表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
人類ガバガバ保護記   作者: にっしー
ハワイ編
107/207

縁切り/Renounce

https://www.youtube.com/watch?v=wk2uWPOIRTk

Persona 5 OST 27 - Regret

MD215年 8/5 15:00


 ゆっくりと蠍を模した黒い怪物が沈んでいく。

 作成した当初は完全な機械で作成されたそれは、今は脈打つ心臓の鼓動を徐々に弱めながら力尽きていく。

 そして、それとは逆に息を精一杯吐きながらも力強く立つ男女が蠍の前。

 山坂の眼前に立っていた。


「さぁ、さっさと逃げるわよ!!!!」


 かなりいきり立って。


「アッハイ」


「いや落ち着けよ天照、俺もさっさと逃げたいが……俺は少し……いやかなり疲れたから少し休みたい」


「はぁ!? こっちは人魚達を乗せた鳥船の管理もしながらやってるんだからこれ以上天ちゃんに霊力使わせないでよぉ!」


「だったら今みたいに海水から霊力回収すりゃいいだろ!」


「髪が痛むから嫌~~~!!!」


「君ら何時の間にそんな仲良くなったの」


 言い争いを繰り広げる男女、アデルと天照の二人を唖然とした表情で見ていた山坂からついそんな言葉が零れ落ちる。

 すると二人は言い争いを止め、山坂へ向かって振り返った。


「自力脱出に時間掛かったどっかの誰かさんのせい~?」


「それは大いにあるな、っていうかお前生きてたのか……」


「今更過ぎる……いやでも俺が生首になった時はお前居なかったような……ってそうだ! クソ雌てめぇあの時はよくも僕を海へ落としやがったな!?」


「いやん、天ちゃん覚えてな~い♪ っていうかご主人ちゃま? 何、その姿」


 そして新たに山坂と言い争いを始めた天照はそこでふと気づく。

 山坂の現状が人面犬状態であることに。

 それを見た天照とアデルは少しの時間は耐えたが、耐え切れず笑い出してしまう。


「ぷっ……くくっ、ふふ……あっはっはははははははは! やっば、なにその姿!?」


「犬!? 犬ってか! わははははは!」


「よーしお前ら今すぐ殺す」


 笑い始めた二人に山坂は拳を握り、二人へ近づいていく。

 だが突然の揺れが三人を襲い、山坂はバランスを崩して転んでしまう。


「いってぇ!」


「っ……!」


「またあの化け物か!?」


 揺れは10秒ほど続き……だが海中からは何も現れず、アデルと山坂は安堵の溜息を漏らす。


「どうやら今回は何も出てこないらしいな、予想外の事態が起きまくると流石の僕でも焦る」


「お前の場合常に予想外の事態が発生してないか?」


「細かい事は気にするな、とりあえず脱出の意見には賛成だ。 ハワイ沖一帯にタリブのジャミングが残ってるからこのままじゃエクィローに戻れん」


「タリブ?」


「外で暴れてたくそでかい奴だよ、僕が作った」


 山坂の一言にアデルは突っ込みを入れると、山坂は天照へ顔を向け脱出の意見に賛同した。

 その上で周囲を改めて見回し、手の動作で平面に円を作りその円から逃れる様に示す。

 だが説明の途中に出たタリブという単語にアデルは引っかかりを覚え、疑問の言葉を上げる。


「え、なに、作った? あれを? は?」


「ふっ、貴様の様な矮小な脳味噌には理解できんか……この領域レベルの話は」


「いや待て待て待て、本当にあれを作ったのはお前なのか?」


「そうだが」


「じゃああれが引き連れてきた連中も……そうなのか?」


