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人類ガバガバ保護記   作者: にっしー
ハワイ編
102/207

神の祝福を得たら

https://www.youtube.com/watch?v=R4wSm6C9UC0

FGO 運命

MD215年 8/5 14:33


 世界が揺れていた。

 魔族を殲滅するという目的の為に製造されて、五百年。

 その間には様々な事が起こった。

 人間と魔族による最終戦争によって全ての電子機器類が破壊され、異なる大陸同士での連絡が不可能となっていた時代。

 海はオケアノスの独壇場だった。


挿絵(By みてみん)


「────ォォォォォン」


 汽笛の様なオケアノスの悲鳴がハワイ沖、太平洋に響く。

 深く打ち込まれた拳がオケアノスが今まで取り込んできた数百隻の戦艦の装甲を、砕いていく。

 オケアノスは突然の乱入者にも即座に反応し、全身に備え付けられた砲塔から一斉に艦砲射撃を行う。

 120ミリを超える巨大な砲弾は猛烈な音と勢いで飛び、それらは順に怪物へと着弾……する筈だった。

 だがオケアノスが一斉に放った攻撃は怪物に直撃すると思った瞬間、それは其処に何も無いかのようにすり抜けて行ったのだ。


「すり抜けた!?」


 怪物の後方、オケアノスの尾の部分で戦っていたアデルは驚きの声を上げた。

 天照が呼び出した、自らの乗る船兼僕の手すりへ詰め寄ると大きく身を乗り出すと船から落ちそうになりながら見つめる。


「おいおいおい、何なんだよあいつは! 天照、お前知ってんのか!?」


 アデルは自身の左上、肩の上辺りに浮かんでいた天照の方へ顔を向けるが天照はただ見てはいけない物を見てしまった、と言う様な顔をしながら呆然としていた。

 そんな天照の顔を初めて見るアデルは、少しの間天照と同じく呆然とする。


「……天照? おい?」 


「………………」


 が直ぐに気を取り直すと天照へと数回声を掛ける。

 だが天照はアデルの声には反応せず、業を煮やしたのかアデルは天照の素足を掴む。


「────ッ!?」


 茫然自失としていた天照は、その急なアデルの行動に現実に引き戻され足元へと顔を向ける。

 天照の視線の先には真面目な顔をしつつも、何処か無邪気そうな男の顔が映っていた。


「正気に戻ったか?」


「え?」


「お前、あれが出てきてからおかしいぞ……大丈夫か?」


 そうアデルへ言われ、天照は再び怪物へと目を向けようとするが。


「ッ!」


 顔を動かした瞬間、自らの中にある霊力や意識が怪物へと奪われる感覚に襲われる。

 突然そんな感覚に襲われ、ふらふらと力なく天照は船の上へと落下する。


「お、おい!?」


「……大丈夫、ちょっと、眩暈がしただけ」


 心配そうに天照へ手を伸ばしたアデルの手を、天照は払いのけるといつものニコニコと明るい笑顔ではなく気丈な。

 だが少しだけ怯えた顔で言った。

 その顔を見たアデルは心配した顔で何か言おうとしたが、その言葉は次に響いた轟音と飛来した鉄板で一気に掻き消える。


「な、なんだ!?」


 二人の乗っている船のスレスレを巨大な鉄板──恐らくはオケアノスの物と思われる──が通り過ぎていく。

 アデルはその鉄板が船を通り過ぎ、遠くの海に着水するところまで見届けるとゆっくりとそれが飛んできたであろう位置へと顔を戻した。

 彼の視線の先には、小型の怪物とでも言うかのような怪物と全く同じ姿の物がオケアノスへと群がっていた。


「………ァァァ!」


「戦線の維持───、くそ! 呪文を──!」


「ママァーー! パパァァーーー!」


 そして眷属達がオケアノスの装甲を一枚一枚力ずくで引き剥がし……内部で生活、あるいはオケアノス内部で防衛活動をしていた人魚達への虐殺を開始する。

 ある者は眷属の頭にある丸鋸の様な輪から伸びた刃によって串刺しにされ、霊力を吸われて塵へと帰結する。

 またある者はその巨大な三本の指に鷲掴みにされ、握りつぶされる。

 そんな中、人魚の兵士達は4人掛りで呪文を詠唱し眷属へと放つ。


「食らえ!!」


 兵士達は四人分の青の霊力を呪文に織り上げ、魔術を放つ。

 その霊力は波打ち、泡立ち、青い糸の様に細く、だが素早く眷属へと飛んでいった。

 狙われた眷属は右手を開き、掌から先ほどまでは人魚だった魔族の塵を零れ落とすと自らへ迫る魔術に目を向けた。

 腕の節々、脇の下、体の至るところにある、およそ生物としての合理性を欠いている様に見える目を一斉に。

 そして眷属はゆっくりと、握手を求める手を払うかのように左手を振るい……魔術を砕いた。


