次の進軍先が決まったら
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Persona 5 OST - What’s Going On
MD215年 10/22 11:33
「あーあ……ったくかったるい」
山坂は欠伸をしながら、そう呟いた。
大理石で作られたその通路の白さにも辟易したが、やはり一番やる気を削いだのは実験を終えて寝ようとしていた所だったということだろう。
夜通しの実験を終え、さぁ寝るかと思っていたところに永村から声が掛かり呼び出されたのだ。
「ったく時間の逆行実験ももう少しで成功しそうだったっつーのに……大体調印式なんて僕不在でもいいだろ」
北アメリカ頭領との統治権を賭けた試合は一週間前、土壇場で永村とマイクの間で交わされた契約によって終わった。
その際の事を山坂は思い出す。
……突如膝を着いたかと思うと、マウンドから降りてきて永村へと右手を差し出すマイク。
そしてそれを受け取る永村。
「んでそのまま試合が終わりだってんだもんなぁ、もう少し派手に血が見たい人生だった」
当初は両チームの二人を除いた全員が何をしているのか分からない、という表情で二人を見ていた。
だが二人は健闘を讃えるように──マイクの側から一方的にやったのかもしれないが──体を抱き合うと試合の終了と、自らのチームの敗北を認めるのだった。
「……今思い出しても良く分からんな、何であの結末で納得できるんだ?」
敗北の宣言を聞いた時は、良く分からないが終わったんならまぁいいかと思っていた山坂だが。
「良く考えれば別にあそこ受け入れなくても良かった気がする」
若干考え直すような素振りを見せながら、ふとある物に気付いた。
山坂はそれを下から上へと顔を上げていくと、鼻を鳴らした。
「ふん」
山坂が見上げているのは頭部が球体で出来た天使の石像だった。
その天使には顔が無く、頭部の上に浮かぶのは天使の輪というよりはまるで鋸刃とでも言うようなものだった。
「ハワイから居なくなったと思ったらこんな所に居たとはな」
それはタリブだった。
管理者達が作り上げた三神と呼ばれる兵器の一体、次元と次元の間に居る事であらゆる干渉を撥ね退ける欺瞞の王。
時間と空間の支配者。
それが今、大理石の中に埋め込まれ石像と言う形でアメリカに安置されていた。
「突然消えたと思ったら千年前に飛んで歴史の改変とは恐れ入る、流石は永村の思考回路搭載ってところか?」
山坂は見上げ続けたせいで首が疲れたのか、左右に首を鳴らすと正面に顔を戻しゆっくりとタリブへと近づいて行く。
そして壁面の石像へと手を伸ばしていく。
手が石像へと触れようかといった瞬間、手はそれを通り過ぎた。
「ふん、やっぱりな」
山坂は何度も手を出し入れするが、それは一向に石像には当たらない。
「あくまでも石像に見えるだけで実際の監視は継続中ってことか」
呆れた顔で、再び頭上のタリブを見上げると山坂はそれに背を向けた。
「マンジェニは暴走状態、タリブは独自行動……そしてカムサは未完成と来た、全く頼りになる兵器どもだ」
そんな山坂の独り言を、物言わぬ石像だけが聞いていた。
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「じゃ、今まで通り統治は君に任せるってことでよろしくね」
訝しげな目を向けられながら、永村はサインを書き終えるとそう微笑んだ。
「んん? えーっと、じゃあなんだい? 君は北アメリガの統治はしないってことかい?」
「支配はするさ、けど管理をしないってことだよ。 表向きの支配者は君のままで良い、やり方に口出しはする」
「それ一番美味しいところ持って行ってない?」
「悪いな!」
永村はサムズアップをしながら、マイクに一切の悪意無くそう答えた。
「マイク……どうしますカ?」
「どうするも何も、またベスボルが続けられるんなら僕はそれでいいさ!」
歴代の頭領に付き従ってきた天使、ジェフは永村の後ろに立ったままマイクへ問いかけた。
ジェフはあくまでも頭領に従う天使であり、今回永村が勝利した事でその忠誠は永村へと捧げられる事となった。
「だからそんなに不服そうな顔しないでよジェフ、君とまたベスボルが出来るのは嬉しい事だ」
「別に不服ではありませんシ、あなたとベスボルを続けるのも特段嬉しくはありませン」
「……君達仲悪いのかい?」
「ハハハハ!」
ジェフは声色を変えずにそう返すと、永村が少し心配そうにマイクに問いかけた。
だがマイクはその問いに笑いを返すだけだった。
その笑いの理由を理解できていたのは、ジェフの顔を見る事が出来たマイクだけだった。
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「さて、それじゃあ管理者会議を始めようか」
アメリカ、ホワイトハウス内に設けられた会議室では室内の色調に完全にマッチした服装の男達が三人座っていた。
