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人類ガバガバ保護記   作者: にっしー
ハワイ編
108/207

次の侵略先を決めたら

https://www.youtube.com/watch?v=37UzjyZ0_4I

[Extended OST] Persona 5 - Life Goes On

MD215年 8/12 10:00


 かつて世界は一つだった。

 それは人類の意志統一が果たされていた、という意味合いではなく人類という生物が治めていたという意味ではあるが。

 それでも世界は一つだった。

 あらゆる生命への生殺与奪権を持ち、出来ぬことは無いと驕った人類。

 でたらめな生命の組み合わせを試し、あらゆる行いを試した人類。


「だが世界はそれを許さなかった」


 2345年、一人の科学者が龍脈、並びに霊力を発見する。

 『それ』は別世界からこちらの世界へ繋がる穴で、霊力はそこから流れてくる未知のエネルギーだった。 

 霊力は龍脈から無限に流れ込んでくる上に、一度エネルギーへ変換すると少量で爆発的なエネルギーを齎した。

 人類は歓喜した、これによって人類はより発展できると。

 人類は歓喜した……人類への影響が見つかるまでは


「2346年、人類は初の変異種を発見した」


 最初は中国から。

 次はオランダ、アルゼンチン、イタリア、ロシア、アメリカ……最初は小規模に、散発的に。

 だが次第に世界中のあらゆる地域で人類は霊力へと適合し、変異していった。

 伝承にあるような生物、所謂妖怪や魔物と呼ばれる存在に。


「……けど、君が連れて来た人魚ってのはあまり確認されてなかったと思うんだけどね」


 永村の声が響くと、田崎は目線を永村へ向ける。

 目線の先にある永村の顔はいつも通りのニコニコとした笑顔であった。


「貴重なサンプルを持ってきてありがとう、って言いたいのか?」


「何もそんな事言ってないよ、君が長い時間を掛けてあの魚の中に閉じこもって遊んでたのも分かるな~って思っただけさ」


「ちっ……だからあれは」


「はは、ごめんごめん。 流石に一週間も言ってたらしつこいよね、反省するよ」


 永村は変わらぬ笑みを田崎へと向けながら、ちらりとある席へ目を向けた。

 円形のテーブルに三角形を描くように配置された三つの椅子。

 その一つ一つに管理者達が座っているが、一つの椅子が空席となっていた。


「……山坂がどうかしたのか?」


 永村の視線に気づいた田崎もまた山坂の居る筈だった席へと目を向ける。


「いやぁ、彼は何してるのかなぁって思ってさ」


「まだリハビリ中じゃねーのか? 自分に尻尾が無いのが違和感、とか言ってたし」


「その言い方だと自分に尻尾をつけないか少し不安だけど……彼なら大丈夫か」


「簡単に一線踏み越えるような奴がかぁ?」


「行う行為は一線を越えるけど人間を辞めるという一線は踏み越えないと思うよ、彼の目的的にもね」


「あ?」


 意味が分からんと首を傾げる田崎だったが、永村は笑顔で誤魔化すと席から立ち上がる。


「それじゃあ、君は少し謹慎……いや休んでいると良い。 今回あの魔族を助けたのも利用価値があるから、ということで助けたんだろ?」


「…………」


「沈黙は肯定とみなすよ、田崎君。 どっちにしろ次は私の番だ、山坂君と少し遊んでると良い」


「永村、俺は──」


「田崎君」


 席を立ち、扉へと向かっていく永村に田崎は何かを言おうとする。

 だが。


「君は感情的になり易い部分がある、それは良いことだ。 だが私達の使命を履き違えるのはいけない、私達は……地上に蔓延る細菌を除去する事が仕事なんだからね」


 振り返った永村の笑顔に、田崎は気圧される。

 

「いいね?」


「……あぁ、わかってるよ。 俺があいつを連れ帰ったのは、単に強かったから。 それだけだ」


 そんな田崎を永村は子供に諭すようにゆっくりと言い、田崎がそれに頷くと永村は部屋から退出していった。

 永村が退出した後、田崎は一人苦虫を噛み潰したような顔で最初から空になっていた席を壁まで蹴り飛ばすのだった。


────────────────────────────────────────


「はっ、はっ、はっ、はっ……!」


 白い室内。

 装飾は部屋の中央に備え付けられた机とその上にあるパソコン、そして……今山坂が走っているランニングマシーンと布団があるだけの部屋。

 部屋には入り口は無く、机の正面にあるガラスが唯一の外界との接触口であった。


「精が出るねぇ、山坂君」


 そんな接触口に、管理者達の中で最も背の高い男が現れた。


「はっ、はっ、はっ、はぁ……? なんだ、永村か」


「あぁ、続けてても構わないよ」


 突然の来客にゆっくりと顔を向けた山坂は、徐々にランニングマシーンで走るペースを落とし始める。

 