「───なにぃ!?」


 細い糸の霊力は眷属が腕を振るった瞬間から、まるでガラスを砕くように先端から砕け散っていく。

 砕けた霊力の欠片はオケアノス内部へと落下し、仄かな青い光を少しだけ放つと消え去ってしまう。

 そして先端から砕け始めた魔術はその大元へと徐々に近づいていき……その魔術は完全に消滅する。


「馬鹿な、打ち消したのではなく……魔術を砕くだ──おごぉ!?」


「た、隊長──がっ、あっ……!」


「え、うそ、何──いや!」


「と────溶ける──! やめて、助け──!」


 そして、悲痛な叫びがあがる。

 魔術を放っていた四人は思い思いの断末魔を叫ぶと、指先から徐々に肌の色が白くなっていき……そして塵へと変化していく。

 だがその変化の仕方も一人一人違った。

 一人は塵へと帰っていくかと思えば、もう一人は突然老化を始める。

 そしてもう一人は体の右半分が空中へ浮き上がっていくかと思えば、最後の一人は足元から液体のように溶けていく。


「「………………」」


 その光景を遠巻きに見ていた二人は、あまりの事に言葉を失う。

 アデルも天照も、人間や魔族が塵へとなっていく事を見たことがある。

 アデルは味方の側から、天照は管理者達の敵の側から。

 その時に見た光景も絶句する様な内容だったが……今回のそれはより不可思議なものだった。

 そんな中で、最初に口を開いたのは天照だった。


「後退するしかないわね」


「……本気か?」


「本気、あんな化け物と戦えなんて命令されてないもん」


「人魚達はどうするつもりだ」


「当然見捨てるわ、こっちとしては元々──」


 天照が言葉を言い切る前に、アデルが剣を鞘からゆっくりと引き抜く。


「あいつらを殺しに来たから見捨ててもいいって言うつもりか?」


「……そうよ、こっちの仕事を向こうがやってくれる。 だからあれがこっちを向かない間に逃げる、要するに引き継ぎってわけ」


「気にいらねえ」


「は?」


「俺は確かにあのリヴァイアサン相手に戦ってたが、あの人魚達を殺せと言われたわけじゃない」


 鞘から抜いた剣を構えると、アデルは船の縁へ右足を乗せる。


「ちょ、ちょっと!?」


「お前、神なんだろ?」


「は? まぁ……一応そう名乗ってるけど」


「だったら他人を見捨てるような事言うんじゃねえよ! 神様だってんなら、見えてる全部救ってみせるもんじゃねーのかよ!」


「!」


 そうアデルは叫ぶと縁に乗せた右足を力強く踏み出し、空中に浮かぶ船から飛び降りるとオケアノスの背中へと降り立った。

 5メートルほどの高さから落下したアデルは、華麗に受身を取るとそのまま人魚達を襲う眷族へと走っていく。

 アデルの身長はおよそ170センチ。

 それに対して人魚を襲う眷族の大きさは……およそ8メートル。


「馬鹿じゃないの、『俺』は神を名乗ってるって言ったって……所詮はそう名乗ってるだけの紛い物、硬さと変化が取り得の化け物だってのに」


 眷属へ向け、無謀な突進を行うアデルの姿を嘲笑うと天照は目を閉じる。


────────────────────────────────────────

「化け物」


「やめて……」


「実験体」


「やめて……!」


「あなたなんて、産むんじゃなかった!」


「やめて!!」


「……おめでとう、君は選ばれたのだ。 人類の次の段階へと」


「やめてくれ!! 俺は、俺は……!! 人間で居たかった!!! 無力なままの、平凡な、何も無い日常を過ごせる人間で居たかったんだ!!」


「だが霊力はそれを許さない、力を得たものは……その力を使わねばならないのだ」


「それなら、それなら『俺は』……!」

────────────────────────────────────────


 数秒、天照は目を閉じる。

 そして自らの過去を思い返す。

 霊力、人類が発見した未知なるエネルギー。

 それは人類の技術力と、文明と、人類そのものを変化させた。

 そして同時にこの天照と名乗る男の運命も。


「ほんっと、馬鹿みたい。 日本の山奥に篭って神様騙って自分の体を女にして、好き放題女を漁ってた『俺』に……」


 霊力が発見された当初、最初に確認された変異種。

 彼の力は物質の変化と、結束。

 人類は彼を研究し……拷問し、あらゆる理解を得ようとした。

 霊力によって彼の運命は狂い、彼は彼を捨て、彼女になった。

 享楽を貪る為に己を偽っていた。


「本当に神様らしく振舞えなんて……偉そうに言ってくれるじゃない!!」


 そして、天照は目を啓く。

 神を騙る者ではなく、真に魔族を守護する者として。

 

