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人類ガバガバ保護記   作者: にっしー
北米編
121/207

孤立無援になったら

https://www.youtube.com/watch?v=BGJH2d8S3Q0

異世界へ

MD215年 9/10 18:09


 荒野に風が吹き荒れる。

 風は風化しつつあるコンクリートで出来た道路の上を滑るように駆け抜け、でこぼこ道を歩く二人の外套へ強く吹いた。


「きゃっ……!」


 外套が下から上へめくれあがり、アレーラは悲鳴を上げる。

 アレーラの少し前方を歩いていたベルが、悲鳴で心配そうに振り向く。


「アレーラさん?」


「あ、すみません……ちょっと風に驚いちゃって」


「そうですわね、陽が落ちてきましたし……何処か休める場所を探しませんと」


 ベルは空を見上げ、六つの太陽が徐々に沈みつつあるのを確認する。

 そして周囲を見回し何処かに休める場所が無いかと探し回る。

 だが周りには朽ちた道路と錆びた線路、そしてまばらに木々が生えているだけで家どころか人っ子一人見つからなかった。


「こんな事ならあそこでマイコウ達と別れるんじゃなかったですわね」


「仕方ないですよ……だってあの時──」


────────────────────────────────────────


「それじゃあ行きましょう! 新たなる門出ですわー! おーっほっほっほっほ!」


「ポーウ!」


「え? チームメイトの皆さん、バラバラに帰っちゃうんですか?」


「ポーウ!!」


「へー……そうなんですか、家族の方達が迎えに……分かりました、それじゃあお元気で!」


「ポーウ!」


────────────────────────────────────────


「って感じで一緒に付いて行っても良いですか、なんて聞ける雰囲気じゃありませんでしたし」


「一応大きな街への行き方は聞きましたけど……正直どの位で着くのかも分かりませんし、もしかして私達もっと準備するべきだったのではないかしら」


「…………」


「…………」


 ベルの言葉に、二人は無言になる。

 そしてそんな二人の間に再び強い風が吹き、二人は身震いする。


「と、とりあえず本当に何処か休める場所を探しませんと」


「そうですね……とりあえず道をもう少し進んで見ますか? それ以外に当てもありませんし」


「そうしましょうか、これ以上寒くなってきたら最悪は野宿ですわね」


 ベルはそう言うとアレーラへ歩調を合わせ、自らの外套をアレーラへと覆い被せ歩き始めた。


「べ、ベルさん?」


「こうすれば、少しは暖かいでしょう?」


「でも、そんなそれだとベルさんが」


「構いませんわ私寒さには強い性質ですから、さぁ! お互いに凍えてしまわない内に建物を見つけませんと」


 突然の行動にアレーラはマントを返そうとするが、ベルはそれを断ると再び前方へ歩み出た。

 その時に見えた彼女の横顔は、アレーラにはひどく美しく見えた。

 

