ソウマ編 新たな装備とレガリア合流
深夜の明りもない暗い森道を何時間も歩き続けた。
暗い夜道も支障はなく、僅かな疲労すら体に溜まっていない。
より強力な種族として進化した今のソウマには何の障害もなかった。
小屋の前に到着する。
相変わらず小屋周辺には篝火が照らしてあり、羽虫が周りに集まっていた。
兵士が近付いてくるソウマの姿に気付いた。
静止の声がかかり、用件は何だ?此処に来た理由は何か?と、質問を受ける。
そこでソウマはトンプソン家の身分証を取り出し、兵士に目的を明かして説明する。
トンプソン家の家紋が入った身分証が偽装で無いことが解ると、門兵はにこやかな表情で警戒を解いた。
続けて、申し訳なさそうに夜間は通行禁止の指令を受けている事を伝えられ、ソウマは了承した。
さっきまでゴブリンの侵攻もあったし……警戒してるのに、夜に出歩く者は普通に怪しいよな。
今さらもう戻れないし……今回久しぶりの野宿だ。
兵士の警備に影響のない場所を聞き、そこへテントを設置する許可を貰うと、隠蔽効果のついたテントを設置した。
今は特に腹も減ってはいない。
テントに入ると軽い眠気が襲われる。
軽く布で体を拭いて清めた後、ソウマは携帯型の寝袋をに入り、静かに眠りについた。
▼
一夜明け、ふと目が覚めれば外では日の出が見える早朝だった。
アイテムボックスから固いパンとスープを取り出し、スープに浸しながらパンを食べる。
別に固いと言ってもそのままでもパンは噛みきれるのだが、この間のゴブリン大侵攻で支給されていたパンをそうやって食べている冒険者達が多くいたので、真似して見たかったのだ。
現代の日本で暮らしていたソウマは柔らかい食パンしか馴染みが無かったので、新鮮な驚きがある。
カチカチでボソボソな食感だが、スープに浸すことで味も染み、確かに食べやすくなっていた。
お世辞にも美味い訳ではないが、腹も膨れる。
たまにはこんな食事もいいだろう。
テントを片付けると、食後に少し運動も兼ねて以前この森林に生えていたマナグローブの実を探しに出掛ける。
微かな魔力の反応を探せば直ぐに発見でき、マナグローブを適度に採取していく。
今度はパンにつけるジャムでも作って見ようと考えながら、隠蔽のテントをアイテムボックスへとしまった。
さて、久しぶりにステータス欄を覗くと【操気術】の他に、灰色で使えなかった【精神接続】の表示が元に戻っていることに気付いた。
(何時の間に……!? でもこれで離れていたレガリアと連絡が取れる)
逸る気持ちを押さえながら早速連絡をとると、早朝にも関わらずレガリアから返事があった。
話を聞くにどうやらレガリアは午前中は鍛治の修行、夜は戦闘の修行がてら上位炎鬼に挑戦していたらしい。
数日前にジュゼットからの鍛治修行の基礎過程の最終課題として、教わったレシピ通りのインゴットの作成をし続けているそうだ。
丁度ソウマからの連絡が来た時、最終課題であるインゴットの作成を終えたそうだ。
これでジュゼットが教えられる基本金属と魔法金属のレシピはマスターした事になる。
(マスター、直ぐに報告を終わらせてきます)
と気合いの入った念話が入る。
慌てなくて良いことを伝えて、レガリアから暫くした後に連絡があった。
そして俺達は【精神接続】が使えなくなっていた期間、どうしていたのか……お互いにあった事をゆっくひと話始めた。
俺に関しては、あれから遠く離れた場所まで転移させられたこと。
そして強敵フィアラルと戦い、勝利を納めてハイレア級の装備である外套を手に入れた事。
それから旅を続け出会った人の話や、突如起こったエンゼル等のイベント関連の話。
そこで新しく牛木族のエルを従魔にした事から、先程のゴブリン大侵攻までの話を続けた。
レガリアは俺と離れ離れになった後、ダンテとコウランとのパーティーを組んでクエストを受けたこと。
その先での狂乱兎との出会いと別れや一流の冒険者パーティーの拳嵐、グレファンとの出会い。
そして千貌との戦い……ダンテ達が国へと帰った事まで話してくれた。
レガリアの新しい能力の獲得も興味深い話題だった。
