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人類ガバガバ保護記   作者: にっしー
北米編
134/207

プレイボール!

MD215年 10/14 09:12


 快晴。

 ボストンにある野球場、フェンウェイ・パーク。

 かつては全米野球で最も賑わった野球場は現在……防護の魔術でも掛かっているのか未だに戦前の様相を保っていた。

 およそ5メートルを超えるその外壁は多少の色褪せはあるものの、その堅牢さをまじまじと選手達に見せ付ける。


「へー、戦前の建物がしっかりとした形で残ってるなんて珍しいね」


「野球場が残っててもなぁ……ミサイルサイロとかが残っててくれた方がもっと良かったんだが」


 フェンウェイ・パークの入り口にて、野球のユニフォームに身を包んだ山坂と永村が建物を見上げながらそう言葉を交わした。

 永村は建物が残っている事への感嘆を、山坂は落胆を表情に表しながら。


「にしてもよく二週間できっちり仕上げたな、正直無理かと」


「私は無理な事はしない主義だよ、山坂君」


「大した自信家なこって」


 山坂はやれやれと両手を上げると、そのまま永村を置いて入り口へと進んでいく。


「先行くぜ、装置の準備もあるんでな」


「あいよー、私も他のメンバーが揃ったら行くよ」


 そうして振り返りもせず、山坂は両手に大掛かりな装置を抱えたまま球場へと消えて行った。

 

「彼も何だかんだで真面目だなぁ」


 消えていく山坂を目で追いながら、永村はしみじみと言った。

 