 徐々に笑顔から真顔に変化していくアデルだったが、山坂はそれに気づかず得意げに話し始める。


「あぁ眷属ドローンどもか? あれは違う、いや正確には中間というか、生物や機械がああなるように仕向けているのはタリブだが別に僕が作ったわけじゃない」


「じゃあ……今回人魚達が犠牲になったのは…………!!」


「あぁ、僕のせ───」


 山坂が台詞を言い終える前に、アデルは山坂の首を片手で持ち締め上げた。


「ふざけたこと抜かしてんじゃねえぞ! 言え! どうしてあんな化け物を作った!」


「馬鹿馬鹿しい、何かと思えばそんなことか……おい、クソ雌」


「言え、このクソ野──!」


 首を締め上げていたアデルの耳に鈍い音が響く。

 次いで、脱力がアデルを襲うと山坂を掴んでいた手から力が抜け、山坂は地面に身を落とす。


「かっ……は、あ、あっ……あ、天照……何故」


「…………」


「ったく、もう少しスマートにやれ。 本体に戻れなかったらどうするつもりだ」


「ふんっ、知らないわよ。 天ちゃんは助けろって命令を遂行しただけだもん」


 脇腹へ攻撃を加えたのは天照だった、右拳を直ぐに引き抜くと痛みに悶えながらアデルが膝を着く。

 責める様な、裏切られたような表情をしながら天照を見つめるアデルだが本人は居心地の悪さを感じながらもアデルに対して素っ気無く対応した。

 天照はそのまま痛みに呻くアデルを無視し、山坂の前に跪く。


「で、撤退するのは分かったけどもう一人は?」


「執心な女を拾いに行った、とはいええらく遅いな……少し様子でも見てくるか」


「ならばお早く、現在地はリヴァイアサンの末端とは言え眷族どもがさっきから近づいてきてる」


「露払いしておけ、それと……」


 跪く天照に気分を良くした山坂は、小さい体で天照を見下しながら会話する。

 そして会話の流れで田崎の事を思い出した山坂は身を翻すと、眷属が空けた内部へ通じる大穴へと歩いていく。

 その途中、何かを思い出したように天照へ振り返ると。


「その間抜けの教育をしっかりしておけ、爪楊枝レベルに便利だが何かにつけて反逆されるのは鬱陶しい」


「………ふん、御意」


「て、めぇ、まちやが……れぇ!」


 痛みに悶え、それでも必死に去っていく山坂へと霞む目を見開きながら手を伸ばすアデル。

 だが、彼の意識はそこで途切れた。


「……加護がなきゃまだまだ弱い、か。 全く……無謀過ぎる勇気には困っちゃう」


 意識を失ったアデルから一瞬、仄かな光が漏れ出るとそれは天照へと吸い込まれていく。

 そして、悲しそうな目をした天照はそう言うとアデルを背にしゆっくりと迫り来る大型の眷族へと向き直った。


「さぁて、ラストスパート! 全力全開で行っちゃう!!」



────────────────────────────────────────


「そんな……」


「…………」


 外で天照が脱出の為の露払いを始める前、タザキが内部に戻ってきて直ぐの頃。

 オケアノス内部の動力炉では異変が起きていた。


「メハメハ、これは……」


 メハメハ、田崎以外の人魚の枯死。

 内部に留まっていた人魚達は、空間を切り離していた眷属が田崎に倒されると同時に指先から徐々に霊力を失っていき最後にはミイラの様になった死体だけが残っていた。


「嘘、だよ、ね……皆、皆……!」


 自らが産んだ人魚達が目の前で萎れ、息絶えていく光景を見せ付けられたメハメハは一人泣いていた。

 大粒の涙を頬から零し、死んだ友人の前で一人泣いていた。

 