気が付けばお互い、久しぶり過ぎて時間が経つのも忘れて話していた。
そして俺の頼んでいた刀剣と戦闘服に近い軽装鎧も完成したと報告を受けた。
こうして、直ぐにでも会いたいと張り切るレガリアを宥め、出発する前にお世話になった方達に挨拶しておくことを伝える。
ソウマからの連絡があり、旅に出ることを必ず伝えておく事を念押しした。
そうした後、一目のない所でレガリアを指輪に一度送還し、再召喚する事で此方に来る事で納得をしてもらった。
レガリアとの再会と、完成した装備品の御披露目がとても楽しみになった。
▼
ソウマは念話が終わってから、直ぐに兵士小屋へと辿り着く。
割りと早い時間にも関わらず、門兵は眠気も見せずにきちんと仕事をしていた。
また身分証を提示してから奥へ進む道への通行許可を貰い、祠へ続く道へと入る。
深緑の美しい木々の景観を楽しみながら、目的の祠を兼ねた建物へと入った。
頑丈そうな木製の扉には鍵もかかっておらず、建物の中には誰もいなかった。
ただ、少なくともまだ新しめに煤が残り、暖炉を使った形跡があったり、野菜のおがくず等が纏めて外に掃除されてあるため、生活感は残っている。
ヤクモ達は数日間はここで生活し、また祠へ向かったのだと考えられた。
いまだ帰って来てないようである。
祠の奥にある扉を開けるための指輪を眺めながら待っていると、念話にてレガリアが準備を終えて町から出発したことを告げられる。
そして以前アデルから此方までは現在街道は封鎖されていると情報があった。
その為旅人や商人は途中迂回路を通るようだ。現在、街道の人通りは少ない。
念の為、町が見えなくなった頃合いに街道から外れてもらい、準備が整った所で送還を念じた。
すると白銀色に輝く契約の指輪に、懐かしい存在が還ってきた事を感じ取れた。
契約の指輪を一撫でした所で、レガリアを再召喚した。
契約の指輪から出てきたレガリアは修羅鬼の姿だった。
目に涙を貯めて嬉しそうな表情をしている。
お互い一緒に異世界へと来た身。
ソウマは再会したレガリアを見た時には思わず胸の奥が熱くなり、離れ離れになった娘にようやく出会えたかのような歓喜の感情が巻き起こった。
胸にはいとおしさが込み上げ、思わず駆け寄って抱き締めた。
「マスター……マスター。
ようやく会えました。レガリアはお待ちしておりました」
「……俺もだ」
そうやって抱き合ってお互いの存在を確かめた後、ゆっくりと離した。
「マスターは……以前と少し変わりましたね?
姿もそうですが何か……こう初めてお会いしたかのような? ……何てと言えばいいのか」
言葉に詰まる程の違和感がレガリアには感じ取られた。
「そうかな?自分では実感が無いんだけど、種族進化の性かも知れないな。
……そう言うレガリアも、な」
随分とレガリアも感情豊かになっていると思う。
俺がいない間も成長し、様々な経験をしてきたのだろう。
お互いの変化に苦笑し合いながら、念話で知り得た【スターメイズロッド】を見せて貰い、その性能の高さに驚く。
星の名が冠された大きな杖は、先端に嵌められた魔石から異様なまでの威圧感と魔力が感じられた。
更に見つめると杖の詳細が見えてきた。
スターメイズロッド ハイレア級
その昔、星の破壊者を砕き、その輝きを閉じ込めたとされる言い伝えを元に作られた。
非常に優秀な魔法触媒にして鈍器でもある星の名を宿した冠杖。
持つ者に強大な魔力を与え、破壊の力を与える。
巨大な魔石には星魔法の叡知の1つが刻まれている。
固有魔技【メテオラ・フォール】⚠️装備適正~第3職業魔法職限定
常時発動 【登録魔技<火球>】→魔技は上書き可能。
⚠️その際は登録してある<火球>はリセットされます。
これはこれは……説明を見る限り随分と強力な武器だと思う。
しかも魔法を強化する役割以外にも、直接攻撃も兼ねた打撃武器……としても使える物理的魔法使い用の杖だ。
固有の魔技 メテオラ・フォールは条件はあるものの、この杖でしか発動出来ない魔法だろう。
そして聞き馴染みのない登録魔技とは何だろうか?
