邪眼蛇と自警団
魔物の生態についてわかっている事は少ない。動物と違い、何故魔力を持って生まれるのか、知能レベルはどうなのか、生態などは?
魔物使いギルドでも分かっている事は少ない。
例えば邪眼蛇とは元々は好戦的な種族では無かった。そのため、彼等は住んでいた所を追われる。
恐ろしい外見と大きい体躯。邪眼蛇は邪眼を利用したマインドハック(精神異常攻撃)が得意であり、稀に属性攻撃も出来る個体も確認されている。
長い放浪の末、唯一他種族がいない森を発見し長い間安住していた。
しかしこの近年、その森に幻覚草と呼ばれる植物と邪眼蛇の好物でもある魔物でもあるアルミラージ(一角兎)と燐王蛾と呼ばれる魔虫をどんどん乱獲される。
人間でいう密猟者なる輩が徘徊するようになった。
この静かで食べ物が多い場所を奪われたら先がない我らにとっては…攻勢に討って出るしか無かった。
最初の内は容易く撃退出来たが、次第に人族、獣人族の恐るべき精鋭が出てくるようになってからは逆に仲間が討ち取られるようになった。
もう残り少ない一族を連れて逃げるしかないが、せめて我だけは攻めて輩に一矢報いねば…と、森の奥から出て食事をし、力を蓄えていた。
そんな中、幼子を連れた1人の人族を見付けた。
少しの間観察していたが…驚いた。
侮れぬ尋常ならざる者がいたものだ!
コレも運命と思い、銀の髪の者に頼って見ようと思った。もし討ち取られるならばソレまでのこと…。我らにもう後は無いのだ。
———
ズサッ…と音がした。
見上げてみると紅い眼と大きな鱗に覆われた体躯に、グレーに染められた体表の大きな蛇型の魔物が樹から降りてきた。
気配察知で樹の上に大きな気配を感じていたが、別に何もするわけでもなく、ただ此方を見つめていただけだったので放置していた。
「…もしかして」
指差すと、狩人は呆然としながらも何とか頷いた。
邪眼蛇かぁ。エルダーゲート内では戦った事はないが、実際見てみるとこんなにも大きいんだな。
そろそろそろ…と顔?を近づけてきた。
『汝、人族の子らよ。我の頼みを聞いてくれぬか』
「「喋った!?」」
邪眼蛇が話し出す。現在置かれている状況を把握、整理していく。
まず邪眼蛇の一族は無用な戦闘を望んでいないこと。
そして密猟者の存在。森でしか生息していない貴重な薬草や植物、動物を密猟していること。
「…俄かに信じられん」
『信じずともよい…だが』
悲痛にみちた声色に、流石の狩人も警戒心を緩めさせた。
すると、遠方より騒がしい音が聞こえてきた!
村長より狩人の身を案じて要請された自警団である。
「邪眼蛇か」「不味いぞ、彼等が襲われている」「助けねば」「しかし」「弓、構え」「そこをどけー」
そう怒声が聞こえるなり、ウットボウを構えた5名の自警団から一斉斉射が開始された。
止める間も無かった。しかし邪眼蛇に次々と当たるも、大鱗で全ての矢が弾き返されていた!
狩人が制止を叫び、ようやく収まったが、武器を構えた自警団が邪眼蛇を取り囲むように配置する。
「どういうことでしょう?」
睨むように、困惑するように団長が説明を求める。
邪眼蛇自身が話し掛け、先程の説明を繰り返す。
説明を聴き終えると…自警団は信じられない…と困惑した表情を浮かべる者が殆どだ。
何かが始まる予感がしている。
そう言えば、ゲームではザール村なんて無かった…よな。
「どの道このままでは拉致が空かないので…私は話してくれた邪眼蛇について行きます」
ソウマはそう答えると邪眼蛇の方に向き変える。
「それと君のお仲間かな?出てきて貰えるように言ってくれるかな」
そう答えると更に樹の上から、体長2mほどの小柄な邪眼蛇が3匹降りてきた。
『…よく分かったな。別に悪意があって隠していたわけではない。もう我にはこの子らしかおらんのだ…』
そう言って眼を少しを瞑った。
「…」
皆押し黙り、自警団の団長は更に表情を険しく考え込んでいる。
ふと、思い出したように話はじめた。
「そう言えばまだ名前を名乗っていなかったね…私はこの自警団の長で村長の息子マルタと言う。洞窟で倒れていた君、名前を教えて貰っていいだろうか」
「私の名前はソウマと言います。村の皆さん、助けて頂いてありがとうございました」
「では、ソウマくん。君が向かう必要はありません、邪眼蛇を群で倒すような相手だ。これはもう私達に負える問題ではない」
「…」
それに…と、団長が話を続ける。
「折角助かった命なんです。大切にして欲しい」
そう伝えると邪眼蛇に向き変える。
「全面的に話を信じる訳にはいきませんが…とりあえず一緒に村の外までついて来て下さい」
マルタはそう言うと、自警団に撤収命令を出した。
不安を隠しきれない表情の団員もいるが、何も言わずに黙って命令通りにしていく。
余程の信頼関係が無ければこうはならない。改めてマルタの人柄がわかる出来事だった。
後から聞いた話では、自警団の連中はザール村が開拓してから移住してきた人が多いそうだ。
沢山の移住者に対してまだ小さかった村には人数が収まりきらない。
