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人類ガバガバ保護記   作者: にっしー
北米編
129/207

斥候と合流したら

MD215年 9/19 13:31


 廃棄された都市を石元が駆ける。

 かつて人類が繁栄を極めていた頃に首都近郊に作られた巨大な商業用の都市。

 人が住んでいた頃は栄華を誇っていた場所は、今は蔦と苔、そしてそんな場所に一攫千金と勇んできた者達の死体が都市を彩っていた。


「はぁ、はぁ……ここまで来れば、大丈夫でしょうか」


 女は両肩に一人ずつ抱えていた女性を地面へ降ろすと、後方に立つ9階建てのビルへと振り返った。

 

「おげー、イツカー、気持ち悪い」


「?」


 背を地面に着くように下ろした女性の下、地面に程近い所からそんな悲鳴が聞こえる。

 悲鳴を疑問に思った石元が、未だ気を失っているアレーラの体を横倒しにする。

 するとその下に白髪の生首が目を×にしながら呻いていた。


「……喋る生首とはまた面妖な」


 アレーラが背中に括り付けていたイツカーを取り外すと、ネットの中に入ったイツカーを顔の前に近づけまじまじと観察する石元。

 白髪に整った顔、両の瞳は別々の色をしており右は黒で左は緑。

 そして本来喉があったであろう部分からは包帯が血まみれで巻かれていた。

 そんな状態であるというのに、この生首はまだ生きているのだ。

 石元にはそれが不思議でしょうがなかった。


「今はこんなものに関わっている場合ではない……!」


 少しの間興味深そうにイツカーを見ていた石元だったが、背後から感じた霊力の高まりに態度を急変させる。

 右手に青の霊力を集めると、石元は地面に右手を当てる。 

 そして腰にぶら下げていた金色のランタンを左手で持つと、ランタンの内部に灯が点る。


「魔術師に必要な物を与えたまえ──其は全てを否定する者」


 短い詠唱を終えると、石元が手を置いていた位置からおよそ半径5メートルの円が現れる。

 それは青と黒を纏いながらドーム状に彼女達を包んで行く。


「──────っ!」


 壁を作り終えると、直ぐにそれは訪れた。

 強烈な突風。

 そして風が巻き上げた石や砂、はたまた人骨や廃車部品などが石元目掛けて飛んで行く。

 竜巻を思わせる暴力的なそれらは直撃すれば怪我ではすまないだろう。

 だがそれらは石元を傷つける事は無かった。


「目の当たりにするのは二度目ですが……相変わらず大した威力です」


「否定の壁、霊力容量マナコスト、不適正」


「生きていましたか……その状態で喋れると言うのは中々に興味が沸きます」


 石元は地面に手を当てたまま、顔を後ろへ向けた。

 そこにはイツカーが地面から30センチほどの高さに浮いたまま、石元が作り出した壁を見ていた。

 視線の先にある壁は、正面から迫るあらゆるものをドームに添って弾き続けていた。


「ともあれ、感謝、助かった」


「マスターの命令を実行した結果に過ぎません、感謝は不要かと」


 石元はそう言うと、地面から手を離し壁を消した。

 そうして立ち上がると、彼女は先ほど出てきたビルへと目線を戻した。

 ……先ほど彼女達が居たビルの三階は、窓ガラスが全て割れ、横一文字に綺麗な切断面が見て取れた。

 その切断面からは煙が上がり、かなりの高温を持って切り裂かれたのだろうということが一般の人間が見ても理解できるだろう。


「青黒緑……、白の霊力、何処から出した?」


 石元がランタンを腰に結び直していると、そんな質問がイツカーから飛び出した。

 

「中々目ざといですね、私の魔術の色を見る人物……いえ、生首とは初めて出会いました。 最も喋る生首自体が初めてですが」


「イツカーも、サイボーグ、久しぶり」


「……サイボーグ? 私の事ですか?」


「そう、生身から機械へ、変わった存在」


 イツカーは何時に無く真剣な顔で、石元を見つめた。

 それは石元を心配するようにも、嫌悪するようにも見えた。


「…………誰がお前を改造した?」


「答える必要はありません」


 そんな心配をばっさりと斬って捨て、石元はアレーラとベルへと近づくと再び担ぎ上げる。


「千年前の技術を悪用する者は、許されない」


「そうですか、あなたの定義する悪と私の定義は違うらしいので話はここまでですね」


 冷めた表情でそう言いきると、石元はビルの方へ歩き始める。

 そんな彼女の後ろを、イツカーは複雑な表情で浮きながら付いて行くのだった。


────────────────────────────────────────


「アデルさーーーーん!!」


「おわっ! あ、アレーラ……いきなり情熱的だな」


 暫くして……意識を取り戻した二人は怪我の治療もそこそこに、久しぶりのアデルとの再開を喜んでいた。


「だって……知らない土地で二人っきりで、心細くて……さっきのは本当に死を覚悟したんですよ!?」


「だからって何も抱きつかなくても……羨ま────ごほんっ、はしたないですわよ!」


「いや俺は構わんが……何ならベルもするか?」


「ばっ……馬鹿! どうして私がそんな……もう! 知りませんわ!」


 感動のあまりアデルに抱きついたアレーラをベルが不満そうな顔で諌める。

 アデルはそんなベルを空いている左側に誘うが、ベルは今度は怒り顔でそっぽを向く。

 

「ははは、すまんすまん冗談だ、ほらアレーラも離れろよ、別に俺は消えたりはしねーよ」


「あっ、す、すみません……つい感極まって」


「全く……感情が高ぶると飛び出すのは悪い癖ですわよアレーラ」


 アデルはアレーラを引き離すと、彼女の頭に手を置き、そう諭した。

 そしてひとしきりアレーラの頭を撫でた後、ベルへと向き直り笑みを向ける。


「……アレーラを守ってくれて、ありがとよ」


「友人ですもの、当然ですわ。 ……そして、良く来てくれました。 お待ちしていました」


「あぁ、待たせてすまなかったな」


「ごほんっ! ……感動の再開に水を差すようですまないが、そろそろ切り上げてくれると助かる」


「「「あっ……」」」


 そんな三人の背後で、わざとらしく石元が大きな咳をする。

 すると三人は顔を少し赤らめ、全員同時に顔を俯ける。


「イツカーも、三人の関係に、脱帽」


「全くです、ですが貴方達の関係性が良好なのは今後の計画に大いに寄与する所ではあるので不問としましょう」


「……計画、ですか?」


 そんな三人の関係に石元は少し呆れた態度を取りながらも、そう告げる。


「はい、あなた達にはこれからこのアメリガを征服してもらいます」


「はい? あの、今……何て? 聞き間違いかしら、私には征服と聞こえたのですけれど」


「合っています、征服と言いました」


「え? え??」


 困惑するアレーラとベル。

 そして額に右手を当てながら、やれやれと頭を横に振るアデル。


「あなた達には、頭領と戦っていただきます」


「「は、はいーーー!?」」


 この時に出た二人の声は、今日ビルの中で出した悲鳴よりも大きかった。



今年一家全員が車で事故ったので初投稿です。

新年から不運すぎる…


否定の壁/Wall of Denial


Wall of Denial / 否定の壁 (1)(白)(青)

クリーチャー — 壁(Wall)

防衛、飛行、被覆


0/8


「それは魔術師にとって必要な物を与えてくれる。 ────時間だ。」

 ──アカデミーの魔術師、チョー・レン

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