俺は初めて聞いたが、説明を見ている限り魔法を杖の能力として登録出来そうな雰囲気がある。
どちらもエルダーゲート・オンラインで使い勝手が良い能力を宿した杖武器として重宝される。
そういった情報は読み取れたものの、流石にこの武器に関しての入手経路に関して何の手掛かりもない。
説明文の星の破壊者とは何ぞや??
スターメイズロットは一体どんな敵からドロップするのか?
もしくは素材から作られる武器なのか?
どの場所に存在している?迷宮産か?
それらは全く不明だ。
解らない事が解った。
それでも俺なりに予想をすれば、スターメイズロッドは<黒晶剣シリーズ〉のようなゲーム内のbossの希少素材を集めて完成させていく、途方もない時間と根気の果てに作成されるハイエンド・コンテンツ級の武具の気がする。
恐らく……は注釈が付くけど。
こんな武器を入手していた【千貌】って奴は、少なく見積もっても廃人級の高levelプレイヤーの可能性が疑われる……もしくは関与しているものと思われる。
杖を持っていた千貌と名乗る魔法使いはプレイヤーなのか、それとも別に奪ってきたモノか。
解らないが……どちらにせよ、死んだとはいえ此ほどの品を持ってる。
恐らくは単体ではなくギルドクラスも関わっていると想定して、一層の注意が必要だな。
そうしてる合間にレガリアはレガリアで、トリニティロッドを興味津々で眺め、時折効果や魔力の強さを質問してきた。
ソウマの読み取れた範囲で教え、俺とカタリナ以外には装備出来ない品だと伝えると、残念そうな表情を見せた。
それでも、自分の進化したスキルがあればあるいは……と、思考に嵌まっていた。
絶対にカタリナ殿の情報を詳細に教えて下さいね……と、アルカイック・スマイルで強く念を押された。
後ろめたい気持ちさせられる。
何故か解せぬ。
さて、ようやく俺の完成した装備の御披露目。
レガリアがワクワクしている俺の様子に微笑みながら取り出してくれた。
見事な出来映えの刀剣。
そして所々に金属で補強された軽装装備のような装備品。
想像していたよりも格段に素晴らしい出来映えを見て、思わず笑みが零れた。
鋼竜の鱗皮で作られた鞘。
外身の感触は少しザラッとするが癖になる手触りに、内側は驚く程スベスベしている。
鞘からゆっくり抜くと、刀身は光を反射して美しい波紋が浮かび上がった。
敵を倒す武器であると同時に、芸術品のような日本刀の美がそこにある。
流星刀・レプリカから波紋の再現にかなり時間を費やしたと、ジュゼットは満足そうに頷いていたと言う。
柄を握れば手にしっかりと吸い付くように馴染み、程よい重さがしっくりと指を掴んで離さない。
リアルで日本刀など触った事もないが、これは作り手の技量の高さの他に、使い手の事を真摯に考えた思いが伝わってくるかのようだ。
竜星刀 片手武器 特殊レア級
流星刀・レプリカをベースとして新たな構想で生まれ変わった刀剣。煌めく星を連想させるジュゼットとレガリア師弟渾身の一振り。
魔法金属すら噛み砕く竜の牙と、星の金属を贅沢に使われた刀身は、竜鱗すらも切り裂く恐ろしいまでの斬れ味を実現させた。
一定の生命力を代償に刀に込める事で防御無視する〈戦技〉を権限させる。
固有武技【ロスト・ブレイク】⚠️片手剣補正C以上必要
この竜星刀に込められている武技は、エルダーゲートのゲーム中にも見たことがない、全く新しい武技だった。
ゲームだった頃にユウトに渡した準ハイレア級の黒鉄の大剣の武技【ディープ・インパクト】も防御無視の効果があったけど……倍撃じゃないけど、あんな感じかな?
