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菌界の絵師オトハとキノコの娘たち  作者: たまり
第二茸 高山で出会えるキノコの娘たち
14/19

 夏への約束。ポルチーニ、イラストを君に

「と、いうわけで、皆から出た案をまとめるね!」


 ポルチーニが店の置くからホワイトボードを持ち出して、ヤマドリ姉妹と、樹乃香(キノカ)が提案した「ヤマドリ姉妹メジャー化推進」の案を書き連ねた。


 ・人間界で売られているポルチーニの袋に混ざる

 ・色変わりポルチーニという花として売り出す

 ・詩を作る

 ・いまのままでいい

 ・パスタの味を良くする

 ・道の駅でイラスト付の萌えキノコとして販売する(一袋500円で)


 そのどれもが「人間界で」メジャーになる為に真剣に考えたもの、らしい。


「こんなものかしら?」

「わたしのが一番だね!」


 山鳥(ヤマドリ)毒美(ブスミ)が、でっぷりとした腰を揺らして自信満々で腕組みをする。


「うぅ、私たちがメジャーになろうなんて、そもそも無理なんだよぅ……」


 白山鳥茸(シロヤマドリタケ)山鳥(ヤマドリ)眞白(マシロ)が、人差し指を目の前でつき合わせながら、気弱にいう。


 ちなみに、ヤマドリタケの姉妹たちがいう「メジャー」というのは、シイタケ、マイタケ、シメジ、ナメコといった食用菌類「四天王」クラスになる、ことを言うらしい。


 更にいえば、四天王の上には「あのお方」と呼ばれる絶対王者(・・・・)の「覇王・マツタケ」が君臨しているのだとか。


 実のところオトハはいきなり四天王(・・・)の一人、滑木滑子(ヌメリギ ナメコ)と仲良くなっていた訳だが、四天王とはいえ……可愛いヌルヌル娘という程度である。


 逆に、毒を持つキノコ達にとっての「メジャー」は、美しい純白の死の天使「ドクツルタケ」、最強毒性を誇り、度々人間界のニュースに取り上げられるようになった「カエンタケ」、そして、毒キノコでありながら可愛らしい容姿で愛される「ベニテングタテ」などをいうらしい。いわゆる食中毒御三家というくくりもあるようだが、その座を目指すわけではない。


 オトハはといえば、会議などそっちのけで、熱心に絵を描いていた。


 今もスケッチブックに向き合って、ペンをシャッシャと動かしている。白いキャンパスには丁度、フライパンを抱えたポルチーニが微笑んでいるところが描かれていた。


 樹乃香(キノカ)は初め、絵師としての本領発揮とでもいうべきオトハの真剣な様子を、興味深げに覗き込んだりしていたが、おかげで一つ案を思いついたようだった。


 ポルチーニが一通り案を書き終えると、皆で議論して○×を付け始めた。


「えーと、まず『人間界で売られているポルチーニの袋に混ざる』、これ……書いたの誰かな?」

 司会進行役のポルチーニがひくひくと方眉をひくつかせる。


「はいよ!」

 山鳥(ヤマドリ)毒美(ブスミ)が自信満々で手を上げた。


毒美(ブスミ)ちゃん! 混ざっちゃダメでしょ!?」


 ポルチーニが目を白黒させてツッコみを入れる。


 この二人よく見ると、ポルチーニ嬢と山鳥(ヤマドリ)毒美(ブスミ)が腰に巻いているスカーフの模様が逆のパターンになっていた。

 絵を描いているうちにオトハが気がついたようだが、双子のような関係なのだろうか。


「なんでよ? 私を毒キノコと見破れる人間だけを認めてやるよ!」

 バン! とテーブルを勢いよく叩く。


毒美(ブスミ)ちゃんの良さを理解してくれる恋人探しじゃないんだよ!?」


「……わかってくれる……人間」


 一瞬チラッとオトハの方を見たようだが、黒髪の小柄な少年は、真剣な様子でスケッチブックと格闘していた。


 今度は毒美(ブスミ)を描いているらしく、チラチラッと目が合う。


 何故か顔を真っ赤にして俯く毒美(ブスミ)


