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人類ガバガバ保護記   作者: にっしー
北米編
137/207

ゲームセット!

https://www.youtube.com/watch?v=Yl0oplcDkdI

対決、ブラックホールズ

MD215年 10/14 10:25


「いやー死んだかと思った」


「ぎゃー! 死人が完璧な状態で蘇ったんじゃが!?」


「この世に未練がある為に蘇ったのでしょう、今すぐ解呪を行いましょう」


「死んでねーし! 後地味に解呪されると死ぬからやめて!」


 山坂が蘇った。


「そういや山坂が蘇るの見るのって徳川と市長が見るのは初めてだったな」


「あはは……あれびっくりしますよね」


 先ほど死んだと思われていた山坂が突然雷光と共に現れるのを見た芽衣子と戦は両手を合わせて念仏を唱えたり、解呪の呪文を唱え始める。

 そんな二人を苦笑しながら眺めるアデルとアレーラだった。

 

「で、だ。 メハメハの歌が効いてないのはどういうこった?」


「さぁ? 相手が何がしかの防護を行ったと考えるのが正しいんだろうけど」


「ふーむ……まぁ通用しなくなったんなら仕方ねぇ、こういう時の為に山坂に装備を作らせてたんだろ?」


 ベンチの奥で、山坂達が戯れるのを眺めながら永村と田崎は考察を行っていた。

 田崎の隣には申し訳なさそうにベンチに座るメハメハが居り、そんな彼女の頭に田崎は優しく手を置いていた。


「相変わらずその子には甘いね田崎君は」


「役に立つ奴には甘いさ」


「ま、今回はチームに貢献してくれたから不問にしよう」


 永村は眼鏡の奥の目を少しだけ細めると、ベンチの傍らに置かれていたリストバンドを両手に装着した。

 リストバンドは見た目は皮製だが、しっかりと金属の部分も見えており永村がそれを装着すると一瞬だけ青い光が走った。


「反重力フィールドを生成し、手持ちの武器にもそれを適用する装備ねぇ……大丈夫なのか?」


「試験運用は済んでるらしいよ? 後は山坂君の才能を信じるしかないね」


「あいつ大事なところでうっかりミスするからな……」


 リストバンドを装着している永村を不安そうな目で見つめる田崎。

 だがそんな目線も気にせず、男はバットを手に取る。


「その時はその時さ、それじゃあ行って来るよ」


 木製のバットを右手で持ち、永村はマウンドへ上がって行く。

 途中山坂と幾つか言葉を交わすと彼は笑みを浮かべ、通り過ぎていった。


────────────────────────────────────────


「おっ、どうやらまだ戦意はあるみたいだね」


 マウンドの上で、ボールを掌の上で転がしていたマイクが永村に気付いた。

 彼の格好を見てマイクはぎゅっとボールを握りこむ。


「待たせてすまないね、マイク君」


 永村もまた、右手で軽くバットを振りながらゆっくりとバッターボックスへと立った。


「いいさ、僕のボールを受けて復活した人も初めてだし! しかも試合を続行する気がある人と戦うのも初めてだ!」


「それは光栄だね、ところでマイク君少し提案があるんだけどいいかな?」


「? 構わないよ、君達が今ここで試合を降りるって言うんならがっかりだけど」


 マウンドの上からマイクは永村の瞳を見る。

 およそ18メートル離れた距離からでも、マイクの目はしっかりと永村のその黒い眼を見据える事が出来た。


「ある意味そういう提案かもしれないね」


「てことは……概ねは違うのかな?」


「そうだ、この僕の打席をこのゲーム最後の打席にしたい」


 マイクの金色の目が少し、見開かれた。


「どういうことかな?」


「文字通りだよ、僕が今の打席で三振したらそのままこちらのチームの負けで構わないと言ってるんだ」


「では僕の球が打たれた場合は?」


「それもこちらの負けでいいよ」


 その台詞に、マイクは左手のグローブを顎に付け考えるような姿勢を取った。

 彼の表情からは永村の言っている意味が分からないという風に考えている事が見て取れる。


「こちらの勝利条件は、君から僕がホームランを取ることだ」


「はは、中々面白い冗談だね」


「冗談じゃなく本気さ、僕は君から──ホームランを取る」


 永村はそう言うと、不敵に笑う。

 