装備制限はあるけど、特殊レア級だけあってそれに見合う強力な武技だ。
うーん、しかし固有武技が片手剣補正Cが必要かぁ。
今は片手剣補正はDだから使えない……このままlevelを上がるか、片手剣の扱う技術を磨いて早々にランクを上げるしかないな。
最近は弓ばかりだったし、バランス良く剣も使ってみようか。
刀身が収まっていた鞘からも魔力を感じる。
鋼竜の革鞘 レア級
鋼竜の鱗皮の特色を活かしながら作成された丁寧な仕上がりの刀鞘。
鞘全体に耐久性上昇がエンチャントされている。ジュゼット作。
武技【鋼耐性強化】
今度は防具を見てみる。
鋼の竜鎧布 軽装鎧 特殊レア
扱いの難しい貴重素材【鋼竜の鱗皮】を全身に贅沢に使い、鋼よりも高い防御力と動作阻害が起こらない構造を両立させた特別な甲冑服。
ハイメタル鋼をクッション材としても使い、衝撃緩和機能を飛躍的に上げている。
ソウマがデザインし、レガリアとジュゼットが完成させた。
任意発動【鋼竜陣】
⚠️<発動させれば術式により一時的に鋼竜と同等の鋼質化を得る>時間制限あり。
面頬以外の装備は全て同じ素材を用いて作成された。
オーダーメイドの良い所は一から作り上げる為、細かい修正や要望がきくのが醍醐味だ。
面頬は金属並の硬度を保つ魔力糸にハイメタル鋼を元に作られたマスク型の試作品だったが、作り手のジュゼットとレガリアの腕がレア級の等級を引き出した。
守備力もさることながら、驚くことに【声状変化(小)】の任意発動の武技が付与されている。
少しハスキーな渋めになる程度だが、年齢不詳な感じで尚良かった。
纏めるとこんな感じだ。
装備名 〈等級〉 【武技】
武器:竜星刀 〈特殊レア〉【ロスト・ブレイク】⚠️
:鋼竜の革鞘 〈レア〉【鋼耐性強化】耐久性上昇
頭部:鋼の竜頭巾 〈特殊レア〉【鋼竜陣】任意発動
⚠️<発動させれば術式により一時的に鋼竜と同等の鋼質化を得る>時間制限あり。
体部:鋼の竜鎧布 〈特殊レア〉【鋼竜陣】
:修羅胴衣 〈特殊レア〉【状態以上耐性(小)累積リセット】
: フィアラルの外套 〈ハイレア〉【霊翼】 【死ト風ノ護】
両手:鋼の竜手袋 〈特殊レア〉【鋼竜陣】
脚部:鋼の竜脚絆 〈特殊レア〉【鋼竜陣】
アクセサリー: 面頬 〈レア〉【声状変化(小)】
装備セットボーナス 【鋼竜の鼓動】
〈20%武技効果上昇&竜素材が含まれる道具と武具性能が上昇〉
つまりこの装備セットボーナスならば、武器である竜星刀や竜顎弓セカンドの性能も底上げされる俺にとっての最高の武具となるぅ!!
と、久しぶりにテンションが上がりまくったソウマだった。
やはり素晴らしい。
全くもって素晴らしい。
大事な事なので2回言いました!!
