ソウマ編 夢幻のトゥーサ
久しぶりの投稿になります。
お読み頂ければ幸いです。
3/4誤字脱字報告ありがとうございました!修整させて頂きました。
レガリアから不可思議な圧力と共に声が脳に直接届いたと感じた。
すると突如視界が切り替わり、目の前には果てし無い白い空間が見える。
ソウマは白い地面に立っていた。
周りを見渡すも、他には何も見えない。
(首、指、足も……身体は思ったより自由に動く。だけど、気配察知には何も感じない……な)
この空間に至るまでの流れや、転移する魔力の波動なども全く解らなかった。
進化した種族で、【第6感】を持つソウマにさえ何も感じさせなかった。
(これは……フィアラルの時と似た感覚だな。だが、僅かに感じ取れる気配は非常に弱々しい)
誰が相手かはわからないが、驚異的な相手だ。
警戒を続けていると、再びあの声が脳内に響く。
《ここは私の管理する亜空間の神域です》
また脳内に響く声は、無機質な女性だった。
この思念の声が聞こえると真っ白な空間に僅かに揺らぎが生じた。
揺らぎから真っ白な美しい髪を結い上げた女性が現れた。
鋼のような無表情に、瞬きを忘れる程の神々しさを感じる絶世の美女がソウマを見つめた。
《私の名はトゥーサ。かつて外の無貌なる系譜の神々として戦を挑み、破れた陣営。
この身は砕けた身より生まれし別け身。
滅びゆく肉体として神の力を僅かに受け継ぐ一柱》
(俺の名はソウマ。で、神様が何のようかな?)
暫く何もかも見通すような目でソウマをじっと眺めると、初めて嘆息した表情を見せた。
《やはりおかしな気配がします……人間でありながら僅かなながらの神気を体内から感じます。
ともあれ、それはどうでもいいでしょう。
私は貴方の僕たるレガリアとある縁があって、滅ばぬ空間から魔力を繋いでいる存在です。共有する意識を繋いでずっと視てきました》
一旦区切ったあと、無機質ながらも何かを逡巡した表情を出して話し始めた。
《私は神としての存在を保つギリギリまで神位を磨耗し、本来の神である権能すら発現出来ない存在まで堕ちています。
この1日が過ぎればそのまま滅ぶでしょう……ソウマ、貴方に願いがあります。
貴方の持つ世界に干渉する稀有なるアイテム【亜神の欠片】をどうか譲って欲しいのです》
(そうか、構わない)
《そう、譲れない……その返答は解っていました。
【亜神の欠片】は、名を示す通り亜神級の力を宿すユニークアイテム。
最早地上でそれほどの存在を倒せる強者は地上には殆どいないでしょう。
つまり、現在世界に1つしかないアイテムと言っても過言ではないのです。
……それを譲って欲しいと言われて簡単に渡せる品で無い事は解っています》
えっ、構わないって言ったよな?俺。
譲れないって言ったか?話が繋がってなくない??
(いや、譲っても構わないぞ)
《しかし私にはもう時間が……えっ、良いのですか?》
初めて鋼の無表情が僅かに崩れ、鉄壁のような美貌に驚きが浮かんだ。
(確かに惜しいアイテムには変わり無いし、この【亜神の欠片】を使って考えていた事もあった)
思い浮かぶのは、このアイテムを手に入れる事となったレイドボス格 亜神 フィアラルとの戦闘だった。
生と死の激闘を潜り抜けて入手した初めてのユニーク級のアイテム。
(だけど、他に用途が出来たのならそこに使うのもアリだと思っただけだな)
それにハイヒューマン・エリヤに高位種族進化した時、もしかしたら、この種族特有の職業があるのではないか?
