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人類ガバガバ保護記   作者: にっしー
南極編
139/207

私にいい考えがあったら

https://www.youtube.com/watch?v=QnsLBldsRbU

ランス10 アレンジBGM 「Advanced On (V2)」


 吹雪の音が視界と聴覚を支配する。

 この雪原に降り立って一体どれ位の時間が経ったのだろうか。

 周囲には誰も居ない。

 海岸に打ち上げられた壊れた機械の残骸に雪が降り積もり、それが新たな土地となる。

 そんな空間に、私は一人。


「………………」


 ここには何も無い。

 誰も居ない。

 けれどそれが私が望んだ結末。

 私は、誰にも出会ってはいけない。

 あぁ、けれど…………。


「寂しいなぁ…………」


────────────────────────────────────────

MD215年 10/26 12:19


「ぐえーっ!」


「あぁ、ナーガ女がやられた! この人でなし!」


「いやこんな場所に蛇連れてきたらやべーのは分かるだろ!? 馬鹿かてめーは!」


「馬鹿じゃありませんー! 大天才ですぅー! 人類で最も優秀な男です……どわーっ!」


「馬鹿やってる場合じゃありませんわよ!」


 吹雪の音が彼らの視界を支配する。

 打ち付ける雪が目を広げ、いつもの様に世界を見る事を拒絶する。

 だがそんな状況でも、それは構わず攻撃を繰り広げた。


「くそったれぇ! 次の攻撃が来るぞ!」


「えぇい、僕の盾になって死ねお前ら!」


「お断りです……わっ!」


 巨大な鉄塊の様な腕が地面に振り下ろされると、その衝撃に地面は揺れ動き、裂けて行く。

 吹雪の為に一箇所に固まり、全員を見失わないように行動していた一同だがそれも攻撃を避けるために分散せざるを得なくなってしまう。

 

