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人類ガバガバ保護記   作者: にっしー
北米編
126/207

お仕事を請け負ったら


https://www.youtube.com/watch?v=SrbT2oSr0J4

狂った世界

MD215年 9/18 16:20


 街の喧騒が少しずつ小さくなり始める時間。

 街並みは夕暮れに染まり始め、少しずつ肉を焼く香りが漂い始めてくる。

 そんな街の一角にあるビル、その入り口で客引きをする二人の女性が居た。


「ハーイ! 今日はベスボル中継の日よー! 今から入ればチャージ料金とドリンク込み込みで10センド~! ポトマックから釣ってきた魚もあるわよー!」


「向こうのトビーのお店みたいなあくどい商売じゃなくて、こっちはちゃーんと値段通り! 看板娘もこっちの方が可愛い~!」


 女性二人は客を呼び寄せるためか、過激な格好をして街を行く男達へと声を掛けていく。

 数人の武装した男達に客寄せの女性が走り寄り声を掛けると、その扇情的な格好に鼻の下を伸ばし始め……やがて本日の給料として店へと入っていった。


「は~い、団体様ご案内~」


 客寄せのバニーに誘われるまま男達は木製の扉を開ける、内部には幾つかのテーブルとバーカウンターが設置されていた。

 各テーブルには男女が組み合わせで座っており、さながら現代で言うキャバクラを思わせる作りとなっている。


「中々良さそうな店じゃねえか」


 先頭を切って店に入った男の口から、言葉が漏れる。

 店の中はそれほど広くはなかったが小奇麗に纏められており、女性達もそれなりに可愛い女性で固められていた。

 そんな風に感嘆の息を漏らしていると真横から声を掛けられる。


「いらっしゃいませ、お客様。 当店は初めてでいらっしゃいますか?」


 男は突然の声掛けに少しうろたえたが直ぐに体を横に向ける。

 その視線の先には受付カウンターと、その奥にピシッとしたウェイター服に身を包んだショートヘアの女性が立っており、恭しく頭を下げる。

 更に受付嬢の左右には白銀の鎧が立っており、どことなく威圧的な雰囲気を醸し出していた。


「あ、あぁ……そうだな、この店は初めてだ」


「この店は、という事はある程度こういったお店のシステムはご理解されていらっしゃるという事でよろしいでしょうか」


「そうだな、よくある店と同じだろ? テーブルに座って、女の子と話して、飯食って酒を飲んで、金を払う」


 男の答えに満足したのか、ウェイターは満足そうに笑みを作ると再び頭を下げた。

 そして受付机におかれている置かれている小さなベルを鳴らす。


「はい、仰るとおりでございます。 それでは当店プータンズをお楽しみください」


 程なくしてベルの高音が奥の部屋に届いたのか、女性が二名現れる。

 女性達は手際よく男たちの腕に自らの腕と体を絡ませると男たちを席へと案内していった。


「…………いつも入りはこんな感じなんですの?」


 男達が席まで連れられていくのを見送ると、受付嬢はゆっくりと頭を上げた。

 そうして満足そうに客の入りを確認していると、左側の鎧から声が上がった。

 ベルだ。

 