と、天啓のようにこの閃きがソウマの脳裏を駆け巡った。
それならば別に【亜神の欠片】を使わずとも、いいんじゃないか。
第4次職業に至る際には必ずや種族が関係した職業が選択派生すると【第6感】も伝えているし。
それ故に使い道の無くなった……ソウマは希少過ぎる【亜神の欠片】を持て余していた。
最悪使い道を思い付かなければ、照れもあるし、ユウトと再会した際の記念のお土産にでもしようかとも考えていたのだ。
これは言葉にして伝えずともソウマの嘘偽りのない本音の気持ちである。
トゥーサにも伝わったようで、眼を細め深い感謝を伝えてきた。
頷いて【亜神の欠片】を差し出すと、スーッと浮かび上がり、頭上に達するとクルクルと回転し始める。
何だかダウンロードの表示見たいだなって思った時に、紅く厳かな魔法陣が浮かび上がった。
《ソウマ、有り難う。深く感謝します》
そう伝えるや否や、トゥーサの姿は原型を留めぬほど崩れ落ちた。
そこから僅かな神性の輝きを放つ肉片が【亜神の欠片】に吸い込まれ、融合する。
消滅しかけたトゥーサの気配が、少しずつ存在を強めていくのを感じ取れた。
《ああ、朽ちかけた神位が戻っていく。
私は外世界……こことは異界にある神であるため、この世界では失った神力の回復・補充手段は存在しましせん。
余所の世界では、そこで適応し受肉する為の肉体がなければ、本来ならば使い捨てのように消滅していくしかないのです。
しかし、消滅を免れる為にアビスゲート側の1柱として封印された私にはチャンスがありました。
私は元の世界では、無貌の干渉を司る一柱。
全ての事象である【夢幻】に干渉するという、非常に珍しい権能であった為、こちらの世界の神が私に提案してきました。
封印されたこの先、どんな手段を用いても亜神級まで神力を回復させる出来れば、神界で新たな神の1柱としてこの世界に誕生……加わる事を条件として契約されたのです》
《永かった。天文学的な数値の成功率に重なった偶然。
おかげでこうして新たな契約の元にこの世界に再誕するでしょう》
紅い魔法陣が薄く緑に発光していく。
また、圧縮するように存在する力が増していく。
《本当に永かった……この出会いをくれたレガリアと、深き感謝は必ず貴方の元へ……そして助言をしましょう。
世界に施された悪神封印は、大いなる力を失い、遠くない未来に解かれつつあります》
(ん、アビスゲート?)
先程から聞く言葉だった。
引っ掛かる単語で真っ先に脳裏に思い浮かんだのは、vRゲーム エルダーゲートの世界の成り立ちだった。
かつて神話の時代、この世界の根幹を揺るがす厄災や害悪、邪たる神の眷属を特別な聖域に封じた悪神を纏めてそう呼ぶ。
そこには反逆した神や、侵略をしてきた異界神も含まれる。
運営側ではストーリーモードで《アビスゲート》の封じられたBOSSは複数存在こそしているが、かなり弱体化している。
その弱体化が抜けたモードで闘う事が可能なイベントこそ、世界クエストと呼ばれる一種で、このイベントの結果で世界の有り様が変化すると言われる。
レイド級のアビスゲートのBOSS素材はイベントでしか入手出来ないため、クリア出来れば最終的に非常に強力な装備品が出来上がる。
それに特別な称号が手に入る。
世界イベントには段階が存在していて、前哨戦であるアビスゲートの尖兵……等はアビスゲートの封印の地から、主復活の為の生命エネルギーを奪うために、主神に軍団化した魔物と共に町や都市、そして国すら襲ってくる
生憎とアビスゲート関連のイベントについては、ストーリーモードなら兎も角、世界クエスト級関連のイベントは、ソウマは参加したことが無かった。
世界クエスト級のイベントは、過去に何度かしか実装されておらず、その途中でこの世界に来たため実際の所はよく解っちゃいない。
当時ポッチだったソウマは、そのどちらとも参加出来なかったからである。
そう言えば、確かトンプソン将軍のあの祠……ストーリーモードでは鉱山にアビスゲートが封じられていた魔が存在していたと聞いた事がある。
しかし、ストーリーモードで封印が解かれるにはそれを条件とする《キークエスト》が開始されなければならない。
少なくともストーリーモードではそこそこ攻略は済ませていたが……この鉱山における関連やキークエストの条件はソウマは知らない。
レベルなのか、必要なキーアイテムは入手してない……と思う。
そんな事を考えいると、ある疑問が思い浮かび、トゥーサへと尋ねたくなってしまう。
(質問いいだろうか?