「しっかし寒いですわねぇ、サツホロに居たときもそうでしたけどこっちは何ていうか……色々違いますわね」


「サツホロとは別の場所ですからね、でもここに住んでる人たちは皆さん良い人が多そうでした」


「そうですわね、モハメドも結局最後は握手に応じてくれましたし……これ以上何か調べる事ってあるのかしら」


 マントをアレーラへと二重に渡したベルは、少し寒そうにしながら前方の索敵を行う。

 そんな中で二人の話題に上るのは監獄で出会った囚人達の事だった。

 確かに荒くれ者は多かったが、決して話の分からない相手ではなくむしろこちらの意を汲み行動を共にしてくれる事も多かった彼ら。

 そんな彼らのことを思い返し、ここへ送り込まれた理由をベルは思い出していた。

 現地調査。


「現地調査って言っても……後は精々大きい街のある場所とかを調べるだけでしょう?」


「と思いますけど……あっ、そういえば」


「どうかしましたの?」


 突然何かを思い出し立ち止まるアレーラに、ベルもまた振り替える。

 アレーラは腰に掛けた布製の鞄をごそごそと漁ると一枚の書状を取り出した。

 書状には封と一文字だけ書かれている。


「何ですの? その書状は」


「はい、ペスさんがもし私に何かあったらこの紙を開けってあの乗り物に乗せられる前に渡してくれたんです」


「私は貰ってませんわね……とりあえず現状大して困ってませんけど気晴らしに開けて見ましょう!」


 ベルは目を輝かせ、紙を破る事を提案する。


「別に良いですけど……なんでそんなに興奮してるんですか?」


「私何となく開けてはいけないとか書かれたものを見ると開けたくなりますの! さっ、速く!」


「は、はぁい……いつもは良い人なのにたまに変ですよねぇベルさん」


 目を輝かせながらベルはアレーラの元へと走りより、両手を上下に振りながら封を切ることを迫る。

 そんなベルに少し引きながらもアレーラは書状を開く。


「あぁ~……封が切れていく瞬間、たまりませんわ!」


「えぇ……」


「それでそれで? 何て書いてありましたの?」


「えーっと、今読みますね」


 書状を開き、折状になった紙を開いていく。

 そこには達筆な文字でこう書いてあった。


「諦めが肝心……」


「はい?」


「諦めが肝心って書いてあります」


「…………はい? ちょ、ちょっとお貸しになってもらえますこと?」


 ベルはそう言うと、目を丸くしながらアレーラから書状を借り受けた。

 そしてそこには彼女が言った事がそのまま書かれていた。

 白紙の紙の真ん中に堂々と、諦めが肝心と。


「きーーーーーーっ!! な、何なんですのこの書状は!!」


「べ、ベルさん落ち着いて!」


「人を馬鹿にした書状を持たせて……馬鹿にしてますわ馬鹿にしてますわ馬鹿にしてますわ!!!」


「落ち着いてくださいーー!」


「一体誰ですの、こんな馬鹿げた内容を記したのは!!」


 ベルは血走った目で紙を力強く掴みながら、文章の左下に目をやった。

 そこには達筆な文字でいつもの男の名前が書かれていた。

 山坂憲章。

 その名前を見た瞬間、ベルは即座に書状を破り捨てた。


「べ、ベルさん?」


「……私とした事が時間と体力を無駄にしましたわ、さっさと先に進みますわよ!」


「あははは……」


 書状をビリビリに破くと、ベルは大股で歩きながら進んでいく。

 アレーラはそんなベルを困った顔で追いかけていった。

 そうこうしている内に二人はかなりの距離を進んでいた

 辺りは完全に陽が沈み、周囲は完全な夜になっていく。


「……不味いですわね、陽が沈みますわ」


「ど、どうしましょう……安全そうな建物も見つかりませんし」


「仕方ありませんわね、野宿をしましょう」


「しかないですよねぇ……」


 アレーラは目尻にうっすらと涙を浮かべながら、気落ちした顔をする。

 だがベルは直ぐに両手を三度打ち鳴らすと、アレーラへと的確に指示を下した。


「はいはい、落ち込まない! まずは枯れ木を拾う! 野宿は道の真ん中で行いましょう、見晴らしもいいですからね」


「はーい」


「よろしい、では枯れ木を探しますわよ!」


 ベルはそう言うと、壊れた道路の道から外れていき周囲の森の中へと分け入っていく。

 アレーラは夜になってしまった事に少し不安を覚えつつも、彼女の後を着いていきながら枯れ木を拾っていった。

 ベルもまた森の中へと入ると、食物になりそうなものを探し回り……彼女達が野営を開始できたのは結局夜の八時になってからだった。

 陽は完全に沈んでいた。


「ほ、ほんとにこれ食べるんですか……?」


「中々クリーミーで美味しいですわよ? 芋虫」


「その見た目からは想像も出来ない味ですね……」


 火を囲み、朽ちた道路に出来ていた二人がすっぽり隠れる窪みの中で火を起こすと二人はベルが見つけてきた虫や果物を食べていた。

 アレーラは少しずつ小さなベリーを食べるのに対し、ベルは毒々しい色をした太った芋虫を美味そうに食べるのだった。

 アレーラはサツホロから一緒に野営をする度にそれが苦手だった。


「軍人ですからねぇ……最初は抵抗ありましたけど、サツホロは冬は食料が厳しくなるときもありますし」


「私の村だとある程度蓄えを作ってましたけど……軍人さんはそうじゃないんですか?」


「ちゃんとありますわよ、貯蔵された食料。 でもこういう状況になった時に食べられるものを探す技術って言うのは必要ですわよ? 現に今使えてますし」


「それでもやっぱり抵抗ありますよぉ!」


「イツカーもそう思う、虫、悪食」


「ですよね───ってえぇぇ!?」


 アレーラの意見に納得する声に、アレーラは頷きながら振り返り……思わず高速で後ずさった。


「久しぶり、元気、してたか」


「「ぎょえええええええええええ!」」


 肉体から無理やり引きちぎられた様なその生首は、焚き火の前に鎮座すると瞑っていた両目から片目を開きそう言った。

 女子二人は、互いの身を抱き合いながら今日一番の悲鳴を上げた。



────────────────────────────────────────


「あん?」


 エクィロー内部、メインコンピューターが置かれているメインルームに山坂は居た。

 ソファで寝そべりながらいつもの様に漫画を読み、ジュースを飲み干し、時折永村や田崎を罵倒する。

 そんな怠惰な日常を送っているところにそれは届いた。

 メインモニターに一つのメッセージが届いているのだ。


「ちっ……しょうがねぇ」


 山坂は一瞬周囲を見回すが、そこには部屋には彼しか存在せず山坂は気だるそうに立ち上がりモニターの前まで歩いていく。


「全くあの程度のおふざけで切れるとか駄目な奴等だ……なんでこの僕が仕事しないといけないんだよ、全く」


 文句をぶつぶつと呟きながら山坂はそのメッセージを開く。

 メッセージを開封すると、モニターに世界地図が表示され北米大陸のある地点に光点が表示される。

 そこには大きく赤文字で「HELP」と書かれていた。


「……なんだこりゃ」


 山坂はそのメッセージを即座に消すと、再び眠たそうな眼を擦りながらソファへ戻っていった。

 ……暫く彼女達に救援は来ない。

 彼自身が作っていた緊急システムを、彼が忘れていたから。



そろそろ12月なので初投稿です


挿絵(By みてみん)

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