防具の色は課金アイテムである〈エターナル・ブラック〉で全身を統一している。
デザインは最後まで武者鎧と悩んだのだが、完成品を着込んでやはりこれに決めて良かったと思った。
鋼竜の皮で全体を覆う頭部装備は要所をハイメタルで強化されている頭巾風。
口元を守る面頬と飾り布で、露出しているのは目元のみ。
それでも視界の確保はばっちりで、余り不都合を感じていない。
それに【戦弓眼】を使えば全体を見渡す事が出来るので全く問題無し。
全身軽装防具を身につけ、フィアラルの外套を着込む。
流石に外套だけだった時よりガッシリとしているが、特段動き憎さ等は感じない。
全て身に付けて完成だ。
全身を覆い隠す装備且つ、正体不明の的なカッコよさに追求してみたある意味ロマン装備なのだ。
個人的には凄く気に入っている。
▼
因みにこの装備に使われているメイン素材の鋼竜とは、翼の持たず細やかな鱗で蛇のような皮を纏う4足歩行する竜種。
頭部にきらびやかな鋼の1本角を持つ全長5m級の竜だ。
細やかな鱗とはいえ桁違いに堅く、その下には全体運動能力の塊たる筋繊維群が存在していて見た目よりも素早い動きをする。
これは岩竜や水晶竜など特定の鉱石などを好んで食べる地竜系統の一種とされ、どっしりとした体にも関わらず瞬発力に優れている体構成と魔力構成になっているからだ。
その中でも雑食のようで金属や鉱石等なら何を食べて取り込む特殊分類の竜だ。
例を上げるならば、鉄鉱石を食べ続け、鋼竜・アイアンや、鋼竜・ルビーとなり、極端ならば鋼竜・アダマンタイト等いった生息地によって戦闘能力に幅がある竜なのだ。
ゲームでは倒す事が出きれば、鱗に蓄えた鉱石等や、運が良ければ竜の素材となった特別な鉱石がレアドロップされる。
又、鱗が細かすぎる為に一つ一つは剥がせないので、皮ごと剥ぐ事になる。
エルダーゲート・オンラインの世界ではガチャに素材が含まれる程、初期に実装された有名な竜種でもある。
初期とはいってもソウマが到達出来ない領域に生息していた為、戦った事はない。
何と言っても相手は純粋な竜種。容易に戦える相手ではない。
戦闘能力は1体でCランクの迷宮bossを超すモノであり、基本的に牙や爪、尻尾を使った攻撃を得意とする。
また名前の代名詞にもなる鋼の竜の鱗と皮は、柔軟性と硬度に特化して生半可な攻撃など受け付けない。
逆に切りつけた武器が欠けてダメージすら与えられないまま、蹂躙されて終わりだ。
この情報に関しては、ガチャで素材を手にいれた際のコンプリート・ガチャボックスにそんな説明と鋼竜の写真が載せられていた。
ガチャ素材の【鋼竜の鱗皮】は、竜系統の優秀な防御力と耐性を引き継ぎながら、合成する際の金属や他素材の影響を強く受けるとあった。
更に星系統の素材は、貴重な素材同士を重ね合って持ち味、特色を強く引き出すと言われている。
貴重な素材を使い、装備品に【武技】が付くレア級の等級が出来上がる為、その素材の性質を理解し、引き出す事の出来る技術を持つ者だけが可能となる。
例え同じ素材、同じ過程で鍛治を行ってもただレア級素材で作られた武具と、レア級素材に見あった能力を持つ武具では明らかに違う。
今回は長年に渡り巨地龍の鱗を扱って培われた竜素材の技術を持つ第一人者のジュゼットを筆頭とした傑作品で他の者ではこうはいかなかっただろう。
只のレア級にはあるまじき、特殊な【武技】が付与された……と推測出来る。
少なくとも、そう考えなければ俺には説明がつかないのだった。
ゲームだった世界の頃は素材の等級を加味し、ネットにあるレシピによって同等の等級で必ず武技の付いた装備品が完成した。
実際の鍛治士が奮う腕前や素材に込める情熱、膨大な時間を飛ばして一瞬で……だ。
元見習い鍛治士としてはやるせない思いもある。
そう思いを馳せれば改めてこの世界は、ゲームではないと実感させられる。
一流の鍛治職人が技を奮っても、武技と呼ばれる能力が付与された武具が完成されるわけでない世界。
しかし誰もが迷宮の品ばかりを入手出来る訳でもない。
腕の良い鍛治師は国を支え、戦力を高めるジュゼットやドゥルクは稀に見る職人なのだ。
鍛治修行中のレガリアとて、レア素材を扱えるけど、必ずしも武技が付与される訳じゃないらしいし。
全てレア級相当もしくは以上で、武技付与されてる装備品持ちなんてこの世界にはそういない筈だ。
各ランク付けされた迷宮で稀に発見される宝箱。
更にboss討伐時の特別な宝箱には強力な武技付きの武具が必ず入っている。
その為優秀な素材を入手しても、完成品にクオリティや武技が付与されるかどうかわからない職人による作品よりも、確実に安定した武具の品質と武技が付与された迷宮産の方が価値が高いという。
この迷宮を攻略した証としてのブランド力も合わさるからだとも言われているが、俺はこの世界で彼等と出会えて、本当に運が良かったと実感出来てるよ。
俺はこの作って貰った素敵装備で挑戦し、迷宮を攻略したりして自分にあった品を獲得していきたい。
あの弓も作って貰わなきゃいけんしね!