神の1柱と名乗る貴女ならば、何故俺たちプレイヤーがこの世界に召喚されたのか……知っているだろうか?)
最初はあのサンダルフォンとの邂逅が直接的な影響だと感じていたのが……改めてかの存在に触れ今、それは違うと考え直している。
ふとした疑問に対し、トゥーサは解らないと答えた。
《その質問に対し、異界の神たる私は答える権限は持っていません。
貴方達プレイヤーと呼ばれる雛型が何故この世界へ呼ばれたのか。
それは太古より存在しエルダーゲートを作りし神々の直系……エルダーゲート創生に携わった真の神々ならば……ソウマの疑問にも答えてくれるでしょう》
▼
神にも位階が存在している。
この世界の偉大な功績を元に英雄が昇華され、限りなく神に近い存在として成り立つ位階が亜神。
更に亜神は神へと位階が昇華出来るが、それは極限られた存在のみ。
神は亜神と共に世界を神界より直接管理する役割が与えられている。
そしてより高次元存在としての位階の格を宿す上位神と呼ばれる神々が存在する。
大神の子や大眷属神が主に上位神とされていて、この世界に置いても情報がなく存在は不明な事が多い。
最も世界に影響のある6柱は、最高神の直系たるあまねく神々を率いる大神<真の神々>と呼ばれるのだ。
【大神の格を持つ神々】
全人界の調停神<ジラ>
全深界の護海神<ウルソラ>…
全精霊界の賢女神<アウロラ>
全獣界の戦神<ガジュラ>
全魔界を統べる至高神<マユラ>
全星界を司る神王<シンラ>
を崇め、加護を与えられて眷属なったそれぞれの種族がヒューマン、エルフ、獣人、魔人等とプレイヤーがキャラメイクする種族の雛型にもなっている。
ふむ、他の神に影響を受けることで、進化の過程の選択肢が増える可能性……特殊進化等が加わったのではないだろうか?
《しかし、恐らくソウマを呼んだのはこの真の神と呼ばれる内の1柱……》
考えているとトゥーサを通して遥か過去のイメージが流れ込んできた。
金の鬣を持つ大獣が、両刃斧を持った武装した大男とが戦っていた。
戦いによって大地は大きく割れ、空の大気は軋んで衝撃波が世界を壊せと、何度も終わらない振動が発生する。
精霊や魔物、人族などのそこにいる生きとし生ける種族が同時に上げる生命の悲鳴は、まさに阿鼻叫喚の図。
しかし、終わりは見えた。
大男が持つ両刃斧が、よろけた一瞬の隙をついて金の大獣の左前肢を無惨にも断ち斬った。
しかし金の大獣とて、くれてやると言わんばかりに再度振り落とされた両刃斧を肉体で咥え混み、離さない。
そこへ一回り小さき獣の神が神速にて飛びかかり、大男の心臓を巨大化した顎で喰い千切った。
この世界の全ての獣人を作りし【金獣の戦神】ガシュラは致命傷を負いながらも、【調停神】ジラを道連れとして戦いに決着をつけた。
大神同士の争いは双方の大将が倒れる結果となった。
しかし、大神の位階を喰らった小さき獣神は、戦いをやめなかった。
長い闘争の果て、調停神の陣営たる上位神、眷属神を含む敵対した神の全てを喰らった。
今のエルダーゲートにおいて生まれた最も新しき大神級の神で、真の神々としての最も影響を増した存在。
戦神である金の獣の名を受け継いだ新たな<金の獣神>
ソウマが最も気をつけなければならない存在。
戦いを愛する黄金の鬣は獅子を思わせる美しい獣の姿、不意に此方を視た。
そこで過去のイメージは終わった。
《かなり神力を使いましたが……あの神を覚えておきなさい》
(!!待て、どういう事だ)
《少し先の未来に干渉出来ました……私は再誕する前に、残った力を全てレガリアに……にして……残さねば。
ソウマ、貴方は選ばねばなりません。願わくは…………》
そう言うや否や、真っ白な空間は小宇宙を産み出す空間へと切り替わり、星の新生を思わせる爆発が始まる。
ソウマの意識は徐々に現実へと覚醒していくのだった。
(あの神……最後に爆弾残していきやがった)
結局良く解らなかった。
最後は聞き取りにくかったが、レガリアを眷属化って何だよ……。
【亜神の欠片】をあっさり渡した事を少し後悔しながら、ソウマの意識は目覚めた。
《囁く仮面2》
ボクらは各地で仲間を集め、B級の迷宮遺跡<サルバドール>にある街で拠点を構えるギルド《囁く仮面》っていう、素敵なネームで活動している冒険者の団体サ!
