オーストラリアへの侵攻を諦めたら
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Ys VIII イース8 【Sunshine Coastline】
MD215年 8/24 21:15
「結論から言おう」
静まり返ったメインルームに、永村の声が響いた。
管理者達が座るいつもの丸机には謹慎を言い渡されていた山坂と田崎の二人が座りながら、永村の次の言葉を待っていた。
「オーストラリアに手を出すべきではないと私は思う」
「オイオイオイ」
「日和ったわこいつ」
永村の言葉に、二人は一瞬顔を見合わせると次の瞬間にはタイミングを合わせたかの様に同時に発言した。
二人は永村をせせら笑う様に横に並び、永村はそれに対して足元に置いてあったスライドを持ち出した。
「そう言うと思って紙芝居を用意してきたよ」
「「えぇ……(困惑)」」
二人はもう一度顔を見合わせ、何故紙芝居なのか、とか自分で手作りしたの? とかそういった言葉無き意思疎通を繰り広げていた。
「さ、それじゃ二人とも早く座って。 始めるよ?」
「「え、あ、はい」」
そんな二人に永村は着席を促すと、二人は困惑したまま元居た位置へと戻り椅子へと腰掛けた。
「それじゃあ僕がオーストラリアを諦めた理由、始めるよー」
「ワー」
「ヤッター」
永村はそう言って紙芝居をめくり始め、二人は棒読みの台詞を発した。
部屋には紙が擦れる音と、乾いた拍手の音だけが響いた。
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MD215年 8/23 14:12
昼を過ぎ、地球を巡る六つの太陽が徐々に下り始めた頃。
真冬のオーストラリアに二匹の金属の蛇が現れた。
海中を割る様に現れたその蛇は、大きな体をのたつかせるながら砂浜へとその身を大きく打ち上げる。
まず地響きが起き、次に巨大な轟音がオーストラリアの浜辺に響く。
「ピィーーー!」
その揺れと音に木々が揺らめき、尾が極彩色をした数羽の小鳥が飛び去っていく。
そして揺れが収まると、今度は小さな動物たちが草むらから顔を恐る恐る覗かせる。
動物たちは各々が元の動物の原型を残した、だがどこか特異なフォルムをしており霊力の影響を見るものに如実に感じさせる。
「…………チチ?」
動物たちは暫く浜辺に上陸した二匹の蛇を見ていたが、それが打ち上げられて以後動かない事に気づいた。
すると動物たちは草むらから徐々に姿を現し、警戒心を解かず……だがそれでも好奇心に導かれるように二匹の蛇へと近づいていく。
「……チチ、チー! キーー!」
そして動物たちは蛇の周囲を囲むと、改めてその全貌を確認した。
先端がドリルの様に鋭利であり、その顔には目玉は無く、また体を覆う鱗も肉ではなく鉄で出来ていた。
だがその鱗には継ぎ目は無く、見るものを魅了する白銀の美麗さがあった。
……そして、そんな美しさに魅了されたのか。
一匹のカンガルーが蛇の前に近づくとその小さな手を伸ばし……蛇の鱗へと触れた。
「ギャンッ!」
瞬間カンガルーへ閃光が走り、カンガルーの体が弾き飛ばされる。
だがカンガルーは後方へ弾き飛ばされた後も無傷で起き上がり、攻撃的な目で蛇を見つめた。
そしてカンガルーが攻撃を受けたと思い込んだ他の動物たちもまた、一斉に攻撃の姿勢を取り始めた。
「魔族による干渉を確認、防衛装置起動」
ふと、浜辺にそんな声が響く。
それは無機質な女性の声で、動物たちは一瞬驚き、互いに顔を見合わせた。
そして……蛇からそれは射出された。
「霊力変異生物を確認、数的不利」
蛇から射出されたそれは上空から針の様に鋭い足を砂浜に突き刺し、着地した。
ソーレン。
管理者達が使う最も一般的な作業用ロボット、胸にオレンジ色に輝く球体を備え、捩れた骨子でそれを庇う顔の無い頭部を持った人形。