居場所も無く、また仕事も無い者たちに積極的に声をかけ、仕事の斡旋をしたのがマルタだった。
こうした積み重ねが身を結び、自警団は形成されていった。
マルタが次期村の統治者としての勉強を学ぶために王都へ留学した。
彼が帰ってくるまでに残った村の自警団は、厳しい修練と治安に勤めていった。それはより良い村の発展に尽力したマルタと自警団の信頼関係の証でもある。
村に着くと帰ってきた自警団が邪眼蛇を連れていたい為、村の入り口でかなりの悶着があった。
邪眼蛇は大人しくしており、思ったより村での混乱は少なかった。
村の外で待機していることと、監視者をつけることを条件に邪眼蛇は受け入れられた。
村では密猟者などのこの後の対応をするため、会議が行われていた。
ソウマはその間に猪を袋から出し解体する。今更だがリアルでは猟友会のお裾分けとして、実家から猪肉や雉子肉が送られてくる。
小さい頃はよく爺ちゃんと一緒に捌き方を教えて貰ったな…慣れるまでは気持ち悪かったことは内緒だ。
解体した猪肉を仕込もうと思ったら、自警団の団員数名とマルタが来ていた。
どうやら今から狩猟と森の奥までの偵察にでるようだ。
狩人とジュゼルの話から相当な腕前があることや、魔法の収納袋を持っているので同行をお願いされた。
断る理由も無いので承諾し、広大な森の奥まで進んでいく。
途中に出てきた山鳥や鹿なども、自警団の許可を取ってから仕留めている。
あとは気配察知で魔物を見付け出し、邪眼蛇の食事&自分のレベルアップも兼ねて狩って行く!
魔物を解体し、肉と素材に分けているとマルタに声を掛けられる。
「…そんなに歳も変わらないのにその腕前は凄まじいですね。身に纏う装備品や魔法の収納袋を見ても、君の実力が高い事がわかります」
「いや…それは買い被りすぎですよ。私は自分より強い人達が沢山いること知っています」
「………」
嫌味や謙遜では無いとことを再度伝え、話し始める。
洞窟で発見される前、友人と組んだパーティで出掛け、その先でトラブルに巻き込まれたこと。
偶然遭遇した強い相手と戦って何とか勝てはしたが、その後意識がなくなり気付いたら、一緒に組んでいた友人達が行方不明になっていたこと。
試練は突然やってくる。
いつでもその時に何とかなる訳では無い。持てる自分の力がいつも万全な状態とは限らない。
あの時チカラがあれば…なんて言い訳にしたくない。
そのためには少しでも自分の実力を上げる。有事の際には後悔をしないと学んだ。2度とあんな思いはゴメンだ!
ふと、思う。
ユウト達は何処にいったのか。この問題が終わったらのんびり探すのもアリかも知れない…
話を終え、皆無言のまま偵察へと向かう。
随分と深く森に入ると、逆に動物や魔物に殆ど会わなくなった。不自然なほどに静かな雰囲気に警戒心が湧く。
マルタの気配察知には反応はないのだろうか?此方には察知出来る範囲ギリギリに、まとまった数の反応があった。
マップと併用すると、30を超す反応なのだがどうもおかしい。
邪眼蛇が教えてくれた情報からなら獣人族と人族のはずなのだが…気配察知には人間の大きさを超える者が20もあったのだ。
まさか…嫌な予感が膨れ上がり、近づいた所でやはりと確信した。
大きな反応は邪眼蛇。しかも所々腐っている状態のアンデッドだった。
アンデッドの条件は死体の保存状況でも変わる。大半は生前よりは弱い。
倒す方法は死体を操るために身体の中に仕込まれている核を壊すか、術者本人を倒すかしないと無力化できない。
ほかに有名な攻撃方法は聖属性魔法の使用や、火属性で核ごと燃やし尽くす殲滅魔法が効率的だ。
そういった情報から敵には死霊魔術師が複数いることが確定した瞬間だった!
死霊魔術師は操るアンデッドにもよるが、高レベルではない限りは多く操れない。
一緒に来ていた自警団と現在の状況の情報を共有する。戦力不足は否めず、一旦村に戻り救助の戦力を整えることに決定した。
撤退する算段が決まったのは良いが、どうやら近付き過ぎていたようで…相手にも気付かれていたようだ。
現在20を超えるアンデッドが全部此方にゆっくり向かってきている。
こっちは私を含めて5人なのに周到なことだ。
マルタにも気配察知を発動して解ったようで、顔面蒼白になっていた。
自分1人だけなら逃げ切れるかも知れないが…見捨てては置けないし、村で助けて貰った恩義がある。
切羽詰まった状況に自分なら生き残れる可能性が高いと伝え、殿を務めることを無理矢理納得させる。また、自警団全員を村へと戻ってもらう。
全ての追手も食い止める事は難しいことと、この情報を村へ伝えないと手遅れになる可能性があることを皆に言い含めておく。
納得出来なさそうな表情をしたマルタを好ましく思うが、今は少しでも彼等の生き残る可能性を上げることしか出来ない。
マップと気配察知で彼等が距離をとった所で流星弓を取り出し装備する。
格好つけたものの…自分だって怖い。
だから精一杯やってやる!
