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人類ガバガバ保護記   作者: にっしー
北米編
133/207

相手に要注意人物を見かけたら

MD215年 9/29 05:00


 九月末、早朝。

 鳥は目覚めの調べを奏で、世間一般の魔族は眠りに就いている。

 そう、一般の魔族は。


「ちょっと肌寒いですね……」


「この時間に起きるのはまじで辛い」


「…………軟弱な」


 だが2週間後に迫った試合に向けて練習を日々行う彼らにとって、この時間は既に惰眠を貪る時間ではなくなっていた。


「おーっほっほっほっほっほ! 皆さん相変わらず寝ぼけた顔をしていますわね! ですが私、ベル・バスティーユキャプテンは今日もビシバシやりますわよ!」


「そして何回見てもベルの張り切りっぷりが辛い……そんなにキャプテン任命が嬉しかったのか」


「芽衣子、あれは貴女の部下ですね? どうにかしなさい」


「いやー、若者が奮起しとるわけじゃし咎めるのものう」


 未だに肌寒さを感じさせるアメリカの九月。

 そんな中、急遽作られた練習用の仮設グラウンドに6人の選手が集まっていた。

 アレーラ、アデル、石元、ベル、そして……急遽召集された日本を共同で統治する二人、芽衣子と徳川戦。

 彼女達は半円の形を作りながら、一人中央で熱く気概を語っているベルについてひそひそと話し合っていた。


「さぁ皆さん! 今日もベスボルの星目指して走りこみからですわよー! ベッスボッル最高でっすっわーーー!」


「「「「お、おー……」」」」


 そんな五人を気にもせず、ベルは右手を高々と掲げるとグラウンドの外周を走り始める。

 ベルが走り出した為、五人もまた渋々と右手を上げると後ろを付いて行く様に走り始めるのだった。


「おーおー、朝からよくやる……ふぁ~あ」


 そんな彼らをグラウンドの奥に設置された休憩所から見つめる、定点カメラがあった。



────────────────────────────────────────


「皆ちゃんと練習してるみたいだね、感心感心」


「あのおっぱい、地位与えられると奮起するタイプだって良く見抜いたな」


「伊達に君達の管理はやってないからね、素質を見抜くのも人事係の仕事だよ」


「なぁ、お前今動物と同類みたいな扱いされたぜ?」


「バーカ、そりゃお前の事だろ山坂」


「オイオイオイ、自覚無いわこいつ」


「は? 死にたいのか?」


 ベル達が特訓を開始したのと同刻、管理者達三人が集まるエクィローのメインルーム。

 そこではいつもの取っ組み合いが始まろうとしていた。

 そんな二人に永村はかぶりを振り、溜息を付くと二人の間に割って入る。


「ところで君達、予定してる装備と人員の準備はどうなってるの?」


「問題ない、試合までには量産までいけるだろう」


「こっちもだ、あいつの調律は昨日からだが試合までには間に合わせる」


 永村は二人の答えに満足げに頷き、右手を目の前に上げると人差し指を上から下に降ろし、空中にウィンドウを展開した。


「二人とも問題ないんなら次は私の番だね、まずはこれを見て欲しい」


 何処となく高級さを漂わせる木製のテーブルを囲みながら、田崎と山坂は自らの前に現れたウィンドウに目を向けた。

 ウィンドウの中には9名ほどの写真が載っており、二人はそれをきょとんとした顔で見ていた。


「何だこいつら?」


「次の標的リストでしょ(名推理)」


「標的……、まぁ間違ってないかな」


「やったぜ。」


「これは次の試合のメンバーだよ」


 山坂の指摘に、当たらずも遠からずと言った反応を返すと永村はそう言った。


「ほー……、こいつ等がねぇ」


 田崎はまじまじと九人のメンバーを見つめる。

 上から下へと視線を移動させていく中、ある魔族で田崎の視線が止まる。


「ん? こいつ等は……」


「その三人……三匹? はゴブリンだね、左から順番に三塁手、二塁手、遊撃手を務めてる。 どうやら兄妹らしい」


「兄妹? え、ってことはこれオスメス混じってるの?」


 山坂は兄妹と言う言葉に反応し、その三人のゴブリンを見比べ、そして唸る。

 どのゴブリンも皆同じ顔をしていて全く違いが見つからない為だ。


「どれも同じじゃね?」


「元は火薬から生まれた連中だからね、私達には同じに見えるんでしょ」


「まぁ外人の顔が同じに見えるようなもんか……」


 そう言って、山坂は再びリストを眺め始める。

 リストには上から三列ずつ顔が並んでおり、左上から順に鷲の頭、竜を模した鋼鉄の頭、金髪白目でその上に天使の輪を持つ顔写真。

 その下の段には先ほどのゴブリン兄妹が。

 更にその下の段には左目に十字に傷を負った猫の頭部と金髪の青年、そして完全に岩としか言い様のない頭部? の写真があった。


「美人がいねぇ……天使ってのはどうしてこう、白目なんだ?」


「人間じゃなくて現象が形を持っただけだからな、所詮人間のパチモンってことなんだろ」


「体は黄金比で出来てて良いんだが、いかんせん顔で抜けないんだよなぁ……」


