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人類ガバガバ保護記   作者: にっしー
ハワイ編
105/207

ホモと判明したら

https://www.youtube.com/watch?v=ICnUP1DXo-M

盗めない宝石

MD215年 8/5 14:43


 重低音が動力炉に響く。

 周囲では未だオケアノスとタリブの戦闘が続き、動力炉の真上に空いた大穴からはタリブの眷属、球体の頭部が中を覗き込んだまま静止していた。

 そんな不気味な物体が覗き込む中、動力炉と呼ばれる装置──山坂が過去に作成したドリームマシンの失敗作だが──の上部にある球体がゆっくりと展開されていく。


「……」


 球体がゆっくりと展開していく中、球体の目の前で田崎は無言のまま立ち尽くしていた。

 戦闘用の装備はそのままで彼の顔は他人からは見えない。

 だが、その黒い覆いの下では焦りの様な表情を浮かべながら装置が完全に展開される瞬間を待っていた。


「おい、まだ開かないのか!? 田崎てめーも待ってないで引っぺがすとかして無理やり剥がせ!」


「……」


「聞いてんのか! あの眷属が止まってる内に……むぎゅっ!?」


「少しあいつらと遊んで来い」


「む?」


 玩具の体に本体を模した機械の頭部、そんな人面犬状態で田崎の足元で吼える山坂。

 それを五月蝿いと思ったのか最初は無視していた田崎はゆっくりと屈むと、山坂の顔を抑え遠くへ放り投げる。

 山坂はゆっくりと放物線を描きながらドリームマシンの下へゆっくりと落ちて行き……。


「そいつの躾は任せた、暴力振るって構わんぞ」


「むごご、く、クソ野郎ーー!!」


 その下で待ち受けていた人魚達に袋叩きにされた。


「ダリルの仇!! 死ね!」


「や、やめろ! 今は一時休戦って話だったろうが! あ、いや、やめて其処はそんなのが入るようにはなってな……あーーーーーー!」


 重低音が響く室内に一時、金属がへし折れるような音が響く。

 田崎はそんな音を聞いても尚、じっと球体が展開する様を見つめていた。

 球体に繋がっていた透明なホースが取り外されると、その内部が徐々に露見していく。

 最初に足が、そして腕が。


「メハメハ……」


 そして最後には球体の全てが開放され、分娩台の様な装置に括りつけられたメハメハが現れる。

 メハメハはぐったりとしており、それを見た田崎は駆け寄ると声を掛けた。


「メハメハ! 大丈夫か、メハメハ!」


「う、うぅん……タ、ザキ…………?」


「……無事か、メハメハ」


 メハメハを抱き寄せ、その呼吸を確認すると田崎は一瞬安堵をし声を掛ける。

 何度かの声掛けの後、メハメハはゆっくりと瞼を空け、男の名を呼ぶ。

 そして口を開いて答える代わりに、彼女は力強く両腕で田崎を抱きしめた。


「タザキ、タザキ……タザキタザキタザキ!!」


 その力強い抱擁に田崎は困惑し……その抱擁に答えようと彼女の背中に腕を回した所で思いとどまり、メハメハの肩を掴むとゆっくりと引き離す。


「もう大丈夫だ、お前の力はもうあいつには利用させはしない」


「うん……うん!」


「……この格差は酷くねえか?」


 そんな上から聞こえてくる声に山坂は自身の現状を嘆いた。

 山坂は現在右前足と左後ろ足を引き千切られ、それぞれが山坂の腹部を貫いていた。

 ぼろぼろになった体を引き摺りながら、傷塗れの顔を上げると山坂は怨嗟の声を上げる。


「ほんっと……世の中クソ……だな」


 その顔は憎しみに満ちつつも、何処か温和な目つきをしていた。


「世界に対する憎しみ中申し訳ありません、山坂氏」


「……あん? あぁ、お前か」


 そんな時、側面から声を掛けられ山坂は声の主へ振り返ると納得したような顔をする。

 マルフォス。

 オケアノスとメハメハを作成し、制海権を得ようとしていた男。


「大分手酷くやられましたね」


「お前の持ち物だろう、何で止めなかった」