「以前まではこれ位でしたが……最近はそうでもありませんでしたね」


「やっぱりお店を襲ってきてた連中のせいですの?」


「それ以外に原因があるとするなら聞いてみたいものです」


「ですわよねぇ……」


「口には出しませんが、大奥様も貴女方には感謝していると思います」


 受付は視線を動かさず、そう呟いた。

 その言葉には深い感慨と感謝が滲み出ていた様にベルには思えた。


「こちらとしても雇っていただいて感謝していますわ、その……少しいかがわしい場所での仕事ですけど」


「いかがわしいとしても立派な仕事です、アメリガでは女性にできる仕事はそう多くはありませんから」


「……そうなんですの?」


「えぇ、ベスボル関係以外での仕事は天使達が行うかあるいはやらなくてもいい仕事ですから」


 受付嬢は所々が錆付いた懐中時計を取り出すと、男達が入店した時間を紙に記しながらそう答えた。


「ベスボルで勝利すれば罪が帳消しになるこの自由の国アメリガですが……こと仕事に関してそこまで自由ではないのです」


「…………それは」


 その言葉にベルはふと自らが住んでいた札幌を思い出した。

 成金の娘として生まれ、それらしい教養と振る舞いを教え込まれ、家に反発した自分のことを。


「何ていうか──」


 断片的な情報での推測でしかないが、なんとなく彼女達の現状を可哀想考えたベルは、そんな風に言葉を濁しながら何かを言おうとした。

 その時。


「同情は不要です、ベル。 あなた達が何処から来たのかは知りませんし、興味もありませんが……私達はこの生き方に満足しています」


 とても強い、真っ直ぐな瞳をベルは見た。


「ですので、それ以上の言葉は不要です」


「……えぇ、すみません。 出過ぎた言葉を言うところでしたわ、申し訳ありません」


「構いません、あなたが優しいのはこの数日で理解したつもりです」


 その瞳を目にして、ベルは一呼吸置いてからそう言った。

 受付嬢の眼差しはとても綺麗で、芯が通ったものだった。

 彼女達は自分の生き方を恥じていない、誇りにしている、それを一方的に可哀想と決め付け、同情の言葉を言おうとした自らを恥じた。


「えぇ、ありが──」


「ちょっと、何すんのよ!」


「このアマ、何しやがる!」


 ベルが次の言葉を紡ごうとした時、それを上書きするように平手打ちの音が店に響いた。

 先ほど店先で客引きをしていた女性が綺麗な姿勢で男の左頬を打ち抜いていた。


「さて、それでは今日も仕事ですよ。 双方の言い分を聞いて、然るべき処置を」


「えぇ! 任せてなさい!」


 受付嬢はその光景を受付で傍観しながら、横目でベルを見た。

 ベルもまた頷き、兜のバイザー部分を下ろすとドスドスと重低音を出しながら現場へと駆けていった。


────────────────────────────────────────


「で……結局全員制圧したけど壁や床、天井に大穴空けちゃったんですか?」


「うぅ……面目次第もありませんわ」


 ベルはコンクリートの瓦礫の上にうずくまりながら、酷く申し訳なさそうな顔でそう答えた。

 そんなベルにアレーラは周囲を警戒しながら、掲げていた杖を降ろし励ましの言葉を放った。


「まぁまぁ、たまにはそういうミスもありますから」


「とはいえ折角お婆様に雇っていただいたのにこのままでは私だけでなくアレーラさんまで……」


「だ、大丈夫ですよ、大奥さんはちょっと怒ると怖いですけど頑張りを評価してくれる人だって聞いてますし!」


「そうだと良いのですけど……はぁ、困りましたわ、ただでさえこのアメリガで使えるお金が無いと言うのに負債まで背負うだなんて……」


「しゃ、借金も奥にある遺物アーティファクトを回収すれば負わなくてすみますから、頑張りましょうベルさん!」


「はぁ…………人生初負債を負ってしまいますわ、心がぽっきんですわ、優雅じゃありませんわ~~!」


 アレーラはベルを励ますが、ベルは更に気分を落ち込ませていく。

 仕方なくアレーラはベルから目線を逸らし、周囲の状況を把握して行く。

 崩れ落ちた壁、電気が通らず二度と人を運ぶことは無いエスカレーター、そしてコンパニオン服を着た二体のゴーレム……。


「…………」


 そのゴーレムはどことなく人を模した作りをしており、その瞳は意思の無い眼をアレーラへと向けていた。

 ベルの剣技で吹き飛ばされた腕からは千切れたケーブル類が散乱し、これが確かに人間で無い事を表していた。


「アレーラ、どうした?」


 周囲を眺めるアレーラに、背中に背負った生首……イツカーの呼びかけが届く。

 

