自由への闘争が始まったら
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パワプロクンポケット13 逆襲の時!
MD215年 9/10 05:30
囚人の朝は早い。
簡素な鉄パイプのベッドの上で、麻で出来た布団に身を包みながらアレーラは身を捩った。
隣にはもう一つ寝心地の悪そうなベッドが置かれ、その上には金髪の見目麗しく気品を感じさせる女性が眠っていた。
「嫌……ですわ……私……美しい……分かりきった……お……オーッホッホッホッホッホ!」
だが寝言と寝顔には知性を感じさせなかった。
大声で寝言を叫ぶ女性に、隣で寝ていた栗色の髪の女が顔を歪めながら目覚める。
「んん……あぁ、もう……またですかぁベルさぁん……」
「おいうるせーぞアホ女!」
「朝っぱらからうるせーぞ! 黙らせろ!」
独房に響き渡る寝言に、他の囚人達から非難の声が沸きあがる。
女は布団から冬に向かいつつある季節の寒さに震えながら、寝言を叫ぶ女の傍らへと歩み寄った。
「ベルさん……ベルさん……起きてください、ベルさん……」
「オーッホッホッホッホッホ!! オーッホッホッホ……ほ? あら、アレー……ラさん?」
「はい、おはようございますベルさん」
「あ、え……え、えぇ! おはようございます、アレーラさん」
突然起こされ、どういう状況なのかを把握するのに少しベルは戸惑った様だが……とりあえず今が朝であることは把握したらしい。
ベルは自らの顔の真上で、眠そうな表情と困った顔が入り混じるアレーラを見て少し笑いながら朝の挨拶をした。
「……また寝言叫んでましたよ」
「あ、あら……すみませんわねアレーラさん」
だが寝言を指摘され、ベルは顔を真っ赤にしながら恥ずかしそうに言った。
「ま、まぁ……人には良い所も悪いところもあるものですから」
「それ、暗に嫌味言ってません?」
「あはは……」
「とはいえ私が迷惑をお掛けした事は素直に謝罪いたしますわ、アレーラさん」
「あっ、いや! 別に頭を下げさせたかった訳じゃ……!」
ベルはベッドから降りると、アレーラへと向かい合い頭を下げた。
それを見たアレーラは慌ててベルへ頭を上げるように言い、アレーラも頭を下げる。
「すみません!」
「いえ、私の方こそ!」
「いえ私が悪いんです!」
「いいえ! 私ですわ!」
「朝からうるせーって言ってんだろボケ女ども! 胸と一緒で声もでけーのかよ!」
二人は交互に謝り続け……最後には向かいの部屋に居る囚人達からの罵声が響いた。
「五月蝿いとはなんですの! 今は大事な話し合いの最中ですのよ!」
「そうです! 外野は黙っててください!」
「あぁ!? んだとぉこらぁ!」
五月蝿いという声に、二人は同時に頭を上げると向かいの牢屋へ向けて歩き出した。
当然向かいの部屋には到達できず、自室と廊下を遮る鉄格子に阻まれるのだがそんな事も二人はお構いなく吼えたてた。
「やるってんですの!?」
「表出ろおらぁ!」
「上等です! やっちゃいましょう!」
格子の向こう側に居る男も、二人の言葉にすっかりその気になってしまった。
男は血走った目で唾を撒き散らしながら叫ぶ。
そして、その三人の大声に他の囚人もまた目を覚まし始める。
「うるせーぞ毎朝!」
「おっ、またいつものか? 今日はあの巨乳に晩飯掛けるぜ!」
「なら俺はモハメドだ! 負けるなよモハメド! 新入りなんざぶっ飛ばしちまえ!」
早朝だと言うのに、あっという間に監獄の中は熱気に包まれた。
そんな中に不機嫌そうに足音を荒げながら近づいてくる存在があった。
「また貴方達ですか、早朝から騒々しい!」
天使だ。
フルフェイスのアーマーに身を包み、だが背からは確かに白い羽が現れている。
また頭には天使の代名詞とも言える白い輪が浮かんでおり、早朝の監獄に太陽を思わせる明るさを放っていた。
「毎日毎日……これでは全体の調和が乱れるばかりです、また特別労働を増やされたいのですか?」
「下っ端天使は引っ込んでろ!」
「そうですわ! 侮辱されたままなんて引き下がれません、バスティーユの名が泣きます!」
「わ、私も良く分かりませんけど引き下がれません!」
「そうだそうだ! 朝からおもしれー見世物の邪魔するんじゃねぇ!」
「引っ込め天使ー!」
天使はベルと禿げた頭の黒人囚人との間に立つと、二人を諌めようとするがそれは返って二人の怒りに火を点けることとなった。
また周囲の野次も時間を追う毎に増していき、極卒天使は次第に苛立ちを募らせていった。
「ひーっこめ! ひーっこめ!」
「……」
「おーっほっほっほ! お帰りあそばせですわー!」
「…………さい」
「そうだそうだ! 引っ込め……あん?」
「黙りなさい! それ以上の暴言は大天使の名の下に許しませんよ!」
手に持っていた槍を床に強く打ち付けると、天使は囚人達を一喝した。