「一時停戦中とはいえ、敵ですから」


「確かに?」


 マルフォスの答えに納得したような顔をすると山坂は体から火花を散らしながら、うつ伏せの状態から立ち上がり床に座り込む。

 そして自身を物理的に下に見ている相手に顔を上げる。


「……あぁ、思い出した。 お前あれか、機械工学で昔論文を書いてなかったか?」


「……! えぇ、何度か執筆して──」


「サイエンスに載ってたな、思い出した。 いつもはあの雑誌のロボット関連のは田崎が独占するんだが、四回くらいはお前が載ってた気がする」


「よく覚えていますね……ですが四回ではなく、五回です」


「そりゃすまんな、だが成る程合点がいった。 えらく田崎に突っかかると思っていたがそうか、ライバルだったか」


「あの人は覚えていないでしょうがね」


 そう、寂しげな表情で告げるマルフォスに対して笑いかけると山坂は器用に座った状態で前に進みマルフォスの足を軽く二度叩いた。

 気にするな、とでも言いたげに。


「んで、あいつはお前の作品を助けて満足したみたいだが……こっからどうする?」


「勿論上の目障りな存在と外の怪物を倒します、その後は……」


「僕達と敵対するか?」


「元々喧嘩を売ってきたのは貴方達二人だったと思いますが? こちらは恭順の意を示したと思いましたが」


「まあそう言われるとそうなんだが、こりゃ参ったなぁ」


 真顔で返すマルフォスに、山坂は困った顔をしながら笑みを返す。

 そしておもむろに腹部に刺さった自らの左足を抜くと、それを元の位置に接続し始める。


「……もう行くのですか?」


「あぁ、外で暴れてる怪物は僕謹製の無敵マシンだからな。 長居してこの世から抹消されても困る」


「成る程、それは壊し甲斐がありそうですね」


「……謝罪はしないぞ、元々この計画は僕らの死も織り込み済みで進んでる。 お前が仮に田崎の代わりに僕の隣に居たとしてもだ」


「問題ありません、死ぬつもりはありませんから」


 自らの足を溶接する山坂に近づくと、マルフォスは山坂の腹部にもう一本刺さった足を引き抜くとそれを右足へと接続していく。

 そんな男二人の奇妙な空間を、先ほど山坂をこんな惨状にした人魚達は遠巻きに眺めていた。

 千年前の人間同士にしか分からない、奇妙な友情の様な物を感じ取ったのかもしれない。

 そして修理が終わると二人の些細な会話も終わり……山坂は立ち上がると体の感触を確かめる。


「悪くない、田崎よりはクソだが……大した腕前だ」


「貴方に褒められるのは素直に嬉しいですよ」


「ホモかな?」


「えぇ、貴方の事は大学の演説で見たときからずっと……」


「田崎ーー! 今そっちに行くーーーー! 助けてーーー!」


 冗談めかして言う山坂に、マルフォスは真顔で頷く。

 その動作を見た瞬間、山坂は一目散に田崎の元へと走り去っていった。

 そんな姿を見て、マルフォスは微笑を浮かべると人魚達の方へ振り返る。


「遊びは終わりです、オケアノスの現状を報告!」


「イエス・マスター!」


 振り返ったマルフォスの顔はいつも通りの顔に戻っていた。

 だが、いつもよりも何処か吹っ切れたような顔もしていた。


────────────────────────────────────────


「……成る程、要するにホモの嫉妬みたいなもんか」


「まあ似たようなもんだがこう……もう少し形容する言葉があるっていうかオブラートに包めない?」


「無理だな」


「ホモってな~に? っていうか何? この気持ち悪い犬」


「犬じゃねえ、山坂様だ!」


 マルフォスの元から逃げ出した山坂は、その後いちゃつきそうな雰囲気だった田崎とメハメハの間に割って入ると先ほどの会話を掻い摘んで二人に話した。

 田崎は妙に自分に対して突っかかってくるマルフォスの態度に納得がいったようであり、メハメハは知らない言葉に疑問を浮かべていた。


「え~、犬じゃないの~?」


「山坂様だっつってんだろ! ったく、何だこのメスは……しっかり躾けろ田崎」