このギルドは名前の通り、目元を覆う特徴的なマスクを装着している事も、ボクたちの素敵な魅力を醸し出している理由の1つ。
街をあるれば誰もがその魅力に気付き、皆から羨望の眼で見られるのは正に快感サ。
本来ならばマスクの美しさや魅力に駆け寄ってくる筈なのに、恥ずかしいのか、遠慮しているのか必要最低限以外に関わろうとしない。
そんな街の領民が奥ゆかしい雰囲気も気に入ったから、最大拠点に加えてイルんダ!
今ギルドの総勢は5名。ギルドを保つギリギリのラインだけど、真面目に冒険者家業をする積もりはないから、隠れ蓑にもこれでイイノサ。
団長の<ラファエロ>は人族。
このギルド唯一の第二次職業である【剣騎士】(最も騎士から次転職が多い転職先であり、剣術の得意な騎士がなる)。
装備品であるナイトメットの目元はグリーンのマスク模様で象られていて、防具は鉄製の全身金属鎧を愛用している。
全身を覆われているため伺い知れないけれども、品行方正で30代半ばのかなりの美丈夫である事は知る人ぞ知る事実なのサ!
街の拠点でも彼を慕う老若男女は多く、ギルドの看板を背負うに相応しい。
残念ながら彼の才能の壁があって第二次職業の成長限界LVは15(現在は3)。
それを抜きにしても冷静沈着かつ指揮に優れた人物に間違いナイ。
流れの騎士だった所をマスクで洗の……イヤイヤ、スカウトしたンダヨ!
次いで、このギルドで唯一魔法の素養を持つ【マジック・キャスター】と呼ばれる一次職業の10代半ばの人族の少女<アーリン>。
目元にパープルのマスクが目印で、火魔法が得意で火の属性強化を覚えている。
月に何回かサルバドール遺跡の浅層区画で修行に励んでいるけど、流石に手強い魔物ばかりだよネ。
最近はLVアップが著しく、もうじき第二次職業の魔導士(1つの系統を極める魔法職)にも手が届く期待の若手サ。
ボクを狂信的に慕う所がとっても可愛く、それ以外では手のかかるヤンチャな女の子になりつつあるんだよネ。
3人目はこの拠点から外へ出て魔物の仲間を集めている【魔物使い】<ワグナー>。
路地裏で怪我をして倒れていた狐人族の子供。
全てを恨む鋭い目付きに、興味本位でグレーのシンプルマスクを渡した事がキッカケで仲間になったんダ。
他に身元もいないみたいだから、孤児院から引き取ったんダ。
<ワグナー>自体の魔力量と質はボクのマスクのチカラで底上げはされているんだけど、それでも体内に保有する魔力の少なさから契約出来る魔物の数は然程多くない。
体外魔力操作もなく、放出系統の属性魔法は殆ど制御出来ないから……魔物に懐かれると言う珍しい素養から職業に選び、魔物ギルドで試練を受けれてたネェ。
契約の指環は魔物を3体保有枠出来る。
まぁ、普通の魔物使いは1~2体で、3体ともなると貴重な存在で王国や主要都市にしかいない見たいだけどネ?
街の外で初めて契約した相棒の魔物(魔熊の子供)をお供に魔物を狩り、捕獲して売買する楽しさが解ったみたイ。
たまに拠点に魔物を持ち込むので、メンバーと諍いになるのがネックだけど素直なイイコだヨ!
さて、ボクの素敵な仲間の幻の4人目を紹介しよウ!
