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嘆きのテオーリア  作者: 黒部雅美
第二話 狩人、眠る事無く
9/11

01


「うわー、こりゃまた派手に」

 助手席のアルファが食い入るように遠くのマンションを視ている。

 駅傍の超高層ビル、その十七階から火の手が上がっていた。

「アルファ、窓は開けるなよ。警察の奴らに写真を撮られるからな」

 俺は言いながらダッシュボードから双眼鏡を取り出すと、彼女と一緒にそのマンションを観察する。

「めんどうッスねオメガ先輩、ここからじゃあ何もわかんねーッスわ」

「近寄ったってどうせ何もわからねぇよ」

 火の勢いは強烈で、消防士達の努力も虚しく燃え広がっていく。

「どう見ても普通の火じゃないッスね、やっぱギーヴルの奴の仕業っすか?」

「どうだろうな、もしそうだとしても真意が掴めん」

 俺は双眼鏡をダッシュボードに戻すと、ハンドルを握る。

「真意なんて、なにも考えずに燃やしただけじゃないッスか?」

「ギーヴルとウィヴルはそこまで愚かな奴等じゃない、こんな事をすればシステムに過剰反応されると予想できるはずだ」

「じゃあ、彼等の仕業じゃないってこと?」

 火災現場により近い場所へ車を止める。

「あるいは、それ程のっぴきならない状況だったか」

 今度はマンションではなく、現場周囲の人々に視線を向ける。

 消防隊員、野次馬、警察、報道のバンを何台か現れ始めた。

「なんなんすか、その『のっぴきならない状況』って」

「放火しちまえば刑事事件だからな、死体は警察の手に渡るだ。そうなると俺達システムは中々手を出せない」

「死体をシステムに渡したくなかった?」

「能力で殺したって一発バレるからな、そうなりゃサブアダルツが消去しにやってくる。――」

「――でも警察が死体を握ってれば、システムは判断しあぐねる」

「そして俺等みたいな『調査班』が送られて、1ターン猶予ができると」

 マンションの中から、担架を担いだ消防隊員が現れた。

 様子から推測するに、積まれてるのは生存者ではなく死体だ。

「なんつーか、まどろっこしい話ッスね。警察の奴等から死体をぶん取れないんすか?」

「五十年前だったら出来たかもな、でも今のシステムにはどだい無理な話だ」

 かつてのシステムは、世界で唯一アダルツ達に対抗できる組織だった。

 いや、対抗するだけじゃない。

 アダルツ達の力を制御し、利用さえもした。

 そしてその力を持って、裏社会を支配し、世界の情報網を影で操る強大な闇の組織だった。

 でもそれは、すべて過去の話。

 アダルツの出生率減少に伴い、システムもその力を急速に失った。

 縮小、解体、そして分裂を繰り返し、いまやシステムの規模は全盛期の十分の一以下に成り果てた。

「で、どうします? オメガ先輩」

「これ以上ここに居ても無意味だな。ギーヴルとウィヴルの家に向かうぞ」

「了解しました!」

 ――どうせ無駄足だろうがな、という台詞は飲み込んで、俺はハンドルを大きく切った。


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