……つまり、スタイルはゲームの時と一緒で〈好き勝手に楽しめ〉だ。
▼
次にレガリア 修羅鬼形態が身に付けている装備に目をやった。
レガリアが赤熱鋼の研究や、上位炎鬼を討伐して入手した宝箱や戦利品を黙々と鍛治修行の為にインゴットにしていた。
いずれ旅立つ弟子の為に、その一部を使ってジュゼットが餞別に持たせてくれた防具装備であると教えてくれた。
武器に関しては【白木刀】とレガリア本人が作成した剣が主武器になる。
紅色に統一された防具一式は華々しさと、女性受けする細やかなデザイン。
あのむさいおっさんたるジュゼットが作ったモノとは思えない繊細な仕事だった。
と、言うと絶対に怒られるので言うまい。
修羅鬼形態のレガリアの装備は、普段アイテムボックスではなく、本体の【希少保有枠】にスターメイズロッドと共に保管してあり、宝箱本体時の能力補正に加算の役割して貰っていると言う。
基本的にステータスを含む補正は宝箱(本体)に全て加算されるため、基礎能力は底上げされるが、修羅鬼の形態のレガリアには直接的な補正は入らない。
スキルによれば、あと数枠は余っているそうなので俺のアイテムボックスからハイレア素材である【銀龍の鎧皮】と【精霊銀と黒鉄のインゴット】を渡し、最後の一枠に取って置きを取り出した。
「驚くのはまだ早い。俺が使う必要な時までこれを預かってて欲しい」
ハイレア級の素材だけでも驚いていたのだが、ユニーク級アイテム【亜神の欠片】を見せると、その等級を感じ取ったレガリアは見たことのない惚けた表情で座り込んだ。
この【亜神の欠片】から、神気と呼ばれた伝説の気が流失してきてレガリアの全身を包み込む。
圧倒的な平伏す威圧に襲われ、手放したくなるが折角ソウマに託されたのだ。
レガリアが逃げ出してしまっては、意味がない。
「……くっ、マスターは私を驚かせ過ぎです」
怒っているのか嬉しいのか複雑な声色で話すと、ソウマの手から包み込むようにそっと抱き、【希少保有枠】の中に大事に大事に収納した。
すると直ぐにスキルが働いてレガリアに溢れんばかりの解放感を与えた。
気を抜けば身体中から何かが吹き出しそうな、快楽にも似た解放感。
身体中に拡がるそれに只ひたすら……耐えた。
本来ならば魔法生物でもあるミミックに精神異常などや高揚等の効果は影響されない。
実は【希少保有枠】に仕舞うだけならばどの形態の時でも仕舞えるので……生体に近い修羅鬼状態で行った場合ではダイレクトに肉体に反応がくる。
因みにレガリアにこれ程まで影響が与えたのは流石にユニークアイテムだったからこそなのだが。
修羅鬼の美貌からして非常に色っぽく、我慢している表情は艶のある何とも言えない色香を放っていた。
(こんなモノを預からせて貰っては……もうマスターに責任を取って頂くしかありません)
やっとのことで極大に跳ね上がった能力上昇補正が落ち着いた。
お風呂でのぼせたようなホンワカした状態で、レガリアは赤子のように安心感に包まれていた。
▼
その後、直ぐに眠りに落ちたレガリアを建物のソファーへと運び、横たわらせた。
「なかなか凄いモノを見てしまった……」
まさかあんな事になるなんて……と、罪悪感と成長した姿を見れた嬉しさがあった。
複雑な気持ちの整理が付く前に、脳内にアナウンスが響いた。
【レガリアのパートナー〈ソウマ〉を認証しました。