「構わん、どうせ単なるリハビリと言う名の暇つぶしだからな。 ……何か用事か?」


「暇つぶしだったか~、ならこっちも用件を告げるのに気負う必要はなさそうだね」


「お前が他人に何かを言う時に気負ってるのを見たことが無いんだが?」


「恒例の嫌味ありがとう、それで本題なんだけど……タリブについてどう思う?」


 タリブという単語に山坂の表情が変わる。

 汗を拭い、疲れた顔をしていた山坂は真面目な表情になり机の前に置かれた座椅子へと腰をかける。


「質問の範囲が広すぎてよく分からんな、行動方針についてか? あれに対する個人的な意見か? 今後のあれの動向か?」


「あぁごめんごめん、私が聞きたいのはタリブがリヴァイアサンを襲う前にしてた事についてさ」


「襲う前……? あぁ、そういやあいつ海中から飛び出してきたんだっけか」


「そうそう、海中からっていうのが気になってね」


 永村もまた、物陰から椅子を引っ張り出すと椅子へ腰掛ける。


「確かに少し気になるが……そこまで気に掛ける程か? 元々あいつは海中用に設計してたんだぞ?」


「でもそれは初期段階の話でしょ? あれは軸のずれた空間に居るんだから、何も海中から出てこなくても良いと思うんだよね」


「なら海中で何かしてたんだろ、深海生物の浄化とか」


「だと思うんだけど……何か引っかかるんだよね」


「って言われてもなぁ……あいつの思考パターンはお前のパターンを使ってるんだ、お前に分からないなら僕にだって分からん」


 山坂はそう言うと机の上においてあったスポーツドリンクへ手を伸ばし、飲み干していく。


「だが気になってる事があるってのは奇遇だな、実は僕も一つ気になってる事がある」


「へぇ、タリブ関係の事?」


「いや、あのリヴァイアサンの内部にあった機械についてだ」


「機械……あぁ、そういえば君が使ってた素体が録画してたデータじゃ普通に備え付けの機械が稼動してたね」


「あれ……なんで動いてたんだ? 高高度核爆発によるEMPでエクィロー以外の機械は完全に使用不可能になったんじゃないのか?」


 ドリンクを飲み干すと、山坂は背もたれに寄りかかり天井を見上げる。

 そんな山坂からの問いに永村も目線を逸らし、考え始める。


「確かにおかしいね、君の報告だとあのリヴァイアサンはドリームマシン……じゃなくて誕生の殻だっけ? それによって生まれた半機械生命体とは聞いてるけど」


「そうだ、だからあれは最初機械じゃなくて生命体の機構だと思ってたんだが」


「違った?」


「正解だ、残骸を分析してみたが血管や神経の代わりにケーブルや電気信号が走っていた」


 そこまで告げると、山坂は椅子をくるくると回し始める。


「具体的に詳しく調べてみる必要がありそうだな、もしかしたら……」


「……まだ戦前の機械が稼動している場所がある」


「かもしれん、少なくとも北海道にあった高速移動通路──高路──はよく考えたら稼動してたしな、あれも動いてるのおかしいだろ」


「何でその時に気づいて疑問にしないんですかねぇ」


 永村の疑問に、山坂は椅子を止めると背中を向け沈黙を放つ。

 山坂の背中に対して永村は、先ほど田崎へ向けて放った言葉を言おうとする。


「沈黙は──」


「肯定とみなす、だろ? まあ天才の僕だってたまにはミスる、気にするな」


「たまには?」


「うるせぇ! とりあえずお前の疑問点も含めて謹慎が解けるまでの間に調べておいてやる、地上浄化の指揮は任せたぞ」


「はいはい、んじゃそっちは任せるよ山坂君」


 背中を向けたままの山坂に、永村は変わらぬ笑みのまま背を向け真っ暗な通路を一人で歩いていく。

 そうして、永村の足音が消えた頃に山坂はパソコンへと振り返る。


「しかしタリブが何をやっていたのか、か……やる事が増えてきて退屈しないのは良いが──」


 山坂は部屋の隅にある布団へと目線を向け、立ち上がる。


「とりあえず寝てからだな!」


────────────────────────────────────────