「えぇいくそ! 撤退だ撤退! 様子見に来てこのまま死ぬなんて御免被る!」


「さっさとその決断下せよ馬鹿野郎!」


「芽衣子様は私が背負います! アデルさん、殿任せましたわよ!」



 完全に氷漬けになった芽衣子を背負うと、女性が一目散に元来た場所へと走って行く。

 それに続いて、数名の人間達も走り去って行く。


「任された! おっしゃぁ、掛かってこいやぁでくの坊!」


 そんな中、燃えるような赤い髪をした男が味方を守る為、雪と氷に覆われた巨大な機械の残骸の集合体と一戦交えようとしていた。

 機械の残骸は3メートルほどの大きさで人間の上半身のみが動いているような形をしていた。

 頭部には何かのヘッドライトだったであろう部品が明滅を繰り返しながら、胸部からの不気味な駆動音を吹雪の中に響かせている。


「雪原戦闘は初めてだが……サツホロでだって雪はあったし、訓練だってこなしてるんだよぉ!」


 雪原用の装備に身を包んだ男が、盾を頭上へと構え叫んだ。

 盾を構えた数瞬後、男の周囲の雪原は闇に包み込まれ……頭上から文字通りの鉄槌が振り下ろされる。


「だぁ……りゃぁぁ!!」


 鉄槌は雪原ごと男を打ち砕くかに思えたが……それは直ぐに間違いであったと巨人は気付いた。

 男に確かに撃ちつけた筈の手は、巨人の頭上遥か上まで跳ね上がっていた。


「全く、大した盾だぜ!」


 左手で構えた盾が青白く光り……男の全身もまた黄金色の光を放つ。

 そして、剣を構えていた右手を前方に突き出すと思いっきり手前に引き寄せた。


「暫く止まってろ!」


 男が腕を手前に引き寄せた瞬間、地面の雪混じりの氷が鎖状になって巨人の首や両腕に絡み付く。

 巨人は自らの体を支えていた左腕を鎖に束縛されたことによって体勢を崩し、大きな揺れを起こしながら地面に倒れる。


「よっしゃ!」


 恨めしそうにライトを明滅させる巨人を見ながら、男はガッツポーズを取った。

 一瞬、男がトドメを刺すべきか迷っていたところに吹雪の中、消えうせそうな声が後方から届いた。


「ルさ……はや……!」


「っと、欲かくのはよくねぇか……じゃあなでかぶつ!」


 声に気付いた男は、恨めしそうに自らを照らす怪物に背を向けると走り去っていった。

 数秒後にはその後姿は完全に吹雪が覆い隠し、彼の足跡すら新たな雪で埋め尽くした。

 十分もする頃には再び上半身だけの巨人も動き出し……何事も無かったかのように南極の日常は過ぎて行った。


────────────────────────────────────────


「第一次遠征で持ち帰れた情報は以上かい?」


「あぁ!」


 ウィンドウに浮かび上がったデータを眺める永村に、山坂は元気良く返事を返した。


「吹雪に覆われた最高気温マイナス80℃、最低気温マイナス120℃の世界に機械が半ば生命化して動き回っている土地か」


「まぁぶっちゃけ後半以外は予想通りでしたね……」


「そうだね、そしてそんな結果を持ってくる為に日本の指導者を一人氷漬けにしたのかい?」


「あぁ!」


「馬鹿かな?」


 永村は呆れた目で山坂を見た。

 それは南極と言う土地に生態が蛇に近いナーガを連れて行ったという事への呆れからなのかもしれない。

 

「だって嫌だって言うから……そんな事言われたら無理やり連れて行きたくなるじゃん?」


「結果としてこっちへの協力度が下がるとかは考慮しないのかい君は」


「あぁ! 後始末はよろしくな!」


「はぁ~……」


 深い溜息を吐く永村に山坂は一切悪びれた顔をせず、机の上に足を乗せた。


「で……次の方針は決まってるのかい?」


「とりあえず札幌に住んでる連中なら寒さに強いだろうし、そいつ等無理やり連れてきて南極に橋頭堡作成かねぇ?」


「成る程、ならそれはお勧めしない」


「なんでぇ」


 机に置いてあった爪きりに手を伸ばし、爪の研磨を始めた山坂に永村が水を差す。


「札幌に居た種族覚えてる?」


「魔族が沢山」


「そうだね、リザードマンとか人間とかレオニンとかロウクスとかだね」


「ほーん……って、ん? 何かあれだな、寒さに弱そうなのが幾つか混じってるな」


 左手の爪切りに着手しながら、山坂は視線だけを上へずらした。


「その通り、これは前に聞いたことだが札幌に居る魔族の連中は棄民らしい」


「棄民って……東京からか?」


「そう、天照信仰をしなかったり女性上位の環境に馴染めなかったり……そんな理由で追い出されたり出て行ったりって形で人が集まって出来たのが今の札幌」


「ハハハ、美しい国日本って感じだな!」


 机に載せた足で椅子を後ろに傾けながら、山坂は皮肉気に笑った。

 その表情はざまぁみろと言うかの様でもある。


「兎も角、そう言う事情だから彼らは別に寒さに強いから住んでた訳じゃなくて仕方なくなんだよ。 そもそも市長が南極行くの嫌がってた時点で普通察しない?」


「いや…………全然気付かなかった」


「よくそれで今まで生きてこれたね君」


 永村の指摘に、椅子を後ろに傾けていた山坂の顔が曇った。

 

「……ちょっと傷つくわ~」


「それは良いとして、とりあえず札幌の住民はお勧めしないよ」


「あー、だったらどーするか……また予見者共でも連れて──」


 少しの思案を始めた山坂は、不意に誰かが走ってくる足音に気付いた。

 その足音の主は徐々に近づいて来ると、自動ドアが開くよりも前にそのドアを蹴破って現れた。


「──私に良い考えがある!」


 足音の主が言った台詞に、二人は一抹の不安を覚えるのだった。




久しぶりに八時台に更新したので初投稿です

映画のピーターラビットが人が死ぬホームアローンでした

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