「お前の性的嗜好はどうでもいいとして、この金属の竜はなんだこれ? 鷲頭はエイヴンだってのは分かるが」


 たわいの無いやり取りをしながら、田崎は上段中央の写真を指差した。

 流線形のフォルムに何処と無く美しさを感じさせながら、しかしその頭部は紛れなく竜と言わざるを得ない形をしていた。


「あぁ……どうやら小型の竜らしい」


「は?」


「へー、竜ってあれだろ? 確かペスが言ってた戦闘機が霊力で変異した奴」


 永村は頷き、竜の画像を触る。

 すると画像は違う動画を再生し始めた。

 それは以前ベル達がやった試合とは別の試合だった。

 その動画の中では対戦相手が放ったホームランが今正に正面スタンドへと吸い込まれようとしているところだった。


「おー、ホームラーン」


 だがそのボールはスタンドに吸い込まれる事は無かった。

 甲高いジェットエンジンの轟音が響くと画面に一瞬何かが映りこみ、そして映像が途切れてしまう。


「……ん? 何だぁ?」


「お分かりいただけただろうか」


「わかんねーよ!」


「それではもう一度スローでご覧いただきましょう……」


 と、どこかのホラー番組のナレーションの様なやりとりを交えながらもう一度動画が再生された。

 再びホームランボールがスタンドまで飛んでいき、あわやホームランという所で動画は急激に遅くなる。

 ゆっくりとゆっくりとボールが飛んで行き……それは現れた。

 ドラゴン。

 鋼鉄の肉体を持ち、流れる血はジェット燃料、放つ炎はミサイル。

 かつて人類の兵器であったそれは、今センターを守る野球の守護者としてアメリカに存在していた。


「ドラゴンか」


「かっけぇ!!!!」


 ドラゴンは戦闘機の形に変形し、高速で飛びながら頭部に備え付けられたグラブでホームランボールを捕らえていた。

 そして、そのまま飛び去っていったのだ。

 

「およそマッハ2で飛んでると数値の上では出た、この選手は正直要注意だと私は思う」


「ありゃー僕が昔作ったE-3型だな、僕が作った兵器がドラゴンになるとか滅茶苦茶胸熱なんじゃが」


「またお前の作った兵器か……お前が生まれない方が人類にとって良かったんじゃね」


「それは僕を作った親に言え、生まれたいなんて言った覚えは無い」


 キラキラと輝いていた笑顔に田崎が水を差す。

 一気に不機嫌そうな顔と雰囲気になる場。


「まぁまぁ、田崎君もあんまり不用意な事言わないの。 とりあえずこのドラゴンは要注意だ、どんなに長打を放ってもスタンドに入る前に取られちゃ意味が無い」


「ふん、あれに関しての対策は僕がしてやるよ。 どうせ田崎にゃ無理だろうからな」


「……ふん」


「とりあえずライトセンターレフトは空が飛べる魔族で構成してるらしい、天使にも注意はする必要がありそうだ」


 自らの逆鱗に触れかけた田崎へ、山坂は刺々しく嫌味を述べる。

 田崎は一瞬言い返しそうになるが、一回の嫌味には一回の嫌味を返されるべきという信念の元それを流した。

 そんな二人に永村はやれやれとかぶりを振り、話を元に戻す。


「天使ねぇ……なぁ、もう一回言うけど武力衝突じゃ駄目なのか? アメリカを覆ってる法魔法なんて大陸ごと赤の太陽で焼き尽くせばいいだろ」


「それをやったら誰がアメリカ大陸の整地やこの後に控えてるオーストラリアや中国と戦うんだい? ロシアだってまだ残ってるのに」


「えー、じゃあソーレン共をだな……」


「それも前に言ったけど、法魔法の下じゃ幾ら強い兵器だって蟻みたいな弱さになる、天使という名の象の群れに蟻の群れが挑んだって勝てるわけないでしょ」


「むぐぐ……ひ、一人の犠牲も出さないでアメリカを統治だなんてそんな……理不尽だー!」


 山坂は完全に論破され、机に突っ伏すと駄々をこね始める。


「次の機会に暴れりゃいいだろ……」


「だね」


「やーだー! こーろーしーたーいーー!」


 玩具をねだる子供のように、山坂は椅子から転げ落ちると地面の上で駄々を更に強くこね始める。

 そんな山坂に二人は顔を見合わせると同時にかぶりを振り、溜息を吐いた。


「とりあえず今日はここまでにしておこう」


「……だな」


「選手のデータは二人に送っておくからしっかり見ておいてよ、君等も試合に参加するんだから」


「へいへい、とは言っても戦前の野球選手の動きをトレースするだけで試合気分を味わうだけな気はするがな」


「ま、それでも気分転換にはなるでしょ」


「違いない」


 そう言って、二人は同時に席を立つと駄々をこねる山坂を放置して別々に部屋から退出していく。

 そしてメインルームには、この後一時間くらい泣き喚く山坂が残るのみだった。



────────────────────────────────────────


 そして月日は流れ……十月十四日。

 晴天。

 ついに、試合が始まる。



久しぶりに延期しないで投稿したので初投稿です。

未だにランスの1部が終わらなくてこれは…一年遊べる…

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