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人類ガバガバ保護記   作者: にっしー
ハワイ編
101/207

目覚めよと、呼ぶ声ありて (挿絵あり)

https://www.youtube.com/watch?v=KukSVxgsQkg

Rivers in the Desert

MD215年 8/5 14:26


 走る。

 駆ける。

 稲妻が空中を瞬く様に、真っ黒な稲妻が掛け声よりも速く迸った。

 その稲妻は眼前に居た巨大な戦艦の砲塔を棲家としているヤドカリを突き抜け、青色の血を周囲に撒き散らした。


「行くぞ、山坂!」


「へいへい!」


 青い液体が噴水の様に噴出した後、田崎の声が広い動力炉の中に響き渡る。

 突然の血のシャワーに周囲の──山坂以外のだが──生命体は一瞬唖然とする。

 黒い稲妻の相棒であり知己の友、山坂はその一瞬を見逃さなかった。

 かつて日本で流行ったAIBOUという名前の玩具の肉体を必死に使い、山坂は壁際で機械を操作していた人魚の一人へと飛び掛る。


「きゃぁっ!? な、なに!? 離しなさい!!」


「へっへっへ、魔族っつったって元は人間オア魚! 優秀な素体にゃちげえねえよなぁ!」


 人魚の腰まであった髪を犬の手で掴み、人魚の抵抗を受けながらも頭部へと登頂を果たすと山坂は自身に付属している尾を唸らせた。

 その尾は小型の白熱電球の様な小さい物だったが、それは突如四方に開くと内部から無数のコードが延び始める。

 コードは先端がプラグの様になっており、それらは一斉に人魚の両耳へと侵入した。


「あぎ! あ、がっ……はっっ、ひっ!」


「ダリル!」


 コードは人魚の耳の奥深く、脳へと侵入すると微弱な電流を彼女の脳へと流し始めた。

 その電流は人魚の脳を確実に変化させ、彼女の口からは白い泡の様な物と高音の悲鳴が上がる。

 ダリルと呼ばれた人魚は体を痙攣させていたが、彼女の名を呼んだ同僚が彼女の元へと駆けつける前にそれは終わった。


「ダ、ダリル……?」


 人魚は、突如痙攣を止めた同僚を見た。

 美しく透き通る青色の髪、青色の瞳、整った顔を持っていた同僚を。

 人魚はゆっくりと顔を『かつての』友へと向け、こう告げた。


「ニ……げて…………!」


「え──?」


 突如、ダリルの左腕が触手の様に伸びるとその腕は同僚の腹を貫いた。

 その瞬間には、沈黙だけがあった。

 同僚は何が起きたか理解できていない様だったが、数秒の後に自らの身に起きた事に気づいた。


「うそ、あたしの体……ダ、リル……どうして……」


 体を貫かれた人魚を、ダリルはその触手の様になった格子状の腕を彼女から引き抜く。


「ア、ア……」


「にぇーっへっへっへっへ! 美しい友情だな! そんじゃあバリバリ働くとしますか! 行くぞ一号機! 死ぬまで働け!」


 ダリルは変わっていく自らの体と死んだ友人の姿を見て涙を流すが、山坂はその光景を見てただただ笑うだけだった。

 それも心底楽しむように。


────────────────────────────────────────


「相変わらず悪趣味な方法を取るなあいつは……」


 田崎は戦闘の合間、横目で今までの一部始終を見て愚痴をこぼす。

 彼にとって山坂は一言で言えば問題児と言うべきものだった。

 能力はあるのだが、ひねくれ者であり自らの楽しみのみを追求する男。

 だが特筆すべき問題点はそこではない、倫理的な部分だ。

 他人の痛み、悲しむ姿にこそ悦楽を感じる、そこが田崎が最も嫌いな部分だった。


「奪うにしても一想いにやってやればいいもんを……」


 呆れた顔でそう言うと、田崎は自分に纏わり付いていた大型ヒトデの残骸を引きちぎり投げ捨てる。

 その濁ったピンク色の残骸はぐちゃりと鈍い音を立て、地面へと落下するとピンク色の湯気を放ちながら蒸発した。


「さて……次はどいつが掛かってくるんだ? それとも自慢の軍団はもう終わりか? マルフォスさんよ」


 先ほどから鬼神の如き暴れっぷりを発揮していた田崎に、戦闘行動を目的に生み出された生物兵器達も腰が引けていた。

 そんな兵器達を嘲笑うように、田崎は右手の人差し指を二度曲げ、挑発する。


「安い挑発ですね、それともそれが世界最高の頭脳が考えた煽りとでも?」


「挑発と分かる程度の知能はあったのか、どうやら千年オナニーしてただけの猿じゃあないらしいな」


「汚らしい言葉遣いですね、やはり貴方とは気が合いそうにありません」


「今更気づいたのか? 俺は会った時からそう思ってたんだが」


「……片付けろ!」 


 田崎へ視線を向けるとマルフォスは田崎を囲む生物兵器へと指示を出す。

 その指示を受け、生物兵器達はゆっくりと田崎へ迫っていく。

 兵器達の内、戦艦の砲塔の様な兵器を背負うヤドカリが田崎へと照準を向け、無数の銃弾を発射する。

 それにあわせて他のヒトデ型の兵器もまた紫色の粘液を一斉に飛ばし始める。


「CIWSか、そいつは元々防御用の兵装なんだがな」


 87mmの鉛玉が一秒間に数千発の勢いで放たれていく。

 それは田崎と、田崎の周囲の床を変形させるには十分すぎる威力だったが……男は屈しなかった。

 それどころか男は雨でも防ぐかのように額に左手を当てながら、ゆっくりと前進していく。