室内に二つある窓は閉じられたままだったが、差し込む陽光が秋の寒さを和らげていた。
両腕を机の上で組みながら、永村が会議の開始を宣言する。
「おっ、やる気だねぇ。 流石は北米頭領様だ」
「いやぁそれ程でも」
「褒めてねぇよ貶してるんだよ察しろよ」
「こっちも皮肉なんだよなぁ……」
「じゃれあいは良いからさっさと本題に入れお前等」
それを茶化し合う永村と山坂に呆れた田崎が話を進めようと横槍を入れる。
「いやぁごめんごめん、それじゃあまずは報告。 アメリカ大陸の制圧という大目標の内1/3が叶ったよ」
「野球で支配者決めるとか物凄い文化だったな……まぁタリブが歴史改変をした結果なんだろうが」
「前はハワイに居たんだったな、あの時は生きて戻れて良かったぜ……」
「そうだな、ハワイでリヴァイアサンを殺した後行方不明だったがどうやらその後に時間を遡って最終戦争直後に行ったらしい」
山坂は円卓の上にある世界地図を見ると、ハワイの上に置かれたマーカーを持ち上げた。
「そしてアメリカで大天使として光臨、文化や歴史を捻じ曲げたと」
「何のためにやったんだ?」
「僕が知るかよ……あいつは永村の思考パターンをトレースしてるんだ、永村に聞いた方が早い」
「いやぁ私にも分からないね!」
マーカーを北米大陸に移動させると、二人は永村を見つめた。
だが永村は両手を上げるばかりである。
「ま、ともあれタリブが頑張った結果我々は戦力として使える北米の連中を犠牲無しで手に入れられた訳だ」
「だな、んじゃ次はこのまま南下して中米か?」
北米に置かれた赤いマーカーを田崎が南下させる。
ホンジュラス、そこが中米の首都とも呼べる場所だった。
「いや……中米は素通りする」
だが永村は首を横に振ると、マーカーをそのまま南米大陸まで移動させた。
「あん? なんでだ?」
「実は既に中米からの協力は取り付けてある」
「仕事早すぎひん?」
「……いや実は向こうから使者が来て提案された」
疑問の声に永村は少し目を逸らしたが、少しの間を置いてそう語った。
「こっちに従いたいってか? えらく情報の回りが速いな」
「あぁ、それに向こうは私達の事を知ってるような節があるんだ」
「おいおい、まさか千年前の人類とか言わないだろうな」
「分からない」
永村の返答に山坂は皮肉を籠めて笑った。
「はっはっは、人類の英知三人衆が分からないのオンパレードとは人類の未来も明るいな!」
「山坂」
「……ふん、何にせよそいつは調査が必要だな」
田崎のドスの利いた声に一瞬驚くと、山坂は皮肉を止め椅子に深く背を預けた。
「それに関しては一号に任せる、二号もそろそろ完成する頃だからね」
「え、なにそれ、二号の調整急げってこと? え、まじで?」
今までの皮肉の仕返しとばかりに、永村は山坂へ笑顔で頷いた。
山坂はうんざりした顔で立ち上がると、窓へと顔を向けた。
彼なりの現実逃避方法だった。
「話を戻すが……んじゃ次は南米か」
「そうしたいところだったんだけど……実はその更に下に用事が出来そうだ」
「下? 下って大陸なんて──」
田崎が南米大陸の更に下へマーカーを動かす。
だがそこは洋上であり、大陸など何処にも無かった。
「いいや、あるだろ? およそ人が住めたような土地じゃない場所が一つ」
「南極か!」
永村は洋上の更に下にマーカーを置いた。
氷で閉ざされた場所、最終戦争前であっても人類がほぼ触らなかった地点。
南極大陸。
「その通り」
「こんな場所に何の用事があんだよ、開発だって殆ど進んでないんだぞ?」
「あぁ、実は私も最近気付いたんだけど……千年前に比べて僅かにだけど南極大陸が大きくなっている」
「は?」
永村はそう言うと、円卓の横に現在の世界地図を広げて見せた。
ロシアには大きなクレーターが幾つも空き、グリーンランドへはアメリカ第六艦隊の残骸の橋が掛かる中……。
確かに南極大陸はその大きさを千年前よりも増していた。
「確かに大きくなってるが……これがなんなんだ? 千年経てば気候だって変わる、多少の増減位は──」
「あるだろうね、だが千年間ずっと増え続ける事があると思うかい?」
「いやぁ地球は何千、何万年サイクルだしなぁ……無いとは言えないが」
「じゃあ南極大陸の中心から霊力反応が一つ確認されていると言ってもかい?」
南極大陸の中心、赤いマーカーに永村は指を置いた。
「青の太陽の記録を漁っていて分かったんだけど、最終戦争よりも前にここに渡った奴が居る」
「自殺志願者かな?」
「実際その通りらしい、彼女は自分を殺す、あるいはそれに近い目的の為に南極へと渡った」
そして、永村は空中に女性の写真を映し出した。
「名前はリーグ・リーク……長老級の魔族、その一人だ」
その言葉一つで、次の進軍先が決定された。
なんだかんだで初投稿です
南米だと思った? 次は南極だよ!
寒い場所は嫌いです(銅民)