「意思表示だけで取れるほど僕の球は甘くないよ? それにだ、僕達が君と次のバッターを抑えられずにこのまま負けると思っているのかい?」


「それは君が一番分かっているだろう? 君達がこんな素人相手に7点も取られる失態を犯したのは偶然なんかじゃないって事、分かっている筈だよ」


 マイクの脳裏に、先ほどまでのチームの姿が過ぎった。

 今は味方が相手の妨害を防いでいるが、今戦っている相手は今まで彼らが戦ってきたどのチームよりも不可解な力を使うであろう事は想像に難くなかった。

 消滅した筈の人間が帰ってきたり、指定した人間に異常を起こす謎の技を持つ相手、もし彼らが本気で妨害をしてきたなら自分達は止められるのだろうか。

 そしてもし……そんな得体の知れないチームとの戦いが今から投げる三球で終わるのだとしたら……。


「私は君達にとって最大限の利益が出るであろう提案をしているつもりだ」


「本当にこの打席で終わりでいいのかい」


「野球……おっと、今はベスボルか。 ベスボルに誓って」


 マイクはゆっくりと、グローブを下ろした。


「分かった、三球だ。 三球でこの試合を終わらせよう!」


「提案に乗ってくれて感謝するよ、それじゃあ……始めるか」


────────────────────────────────────────


 観客はどよめいていた。

 山坂が死んだと思ったら、雷光と共に突然グラウンドに現れた事もそうだが。

 永村が打席に立ってから暫く、マイクと何事か話し始めたからだ。


「い、一体どうしたのでしょうナガムラ選手、マイク頭領へ何か話しかけている様ですが……」


「試合が終わった後のトレードの打診とかですかね?」


「成る程! 確かにニホンチームのベル選手等はとても素晴らしいピッチングでしたからね、その場合誰がトレードに出されるのか気になるところです」


 等と実況の二人が話していると。


「おぉっと! 東雲さん、グラウンドに動きがありました! マイク頭領が構えました!」


 マウンドの上、マイクが見慣れたポーズで足を高く上げていた。


「一体何の話をしていたのかは我々には分かりませんが、兎にも角にも試合続行のようです!」


「さぁマイク頭領……第一球を振りかぶって、投げました!」


 実況の掛け声と共に、マイクはボールを投げ放った。

 ボールは先ほど妨害を受けていた時とは違って、山坂を蒸発させた時と同じく極小のブラックホールと化していた。

 投げられたボールは突風を放ち、実況の二人は目を思わず腕で覆った。

 そして、キャッチャーミットにボールが収まる音を聞いて少し経った後に目を開いた。


「ストライーク!」


 審判の掛け声と共に、バックスタンドに設置された電光掲示板が古めかしい緑色のランプを一つ灯した。

 