「一々学習しねえ奴等だ、効かねぇんだよ!」


 田崎は自らの右手に赤の霊力を集めると、それを一斉に束ね赤い剣へと変える。

 そしてそれを体を捻りながら一斉に真横に薙ぎ払う。

 赤い霊力で出来た剣は、斬られた本人達も気づかないまま兵器達を溶断する。

 その熱量は動力炉に満ちていた湿気を一瞬払い、熱気と同時に兵器達の命すら蒸発させる。


「次だ、遠慮せずどんどん掛かってこい」


 そして、田崎は先ほどと同じく挑発のポーズを取るのだった。


────────────────────────────────────────


 田崎たちがリヴァイアサンの中で暴れている頃、時を同じくして──アフリカ大陸。

 ここでは一つの装置が未だ稼動していた。

 その名をマンジェニ、田崎が管理する予定だった地球浄化用装置の一つ。

 それは不滅であり、無限の貪欲さで大地を荒廃させるものであり、全てを消すものである。

 この日もマンジェニは自らに刻印された一つの目的の為に移動していた。


「───────」


 大地はこの巨人の無数にある触手が移動するたびに霊力を吸い尽くされ、死んでいく。

 死んだ大地は白亜の塵へと帰結し、そこには何者も住む事は出来ない。

 そうして吸い上げた霊力をマンジェニは消費し、再び前へと進んでいく。

 進み、食い、消費して、進む。

 このサイクルがマンジェニの仕事であり、強さだった。


「ガア、ガア!」


 大型の鳥……であった生物がマンジェニの横を通過する。

 それは北東へと向かって飛んで行き、幾つかの群れを作ると北へと飛んでいく。

 あの群れは何れマンジェニの尖兵として生物を作り変えながら、魔族を殺していくのだ。

 マンジェニはその群れを我が子を見るような眼差し──顔の無い骸骨の為、目は無いが──を向けながらそれを見つめていた。

 だが少しして、マンジェニはゆっくりと北東を向いた。


「───────? ───────!」


 その視線の先には、遥かな大地と海しか見えていない筈だったが。

 それは確かに何かを感じたのか、触手の移動速度を上げ、北東へと移動を開始した。

 北東……ハワイ方面へと。

 今までに無い速度で大地を殺しながら進んでいく、管理者達が設定した最低速度という値を突破して、徐々に速く。

 そしてその移動は、マンジェニが生み出した眷族達の大量の移動も意味していた。


────────────────────────────────────────


「おい!! いい加減どうにかならねえのか!!」


 海上で天照が呼び出した配下に乗りながら戦うアデルの怒声がハワイ沖に響いた。

 アデルが怒声を上げるのはこれで54回目である。


「しょうがないでしょ! 相手が青いから天ちゃんの魔法が打ち消されるってさっきから30回は言った筈だけど!?」


「それを気合とか根性とかで何とかするのがてめぇの役割だろうが!!」


「心持で何とかなるなら世の中の大半の物は要らなくなぁい?」


 アデルの怒声に答えながら、天照も止む事の無い砲撃へと対処していく。

 ある砲弾は蒸発させ、ミサイルは僕を使い防ぐ。

 戦いは一進一退だった、天照が攻撃をすればオケアノスはそれを打ち消し、オケアノスが攻撃すれば天照は自らの特性により傷を負わない。

 この戦いは千日手かに思われていた、その瞬間が来るまでは。


「……あん?」


 ふと、アデルが戦場の隅にそれを発見した。

 最初は天照が破壊したリヴァイアサンの残骸だと、彼は思った。

 何せそれはオケアノスの色と同じような色合いをしており、見間違えるのも無理は無い。

 だが、彼は直ぐにそれがオケアノスの残骸でない事に気づいた。

 それは動いていたのだ、しっかりと頭部を持ち、ムカデの様な下半身と人間の様な上半身、そして三つの指と頭部に浮かぶ輪を備えたものが。


「ありゃ……なんだ?」


 アデルは必死になって、その物体を見続けた。

 本来は戦闘中であり、天照の加護により死ぬ危険は無いにしても通常そんな物体を見つめ続けるほどアデルとて愚かではない。

 だが、アデルはそれを見続けた。

 その物体が、今目の前にあるリヴァイアサンという危険よりも危険なものだと本能が告げていたのかもしれない。


「ちょっと、戦闘中にあんた何────何あれ」


 迎撃の手が止んだ事に対して、天照がアデルへ向き直り、彼女もそれを見た。

 灰色の姿をしたそれを。

 そして、それを見た瞬間天照の全身に鳥肌が立った。

 『それ』が何なのか、彼女には理解できたのだ。

 そして、それを理解する頃には既に遅かった。


「───────────────!!!」


 海を割って、『それ』は現れた。

 魔族を狩りに、三神のもう一体。

 月から山坂が解き放ってしまった装置が。

 無数の眷属と共に、世界の調停を為す為に。

 真の、人類の為の、世界平和を為す為に。


挿絵(By みてみん)

 

ハワイへ現れた。 













ついに挿絵の色付きが届いたので初投稿です

尚本完成ではないらしいので、本完成したらまた上げます


来月でノルマ更新だけど額が足りるかこれもうわかんねぇな?

お前どう?

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