個体名〈レガリア〉は規定levelをクリアしています。
待機モードから進化先の選択へ移行しますが宜しいですか?】
脳内で【yes】を選択すると、進化先が現れた。
そして進化先を確認しようとすると、不意にレガリアから不可思議な圧力を感じた。
〈そこの奇妙な波動の人間? かしら。……私の話を聞いてくれますか??〉
ソウマの脳内に強く訴えかける念話が聞こえ、真っ白な空間へと視界が切り替わったのだった。
〈囁く仮面〉
ある森にて冒険者に成り立てと思わしき装備を付けた10代の若い男女2人が大型の魔物に追われ、走っていた。
枝が行く手を邪魔し、凸凹の地面が走力を減速させて追い付かれるのも時間の問題だと思われた。
体力的にも難しくもう逃げられないと観念した2人は、振り向いて戦闘体勢を整える。
古びた皮の鎧に鉄剣と木の盾を持った戦士の男。
緑のローブに木の杖を持った魔法使い風の女。
彼等は息を整えながら、森の中で自分達の不幸を噛み締めていた。
それはこれより少しほど遡る。
彼等は最初、町からギルド依頼で森の中で薬草探しを受けて近くの森まで来ていた。
しかし、簡単な依頼の筈が薬草の群生地が見付けられず、大型の魔物が住まうとされる森の奥まで探しに来てしまったっていた。
木々所々に爪痕のマーキングがしてあったのだが、それを見落とした事から始まる。
縄張りの痕跡に気付かず其所へ侵入した結果、まず最初に2匹の大鼠と戦闘になった。
大鼠は初心者でも倒せる魔物だ。
男は慌てることなく剣で斬りつけ、女は魔法の矢で撃退する事が出来た。
が、大鼠から流れた血の臭いを嗅ぎ付けた魔物が更に森の奥より現れた。
冒険者の初心者殺しとして有名な魔物である魔熊。
雑食であり、殺傷能力の高い爪と牙で食らい付き、殺したモノを喰らう恐ろしい魔物だ。
2mを超す大きな身体から繰り出す爪の一撃を必死にかわし、伸びきった熊腕に渾身の力を込めた鉄剣で切りつけた。
しかし全力の一撃は、剛毛で硬い毛皮の表面を浅く切っただけ。
そこにある強靭な筋肉に抵抗されて薄皮1枚削っただけに留まった。
絶望の表情を浮かべる男に再度爪の一撃を叩き込む魔熊。
咄嗟に木の盾を前面に出すも、木盾は触れただけで砕け、更には爪の切れ味にも耐えきれずあっさりと盾は切り壊れた。
盾を手にしていた左腕までも巻き込み、左腕が胴体から切り離れる。
余りのダメージにうずくまった男の頭にトドメの一撃を加えようとした魔熊の前に、女の魔法が完成した。
拳ほどもある火の塊が、魔熊の胸部を焼く。毛皮は焼け焦げたが、軽い火傷程度にしかダメージは入ってない。
むしろ自慢の毛皮を焼かれた痛みによって咆哮を上げる魔熊。
そこに僅かな勝機を見出だした男は、痛みをこらえ右手で魔熊の目を狙って突きを放つ。
鉄剣は寸分たがわず魔熊の左目を貫き、筋抵抗を受けながらも、更に剣を奥へと差し込んだ。
ルーキーの冒険者にしては快挙であったが、奇跡はそこまでだった。
あと1秒もあれば脳に到達した筈だったが、魔熊は激痛で興奮した状態となり爪で自らに刺さる鉄剣を簡単にへし折った。
怒りのまま男の首へ噛みつき、そのまま喰いついた。
呻き声も上げる間もなく男は絶命する。
首が千切れかけた死体を踏みつけ、グチャグチャにした所でようやく気が晴れたのか魔熊は女の方へ振り向いた。
様子を伺いながら、女は脅威でないと判断した魔熊はその場で男の死体に喰らいついた。