「いえ、その……どうしてこのゴーレム達は服を着ているのかなって」


「答え、簡単、奉仕ロボだから」


「ほ、奉仕ロボ?」


「鉄製の奴隷、みたいなもの」


「奴隷、ですか……」


 奴隷と言う言葉に、アレーラは目の前で壊れている二体のゴーレムへ憐憫の情が沸いた。

 アレーラはゆっくりと歩き出し、ゴーレムの目の前で座り込む。


「アレーラ、何、する?」


「……さっきは襲われましたけど、その、このままにしておくのは可哀想だなって」


「無意味、こいつら、意思無い」


「それでも、私はこのゴーレム達を弔ってあげたいです」


「理解不能、だが、優しい」


 イツカーは理解できないと言った顔をしながらも、どこか笑みを浮かべている様に見えた。

 アレーラはそんなイツカーの表情は見えないまま、ゴーレム達の見開かれた瞼をゆっくりと閉じさせると両手を顔の前で組み、黙祷した。


「…………どうか安らかに」


「アレーラ、そろそろ、出立」


「はい、ベルさん! そろそろ行きましょう!」


「うぅ~……しゃ、借金……嫌ですわぁ~」


 二分か三分ほど黙祷を捧げると、イツカーがアレーラへ声を掛ける。

 アレーラはゆっくりと立ち上がると後ろに振り返りベルを呼ぶが……ベルは未だに自分の最悪の未来予想図が拭えずに居た。

 それを見て、不謹慎だが少し笑うアレーラだった。


「それで、目的地まではまだ時間が掛かるんですか?」


「いえ、見取り図によればこの階段を上った先の部屋らしいですけど……」


 十分後、アレーラとベルは気を取り直して廃デパートの中を進んでいた。

 所々が崩落し、外からの光が差し込む以外に内部に明かりは無く、またマネキンなのか案内用ロボットなのか分からない物が幾つも設置され廃デパートの中は不気味な雰囲気でいっぱいだった。

 そんな中ベルは人差し指の先端に白の霊力を集め灯りとし、事前に貰っていた廃デパートの見取り図を見ながら現在位置と照らし合わせていた。


「この先、開けた展示室、ある」


「展示室?」


「戦前、宝石、展示」


「なるほど……つまり今回回収を依頼された遺物はそこってわけですわね?」


「おそらく、たぶん、きっと」


 見取り図を見ながら、赤く×マークが記された場所を確認しベルは見取り図を脇に付けたウェストバッグへ仕舞い込む。


「確証が無いのは人生では当たり前の事、行けば分かりますわよ行けば!」


 そうして、ベルは先陣を切って瓦礫が足場の各所に残ったエスカレーターを上っていく。

 アレーラもまたベルから少し距離を置き、後方の警戒をしながら少しずつ上っていった。

 そろそろ上階が見えると言ったところで、ベルが声を上げた。


「あっ、ありましたわ!」


「ほんとですか!?」


 ベルは声を上げると、ゆっくりと周囲を警戒しながら宝石が展示されている大広間へと進んでいった。

 アレーラもまた吹きぬけに設置されたエスカレーターを上りきり、ゆっくりと大広間の展示場へ近寄っていく。


「わー……す、凄い綺麗ですね」


「えぇ……正直ここまでのは想定してませんでしたわ」


 100㎡程度の広さがある展示場には、大量のガラスケースがあり、中には所狭しと宝石が並べられていた。

 アレーラは直ぐ近くにあったガラスケースを見ると、その中のルビーの輝きに心奪われる。

 

「私、こんな綺麗な物初めて見ました……」


「えぇ、私も実家で少し見た事はありますけど……このレベルのは流石に──」


 ベルもまた、至る所に並ぶ宝石を見て感嘆の声を上げる。

 そんな風に幾つかのガラスケースの周りを見て歩いていると、ふいに爪先が何かを蹴り飛ばした。

 それはカランと軽い音を立てながらアレーラの方へと転がっていく。


「あら、何か蹴ってしまいましたわね。 アレーラさん、怪我とかはしていませんかしら?」


「あ、はい大丈夫ですよベルさん! ……何だろうこれ」


 5メートル先から転がってきた物品を、アレーラは持ち上げ……悲鳴を上げた。


「きゃーーーーーーーーーーっ!!」


「アレーラさん!?」


 ベルは急いでアレーラの元へと駆け寄り、力が抜けていくアレーラの体を支える。

 

「どうしましたの!?」


「あ、あのベルさん……こ、こここれ……!」


「?」


 アレーラは手に取った球体を床に落とし、指を指した。

 ベルが不思議そうな顔をして覗き込む。

 

「人骨? いえ、これは……魔族の」


「ベル、アレーラ、来る」


「はい?」


「! アレーラさん、罠です!」


 イツカーの言葉と同時に、ノイズ混じりの声が展示場に響く。


「────侵入者を、確認──排除───警察への──」


 そして、展示場と通路の間をシャッターが塞ぐと展示場の床から20体ほどのゴーレムが競りあがってきた。

 それは先ほどベル達が倒したコンパニオン型ではなく……戦闘用のものだった。



新年初投稿です。

すいません、新年だからってサボってました!許してください!挿絵完成したから!


鋼の防衛者  ④


3/3


こいつは傑作だ、何せ錆びるってことが無い、一万年だって動くぞ!

──開発者の言葉

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