「……べ、べべ、別に……そういうのは、一人でも居ればいいな、うん」


 というわけで却下。×印が書き込まれる。


 次。


 『色変わりポルチーニという花として売り出す』


「可愛いね! なんだかオシャレかも」

「それは私」


 提案主は薔薇嶺(バラネ)のようだ。

 一応は現役女子高生である樹乃香(キノカ)の反応は上々だ。


 気を良くした色変(イロガワリ)薔薇嶺(バラネ)がオホホホと高らかに笑う。

 真っ赤なドレスがこの時ばかりは一際ゴージャスに見えた。流石はヤマドリ姉妹随一の派手さを誇る赤いキノコの娘だ。


「あうあう……、でも薔薇嶺(バラネ)ちゃん、本物の薔薇(バラ)と並べられたら……勝てないと思う……」


「なっ…………………!」(チーン)


「はわわ!? 薔薇嶺(バラネ)ちゃんそ、そういう意味じゃないのよぅう」


 眞白(マシロ)の鋭い一言に、衝撃を受けた色変(イロガワリ)薔薇嶺(バラネ)は、白目をむいて動かなくなった。

 薔薇嶺(バラネ)は、傷つけられることには慣れていないらしかった。


 慌てて揺り動かす眞白(マシロ)だが、動くたびに身体の破片が飛び散って何がなんだかもうわからない状態だ。


 というわけで、次。

 

 『詩を作る』


「おいこら、誰だこれは!」

 毒美(ブスミ)がガターンと立ち上がる。


「はわわわ! わ、私ですぅ」


 その声にはじかれたように、山鳥(ヤマドリ)眞白(マシロ)が立ち上がった。いきなり動くと身体の一部分が崩れるのは最早様式美でさえある。


「試しに、聞かせてくれるか……?」

「あぅあぅ……」


 ――ほわほわ 白い昼下がり 舞うのはわたし白い妖精 白いけどカビてないもん ほわほわ


「詩……なのかこれ? 難解すぎるぞ。あと、カビとかいろいろダメじゃねーか?」

「ふひぃ……ごめんなさいです」


 ダバーと涙を流す眞白(マシロ)

 毒美(ブスミ)にすら優しく諭される始末では、素敵なポエム作戦も、却下。


「じゃ、じゃぁ次! 『いまのままでいい』って」


 ポルチニーニも流石に疲れてきたようだ。テーブルを見回して、この現状維持という意見を出した姉妹を探す。


「はい……」


 山鳥(ヤマドリ)(ユカリ)が静かに手を上げた。紫色の清楚なドレスを身にまとう、紫山鳥茸(ムラサキヤマドリタケ)のキノコの娘だ。


(ユカリ)ねぇさん、い、いまのままでいいの?」

「はい。私達にはそれぞれ、神様がくれた役割と居るべき場所があると思うの」


 一番の年長でしっかり者、と言う印象だが、考え方もしっかりていた。


 それに異議を唱えるものなど誰も居なかった。

 

 ……静かに「○」が書き込まれた。


「結局こうなるのね……」

「お前の案はどうなんだよ?」


 毒美(ブスミ)がポルチーニにツッこむ。その横では薔薇嶺(バラネ)がブルーになって、机に指先でこねくり回していた。


 『パスタの味を良くする』


「えと、私の案は、ここで真面目にパスタを作り続けて……美味しくすること。今日だってお客さんきてくれたし」


 明るい笑顔でヤマドリ・B・ポルチーニが、両腕を広げてオトハたちを包み込んだ。

 オトハも樹乃香(キノカ)もこれに関しては頷く。それほどポルチーニのパスタは美味しかったのだ。


「私、ポルチーニのパスタは美味しいよ! って宣伝する!」

「うん、僕も家でポルチーニのパスタ、宣伝してもらうよ」


「あ、ありがとう、二人とも!」


 シェフ姿のポルチーニがキラキラとした笑顔を見せてくれた。

 つまりこの案も「○」だ。


「じゃぁ最後の案は……樹乃香(キノカ)ちゃん?」


 『道の駅でイラスト付の萌えキノコとして販売する(一袋500円で)』

 