「オーッホッホッホッホッホ! ついにやってきましたわよ皆さん! 今日は皆で栄光の星を掴みますわよぉーー!」


「……おや?」


 そんな時、永村の背後から一際大きい女性の声が響いた。

 永村はその声で振り返らずともそれが誰なのかを理解した。


「さぁ皆さん、キャプテンに続きなさい! 突撃ですわーー! おーっほっほっほっほっほっほ!」


 ベルは一瞬永村から少し離れたところで立ち止まると右腕を上げ、そう叫ぶとそのまま永村の横を掛けぬけ中へと入っていった。

 永村は猛烈な勢いで駆け抜けて行くベルを呆然と見送ると、後ろへ振り返った。


「やぁ君達、おはよう」


「あ、お、おはよう……ございま……す」


「おーす、おひゃー」


「お前達ご主人様に何と言う口の聞き方を……申し訳ありません、以後私が躾け直しますので何卒お許しの程を」


 振り返った永村の視線に飛び込んできたのは、大きな野球バッグ一つを両手で重そうに持つアレーラと片手ずつにそれと同じ大きさのバッグを担いだアデル。

 そしてその少し後ろに永村の忠実な僕として改造された石元の姿であった。

 永村の挨拶にアレーラは未だに恐怖心が抜けていないのか怯えながら、アデルはそんなアレーラを全く意に介さず右手をバッグごと軽く上げる。


「気にしなくてもいいよ、しっかりと結果を残してくれるんなら私はそれで構わない」


「……ご主人様がそう仰るのであれば、御意に」


「なんだ意外と話分かる奴なんだなお前」


「あ、アデルさん……! 失礼ですよ!」


「気にしない気にしない、さぁ中でキャプテンが君達を待ってるから行ってくるといい」


 永村は右手で後ろを指し、三人の入場を促す。

 三人はその動作に各々が頷きを返し、消えていく。


「さて、残りは……彼らか」


 アデル達が入り口に入ったのを横目で確認し、視線を再び正面へ戻す。

 山坂、ベル、アレーラ、アデル、石元、そして自分の六人と……残りの三名。

 戦、芽衣子、そして最後の管理者である田崎……ともう一人が歩いて来るのを永村は確認した。


「まさかお主が来るとはのー……ええのか? おぬし達の種族はまだ──」


「大丈夫! 人魚は強いんだから、あたしが居なくてもトウキョウの人達と仲良くやっていけるよ!」


「確かに人魚との融和政策は打ち出しましたが……貴女のその前向きさは賞賛に値します」


「あはは、徳川さんは相変わらず大げさだなぁ、あたしなんて全然大した事──ってあれ? ねぇタザキ、あの人って──」


 仲睦まじく横並びで歩く徳川戦、芽衣子、そして人魚の歌姫カ=メハメハ。

 三人は年こそ違えど種族や都市の長であり、色々な意見を交わしながら歩いて来る。

 そんな折、メハメハは自身の前方で見覚えのある人間を見つけ、田崎へと呼びかける。

 メハメハの隣を歩いていた田崎は呼びかけられた事で前方の永村に気付くと、足早に近づいた。


「あん……? あぁ、永村じゃねーか、何だお前俺等の事待ってたのか?」


「そりゃあね、これからやるのは野球とはいえ国の支配権を賭けた戦いなわけだし? 遅刻なんてされても困るからね」


「相変わらずマメなこった」


 呆れたような、感心したような態度を取る田崎の左腕を細い指が突いた。


「ねぇねぇ……この人が前に教えてくれたナガムラ?」


「そうだ、怒らせるとこえーから注意しろよ~?」


 知り合いが知らない知り合いと話している様な空気の中、メハメハにしては少し控えめな態度で永村について尋ねると田崎は頷きと共に質問に肯定を返した。 


「うーん、確かにマルフォスも怒ると怖かった……ナガムラもマネージャー?」


「流石にアイドルのマネジメントはした事無いなぁ、と初めましてだね、ある程度田崎君からは聞いてるんだろうけど彼の同僚だ、よろしく」


 永村は左手を前に差し出し、メハメハは少しも迷う素振りを見せず両手でそれを掴み握手をした。

 左手で掴まれると思っていたのか、永村は両手で掴まれた瞬間少しぎょっとした顔をするが直ぐに表情を戻し笑みを浮かべる。


「よろしくね!」


 メハメハもまた向日葵のような明るい笑顔を永村へ向ける。

 それは向けられた者の心を氷解させるような笑みだった。


「あぁ、よろしく。 今日は期待してるよ」


「うん! それじゃああたし準備があるから先に行くね!」


 握った両手を離すと、メハメハは二本の足で軽快に駆けて行く。

 それを見送る永村を芽衣子はニヤニヤとした笑みを浮かべて眺めていた。


「むふふ、貴重なものを見たのう徳川の」


「えぇ、あの男も面食らう瞬間があるのですね、メハメハ殿に感謝しましょう」


 メハメハに握手を求めた瞬間に驚いた表情を浮かべた永村を、戦と芽衣子は見逃していなかった。

 二人はその顔が何よりの挨拶とでも言わんばかりに、永村への挨拶をしないまま横を通り過ぎていく。


「……やれやれ、僕もまだまだ甘いかな」


「メハメハには俺でも驚かされるんだ、しょうがねぇさ」


 田崎のフォローに自嘲気味に永村は笑う。


「さて、これで全員か……準備は?」


「ばっちりだ、何があっても負けは無い」


「ならOK、……それじゃあ勝ちに行こうか」


「あいよ!」


────────────────────────────────────────


 球場の中は、壮観だった。

 二階まである観客席は満席で、開幕を今か今かと待ち望んでいた。

 その観客達のざわめきが……歓声へと変わる。

 一人のエイヴンが放送席から飛び出しグラウンドの中央上空で制止する。


「さぁ皆様! お待たせいたしました! これより第百回、北米頭領決定戦……スーパーチューズデーを開幕致します!!」


「うおおおおおおおおおおお!!」


「マイク頭領ーー! 今日も期待してるぜぇーー!」


「挑戦者の連中、せめて二回裏までは持たせろよー! 大穴のお前らに有り金全部突っ込んだんだからなー!」


 歓声は、衝撃波となって各選手が待機するベンチへと届く。

 北米頭領側の選手は慣れた顔つきでそれを流し、挑戦者側の管理者チームの面子はその歓声の大きさに戸惑いを見せていた。


「す、すごい歓声じゃの……」


「ご老体には少々きつかったですか? 今すぐご隠居なさるのをお勧めします」


「ははは小娘がほざきよるわ、今すぐ母親の乳飲みに帰った方がいいんじゃないかの?」


 あまりの大きな歓声に芽衣子が怯むが、戦が即座にそれを煽る。

 

「あの二人ってあんなに仲悪かったっけ……?」


「さ、さぁ……あ、始まるみたいですよ!」


 そんな二人を横目にひそひそと話し合うアデルとアレーラ。


「それでは各選手、グラウンドへ入場してください!!」


 エイヴンが戦前の遺物である拡声機を用いてそう宣言した。


「よし……行きますわよ皆さん!」


 宣言の後、勢い良く立ち上がり声を上げたのはベルだった。

 気合十分といった形で帽子を深く被り、ベルはそのまま一番乗りでグラウンドへ走り出した。

 それに続いて、残りの選手が同時にグラウンドへと駆けて行く。


「やぁ君達! 今日は良い試合にしよう!」


 グラウンドに整列した相手選手達のキャプテン、マイク・バーンズは朗らかな笑みを浮かべながら右手を差し出した。


「えぇ、以前の様な無様はもう晒しませんわ! 良い試合にしましょう!」


 マイクの右手をベルが右手で握り返すと、他の選手達も同様に握手を行った。

 ……管理者の三人以外は。


「一部握手を行わなかった選手がいるようですが……時間となりましたのでこれより試合開始となります! 各選手、礼!」


「「「「「「「「「よろしくおねがいしまーす!」」」」」」」」」


 選手達は深く互いに礼をし合い……客席からの歓声はより大きいものとなるのだった。 




俺がやらかした不祥事が全て丸く収まったので初投稿です。

ランスX未だに一部クリア出来てなくて悲しいなぁ…時間が無限に欲しい

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