「あ、相変わらず凄まじい威力です……何故審判が無事なのかはさておいて、果たしてナガムラ選手は生きているのでしょうか!」


 土煙が打席を包む中、人影がそこに映った。


「お、おおっとぉ!? 何と信じられません! ナガムラ選手、生きております!!」


 客席から驚きの声が上がった。

 土煙が晴れると、そこには永村がボールを投げられる前と変わらぬ姿で立っていたのだ。


「なぁんと信じられません! マイク頭領の投球を受けて生き残れる打者が存在するとは!」


 驚きの声は客席だけでなく、マイクの味方からも上がった。


「信じられん……」


「スゴイ! スゴイ!」


 皆が一様に驚く中、永村は服に付いた汚れを軽く手で払うと再びバットを構えた。

 マイクも呆気に取られた表情をしていたが、直ぐに勝負師の顔に戻る。


「私、マイク頭領になってからの試合は全て実況させていただいておりますが……生き残った方を見るのは初めてです」


「そうなんですか?」


「はい、頭領は99戦試合を行っていますがその内実際に投球をされた数は何と150も無いのです。 何故ならそれは一回目の投球で最初の打者が死亡するからです」


「成る程~、それ故に相手チームの心が折れてしまうということですね」


 隣に座る実況、東雲の言葉に頷きながら彼女の目は第二球を投げようとするマイクを見つめていた。


「さぁ! マイク頭領としては初の、第二球! 果たしてナガムラ選手生き残れるのか!?」


 マイクは先ほどと変わらぬ投球フォームで、ボールを投げた。

 それは先ほどと変わらぬ速度でナガムラ、ひいてはキャッチャーへと迫った。

 実況の二人は再び目を腕で覆うが……今度はキャッチャーミットに球が収まる音ではなく、甲高い音が響いた。


「ファール!」


「お、お……おぉっと!? どうやら我々が目を守っている間に、ナガムラ選手なんと! 頭領の球を打った様です!」


「審判の方、あの衝撃波の中で瞬き一つせず正確に判断を下せるってどういう方なんですかね……」


「それは永遠の謎です! ですが少なくとも、彼の判定が間違っていたことは今まで一度もありません! つまり!」


「頭領の球が打たれたという事実は真実!」


 バックスタンドの電光掲示板に、緑色のランプ二つ目が点った。


「……驚いたよ、僕の球を打てる人間が居るなんて」


「出来れば今のでホームランを取りたかったんだけどね、中々上手く行かないもんだ」


 永村は右手を痺れを取るかのように軽く振りながらそう答えた。

 そして手を軽く開いては握り、握っては開くとバットをバックスタジアムへ向けて示した。


「だが、タイミングは掴めたよ。 次で決める」


「おぉーーーっと! ナガムラ選手、なんとホームラン予告だーーーー! 命知らずのデスゲームです!」


 永村のホームラン予告に、観客が今日一番の沸き立ちを見せた。

 

「まじか永村の奴……何時の間にあんな主人公チックに?」


「あいつ野球マジ好きだからな……わからんわー」


 味方の二人は、若干引いていた。


「後1カウントか……」


 観客や敵味方が沸き立つ中、マイクは冷静だった。

 永村のホームラン予告など、単なる挑発に過ぎないと彼は理解していた。

 理解していたが……冷静さの中に、マイクの勝負師としての魂がそれを邪魔していた。

 彼が試合で投げた回数は少ない、特にこうして相手を三振で打ち取れる機会など恐らく今後訪れないだろう。

 マイクの投手としての才能は異常だ、それ故に彼は頭領になった。


「だが──」


 満足の行く勝負を、打者と投手としての勝負を彼はしたことが一度も無かった。

 やってみたかった。

 最初は打算から乗った賭けだったが、今ではそれはどうでもよかった。

 人生で初めて自分の投球に耐えられる相手、それに全力で投げ、勝ってみたい。


「ふふ、ごめんよ皆。 僕は──勝負したい!」


 マイクが白球を、握りこんだ。

 左足を高く掲げ、振り下ろす。

 それと同時に右腕は渾身の一球を、キャッチャーミットへ向けて放った。


「これで、ラストォォォォォォォ!」


 マイク渾身の一球が放たれるや否や、永村はバットの柄を左手で持ち頭の部分を右手で持つとそれを水平に構えた。

 バントの構えである。


「!?」


「悪いね、君達へ最大の利益がある提案だったが……」


 バントの構えに、思わずアメリカチームの全員がバント用の守備へと移行する。

 全員がぼてぼてに転がるボールに向けて前へ移動し……ボールがバットに触れた瞬間、それは起きた。

 ボールがバットに触れた瞬間、バットが青白く輝くとボールはまるで磁石が同じ極同士で触れて弾かれるように。

 恐ろしいほどの速さで、弾き飛んで行った。

 それはバックスタンドを飛び超え、電光掲示板を貫き……青空に浮かぶ雲を突き抜けて飛んで行った。


「僕は勝てる勝負以外はあまりする気が無くてね」



GWが明けたので初投稿です

ぎ、ぎりぎりだが月曜日だな!


7月のGP千葉に行くので皆も一緒に、いこう!

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