 道の駅とは、ドライブの際に立ち寄る休憩所のようなところだが、大概は地元特産の野菜を売る販売所が併設されていることが多い。


 オトハたちの住む村にも、山の上にポツンとそんな道の駅があるのだ。


 山の幸を採って(※もちろん地主の許可を得て、だが)生活の足しにしている貧乏少女、樹乃香(キノカ)にとっては、新商品の開発は生活に直結する事案でもあった。


「そう! オトハの絵をみて思いついたの! ヤマドリ茸ちゃんたちを見つけるのは少し難しいけれど、もし見つかったらイラスト付で売って、その費用で更に宣伝を……あ、私の取り分は二割で!」


 勝手にオトハの絵をダシにしてはいるが、別にオトハは嫌でもなんでもない。元々見せるつもりだったのだから。


 ただのキノコでは美味しくて有益なキノコしか買ってもらえないが、イラストの力を借りて「萌えキノコの娘」として売り出せば、もしかして売れるかもしれない。

 毒キノコは流石に無理でも、多少珍しくて、手に取りにくい種類であっても「面白がって」買ってくれる客はいるはずのだ。


 特にドライブ中の若い男性やシャレのわかる大人なら……と樹乃香(キノカ)の脳内では超高速で計算が行われていた。


 チーン! ジャラジャラと瞳に「¥」マークが映る。昭和のマンガかとオトハはツッコミをいれつつも、スケッチブックを皆のほうに見せた。

 

 丸い木の切り株に座っていた面々の視線が、一斉にオトハのイラストへと向けられた。まだ鉛筆描きではあるが、そこにはヤマドリ姉妹(シスターズ)が躍動するような筆致で描かれていた。


 シェフ姿でフライパンを振るうヤマドリ・B・ポルチーニ

 ボリュームのある腰を誇るように立つ山鳥(ヤマドリ)毒美(ブスミ)

 バラの飾りのついた豪華な衣装を身に纏い、妖艶な表情の色変(イロガワリ)薔薇嶺(バラネ)

 儚げに微笑む山鳥(ヤマドリ)眞白(マシロ)

 清楚なお嬢様のように穏やかな表情の白い山鳥(ヤマドリ)(ユカリ)


 それぞれのページには生き生きとしたキノコの娘のスケッチが描かれていた。


「まだ、ラフ絵だけどね……」


 照れたようなオトハは頬をかくが、一瞬の沈黙の後、おぉ……! というどよめきと共に、レストラン山鳥亭に雷鳴が轟いたかのような歓声が沸き起こった。。

 

「す、すごい! 可愛い! これ……わたし!?」

「私こんなにムッチリしてるか!? ちょっおま! こっち来て確かめてみろよ!」

「色が無くてもゴージャス、これが……私!」

「はわわ! かわいい、嬉しいよぅうう!」

「素敵、みんなの特徴、よく捕らえているのね」


「すごいねオトハ! 大絶賛だよ」


 樹乃香(キノカ)が鼻息を荒くする。


「いや、まだ下絵みたいなものだから……」


 確かにオトハの言うとおり、人前に出せるイラストとして完成させるには更なる時間が必要だった。

 下絵をPCに取り込んで、それから本格的にペイントソフトで描きはじめるのだ。

 いくつものレイヤーを重ね、色を越せ、じっくりと拘りぬいて描いていくことになる。


「完成した絵を……また見せにきてくれますか?」


 ポルチーニがオトハの手を握る。暖かくて小さな柔らかい指先は、血の通った人間と何も変わらなかった。


「――そうだね、夏になる前には見せに来るよ」

「私も、皆を知ってもらえるように、協力するから!」


「ありがとう、二人とも!」


 こうして――。


 オトハ達は『菌界(シェイニ・ヘイム)』のキノコの娘達と、新たなる約束を交わし、レストラン山鳥亭を後にした。


「なんだか忙しくなってきたなぁ」


 オトハは新たに見つけた目標に、前向きな気持ちになって居る自分に気がついた。それは、美術部を辞めて意気消沈していたオトハにとって、なんだかとても嬉しかった。


「目標があるって事は、いいことだよね。……むふふ」

「……樹乃香(キノカ)の場合、お金儲け?」


「そ、それだけじゃないですもん!」


 樹乃香(キノカ)は頬を膨らませ顔を赤くする。

 そして、再びスケッチブックの絵の手直しを始めたオトハの横顔に、そっと視線をはしらせるのだった。


<ヤマドリタケ5姉妹編、了>


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