「特殊兵装による浄化開始」
ソーレンの数はおよそ30体、それらは二体の蛇を海を背に半円に囲む形で動物達の前に立ちはだかった。
そして白銀に輝く人形が、そう言葉を告げると動物たちは一斉に人形へ向かって走り始めた。
だが……彼らの牙が届くよりも速く、動物たちは塵へと帰結した。
ソーレン達に向かって背後の蛇から稲妻が走ると、その稲妻はソーレン達の間を連鎖し、そして動物達へと発射された。
「一掃を確認、現地点のクリアリングは終了と判断」
「地上部隊の揚陸を開始してください」
原生の動物たちを塵へと還したソーレン達は自らに搭載されたセンサーを稼動させ、周囲の生命反応を検索する。
数秒の沈黙の後、ソーレンの一体が右手を上げるとそう発した。
ソーレンがそう蛇へ呼びかけると、蛇の頭部に近い鱗が持ち上がり内部から聞きなれた三人の声が響いた。
「おぉ、ここがおうすぉらぁりぃあか!」
「芽衣子殿、おうすとぉらぁりぃあです」
「オーストラリアね、んじゃさっさと拠点を作って制圧を────」
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「というわけなんだ」
「「わかんねぇよ!」」
「えー……」
永村は笑顔で紙芝居を読み終えると、二人へ顔を向けた。
だが二人から帰ってきた反応は永村の予測とは大きく違っていた。
「わかんないって、どこが?」
「いやどこがって全部だよ全部、何で撤退したのか説明してねーじゃねーか!」
「えー、君達ならここまで説明すれば理解してくれると思ってたんだけどなー」
二人の突っ込みに、永村はそう言いながらちらりと山坂を一瞥する。
一瞬視線が交錯し、次の瞬間山坂は腕組みをしながら一人で頷き始めた。
「あーそーゆーことね、完璧に理解した(わかってない)」
「まあどうせ理解してないだろう山坂は置いておくとしてだ、オーストラリアに上陸してから何があったんだよ」
「そこから先は、僭越ながら私がご説明いたします」
独りでに頷く山坂を横目に、田崎は永村へと説明を求める。
永村がそれに応じようと口を開きかけたところで、機械的な女性の声が割ってはいる。
「この声は……ペスか!?」
「お久しぶりです管理者の皆様、そして長時間の機能停止申し訳ありませんでした」
「ほんとに久しぶりだな……何ヶ月ぶりだ?」
「はい、時間にしておよそ……」
「いやいや別にどれ位経ったかなんてどうでもいいでしょ、いや、本当によく復活してくれたよ、誰が修理したんだい?」
突然の声に三人は目を合わせるが、すぐさま田崎が声の主に気づく。
そして三人は思い思いに顔を明るくする。
ペスが機能を停止してからの二ヶ月あまり、エクィローの管理は全て人力でこなしていたからだ。
「修理はメインコンピューターラジエルが行いました、修復に時間が掛かったのはカムサ起動のプロセスにエクィロー全システムの抹消が入っていたせいです」
「なるほど……そうか、ラジエルか」
「そんなシステムを組み込んだ覚えは無いんだが……まぁいいか、これでエクィローの運営も楽になる、なぁ山坂!」
「おっ、そうだな」
田崎は山坂へと嫌味を述べるが、それを山坂はどこ吹く風といった形で受け流す。
それが気に食わなかったのか、田崎は山坂へと近寄りヘッドロックを掛ける。
「ぐえーっ!」
「て・め・え・の・せ・い・だ・ろ!」
「も、元はといえば永村が個人情報を漏洩するから悪いんだろうが!!」
「だからってやって良い事と悪い事の区別くらい……」
「まぁまぁ田崎君、あの時は僕が悪かったってことで落ち着いたんだから許してあげなよ」
「……まぁ、確かにそうか」
突然のヘッドロックに抵抗する山坂だったが、田崎の腕からは逃れられず悶え苦しむ。
そんな山坂へとフォローを投げかける永村に田崎は素直に納得し、ヘッドロックを解除した。
