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人類ガバガバ保護記   作者: にっしー
北米編
130/207

別の戦いが始まったら

MD215年 9/19 13:53


「と、頭領と戦う!?」


「はい」


「どうしてですの? 私達はこのアメリガについて調べ、後続の者達が安全にこの国へ来られるようにする為に居ます。 そんな大仰な事は仕事の内ではありませんわ」


「ベル士長、貴女の仰っている事は正論です、それ故に貴女はやはり頭領と戦わなければなりません」


「ですからどうして──!」


 戦闘が終わり、再び沈黙を取り戻した廃墟の街に二人の声が響き渡る。

 一人はベル、もう一人は石元の。

 二人が口論を白熱させようとした時、一人の女性から静々と手が挙がった。


「あのぉ、すみません……ちょっといいですか?」


「どうぞ」


「実はお腹が空いてですね……話し合いは少し休んでからにしませんか?」


 アレーラの言葉と同時に、彼女の腹の虫が鳴き始める。

 ベルと石元は目を丸くさせた後に向かい合う。

 

「そうですわね、折角アデルさんが私達を助けてくれたのですから……少し休んで、依頼された宝石を捜してから! このお話の続きをしましょうか」


「仕方ありません、事を急いては仕損じるとも申します」


「それでよろしいですわね? アデルさ……」


「Zzz……」


 ベルが後ろを振り返ると、アデルは寝ていた。

 とても幸福そうなその寝顔に、ベルの眉間に皺が寄った。


「ちょっとアデルさん!?」


「ま、まぁまぁ……さっきの戦いで疲れてたんですよきっと」


「暢気な人です」


「Z……z……z……」


「そしてこちらの生首も暢気なものです」


 石元は、アデルの横で眠る吸血鬼の生首を冷徹な目で眺めるとそのままアレーラ達へ背を向けた。


「では、周囲の哨戒を行ってきます。 ごゆっくりお休み下さい」


 そうして、石元は右手の掌からアンカーをビルの壁面へ向かって射出し、映画のワイヤーアクションさながらに移動していった。


「……久しぶりに見ましたけど、相変わらず気持ちよさそうな移動方法ですわね」


「うーん……気持ちよさそうですか? 私はあれはちょっと……怖いです」


 アレーラの答えに、ベルは顎に手を当て少し考えて見た。


「いやーーーー! 助けてくださいーーーー!」


 と言って、空中にぶら下がるアレーラの姿を想像しベルは頷く。


「確かにアレーラさんにはちょっと難しそうですわね」


「……何か今不名誉な事を想像された気がします」


「おーっほっほっほっほ! 気のせいですわよ!」


「んもう、私だってやる時はやるんですからね!」


「ふふっ、知ってますわよ。 さぁ、それじゃあ簡易キャンプでも作りましょう。 アデルさんを起こしておいて下さいアレーラ、私も少し周囲を見てきますわ」


「あっ、はい! あまり遠くに行き過ぎないでくださいね!」


 ベルは笑みをアレーラに返すと軽く右手を上げ、自分達が集まっているビルの周囲を散策しに行く。

 彼女の長い金髪から見え隠れする肌は、まだ多少の傷が残っていたが……。

 アレーラにはやはり頼れる親友の背中として見えていた。


「さ、私も頑張らないと! アデルさーん! キャンプの準備しますよ! 起きてくださーーーーい!」


「Zzz……あ、後二時間……」


「イツカーも……」


「駄目です! 起きてくださーい!!」


「「ぐえー!」」


 その後、廃墟都市に二人の乾いた叫びが木霊した。


────────────────────────────────────────


「ごほんっ、えー……それではこれから第一回目の今後の方針についての話し合いを行いたいと思います」


「わー」


「パチパチパチパチ」


「ネムーイ」


「良い結果を期待します」


 壁が大きく崩れ、内部が露出したビルの中で焚き火を囲みながらベルは立ち上がると開幕の言葉を告げた。

 すると皆思い思いの反応を返し、ベルの次の言葉を待った。


「皆さんらしい反応ありがとうございます、それではまず現状の把握からですが……アデルさん?」


「ん?」


「貴方、実際今までの所何をしていましたの? というか、どうしてここに?」


「あー、いやぁ……」


 突然話題を振られ、困ったような顔をするアデル。


「なんだ、最初は山坂の奴に行って来いと言われたというか……」


「山坂? あぁ、あの……下品な男ですわね」


 山坂、という単語にベル、そしてアレーラの顔が少し鬱屈としたものになる。


「あぁ、その山坂だ。 そいつが……まぁ色々手助けしてくれてな、こっちに来れるようになったからお前達を助けに来た」


「あの男が協力をしたというのは聊か引っかかりますが……まぁいいでしょう、ではその石元さんとは何処で?」


「それは私がお答えしましょう」


 山坂の協力という言葉に懐疑的な表情を見せるベルに、石元は体育座りの姿勢で自ら手を上げる。


「彼とは監獄を出た直後に出会いました」


「監獄?」


「はい、貴方達が以前入れられていた監獄です。 彼は貴方達と入れ違いで収監されました」


「ばっ……! お、お前……!」


 石元のカミングアウトにアデルは口を塞ごうと飛び掛るが、石元は即座に天井のコンクリートにアンカーを射出し天井へ避難する。

 そしてそのまま、アデルは石元と入れ違いで結構な勢いで地面に激突する。


「いってぇ!」


「その後アデルは貴女方と同様にこの国の国技とも呼べるベスボルにて勝利し釈放、後に私が接触しました」


「成る程……では私達の居場所はどうやって?」


「私はある程度狙った人物の痕跡を追跡できるのです、それを使用しました」


「便利ですわね……その機能を使って、そこの兎も捕まえましたの?」


 石元は頷くと、焚き火の周囲に刺さった棒をワイヤーに巻き付けると引き寄せた。

 棒の先には兎の肉で作ったつくねが良く焼けており、香ばしい匂いを周囲に漂わせた。

 その匂いに真っ先に釣られたのは、顔面を強く打ちつけアレーラに治療されているアデルだった。

 石元は無表情のまま、棒をアデルに差し出し、アデルはそれを喜んで受け取ると一気に頬張る。


「さて、それではそろそろ本題に入っていただいても?」


「……えぇ、構いませんわ。 先ほどの頭領と戦ってもらうということですが、どういう意図からですの?」


「ご説明しましょう、貴方達の痕跡を追っている内にこの国についてある程度調査を行いました。 既にご存知かとは思いますが、この国はある行為によって善悪や勝敗、他にも色々な事を決定しています」