ーーーー
向かってくる邪眼蛇アンデッドに流星弓で速射攻撃する。肉体が腐っているためか抵抗もなく、当たった部分が抉れていく。
迫ってくる速度は変わらない。足が遅いのだけは助かるな。
屠ったアンデッドの数は未だ2体だけだ。核に一撃を目指したいが…と、アンデッドをよく注視しながら射っていると常時スキルの【見切り】と【体内魔力操作】、【気配察知】が点滅し、ナレーションが聴こえた。
【各種スキルが一定レベルを超えました。体内魔力操作を魔眼(魔力感知)に昇格出来ます】
簡単に説明すると、体内魔力操作は自身に掛ける魔法の際のオート補助である。
全身強化魔法や2段ジャンプの際に必要な時間を少し省けるといった効果がある。
慣れてくれば余り必要の無いスキルに見えるが…ユウトのように一瞬の操作が最も必要な場合のプレイヤーには、補助として残しておく者も上級者には存在する。
魔眼の魔力感知とは、敵味方問わず視ることで魔力の流れを感じとる事が出来るスキルだ。
またインビジブル(不可視)といった魔法を見破ることが出来たり、迷宮などでも魔力で隠された隠し部屋に気付く事が出来る。
実は体内魔力操作はプレイヤーなら誰しも持っている。
これは実力がついてきたプレイヤーが楽しみ方の幅を広げるものとして、もたらされるよう運営から配慮されているからだ。
一番多い使い方はPVPの際の相手の魔法の先読みなどがある。
運営がこのスキルを誰しも最初に覚えている状態に配慮したのは、魔法操作に慣れないプレイヤーの為の操作補助と言われているが…それは表向きの目的である。
β版での意見に、高い実力者のソロやパーティが迷宮にいるのに、魔力感知スキルが無いために宝箱が眠っている隠し扉すらわからない。見えない魔法を使った魔物にプレイヤーが狩られまくる。PVPを見ていても何か光ったと思ったら終わっていた…と言った苦情がかなりあったことにも起因している。
だから体内魔力操作を得て魔眼(魔力感知)獲得は更なる壁を乗り越える為のステップへと繋がる。
隠し扉や部屋は誰でも見つけられたりすることが盗賊系職業の絶滅に繋がらないか?と、一部プレイヤーに危惧された。
例えば宝箱があった場合は盗賊系職業が無いとリスク無く開けられなかったりする。
これは高ランク(ユウトのハイレア級の盾も隠し扉の宝箱にあった)装備品やアイテムになればなるほど解錠に失敗すればモンスターハウスや即死の魔法の発動(一定確率)が顕著に現れるように設置されていた。
なるべくプレイヤーの意見を反映し、楽しんで貰えるように職業などにも偏りが少ないようにゲームには配慮されていた。
ゲームだった頃には、体内魔力操作から魔力感知に変わることが一人前の証拠(中級プレイヤー)であるといえた。
この世界での人達は体内魔力操作スキルを持っているのかもわからないけど。
魔眼(魔力感知)を獲得し、邪眼蛇アンデッドを観察する。
身体に流れる魔力が見えるが、一際大きな輝きが見える。アンデッドにもよるが頭部の脳内と尻尾の先などにも核が見えた。
【鷹の目】【魔眼】併用し、次々と射抜く。
星属性を宿した矢で核を壊していく度に、子供だと思われる邪眼蛇や大きな個体が解放されたように溶けてゆく。
意思がないはずのアンデッドだが…せめて、安からにと願わずにいられない。
ある程度間引いたあと、此方から一気に距離を詰めていく!
アンデッドが迎撃してくるも【体術】と【見切り】で必要最低限の動きで躱す。
そのまま通り過ぎる。邪眼蛇のアンデッドの動きが遅く、強化されてステータスの私には追いつけない。
疾風の如く移動し、奥にいた人族と獣人族の中に黒色ローブに身を包んだ死霊魔術師と思われる人物達を発見した。
あちらも武器を構えており、準備を整えていたようだ。
魔法詠唱していることが遠目でも感じた。
遠距離だが関係ない。
フルパワーで流星弓を引き…狙い放った。魔力矢は障壁を張っていた死霊魔術師ごと貫通し、瞬時に2名が絶命した!
戦慄する相手を確認しながら、また弓を構えた。
ソウマのステータスは書いても、戦技をのせることを忘れていました。
近々載せたいと思います!