「あだだだ……ったく、田崎はすぐ暴力に走りやがる」
「分かりやすくていいだろ?」
「はいはい……んじゃ、そろそろオーストラリアの顛末を説明してくれペス」
「友好を深めるのはもうよろしいのでしょうか?」
「肉体言語で仲良くなれるのは田崎と動物くらい──いってぇ!」
懲りない山坂に再びヘッドロックを掛ける田崎。
そしてそれを横目にやれやれといった動作をしながら、永村は頷く。
「あの二人の事はスルーでいいよペス、説明をお願い」
「了解しました、それでは先ほどの説明の続きから開始します」
そうして、ペスは空中にホログラフを展開する。
そこには先ほど永村が話していた様子と瓜二つの光景が展開されていた。
二匹の金属の蛇とそれを守るように展開されたソーレン、そして蛇の中から続々と現れる東京と札幌の魔族の混合編成の兵士達。
「永村様が指揮するオーストラリア攻略チームは、海岸に居た原生生物を駆逐し橋頭堡を確保しました」
「まずは近接部隊から降ろして周囲の警戒をさせながら拠点を作る、筈だったんだけどねぇ」
「何があったんだよ」
「簡潔に言いますと敵の襲撃がありました、その敵に我々は成す術無く敗退した形になります」
田崎の問いかけに、ペスはそう答えた。
「はぁ? ワームエンジン二匹も投入して負けたってのか? 永村さん流石っすわー、どうやったらそんな過剰戦力で負けれるんすかねぇ?」
「お褒めの言葉ありがとう、だがあそこの生物は仮に君達が指揮を執っていたとしても負けていたと思うよ」
「ないわー、一匹で北海道を制圧できるくらいの戦力だぞ? 橋頭堡確保の為とは言え、二匹投入ですらやりすぎだってのに」
ヘッドロックを掛けられながら、山坂は永村を小馬鹿にする。
この男は例え仲間であろうとも罵倒できる機会があればそれを逃さないのだった。
「山坂様、永村様の意見が今回は正論と思われます。 現状我々の戦力であの生物達への対処は不可能です」
「ありえねー、対有機物、対無機物で設計されてるあれが──」
「絶対優位権……と言えばご理解いただけるでしょうか」
「何だと?」
プロテクション、その言葉を聞いた瞬間山坂の表情が変わった。
田崎のヘッドロックを振りほどくと、真顔で椅子へと座りなおした。
「詳しく話せ」
「いきなりなんで真顔になってんだこいつ……」
「まぁまぁ、田崎君もそろそろ真面目に聞こうね」
「では、ご説明します」
いつもの山坂とは思えない力でヘッドロックを振りほどかれた田崎は驚き、椅子へと座る山坂を呆然と見つめていた。
そんな田崎へ着席を促すと、三人は再び三角形の位置に座りなおした。
「浜辺へ上陸後、エクィローは遠方に動物の群れを発見しました。 その群れはワームエンジンが上陸後一直線にワームエンジンへと突進し、数分後に交戦状態に突入しました」
説明を始めたペスは、円卓の上に浮かんでいたホログラフに動物の群れを出現させた。
それは真っ直ぐにワームエンジンへと突撃していき、ソーレン達と交戦に入った。
「ソーレンは直ちに迎撃に移りましたが、ソーレンの攻撃の全てがプロテクションによって無効化されました」
「ちっ、忌々しい……」
「ね? これで私が君たちに無理だって言った理由が分かったでしょ?」
「あー……すまん、プロテクションってなんだっけか」
忌々しげにホログラフを睨む山坂に、田崎がとぼけた顔で尋ねる。
それを山坂は信じられない、と言った呆れた様な驚愕したような顔で見返した。
「……本気か」
「生憎お前のように魔族の特殊能力を調べて兵器にしてた訳じゃないんでな」
「じゃあ偶には私が説明しようか」
そういって、永村は獣と交戦するソーレンのホログラムの一部を拡大した。
「プロテクションって言うのは、ある特定のものに対する絶対的な優位性のことさ」
「優位性?」