「俺には他人の生き方を躾けるような趣味は無い、仕事だったら別だがな」


「ちっ、面倒な奴め。 んで……目的は達成したんだな?」


「あぁ」


 腕組をした状態で田崎は頷くと、遥か上方。

 8メートルは上にある天井、その大穴から覗く眷属へと目を向けた。

 それに釣られる様に残りの二人も見上げ、山坂は眷属を睨みつける。


「ならさっさと脱出するぞ、外にクソ雌を暴れさせてある。 そいつを回収して撤退だ」


「クソ雌? あぁ、天照か?」


「そういうことだ、最もあれが死んでなきゃの話だが多分大丈夫だろ、あれが死んでるならこんな風に悠長に話してる暇すらないはずだ」


「??」


「お前は知らなくてもいい、とりあえず……今は脱出する事が先決だ、メハメハ」


「この二人だけの空間♪ みたいな雰囲気マジ耐えられない、死にたい」


 山坂は眷属を睨みつけながら外で暴れているであろう天照の事を説明するが、その後の田崎とメハメハの関係に嫌気が差し辟易とした顔をする。


「ならタリブが来るのを待ってるか?」


「この世から消えるのはごめんだな」


「なら……お前謹製の作品の強さを少し試すとするか!」


「あぁ、存分にやれ! どうせ元々は何かの海洋生物だろうしな! 藻屑にしてやれ!」


「カウント、3! 打撃機構、封印解除ディシジョンスタート!」


 軽口に、田崎は軽口で答える。

 山坂は軽薄な笑みを浮かべながらそれを否定すると、田崎の肩へと自らの体に備え付けられた尾を絡みつかせ登っていく。

 田崎は山坂が肩に登ったことを確認すると、構えを取った。

 以前天照を吹き飛ばした時に取った構えを。


「メハメハ……危ないから壁まで離れてろ!」


「う、うん……!」


<ショウニン、チャネルモードへ移行>


 田崎は大きく右腕を引き、弓なりの構えを取る。

 そしてそれに伴い、周囲の床や金属片がゆっくりと浮かび上がると田崎の背後と前面に筒状に展開されていく。


<エネルギーライン、全段直結>


 それらは田崎の背中に生きているかの様に千切れたケーブルを繋げていくと、筒全体が紅く染まっていく。


<ランディングギア、アイネス、ロック>


「凄い霊力を感じる……これが、田崎の……」


「────?」


 天井、眷属へと向けた金属製の筒が赤く染まっていくと眷属は顔の無い球体の頭部をゆっくりと動かし、田崎の方を向いた。

 そして頭部の上に浮かんでいる天使の輪を模した金属は素早く回転を始める。


「今更気づいたようだが──もう遅い」


<チャンバー内、正常加圧中>


「─────!!」


<ライフリング、回転開始>


 輪が回転する。

 筒に溜まった霊力を抹消する為に。

 筒もまた、赤熱し回転する。

 田崎という弾頭を発射する為に。


<撃てます>


「行くぞ山坂ぁ!」


「一気にぶち抜いてやれ!」


 輪が高速で回転し、止まる。

 止まった瞬間、それは音を越えた速度で先端の一本を伸ばし筒を貫く。


「──!?」


 だが、筒を貫いた瞬間眷族は既に頭部を打ち砕かれていた。

 音よりも速く、男の拳で。

 その衝撃は動力炉内に強力な衝撃波を発生させ、周囲のあらゆる物を吹き飛ばした。

 上部に居た眷属諸共。


「────さぁて、いっちょぶちかましますかねぇ!!」


 右拳を振りぬいたままの体勢で、田崎は数日振りにオケアノスの外へと出た。

 その表情は、とても生き生きしていた。



更新基準を達成したのでまた三ヶ月仕事が出来るので初投稿です

挿絵の本完成データが届きましたよ…おまけにあのキャラクターの挿絵まで…嬉しい…嬉しい…


チャネル  緑緑


ソーサリー


あなたは望む数のライフを支払い、その数に等しい緑マナを生み出す。


「世界を変えるためには、自らを差し出さなければならない」

──田崎、愛読書の一文

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