「えーっと、それってベスボルの事ですか?」


「はい、この国は通常は設定された法を守るように国全土に法魔法が広がっています。 一般的な善悪や罪の所在はその魔法で判断し、重大な瑕疵、あるいはやむをえない事情等法だけでは判断し切れない部分を法廷が管理しています」


「法廷……あぁ、確か一番最初にベルさんと私が連れて行かれた場所ですか?」


「恐らくはそうかと」


 少し考え込む素振りをし、アレーラが問いかける。

 その問いかけに確定ではないが、と付け加えながらも石元は頷く。


「話を続けましょう。 最終的に法廷が認めた、あるいは法魔法の使いである天使が認めた場合に限り……ベスボルで最終的な勝敗を決めるという慣わしになっています」


「その、この国の慣わしと私達が頭領と戦うということに何の関連性がありますの?」


「重要なのはここからです、この国ではベスボルは何故か神聖な行為でありながらも国民に親しまれるものでありおよそあらゆる人物がこれに参加出来ます」


「はぁ……」


「ベスボルをする者の中には、当然この国の頭領も含まれます。 そして……この国の頭領は──」


「ベスボル、で、決める」


 石元の言葉に割って入った女性の声に、アデル以外の全員の注目が集まる。

 その視線の先には、うっすらと目を明ける生首が居た。


「頭領、ベスボル、一番強い奴がなる」


「……その通りです、そしてその権利はこの国に居る人物なら誰でも持ちえるのです」


「成る程~、じゃあ誰かが怪我する様な戦いとかはしなくてもいいってことですね? あれ? でも確か……」


「いやいやいや! ちょっと待ってください、誰でも持ちえるって私達にベスボルでこの国で一番強い相手に勝てってことですの!?」


「直接の戦いを行うよりはマシかと、もし直接の戦闘で支配権を確立しようとする場合はこの国全体を守る法そのものが敵になります、勝ち目は無いかと」


 腕で大きな×印を作り、ベルが止める。

 だが石元は冷静にこの国に掛かっている法魔法の強大さ、そしてその体言であると言っても過言ではない天使達について説明をした。

 法魔法を犯した者は、無尽蔵に湧き出る天使達によって討伐されるのだと。

 そして、それを解除出来るのは頭領のみであると。


「し、しかしですわね……やると言っても人数が大幅に足りませんわよ? ベスボルには後5人必要で……」


「大丈夫です、既に現地で最強と呼ばれるプレイヤー数名に金子を渡しておきました」


「準備いいですわねぇ!?」


「はい、ですので後は貴方達がやる気を出すだけです」


 石元は人差し指と親指を丸め、金マークを作る。


「う、うーん……まぁ確かに無為な殺生を行わないという点では良いですが。 アレーラさんはどう思います?」


「はい、はい……なるほど…………え? あ、はい?」


 いつの間にか、イツカーと内緒話をしていたアレーラは不意に話しかけられたことできょとんとした顔をベルへ向ける。


「んもう、大事な話をしている時に違う話はいけませんわよ? アデルさんも、食事に夢中にならない!」


「んぐっ!」


「これは助言ですが、もし貴方達がここで戦わない場合は本国から人員が輸送され……武力衝突となるでしょう、その場合の被害は──」


「計り知れませんわね、逆に私達が勝負を挑めば少なくともそれは起こらない」


「そうなります、どうか賢明なご判断を」


 石元の冷静な言葉に、一同は沈黙に包まれる。

 その静寂を破ったのはアデルだった。


「やってもいいんじゃねーか?」


 先ほどまで口に咥えていた棒を焚き火にくべると、右目を瞑りながら頭を掻き始める。


「どっちにしろ戦わなきゃいけないってんなら、後悔が少ない方を俺は選びたい」


「アデルさん……」


「わ、私も傷つく人が少ない方を選びたいです、少なくとも誰かを傷つけたり、傷つけられたりはしなさそうですし……」


「イツカー、も、賛成」


「ベル、貴女以外は賛成のようですが」


 アレーラも静々と手を上げ、イツカーも賛成の声を上げる。

 その二人の様子に石元は追い討ちと言わんばかりにベルの決断を促す。


「んもう、仕方ありませんわね……皆さんが良いのなら私も構いませんわ、正直勝算はどちらも低そうですけどベスボルなら死人は出なさそうですし」


「決まりですね」


「だな、そうと決まれば早速もっと飯を食って力を付けてだな……」


「アデルさんは食べすぎです!」


「同感、赤毛、食べすぎ」


「いいだろ別に、育ち盛りなんだよ!」


 一同は明るい笑いに包まれる。

 焚き火を囲み、癒される空間がそこに形成されていた。

 だが石元だけは笑みを浮かべていなかった。


「死人が出ない……果たして本当にそうでしょうか」


 そんな呟きは、周囲の笑い声で誰にも聞こえる事は無かった。



なんだかんだ投稿できたので初投稿です。

投稿が遅れてすまぬすまぬ・・


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