ご神木様が死んで三日経ったら
巨大戦車に神木が敗北してから三日後。
アレーラは着の身着のまま、あの時よりも汚れた格好でサツホロへと到着していた。
初日は涙で顔を濡らし自らに起きた悲劇を嘆いていたが、自らをサツホロへと向かわせた神木の言葉を思い返し、此処まで辿り着いたのだ。
「此処が…サツホロ」
街の入り口には、チリエージョの花が満開となっており其の奥には赤い鉄塔が見える。
町長や村に来る交易の魔族からサツホロという街については聞いてはいたが、アレーラ自身がこの街を訪ねるのは初めてだった。
アレーラは馬から降り、街の入り口を警護する衛兵らしき男達へ声を掛けることにした。
「あの…すみません、少しお尋ねしたいことがあるんですが…。」
アレーラが衛兵に声を掛けると大柄なオークと赤毛の男が振り返った。
オークはアレーラを見るなり──。
「むっ!君、どうしたんだね其の格好は!犯罪者か何かに襲われたのかね!」
「可哀想に…そんなにぼろぼろになって…だがもう大丈夫だ、安心するといい、我々がきっと君の力になってみせよう。」
「え、あの…はい?いや確かに襲われはしましたけど…。」
アレーラの其の発言を聞くや否や、オークはアレーラの肩に手を置き。
「そうか…色々とあったようだな、とりあえずまずは我々の詰め所へ来たまえ、そこで話を聞くとしよう。」
「アデル・レスディン二等兵!彼女の馬を馬繋場へ繋いできたまえ、その後私と共に詰め所へ、良いな?」
「はっ!了解であります!ギト・ダール士長!」
オークは一方的に言葉を放つと隣に居る赤毛の男の方へ向き直り、指示を出した。
「さ、それでは我々の事務所までご案内しますお嬢さん。」
大柄なオークはアレーラの手の二倍はあるような手をそっと差し出し、彼女が自分の手を取るのを待った。
「えっと…あの…は、はい…宜しくお願いします…。」
アレーラはその大きな手に自らの手を添え、詰め所へ共に歩いていった。
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「さ、あまり美味いとは言えないだろうが少しは空腹も紛れるだろう、食べなさい」
事務所へ向かう途中三日間飲まず食わずでサツホロまで到達したアレーラだったが、とうとう腹の虫が鳴り始めそれを気に病んだギトが食料を用意してくれたのだ。
皿の中には蒸かしたイモジャガが三つ入っているだけではあったが、アレーラにとっては三日ぶりの食事でありただただ感謝の言葉しか出てこなかった。
「あ、ありがとうございます…!こんな何から何まで…。」
「何、気にすることは無いさ、困った時はお互い様だし…市民を助けるのは私の役目であり義務だ。」
「さあ冷める前に食べなさい。」
「それじゃ、戴きます…!」
ギトはそうアレーラに勧め、アレーラはそのイモジャガを手づかみで食べ始めた。
「そういえばまだ君の名前を聞いていなかったね、おっと…其の前に私の自己紹介をしておこう。」
「私はこの地区の衛兵長を任されているギト・ダールというものだ。」
アレーラが食事(と言えるのかは怪しいが)を食べ始め少し経ってから、そのオークは微笑と共にアレーラへ自らの名を語りかけた。
「あ、えっと…ギト…隊長さん?」
「ははは、ギトでいいよお嬢さん、それで出来れば名前と君に起きた色々な不幸について語れる範囲で語って欲しいのだが…大丈夫かね?」
「す、すいません私…ここまでしていただいてるのにまだ名前も言ってませんでしたよね…。」
「私、アレーラ・クシスと言います、オシマンベの村から来ました。」
ギトの其の言葉にアレーラは食事をする手を止め、自らの名前と何処から来たのかを伝える。
「それで、オシマンベの村に住んでいたのですが…三日前チリエージョのお祭りをしていたら…突然…うっ、うぅ…。」
其処まで言った所で、アレーラは村に起きた惨劇を思い出したのか泣き出してしまう。
「…そうか、酷なことを思い出させてしまったね。」
「君の証言から推測するに村が盗賊に襲われて逃げ延び命からがらここまで辿り着いた、そういうことかね?」
「しかし村人が襲われているとなればオシマンベの神木が黙っていないのではないか?あそこの神木は戦争以前から生きていると聞いているが…」
ギトは服の内ポケットからハンカチを取り出し、アレーラへ差し出しながら問いかけた。
「あ、ありがとうございます…。」
「はい…でもその、襲ってきたのがよく分からない化け物で…それで村の皆も、ご神木様もやられてしまって…。」
アレーラはギトからハンカチを受け取り、涙を拭いながら答えた。
「神木が倒された?うむ?どういうことかね、元来ツリーフォークというのは大地から直接霊力を吸って生きている、それゆえ死とは程遠い生命のはずだが…。」
「それによく分からない化け物、というのも不明瞭だな…酷だとは思うがもう少し何か思い出せないかね、手助けと成る為にはまず君の助けが必要なのだ。」
ギトはそう言うとアデルへ呼びかけ、紙とペンを持ってこさせる
「まず最初に村の真上の空がぴかーって光ると突然巨大な赤ん坊のようなものが現れて村の皆を…。」
「皆も必死に抵抗したんですけど魔法が効かなくて…その後ご神木様の所へその赤ん坊が来て、そいつはご神木様が倒したんでけど…。」
「倒したと思ったら突然また空が光って、今度は巨人みたいな化け物が…そいつがご神木様へこう、拳を突き入れるとご神木様が苦しみはじめて…。」
「それで、ご神木様がサツホロの市長へこの事を伝えてくれ、と…それで私、ここまで来たんです。」
ギトは証言を書き終わり、ペンを机に置いた。
「なるほど…つまり村に突然よく分からない化け物が降って来て住民の虐殺並びに神木の殺害を行った、と?」
「…にわかには信じられん話だな。」
「そんな、私の言葉が嘘だって言うんですか!?」
「いやそう言っている訳ではないが…そう聞こえてしまったのなら謝罪しよう。すまない。」
「今はしっかりとした確証を得られなければ我々も動けないという話をしているのだよ。」
「君の証言はきちんと市長へ提出し追って解決方法が示されるだろうが……少なくとも今すぐ我々が動けるわけではない。」
「…じゃあ、何時頃動けるんですか?」
「速くても二週間、遅ければそれ以上だ。」
「そんな…!」
アレーラは失意に顔を俯け、ギトは席を立ちアレーラの肩にその大きな右手を乗せた。
「…君の心情は察する、が我々にも動く為の時間や理由というものが必要になるのだ、どうか理解して欲しい。」
ギトはそう言うと、入り口近くに立っていた赤毛の男へ向き直り。
「アデル・レスディン二等兵!本日の職務を変更する、彼女が落ち着くまで暫く彼女と行動を共にしてやりたまえ。」
「はっ!了か…え?ちょっと待ってくださいギト士長!」
「上官の命令は絶対だぞ!アデル・レスディン二等兵!」
「そんな…!!あ、いや、りょ、了解です!」
「ではこの場はこれにて解散とする!」
赤毛の男とアレーラはこうして出会った。
暇つぶしに書いているので投稿ペースは不定期です
次:市庁舎に直談判しに行ったら投稿します