「貴方達が日ごろの鬱憤を晴らしたいというのは良く分かりました」
「な、なんだ……意外と話が分かるじゃねぇか」
「ですので、ここはアメリガ式の解決方法を取ります」
「アメリガ式……? はっ、ま、まさか……!」
「ベスボルによる解決を行います!!」
天使がベスボルという単語を出した瞬間、囚人達から一斉に歓声が上がった。
「うおおーーーーーーーっっ!!」
「まじか! 久しぶりだなおい!」
「ベスボルやるってこたぁ……勝ったチームにゃ恩赦が出るんだよな!? こっから出れるのか!?」
騒ぎ立てる囚人達に、天使は再び床を槍で突いた。
「静かになさい! 囚人番号492号と153号は朝食が終わった後に看守室まで来るように。 いいですね?」
「へっへっへ……かまわねぇぜ」
「私もです、その筋肉男にほえ面かかせてやりますわ!」
天使はベルと黒人へと言い聞かせる、だが二人は互いに頷きながら自分が勝利した光景のみを思い描いていた。
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MD215年 9/10 11:30
「おーっほっほっほっほっほ! ついにこの暗く寒い監獄生活からおさらばする時が来ましたわ! いいですわね貴方達! 見事相手チームを打ち倒し、恩赦を勝ち取りますわよ!」
ベルはヘルメットを被り、木製のバットを片手にチームメイトへと檄を飛ばした。
彼女の視界の中には7人のチームメンバーが揃っていた。
皆一様にこの監獄の囚人である。
「分かってますぜ姐さん! 俺たちゃあんたについていきやす!」
「その粋ですわよ! 皆で力を合わせて勝利しますわよ!」
「おぉーっ!!」
と、囚人達が声をあげたところでベルの右腕を突く人間が居た。
アレーラだ。
「あ、あのー……水を差すようで申し訳ないんですけどぉ……」
「あら、どうしましたの? アレーラさん」
「こ、これから一体何をやるのかなぁ~……って」
「ん? どういうことかしら」
「いえ、あの……ほんとに良く分かってないんです……これから一体、何やるんですか?」
アレーラは酷く困惑した表情でそう告げた。
するとベルは目を丸くする。
「アレーラ……今更ですの?」
「すみません…………」
「いえ、よく考えればあなたはここに来てから言葉を覚えるのに必死でしたものね、無理もありませんわ」
申し訳無さそうに告げるアレーラの肩にベルは右手を置くと、慈愛の瞳を向けた。
「ですが!」
だが直ぐに右手に力を籠め、こう告げた。
「それはそれ! これはこれですわ! 今から私達は、お互いの闘志を燃やし尽くすのです!」
「…………………………はい?」
「さぁ行きますわよ! 私達に相応しい決戦の舞台へ!」
「え、えっ!? そんないきなり……! あ、いやー! 離してくださいベルさーーーん!!」
「うぉぉぉぉーーーっ! 自由への片道切符だぁー! ヒャッハーーー!」
そしてベルはアレーラをそのままお姫様抱っこの形で担ぎ上げると、ドアを華麗に蹴り開け部屋の外へと出て行った。
それに続いて、残りの7人もまた部屋を出て行った。
部屋には錆び付いたロッカーと古びたユニフォームとバット、そして…………。
「あーあ、ベスボル、行っちゃった」
ロッカーの陰から頭部だけを浮かべ、白髪の吸血鬼が残されていた。
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「それではこれより、492号と153号の自由を掛け、大天使の名の下にベスボルを行う!!」
「ふふっ……負けませんわよ筋肉頭さん」
「はっ、その胸より小さい脳みそで何処までやれるか見物だな?」
「それでは両者互いに、礼!」
広大なグラウンドに、両チームの選手達が並び、天使の合図で互いに頭を下げる。
「では153号のチームから攻撃となる、配置へ着け!」
「よーし行きますわよ! 私達の実力を思い知らせてやりますわよー!」
「おっしゃーー!」
グラウンドの各地に、選手達が散っていく。
そして、相手側の黒人男性……モハメドもまた自らの位置へと立つ。
両チームが必要な位置へと達した事を天使が目視すると、天使は槍を掲げ、叫んだ。
「両チーム準備は良いな? それでは…………プレイボーーーーール!!!」
かくして最終戦争後もっともクリーンな、自由を賭けた戦いが始まった。
これを書き始めたときから野球編がやりたかったので初投稿です。
多分三回か二回くらい試合したら北米編は終わりですね……
鋼のモハメド/MOHAMED、THE STEEL 黒
伝説のクリーチャー:人間
鋼のモハメドは、自身が受ける2点以下のダメージを全て軽減し0にする。
2/1
「おい小僧、あんまり俺を怒らせないほうがいいぜ。 俺は気が短いんだ」
「ほう? 怒るとどうなるんだ? ウサギとワルツでも踊るのか?」