「たとえば今回出会った獣たち……あれは恐らく文明に対するプロテクションを持っている、つまり文明そのもの大して絶対的に有利になるんだよ」
「具体的には?」
「まず優位性を持っている物からの攻撃が無効化される、次にそれからの対象にならない、そしてそもそも不利な側からは触れない」
永村の説明に、田崎は信じられないと言った顔をする。
「いや信じられないのはこれを忘れてたお前の方だが……とはいえ文明に対するプロテクションなんて俺も聞いたことは無いが」
「私も初めて遭遇したよ、恐らくだけど……今のオーストラリアの全生物は文明に対するプロテクションを有していると思って良い」
「その根拠は?」
永村の発言に、山坂は根拠を求める。
すると永村はソーレンと獣をアップにしていたホログラムを縮小し、今度はオーストラリア全土を映し出す。
「これを見てほしい、最初に遭遇した獣の群れは私たちがたどり着いた北西の海岸、その東から突然発生している」
オーストラリア北西、元はカラサと呼ばれていた土地へ上陸した永村の軍勢。
だがその軍勢が到着すると突然その東側に赤い光点が発生する。
「この光点は獣の群れだ、そしてその次は南西、南、南東の順番に光点が発生している」
「つまり、なんだ? 俺たちが上陸したのを察知して突然獣が発生したってことか?」
「私たちが、というよりは文明が、だろうけどね」
「冗談だろ」
最初の光点が軍勢に達すると、残りの三つの光点もまた軍勢への移動を開始し……最後には4つの群れが合流する形となっていた。
「ところが冗談じゃない、あの獣たちはその全てがプロテクションを所持しており……その全てが金属を狙っていた」
「成る程、確かに永村が言う事も一理あるのかもしれんな」
「へっ、上等じゃねえか……なら次は俺が──」
「プロテクション文明を持ってる相手にか? お前が地上で使ってる体も文明だってことを忘れるなよ、生身の僕らはそんなに強くないんだ」
「ならどうすんだよ」
両手を打ちつける田崎へ、山坂は水を差す。
そんな山坂に不満を述べる田崎の視線を受け、山坂はもう一人へと視線を投げかけた。
「だから開幕の言葉に戻るわけだ」
「そういうこと」
「オーストラリアには手を出すべきではない……か」
「ん? いやちょっと待て、文明に対して有利なのは分かったが……だったら武器とか鎧投げ捨てた連中はどうしたんだ? 勝てなかったのか?」
納得しかかっていた三人の中で、一人田崎がそれに気づいた。
「勿論少しは戦えたが……そもそも数が違いすぎたんだよ、それに相手はこっちの兵士の三倍はあった、それも一匹一匹がね」
「あー……そりゃぁ……無理だなぁ」
身長や体重の差は戦闘に置いては絶大な差となる。
ましてや人間は動物に身体的に劣るのだ。
それは魔族に変異した現在も同じだった、人間が変異したのなら動物もしている。
「後、ねぇ……向こうに動物よりももっと厄介なのが居てね……」
「あん? プロテクション持ち以上に厄介なのが居たのか?」
「いやぁ、居たっていうか、私等が送り出したっていうか……」
「「?」」
永村の言葉に、二人は同時に頭に疑問符を浮かべた。
二人の視線に、永村はため息を吐きながらモニターを映し出した。
「げぇっ!!」
「誰だこいつ……」
そこには、虎牙伊織の姿が映っていた。
二本の刀を振り回し、動物達と共に走り回る侍の姿が。
トイレを我慢しているので初投稿です
荒れ狂うタスマニア 緑
クリーチャー:ビースト
プロテクション(アーティファクト)
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オーストラリアは常に侵略されてきた土地であり、そして流刑地であった。
この土地がよそ者を嫌うのは当然であり、それはこの土地の動物たちもそうだ
──荒ぶる長、グラーバ・シートン