────────────────────────────────────────


「はっ、はっ……!」


 アデルは走っていた。

 長い長い、うねった道を。

 その道の所々に備え付けられた砲塔は、遠くに見える巨大な怪物へと休む事無く砲弾を降り注がせていた。

 アデルは一瞬その怪物を見るが、直ぐに顔を前に戻すと自らが相手にするべき怪物を見据えた。

 顔の無い球体の頭部、ねじくれた不快感を催す蟲の様な下半身、そしておよそ生物からは逸脱した目の配置。


「Be as fast as lightning, and you will be just as deadly!」

(稲妻のように素早く動け、そうすれば稲妻のように致命的になれる!)


 アデルは自身の体に宿る赤の霊力を、呪文を唱え織り上げる。

 肉体強化の呪印エンチャント、自らへ呪いを掛けることで自らを強化する魔術。

 アデルは得意の呪印を自らに掛け、反射速度を上げた。

 

「ちっ、もう少しあの侍と訓練しておくんだった! だが後悔しても仕方ねぇ、やれることを、やる!!」


 眷属まで残り500メートル。

 という所で、400メートルほど前方にあった砲塔が突然弾け飛ぶ。


「なんだぁ!?」


 驚きながらも走り続けるアデルの眼前に、紫色の光を放つ四足歩行でダバダバという擬音が聞こえてきそうな走りをする新たな怪物が現れる。

 その大きさは3メートルほどだが、その怪物の慎重を大きく超える砲塔を壊してきた辺りその破壊力は相当なものなのだろう。

 よく見ると、その怪物は走るたびに足元の装甲を完全に破壊している。


「……えぇい、くそ! 今更逃げれるかよ!」


 アデルは左手の盾を構え、前方に突き出し自らの身を隠すように怪物へと走っていく。

 怪物はアデルの姿を視認しているのか、相変わらずの走り方で猛進する。

 残り200、100、50……0。


「今だ!!」


 怪物が右前足を踏み上げた瞬間、アデルはその後ろ足。

 右後ろ足へと飛び掛り、剣を突き立てる。


「食らえ! 俺の剣をしゃぶりやがれ、クソ化け物野郎ーーー!」


 剣は深々と足へ突き刺さるが、四本足の怪物はそれを意にも介さず只管に真っ直ぐ走り続け……先ほどアデルが横を通り過ぎた砲塔へ突撃する。


「ッ────!」


 剣にぶら下がる形になっていたアデルは、砲塔に勢いそのままに直に叩きつけられ……3秒ほど空中に滞空した後に地面に投げ出される。


「あっ、は……く、くそ……」


 過信していた。

 今まで自らを守ってくれた盾は、機能しなかった。

 あらゆる攻撃、危険から自動で身を守る盾は、あの怪物相手には何の効果も無かった。

 ……過信していたのだ。


「くそ、ったれぇ……!」


 盾を地面に打ち付けるようにし、盾を支えにゆっくりとアデルは立ち上がる。

 そのアデルを、影が覆った。

 砲塔を破壊した怪物が、アデルを再度轢きに来ていたのだ。


「─────」


 再び、空を舞う。

 今度は4秒。

 次は5秒。

 

「…………」


 4度、アデルが空を舞った時、この赤毛の男の生命活動は停止しかけていた。

 腕の骨、足の骨、胸骨は折れ……心臓すら停止しかかっていた。

 だが不意に、アデルの脳裏に言葉が響く。

 『反撃せよと』


「………………?」


 そして、不意にアデルは意識を取り戻す。

 手放していた意識を、手放しかけていた命を取り戻す。

 その起き上がった赤毛の戦士に、怪物は五度目の猛進を行った。

 付近の地面は完全に砕け散り、オケアノス内部が丸見えになっていた。

 だがそんな事は怪物は露知らず、まだ無事な部分を砕き切る様に走りながらアデルを轢こうとしていた。


「よ、く……分からないが……立てって言うなら立ってやる……そして──」


 アデルは右手で手刀を作る。


「勝てって言うなら、勝ってやる────!!」


 そして、怪物と戦士は交錯する。

 先ほど怪物に打ち倒された男は。

 反撃のために起きあがったとき、彼は先ほど打ち倒されたときと同じ男ではなくなっていた。



今月ノルマ更新が何とかなりそうなので初投稿です



Angelic Blessing / 天使の祝福 (2)(白)

ソーサリー


クリーチャー1体を対象とする。それはターン終了時まで+3/+3の修整を受けるとともに飛行を得る。(それは飛行や到達を持たないクリーチャーによってはブロックされない。)


「ほんっと、弱いし馬鹿だしどうしようもない男……見てられないっての~!」

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