目の前で見せられた惨撃に対して女は恐怖で腰が引けて座り込んでいた。
普通ならば彼女の運命はそこで尽きていた。
しかし……彼女には別の選択肢が現れた。
町の露店で売っていたアイマスクの変わった仮面を買った事が運命の分かれ道だった。
魔力反応もあるマスク型の装備品は、店主は気づいてないなかほぼ捨て値価格で店内に置いてあった。
店主曰く、ここにくる道中に落ちていた品で、旅費にでもなればと拾って売っているとの事だった。
掘り出し物には間違いない。
女は魔法使いとして魔力がある品を付ける事は自分の格にも繋がると考え、喜んで買ってしまった。
それが、自分の意思ではなく、マスクに誘導された事も気が付かずに……。
その生命の危機の状態に陥っている彼女に、語りかける声が聞こえてきた。
それは耳に出はなく、脳に直接語りかけているようだった。
(ねえねえ、このままじゃ君死んじゃうよ?
ボクが力を貸して上げる)
(喋るマジックアイテムなんて……)
(こんなにノンビリしている時間はもう無いいと思うよ?
ほら、食事が終わったら次は君が食べられる番)
その言葉と現実が、現実感の薄い薄気味悪さをはね除けて、女の決心を固めた。
震える手でマスクにお願いすると、直ぐに鎮静の効果が魔力が働いて落ち着いてきた。
(そうそう、上手だね~ハイ、魔力を貸すから1番早くて得意な属性魔法で攻撃してね)
妙に落ち着いて冷静な思考に戸惑いが有りながら、先ほどの火の塊を放つ魔法を詠唱する。
魔力の高まりに気付いた魔熊の視線が女を捉えた。
魔熊の血だらけに染まった口元は非常に恐ろしい筈なのだが、マスクのお陰か恐怖はなかった。
食事をすぐにやめ、此方に向かって駆け出す。
(フン、魔熊ごときでボクの邪魔は出来ないよ。思考分割詠唱……はい出来た)
魔力強化した属性魔法は只の火の塊を、燃え盛る大火玉として放たれた。
火が吹く盛大な音を立てて魔熊に着弾した火玉は全身を火ダルマへと代えた。
魔熊の素材が駄目になったが、命に変えられない。
急激な魔力喪失で頭がクラクラしながらも、新しいチカラに興奮する女魔法使いだった。
(ボクのチカラは解ったよね?じゃあ今度は正式な契約をしよう。
簡単だよ、ボクに名を捧げてくれさえくれれば、この力は全て君のモノだよ)
女はこの光景を見ても何の疑いを持たずに、喜んでマスクに名を捧げた。
するとマスクは光り、仮面になった。
こうして契約すると女との間に、直接魔力回路が繋がれた。
(そこの彼の事は残念だったけど町へ戻ろうよ。依頼も完了しないといけないし、報告も大事だしね)
そうして促されるまま、女は町へと戻っていった。
帰りにもう1体の魔熊に出会うも、今度は危なげなく魔法で対処していた。
仮面を付ける前の彼女からは信じられない程、魔法技術や魔力、知識が上がっていた。
素材を持ちかえり、町で売った事で期待のルーキーとして騒がれる事となる。
深夜に仮面はうっすらと輝き、嘯く。
《やれやれ、ようやくストックが3人目。
やはり、魔法使いの方が相性は良い感じ。
新しく生まれ変わったお陰か授かった能力は前ほど使い勝手が良くないけど……コツコツ地道に行かなきゃ……ね》
いずれ契約により自由意思が縛られ始めるのだが、新しいチカラに酔いしれる女魔法使いには関係の無いことだった。
《待っててね、レガリア。ボクが君を迎えにいくまで》




