市長に会いに行ったら
MD215年 4月23日 PM14:25
「で、この街は北区、南区、東区、西区の四つの区で別れててその中央区って呼ばれる所に市庁舎がある、分かった?」
アデルはアレーラを連れ、元居た南区の詰め所から北にある市庁舎へと向かっていた。
今歩いている通りには元は立派な建物だったであろう、最終戦争前の建物が幾つか建っておりその建物の前にはナーガやゴブリン、人間等が客寄せの為に声を張り上げていた。
「んで俺たちが今居るのも南区で、此処は南区大通りって言うわけ。」
「はー……流石に大きな街は違いますね…それにしても、凄い人で…きゃっ!す、すみません!」
アデルの少し後ろを人ごみを避けながら追っていたアレーラだが避けきれずぶつかってしまう、相手はアレーラの謝罪を無視してそのまま歩き去ってしまう。
アレーラはぶつかった相手がそのまま通り過ぎてしまったことに唖然としていた。
「え、あの…え?」
アデルは立ち止まりアレーラへ振り返り、アレーラに対して笑った。
「ははは、まあこれがサツホロって街だ、人が多すぎて一々ぶつかったことに対して気にする奴なんて居ないんだよ。」
「っと、それより大丈夫か?」
「あ、はい…大丈夫です。」
「そうですか、何か…寂しい感じがしますね、人との繋がりが薄い感じがして。」
「そうかぁ?俺はむしろあんまり他人と関わらなくていい感じだと思うんだけどなぁ…まあ人それぞれの考えだな!」
「しかしそんなんじゃ此処に馴染むのは大分掛かりそうだな。」
「…さっさと村に戻れるといいな、お前。」
「…はい!」
アデルはそう言うと両腕を頭の後ろに回してまた再び歩き始め、アレーラもそれに続いた。
「ハルダ、ハルダはいらないかー?それじゃあこっちの最近見つかった地下道の地図とかは?透明薬の瓶、すんげぇ珍しい……。」
南区大通には商店の客引きの声がまた響き始めていた。
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「ふぅ…ようやく執務も終わりが見えてきたか…面倒よな……誰ぞ代わって……」
市庁舎の19階、執務室にて下半身は真っ白な鱗で覆われた蛇、上半身は人間…一般的にナーガと呼ばれる女性が高級そうな椅子に座り書類と睨めっこをしていた。
その女性は周囲をちらりと見、出入り口を固める護衛の男を見ると諦めた顔をして再び書類を見始めた。
「くれぬよなぁ……あー!面倒じゃなぁ!でもなー…これやらぬと後々響くからのう…」
その時部屋に扉をノックする音が響き、ガチャっと扉を開く音が聞こえる。
ナーガの女性は書類と睨めっこをしながら横目でチラチラ盗み見を始めた。
入り口から別の男が入ってきて、最初に居た護衛とこそこそと何かを話し合っている。
「…長に面…を求……女が…」
「…会?…の予定……追…返せ…!」
(ほう…?)
女性はにやりと口元を歪めると護衛に「何かあったかえ?」と問う。
「いえ…何も、そのまま執務をお続けください、市長。」
護衛の男は短く答え、報告に来た男へ何かしらの指示を出し扉を閉めた。
「ぬふふふ…お主も嘘が下手よの、いかんぞ?儂に隠し事などと…。」
と市長と呼ばれたそのナーガの女性が答えると、ヴヴヴという羽音のような物が聞こえてくる。
「誰ぞ儂に会いに来ておるらしいの?こりゃー市長としては会いに行くしかないの?仕事じゃしのー、いやー執務もやりたいんじゃがなー。」
「かーっ、面会ならしょうがないのー!」
と言いながら市長は椅子から降り、窓へと近づいていく。
「市長…!いけません、まだ執務が!それに面会を求めてきているのは何処の馬の骨とも知れぬ輩で…!」
「ぬふふ、やはり誰か来ておったか。」
そう言うと市長は窓を開け──。
「では少々出かけてくるでの、本日の業務はこれにて終了じゃ!」
窓から身を乗り出し、落ちていった。
「市長!!」
と護衛の男が窓へと駆け寄ると、ヴーーーンという羽音と共に羽の生えた黒い蟻に乗った市長の姿が眼下に見えた。
「ではすまぬが任せるぞーエンリコー!恨むなら儂に興味を持たせるような言動をしたお主を恨むんじゃなー!」
市長が手綱を握り、動かすと蟻はその意思を汲んだかのように市庁舎の一階へと降りていった。
「………はぁ。」
執務室にはエンリコと呼ばれた男だけが残り、溜息をつくばかりだった。
暇つぶしで書いているので投稿ペースは不定期です
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