MD215年 8/13 13:00


「儂久しぶりの出番なんじゃが?」


「はい?」


「何か三十話近く出番が無かった気がするんじゃが」


「そうですか、頭の病気でしょう。 ドライアド達をここへ、サツホロの市長殿がご病気の様だ」


「同盟国相手に扱い酷いんじゃが!」


 両手を小気味良く二度打ち鳴らし、おかしなことを言うアルビノのナーガを病院へ押し込もうとする女。

 場所は江戸城天守閣、両者は向かい合いながら座っていた。

 一人は東京十代目総理大臣、徳川戦。

 その向かい側に座るのはサツホロを治めるナーガの巫女、芽衣子。


「元気だねぇ君達、ははは」


 そして、その奥。

 天守閣に座る一人の白衣の男。


「……ふん」


「…………ふむ」


 永村博太。

 管理者達の一人にして、裏方を担当する男。

 永村は顔を徳川へと向けると、質問を行う。


「嫌われたものだね、とはいえ私が嫌われようと君らがやる事に変わりは無い。 徳川さん、人魚達の受け入れはどうなってる?」


「…………」


「徳川さん」


「……ふん、人魚達の受け入れは終わっています。 ですが言語や生活環境の違い、それに人魚達が直面した事態に対するショックからはまだ立ち直れていないようです」


「なるほど、では彼らが落ち着くまで引き続き面倒を見てあげて欲しい」


「御意に」


 不承不承な態度を取りながら、徳川は永村に対して頷く。

 その対応を見て満足そうに笑みを作ると永村は次に芽衣子の方を向いた。


「芽衣子、君の方はどうだい」


「こっちは普通じゃな、あの神様の治療も順調じゃが……万全とは言いがたいの。 戦うだけなら出来るんじゃろうが、お勧めはせん」


「通常の状態に戻すには後どれ位掛かりそうです?」


「これが人間や魔族相手なら即答できるんじゃが……何分神様相手では確定した事は言えんのう、速ければ一月と言った所なんじゃろうが」


 永村の質問に芽衣子は首を振る。


「やれやれ……流石に簡単に元には戻りませんか。 分かりました、貴方もそのまま天照の治療を続けてください」


 永村はやれやれと首を横に振る。

 天照、日本を調停していた神……を名乗っていた人類で最初に変異を確認された存在。

 彼女はハワイ脱出の際、タリブの眷属と戦い深手を負っていた。

 右腕を塵へと還された天照は、それでも気力だけで僕の空飛ぶ船を日本まで運ぶと気絶し集中治療を受けていた。


「了承した。 して、これからどうするんじゃ?」


「これから、か」


「まさか我等を導く者が先の事を考えていない等とは……仰いませんね?」


 芽衣子の質問に、少し永村は言葉を詰まらせる。

 それを見た徳川は即座に嫌味を飛ばす。


「えぇ、勿論です。 考えていますよ」


「ほう、では次は何処を侵略するおつもりなのかお聞かせ願いたい」


「ははは、血気盛んですねぇ徳川さんは。 そんなに現地人を殺したいんですか?」


「……ふん」


「慌てなくても次の一手は決めていますよ」


 永村は一瞬、目線を横に向けると隣で影のように控えていた半分機械の人間が前へと歩み出る。

 それを見た徳川の表情が不快に染まったのを、永村は見逃さなかった。

 その人間はゆっくりと前へ出て行き、床へ地図を広げた。


「世界地図……じゃったか、何度見ても信じられんのう……世界がこんなに広いとは」


「世界は広いですよ、見聞を広げる旅にでも出ますか?」


「悪くないのう……ではサツホロの管理はお主に任せよう」


「いえいえ、管理業務はしっかりこなしながら旅に出てください」


「茶番は良い、次の場所を教えなさい」


 苛立ちが募り、今にも爆発しそうな徳川を見て永村は内心ほくそえむ。

 

「次の侵略先は……オーストラリアです」




結局首にはなったが何だかんだ色々あって今の仕事を続ける事になったので異世界保健屋さん話はお預けだ!なので初投稿です



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