「…………」


 そんなメハメハに外から戻ってきた田崎が言える言葉は何も無かった。

 すまない、という謝罪の言葉すら彼には言えなかった。

 元よりこの惨状を招いたのは彼らが作ったタリブのせいなのだから。


「行くぞ、メハメハ」


「ケネス……クレイグ……マーシィ……なんで、みんな、どうして」


「ここに居てもこいつらの後を追うだけだ、それに元々こいつらはお前を道具のように──」


「分かってる! 分かってる!! 分かってるけど……! それでも、あたしにとっては家族なの!」


「っ……!」


 だが田崎は気を引き締め、非情な言葉を口にする。

 それは傲慢でもあり、彼女を思う優しさでもあったのかもしれない。

 田崎はメハメハへと近寄ると、子であり友の形見を握り泣きじゃくる彼女の手を取ろうとする。

 だが彼女は力強くそれを振りほどき、田崎へと叫んだ。

 その言葉に、田崎は何か思うところがあるのかそれ以上強く行動する事が出来なかった。


「分かってるんだよ? 本当はあたしがどうやって生まれたのか……皆がどうやって生まれたのかなんて……あたしは、元々道具として生まれた」


 そう言うと、彼女は両手に持っていた黒いブローチを胸元へ押し付けるように持って行く。


「でも、それでも皆はあたしと仲良くしてくれた……困っていたら助けてくれた! 皆はあたしを守る為に、利用する為に生まれたけど! それでも!!」


「メハメハ──」


「それでも、あたしの大切な家族、だった、のに……」


 そう言って、再び泣き始めたメハメハ。

 両頬から零れる涙が、目の前の友人の顔に垂れていく。

 そんな泣きじゃくる彼女の足に、ゆっくりと手が触れる。


「ッ!?」


 手が触れる感触に驚き、メハメハは眼を見開き足元を見る。

 その手は、彼女の目の前の人魚の手だった。

 

「メ、ハメハ……?」


「ケネス……? ケネス!!?」


 突然の出来事に驚くメハメハ。

 それも当然だろう、完全にミイラの様な状態になっていた人魚が弱々しく。

 だがそれでも言葉を発したのだ。

 メハメハは彼女を抱きしめ、涙した。


「痛い、よ……メハメハ……」


「あ、ご、ごめ──」


「うぅん、いいの……離さないで……」


 人魚はメハメハの抱擁を痛がり、メハメハはそれを中断しようとするが人魚は力なく首を横に振る。

 そして彼女もまた震える腕を持ち上げ、メハメハを抱擁した。


「ね、聞いてメハメハ……」


「う、うん……」


「私達、貴方に沢山酷い事したよね……ごめんなさい。 謝っても許してもらえる事じゃないとは、思うけれど……」


「いいの、そんなの! あたしは、皆が居れば……!」


「えぇ、私達も一緒の気持ちよ……貴方とずっと一緒に居たい」


 人魚がメハメハを抱擁する力は、本当に少しずつ、力強い物に、暖かいものになっていく。


「でもね……私達は、ずっと貴方と一緒には居られない……」


「そんな、そんなのやだよ!! ずっと一緒がいい! 皆と、ずっと一緒が!」


「ごめん、ね……メハメハ。 あなた、は、生きて……」


 人魚の言葉が徐々に掠れていく。

 力が抜け、そしてメハメハを抱擁していた腕からもまた力が抜けていく。


「ケネス、ケネス……! やだ、やだ!! あたしを一人にしないで!! あたし、歌うから! 精一杯歌うから、だから、だから──」


「し……あ、わせ……に……」


「やだ、やだ…………いやぁああああああああああああああああああ!」


 人魚は、そうして息絶えた。

 否、既に息絶えていたものが再び死んだのだ。

 メハメハが零した涙が起こした奇跡は、終わった。

 力なく、今度こそ息絶えた友を抱きメハメハは叫んだ。

 そして、叫びは周囲に潜んでいた眷族を呼び寄せた。


「GGGGGGGGGGGGGAZZZ!」


「ちっ、こいつ等……!」


 動力炉の壁面を食い破り、無数の小型眷属達が動力炉へなだれ込む。

 メハメハと人魚の様子を見守っていた田崎は、眷属が突入してくるのを見てメハメハを抱きかかえる。


「いや、離して!! ケネス、ケネスがまだ!!」


「あいつはもう死んだ、諦めろ!」


「やだ、ばか! 離して!! 離してよ!! まだ、まだ皆が!!」


 人魚を抱いていたメハメハを引き剥がし抱きかかえた田崎だが、メハメハは力いっぱい抵抗する。

 そして眼下の友人へと手を伸ばすが──。


「おいお前ら何やって──なんだこの惨状!? ドローンまで居るのか!? おい、田崎!! 何やってる!」


「分かってる! ……すまんメハメハ、恨み言は後で無限に聞く!」


「いや! いやああああああああ! 皆ーーーーーーー!」


「…………離脱する!」


 田崎は両足に力を篭め、天井に空いた大穴へと跳躍する。

 それは希望への跳躍であり、過去を忘却する跳躍であり、新たな一歩への跳躍であった。

 …………かくして、田崎とメハメハは脱出に成功し。

 露払いを終えた天照の先導の元、山坂達はハワイ沖からの脱出に成功するのだった。



何だかんだ何とかなったりならなかったりしているので初投稿です

人生ガチャ!


縁切り  白①


インスタント


望む数のパーマネントを生け贄に捧げる。これにより生け贄に捧げられたパーマネント1つにつき、あなたは2点のライフを得る。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