「…………?」


 だが記憶を遡ろうとすればするほど、記憶という名の楼閣は崩れ去って行く。

 今と過去が混ざり合い、積み上げた記憶の砂粒は霧散するのだ。


「……駄目、思い出せない」


 俺は首を横に振った。

 それに対して奴は、少し考え込む素振りを見せると空中に人差し指を向けた。

 その動作に対応するように、空中にはホログラフが浮かび上がり何事かの操作を始める。


「そうか、それなら次の質問だ。 お前以外の長老級について話してもらおう」


「理由は~……問うだけ無駄?」


「そうなる、最も答えなくても僕は全く困らんのだがな!」


 そう言うと、奴はホログラフに映っていたボタンを押した。

 その瞬間、俺の体に強烈な痛みが走った。

 視界が閃光に染まり、体が麻痺していく。


「それじゃあ楽しい楽しい尋問と行こうか……時間はたっぷりあるんだ、再教育も兼ねて楽しもうぜ!」


────────────────────────────────────────


「ふーっ、楽しかった!」


 数時間後、エクィロー内部にある第三調整室で山坂は一人満足した笑顔を浮かべていた。

 その表情とは相対的に、山坂の正面に位置する天照は治療用ポッドの中でぐったりとした顔をしていた。


「記憶の採取も上々……と言いたいが長命のデメリットが記憶の欠落という形で現れるとはな」


 山坂はホログラフで出来たウィンドウを弄りながら、厄介そうな顔を作りながらそう呟いた。

 天照が入る治療用ポッドは文字通りの意味での装置であったが、この男はそれに搭載された機能の一つを悪用していた。

 精神的に参ることも多い任務において、意図的に記憶を消去、あるいは復活させる事が出来る機能を用いて天照の千年分の記憶を覗き見ていたのだ。


「ま、それでも断片的には情報を手に入れた訳だし何より楽しめた! 今日は帰って寝る!」


 だがそんな天照の記憶はばらばらに入り乱れ、過去と現在の認識が徐々に歪みつつあった。

 そんな中から過去のデータを正確に再現する事は難しく、山坂が手に入れられた情報は少しだけだった。

 即ち、今回の目的の人物……リーグ・リークの外見と他の長老級の名前、そして……。


「…………”屑”の名前をまた聞くとはな、本当に楽しめた」


 クレケンズと言う、過去の名前であった。




二週間ぶりなので初投稿です

グランプリ千葉が楽しみだゾ~コレ~


記憶の導管 ②


アーティファクト

(T):プレイヤー一人を対象とする、あなたはそのプレイヤーのライブラリーの上から3枚を墓地に置く、またはそのプレイヤーの墓地から3枚のカードを選びライブラリーの下に臨む順番で置く事を選ぶ。


「まぁ主に嫌な事があった時に忘れる用の装置だな。

こいつを悪用する奴なんて政治家か犯罪者くらいなもんだ。」

───開発者談

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