まだC級迷宮のBOSS討伐も未定のボク達が、このサルバドール迷宮遺跡で活動許可を特別に頂けているのは……何を隠そうスポンサーたるご領主の御令嬢【リアナ】様のお陰なのサ。
性格は高慢かつ繊細。でも理不尽過ぎないくらいには優しいってとこかな?
同じギルド内のメンバーにはそれなりに優しいが、<ワグナー>とは良く喧嘩もしているネ。マァ、どちらかと言うと姉弟喧嘩のような感覚で楽しんでるみたいなんだよネ。
完璧な礼儀作法である所作、また金髪の縦巻きロールは見事なまでに貴族の象徴を表している。
洗練された優美な青薔薇をモチーフにしたマスクに魅力されて洗の……され、もとい、自ら協力を申し出てくれている。
一応職業は第一職業すらあれ、実質的になんの戦闘力もない。
当然戦闘には連れていけないカラネ。ギルドの拠点でお留守番サ。
拠点の賃貸や、戦闘で傷んだ装備の補修や日々の生活費は彼女のお小遣いだけで賄われているから驚き。
戦闘には滅多に連れていかないし、色々とご不満らしいが……スポンサー枠たる《囁く仮面》の秘密兵器の出番は、今後ともにない予定ダヨ。
彼等それぞれの色のマスクには、それぞれの能力がある。
ボクが以前数百年かけて成長させた貌神の欠片よりは位階が堕ち、亜神である新たな貌亜神の一柱として会得した【カタチナキ貌神】。
この力を使い、ボク自身から産み出した全てのマスクに共通しているのは、支配と潜在能力の開花を兼ねている事を前提にしているコト。
【ラファエロ】のグリーンマスクは、他者との融和・信頼を抱かせる影響効果がある。
【アーリン】のパープルマスクは、得意属性の魔力効果上昇と親和性の向上があり、魔法使いに関してだけ詠唱短縮が使用可能となる。
【ワグナー】のグレーマスクは、魔力の質と量の底上げで固定した値がステータスへと加算されてる。
【リアナ】のブルーマスクは、彼女個人の魅力を上昇させて魅惑し、敵対者からの精神耐性を向上させる能力を発揮してる。
最後に5人目の紹介はこのボク!
そういえばリアナ様のお陰で、この《囁く仮面》の真の主たるボクの、素晴らしい最高の素体を入手することが出来たのサ。
あの時の感動は忘れられないヨ!!
これは毎月犯罪者を匿ってないか、領地の調査と銘打って調査団に紛れて各村を巡っていた時の事だ。
ある1人の男性老人を<鑑定>した時、歓喜にうち震えた。
白髪と黒髪が混ざったグレーの髪に、若いときはさぞモテたであろう顔立ちの老人は、名前を【フリード】と名乗った。
彼は名前意外の記憶を全て無くしていた。
人よりも優れた肉体を有し、優しい気性だった彼はこの村の人々に助けて貰った恩を忘れず、そのまま移り住んだ経歴を持つ男性だった。
村の女性と結婚し、子は巣立ち、妻は先立たれて村の外れで猟と少しの田畑を切り盛りして、ずっと独り暮らしを営んでいた。
解き放たれる手付かずの潜在能力に、ステータスの数々。
<鑑定>を通した歓喜と興奮を隠し通すのに必死なくらい、ボクは狂喜した。
《ハハハッ、オリジナルのプレイヤー??
