新装備を貰ったら
MD215年 9/5 09:36
「………………」
カタカタとキーボードを叩く音が響く。
2400年に作られた機械には既に外付けの装置などは消えて久しいのだが、この男はそれを良しとせず過去の物に拘った。
「………………………」
男は暗い室内で、只管にキーボードをたたき続けていた。
目の前には少し大きいモニターが幾つも横に並び、埃を山積させていた。
男がキーボードを叩く度に、埃が振動し舞い上がる。
埃が舞い上がるたびに山坂は目を細め、そして背後に居る赤毛の男から本日4度目の不満の声が上がった。
「げほっ、ごほっ! おい……何とかならねぇのかその埃」
「何回同じことを言わせるつもりだ? 嫌なら出てけって言っただろ」
「断る、この調査があいつ等の行方を見つけるのに必要なんだろ? だったら俺はそれが分かったときに直ぐ動けるようにしておきたい」
「そーかいそーかい、外は蒼海」
「は?」
「その冷たい反応は悲しくなるからやめろ。 …………まぁお前が待つ分には構わんが話しかけるな、気が散る」
男は懇親のギャグを訳が分からないといった風な顔を赤毛の男にされ、悲しげな表情になる。
だが直ぐに男は真顔に戻ると、画面に顔を戻した。
「しかし赤毛も一々正義感が強いというか生真面目というか……そんなにあいつ等が好きなのか? 確かにそそる体ではあるが」
「お前が淡白すぎるんだよ、仲間が消えたってなったら普通は心配するだろ」
「仲間ねぇ……魔族にもそういう考えがあるってのは正直意外だな」
「お前は俺達を何だと思ってるんだ」
「生きる価値の無いクソゴミ」
男は即答し、赤毛の男を呆れさせる。
「山坂……信じられねぇな」
「名前を気安く呼ぶなゴミめ、一丁前に人間らしい発言をしやがって全く……」
「いや人間だからなぁ……」
人間、という言葉に山坂が少し反応する。
「ふん……」
だが山坂は鼻を鳴らすと、それを聞き流す。
そして再びキーボードを叩き始めた。
「しっかしよぉ、こんな遺跡にまた来る事になるとはな」
「遺跡……? あぁ、まぁ確かに千年前の建造物はお前らにとっては遺跡みたいなもんか」
「そういうこった、サツホロにあった遺跡にはこんなでっけぇ金属の箱は無かったが」
「金属の箱、ね……」
山坂はそういって画面を見つめたまま呟いた。
赤毛の男、アデルが言っている金属の箱というのは十中八九パソコンのことだろう。
アデルは感心するように顔を真上へと上げていく。
正面には大型の筒の様な物が三つ横に並んでおり、それは天井に達する高さまで届いており過去の技術力の高さを窺わせた。
「なぁ、こいつは一体何の為に作られたんだ? お前が弄ってるみたいにこの箱をを弄ると何か起きるのか?」
「何で教えなきゃならんのだ、つーか言っても分からんだろお前あほだし」
「あ、アホだとぉ!?」
「自分が間抜けじゃないという自覚があるのか……」
アデルはいきり立つが、山坂は冷めた表情でキーボードを叩き続ける。
「いや、まぁそんなに頭は良くないが……でも気になるんだよー、教えろよー!」
「ガキかお前は……」
「俺は気になる事は解明したい性質なんだよ」
「それをガキって言うんじゃねーのかね……だが好奇心が旺盛なのは良い事だ、作業の合間に話してやるか」
「話すのか……」
「てめーが話せって言ったんだルルォ!?」
アデルが意外そうな顔をすると、山坂は思わず振り返って叫んだ。
だが叫ぶと直ぐに元の位置へと顔を戻し、少しずつ話し始めた。
「この箱はな、パソコンって言うんだよ」
「パソコン?」
「そうだ、正確な名前は省くが……こいつを使える奴は色々な事が出来る」
「例えば?」
「あー……まぁ今やってるみたいにお前の仲間とやらを探すのに使えたりするな、後は……お前らが言う所のゴーレムって奴を操れたりする」
「ゴーレムをか!?」
ゴーレムを操れるという言葉に、アデルは大げさに驚く。
「そこまで驚くもんか……?」
「いやいやいやいや、だってお前ゴーレムってあのゴーレムだろ!? あの遺跡によく居て宝を守ってるの」
