市長に直談判しに行ったら
MD215年 4月23日 PM13:05
陽は高く、詰め所から出た俺達を熱く照らしている。
困った……いきなり士長から田舎娘が立ち直るまで面倒を見ろとか言われちまった、午後からの仕事がなくなったのはいいんだが…。
にしても体の発育はそれなりにいいな、田舎には俺の好みの女は居ないと思っていたがこれは…。
「あの、私に何か?」
と田舎娘に声を掛けられてしまった、どうやら盗み見ていたのがばれていたらしい。
「あー、いや……君があんまり暗い顔してたもんだから心配になって、な。」
「あ、すみません…ご心配をお掛けしたみたいで…それに私に暫く付いててくれるって…本当にすみません。」
と口から出任せの嘘を付いたのだが田舎娘はむしろこちらに謝罪までしてくる、困った…純朴すぎる
これは色んな意味で一人にさせられないな…、チンピラどもにこの子が物理的にも性的にも食い散らかされるのは面白くない。
それに士長から仕事としてこの子の面倒を見るように仰せつかった訳だし…一応自己紹介とかしておくか、旅は道連れあの世行きまで末永くって言うしな。
「そういや自己紹介がまだだったな、俺はアデル・レスディン。」
「一応軍人だ、階級は二等、まだ自分の蟲も貰ってねぇ下っ端だが宜しく頼む。」
俺がそう言うと田舎娘は俯けていた顔を上げ。
「あ、すみませんまだ自己紹介してませんでしたね…私はアレーラ・クシスです。」
「詰め所で聞いていたと思いますが、オシマンベの村から来ました。」
「宜しく、お願いしますね。」
田舎娘…おっとアレーラか、アレーラは顔をあげ、少しだけ暗い笑顔で俺に自己紹介をした。
「おう、アレーラね…オシマンベの村かー…実は生まれてこの方サツホロを離れたことが無くてどういう村か良く知らないんだよなぁ」
「チリエージョの祭りをやってるっつー話は聞いたことあるんだがそれ以外はさっぱりでな、どういう村なのか教えてくれねーか?」
俺はまず会話のとっかかりとしてアレーラの村について聞いてみることにした、実際そのなんとかいう村については殆ど知らないのだ。
「村について、ですか…?」
「そうですね、オシマンベの村は30人くらいの村で…魔族の人やそうじゃない人も一緒に住んでいて…年に一回お祭りをして…。」
「後は、ご神木様がお祭りの度に村の未来や農作物の育ち方について教えてくれていました。」
「村の皆も困ったことがあったらご神木様に相談したりして…でも、それ以外は本当に何も無い小さな村だったんです…」
アレーラが村について語りだした所までは良かったんだが、最後の辺りになると顔を再び俯け徐々に目じりに涙を浮かべ始めた。
やばい、地雷踏んだ!
「あ、あー…すまん、その、あんまり思い出したくないことだったよな…無神経だった。」
俺が謝罪するとアレーラは顔を横に振り「そんなことないです。」と返すのだった。
「あー…じゃあ、話題を変えよう!俺についてとかこの街についてとか、何でもいい、気になったことを聞いてくれ!明るく行こう明るく!」
「何ならギト士長についてでもいいぞ!」
俺はアレーラの前で手を振り、俺やデンパトウに指を指しアレーラの反応を待った。
「…気になったこと、ですか?それじゃああの…アデルさんがさっき言ってた蟲って何ですか?それとあの此処からでも見える赤い塔みたいなの…。」
「ん?蟲?蟲はそりゃー…蟲だよ、知らない?足が六本生えてて頭にふたつ角みてーなのが生えててー…羽とかも生えてたりするんだけど。」
「まあ蟲についての特徴はいいか…サツホロを守る衛兵は何かに攻め入ったり戦う時は馬じゃなくて蟲使うんだよ、知らない?」
蟲について聞かれた俺は覚えている限りの蟲についての特徴を説明した、うろ覚えではあるが。
その俺の言葉にアレーラは知らない、と頭を振るだけだった。
「ふーむ…まあ最近は蟲使って戦うことも無いからなぁ…っと後はあれについてだっけ?」
蟻について説明した俺は右腕をデンパトウへ向けた。
「あれはデンパトウって呼ばれてる、何に使ってたのかは知らないけど最終戦争前の時代から残ってるって話だ。」
「風の噂じゃあれを使って霊力を汲み上げてるとか市長が力を得てるとか天使への願いを届ける塔だとかって言われてるが…実際の所は何もしてないな。」
「単なるサツホロのシンボルだよ。」
俺がそう説明すると、アレーラは疑問の表情をした。
「シチョウ?それってあの、さっきのギト隊長のことですか?」
「あー…そうか単語が同じだもんなぁ、うちの隊長じゃあない、今言った市長ってのはこのサツホロを治めてる巫女様のことだよ。」
「役職を市長って言うんだ、何で市長なのかは俺も良くは知らない。」
「…あの、その街を治めている市長さん?には…会えませんか?」
「はぁ!?」
とのアレーラの発言に俺は思わず驚きの声を上げてしまう。
「悪いがアレーラそりゃ無理だ、市長ってのはさっきも言ったがこの街を治めてる人だ。」
「俺みたいな下っ端の衛兵やお前みたいな田舎の娘がいきなり来て会えるなんてもんじゃないんだよ、下手すりゃ牢屋行きか蟲の餌か…ってレベルだぜ?」
「でも私、ご神木様が殺される前に言われたんです…市長にこの事を伝えろって。」
アレーラの言葉に俺は思わず俯き、頭を掻く。
「って言われてもなー…市庁舎はガードが硬くて忍び込めるわけでも無いし正面から行っても会わせてくれる訳じゃあ無いんだが…。」
諦めた方が…と言おうとして顔を上げた俺の目には両手を強く握り締め、「お願いします!」と頭を下げるアレーラの姿が映った。
やめてくれよ…俺こういうの弱いんだよ………必死に頭下げながらお願いしますとか言われたら……。
「あー、分かった分かった。しょーがねーなー…市庁舎までは連れて行ってやる。」
「! ほ、ほんとですか!?」
「あぁ、ほんとだ。但し!俺はあくまで市庁舎まで連れて行くだけで会えると確約出来るわけじゃないからな、あくまで連れて行くだけ。」
「そして約束だ、市庁舎まで辿り着いて市長に会えないと分かったらそこで諦めてギト士長が市長へお前が持ってきた連絡を持っていくまでこの街でおとなしく待つこと。」
「面倒見ろとは言われたがトラブル起こしまくるようなのは俺は御免だからな!」
俺はそう言うと何となく恥ずかしくなり顔を横に向け。
「それが守れるなら、一緒に行こう。」
右手を差し出した。
「…はい!宜しくお願いします!」
彼女もまた右手を差し出し、互いに手を握り合った。
初めて触った彼女の手はとても柔らかく、ずっと握っていたいと思うほどだった。
暇つぶしで書いているので投稿ペースはマチマチです
次:市長に会えたら投稿します