まさか……何て幸運!出かしたヨ。この僕の真の素体に最も相応しいヨ》
更には初期プレイヤーであり、この世界に転移してから目立たずひっそりと暮らして来た彼は、素体として求めるのに十分だった。
領民であり村外れの独り暮らしでは、世間から消えても全く問題ないと判断された要因も大きい。
しきりと不思議られていたが、名目としてお抱えの猟師として召し抱える。
それと更に住んでいた村と、離れて暮らす子に莫大な金を与え、フリード老人を領地へと連れてきたのだった。
御令嬢自らが手渡したマスクを受けとった瞬間、老人の運命は決まった。
怪しく光るマスクは老人の頭部全て覆い、あっという間に意識下へ潜入、干渉していく。
《コレが今の僕のチカラだヨ……以前のようなことは出来ないけど、媒介した素体に干渉して潜在能力を完全に引き出す事が出来るようになったんだよネ。更に……》
年を老い、痩せ細った体に急に活力が漲る。
まるで若返ったかのような感覚に老年の男フリードは驚く。
そして間もなく、彼は完全に<仮面の支配下>へ入り……合一化した。
そこには記憶を喪失していた先程の老人いない。
肩まで伸びた透き通る黒髪に紫の瞳は、女性でも男性でも、どちらにでも思えるほど魅惑的だ。
《フフフ……久しぶりの体だよ。
それに、稀人たるプレイヤーは美形が多いネ!》
name:<ーーー>⚠️Nameless
種族:人族
職業:投擲士 LV 12→⚠️適正装備制限があります。
サブ職業:魔法士 LV6
【スキル】
投擲武器補正(D) クリティカル・命中補正(E)
接近戦闘マイナス補正(F)
軽装装備補正(E)
⚠️適正装備制限(E)→適正・補正がない武具類を装備出来るが、値がマイナスになる。
逆に補正がある場合はプラスとなる。
属性付与(F)→魔法士初期スキル。LVの上昇と共に強化・補正あり。
自らの攻撃に属性魔力を与える。(未選択のため基本属性 火、水、風、土よりどれか1つ選択出来ます)
体内魔力操作
【常時スキル】
魔力感知 マップ
アイテムボックス(⚠️未使用品があります)
魔の源泉→サブ職業である魔法士専属の初期スキル。
魔力を伴う攻撃威力・MP微量増加効果。
LV上昇により%効果上昇あり(5、10、15、20、25、30、35、40、45、50 最大MAXにて10%)
⚠️現在1%上昇中。
【魔法】
なし
【称号】
なし
ふぅーん?マップ?ステータスには見知らぬ文字が見えるネ?
聞いたことナイ職業<投擲士>なんかにも興味津々だ。
この素体の成長限界はないし潜在能力的は高いけれど……念のため、転職神殿でボクの職業の情報を集めて見たんだヨ。
どうやらマイナーと呼ばれるレア職らしく、殆どの人が選べない……から、転職神殿でも殆ど情報は集まらなかった。
この第一次の職業から魔法使い系統への転職には縁がない見たいだネ。
魔法の習得自体は大丈夫そうだ……けれど、純魔法職じゃない以上使えても補正はないし厳しいカモ知れなイナ。
まぁ、稀人特有のサブ職欄に【魔法士】があるだけマシなのカナ。
ボクたち無貌の神々は魔力の高い者を好むから、剣士や戦士なんかよりは、魔法職が好きなのサ。
そして真の素体となったカラダにだけ、本来のボクの専用スキルを追加して……と。
さて、人族の欄が貌人族へ。
また、常時スキルに<不老>、<化身融合>、<魅惑の仮面>、隠し称号に<カタチナキ貌神>が加えられた完璧なスティタァス!!
ボクが主となったから<フリード>が完全にリセットされて、Namelessになったのかな。
って事は、ステータスには新たな名前が必要だヨネ。
よしレガリアに相応しいモノとして……今日からボクの名前は<ヴァイス>さ!
新しい体を馴染ませるように運動する。
身長も肉体性能も、以前使っていた素体とは比べ物にならないほど高い。
これがプレイヤーという特別な人種ナノカ。
ああ、レガリア。ボクの愛しいキミ……この熱く燃え盛る想いは氷山の壁すらも貫き、凍てつく大地すらも容易く融かしてしまえるのに。
瞳の奥にあるキミの姿。
忘れられない一言。
どうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうして、どうして、ボクはキミじゃないンダ。
ボクがキミだったら哭いて溶かして舐めて笑って突き刺して刺されて遊んで抱いて愛して食べてしまいノニ……。
キミはボクでボクはキミ……??
アァ狂ってる暇なんてない。いつでもボクは真剣サァ。
エクストリィイィムゥ!!世界を壊してでも愛しているヨ!!