「遺跡……宝?」
遺跡に宝という言葉に、山坂は少し想像を働かせる。
遺跡というのは恐らく土砂に埋もれた地下鉄や駅地下のデパート、あるいは倒壊したデパートや政府の施設などのことだろう。
ではゴーレムというのは、恐らくは施設を警護していた防犯用ロボットのことだろうと山坂は思い至った。
「……成る程、確かにあれは手強い、何せ僕が設計したしな」
「あぁ、だろ? ってお前が作ったのかよ!」
「そうだよ、っていうか世界の大半の兵器は僕が作ったんだよ」
「途端に嘘くさくなったな」
「だが札幌を襲った時のソーレン、あぁゴーレムって言った方が良いのか? あれを操ってたのは僕達だ、それを考慮すれば僕が言ってる事が怪しいか怪しくないかは直ぐ分かるだろ」
山坂はわざとらしくそう言うと、力強くエンターキーを押した。
「ビンゴッ! やっぱり機能が生きてやがった! 使えるぞ!」
その叫び声と共に、暗かった室内に灯りが灯り始める。
「人類防衛の最先端、アメリカ軍ハワイ防衛基地へようこそ。 我々は人類の帰還を歓迎します」
「…………何? 今、何て言ったんだ?」
「お帰りだとよ」
最終戦争前の言葉が分からないアデルは首を傾げると山坂へと問う。
山坂はそれを意訳すると、次々と点灯を始めるモニターへ顔を向けにやける。
「流石はアメリカ製、千年経っても大丈夫ってか?」
無数にあるモニターが点くたびに、天上のライトもまた点灯していく。
数秒後には完全に室内が明かりに照らされる事になった。
「おっ、明るくなった……っておわっ!?」
周囲に転がる無数の破片、機械の部品や設計図、そして人骨……。
「ほ、骨か? 何でこんなところに」
「魔族にやられたんだろ」
「魔族に? あ、あぁそうか……ここは最終戦争の時の……」
「そういうこった、僕が魔族嫌いになる理由が少しは分かると思うがどうだ?」
その言葉に、アデルは答えなかった。
少しの沈黙の後、山坂は完全に起動したパソコンを操作し目当ての機能を探し当てる。
「あったぞ、やっぱり管制機能が生きてる。 あいつらの居場所が分かるぞ」
「ほんとか!?」
「厳密には僕が知れるのはミサイルの位置であってあいつ等の居場所じゃないんだが」
「それって=あいつらの居場所みたいなもんだろ? あいつらはどこなんだ!?」
「あー……えーっと、こりゃー……テネシー州? コーフィ郡……アーノルド空軍基地か!」
山坂はモニターに世界地図を出し、赤い光点の位置を何度も確認する。
「すげぇな、この間サンディエゴにぶっ飛んだばっかだってのに五日であの距離を運んだのか?」
「俺に分かるように言えよ!」
「あー……簡単に言うと敵の中枢だな」
「敵の中枢!? やばいじゃねえか! 助けに──」
「どうやって行くつもりだ?」
体を翻し、出口へ走り出そうとするアデルを山坂は背中越しに止める。
「うぐっ……だ、だからってここでじっとしてるわけにはいかねぇだろ!」
「ふむ」
「な、なんだよ」
「お前は本当に善人ぶるのが好きだなと思ってな」
「喧嘩なら今すぐ買うぞ?」
剣の柄に手を掛けるアデルに、山坂は笑いを返した。
「おまけに直情的と来てる、全く扱いやすい奴だな」
「お前いい加減に──」
「不本意だが助けてやる、丁度実験したい装備もあったし……以前約束もしてたからな」
「は?」
「喜べクソ虫、この僕がお前に翼を授けてやろう!」
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ジェットエンジンが、風を切る音が海上に響く。
風は容赦なく体に打ちつけ、体は悲鳴を上げる。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?」
ミサイルの先端に括りつけられていれば当然のことではあるのだが。
「あいつ、帰ったら絶対殺す!!!!!!!」
アデル、無事アメリカ入国決定。
次の挿絵の人が決まったので初投稿です。
多分完成は……12月かな?来年かな?




