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エルダーゲート・オンライン  作者: タロー


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ソウマ編 緑小鬼の大侵攻3 お出かけに

更新お待たせさせています。誤字脱字などや文章表現を後で修正することもあります。

レイナードの問いに対して、今は聞いたことがないと返しておく。

そのまま解散の形となり、朝食には早いので部屋へと一旦戻った。

ふぅ、部屋に返ったものの、眠気や疲れはそれほど無い。







さて、チキュウと来ましたか!

この世界で聞くとは思わなかった。元の世界に戻れるかはわからないけど、少し胸にくるものがあったのは事実だ。



しかし、ともあれいくら俺でもあそこで肯定すれば、レイナードに関してとんでもない【巻き込まれ】になっていくだろう…とは解るからだ。



折角他のプレイヤーに会えるチャンスだったかも知れないが、今はデメリットしか感じない。

縁があれば、またそういう機会は来るだろう。









しかし、黒晶剣とな…その名称は耳に聞き覚えがある。

頭を捻りながら思い出す。


黒晶剣については思い出せた。但しVRゲームの中では…と解釈がつくのたが。





黒晶剣は敵からドロップしたり、迷宮などの宝箱から発生するものではない。


天空に浮かぶ島にある迷宮遺跡【サルバドール】


その遺跡の20階層区画に中boss的な役割を果たす黒晶獸のboss素材を集め、ようやく作る事が可能となる武器の一種だ。



黒晶獸とは、頭に捻れた大きな2本角。

鋭い牙に強靭な顎は噛み付かれば、生半可な防具などでは、紙のように破壊され役に立たないだろう。

背中にコウモリのような皮膜の巨大な翼が生えた巨大な狼型のbossだ。


レイドboss程ではないが膨大なHPを誇り、強靭な身体能力を活かした牙、角、爪等の身体全体を使った物理攻撃。

それに雷属性魔法を駆使してくるとネットで攻略法がのっていた。


そして、HPの30%をきると、黒晶獸の名の由来であるキラキラと赤く美しい血晶(ブラッドマテリアル)を纏い始める。

【黒晶】は(オド)を媒介とする特殊魔法の一種とされている。

それまで流した血が混じりあって霧状で浮遊し始め、黒晶獸の意思で身を守る個体となったり、時に流体となって攻撃したり等して操ってくるのだ。







純粋に黒晶獸だけのboss素材で作られた装備は、表示に原型(アーキタイプ)と呼ばれる強力な武具の種類となる。

原型(アーキタイプ)に必須な素材である【血晶珠】は非常にドロップ率が低い。

それをベースに、他の黒晶獸の素材を組み込んでいって完成していく過程をとる。

重剣、重槍の武器に重兜、重鎧、重手甲、重盾、重脚甲の重防具シリーズとで別れている。




公式で発表された画像は禍々しくも雄々しいロマン溢れる尖った外装だった。

boss素材でここまで作り込まれている武具は【黒晶】シリーズ以外には珍しい。



さて、黒晶剣・原型(アーキタイプ)と呼ばれる剣は、最終的にハイレア級の価値があると攻撃力が魅力と言われている。

そして、黒晶獸の持つ特異なスキルが一番反映されている。

全てを持ち合わせている廃人(ツワモノ)は、一体どんなスキルボーナスがあるのだろうか?



全部セットで作るとなると困難且つ手間暇かかるが、それ以上に攻防優れた武具となるため、この装備を持つものに憧れる人も多いと聞く。


そこに至るまで果てしない素材は、それこそギルドに所属してギルド単位でないと集めきれない量だ。

入念な下準備と高い実力を備えた第3職業者のプレイヤーでも苦戦は必至 。

其故、この世界(エルダーゲート)では、まず黒晶獸に辿り着ける人材はかなり希少になるだろう。



そんな黒晶獸を数えきれぬほど討伐して、数多くの希少素材を注ぎ込まねばならず…まず、【黒血珠】が出なければいけない。

1つの原型(アーキタイプ)が完成するまで、約300体近くも倒さねば完成しなかったという人もいたとネットで噂されていたくらい、完成に時間がかかる。

途方もない時間と必要素材に、単体で剣のみ、鎧のみの人はいても、まだ武具セットで完成させている人はまずいないと噂されている。


また、原型(アーキタイプ)以外にも、派生型と呼ばれる装備の組み合わせ武具も存在しているため単純かつ奥深いのだ。

派生と呼ばれるモノは純正装備と比べればまだ作りやすい。

性能とスキルは原型(アーキタイプ)に多少劣るものの、多種多様の金属と素材の組み合わせからなり、そこに弓や軽装装備、ローブ等が含まれる。


逆に配合する素材や使うモノによってはかなり性能も良い通好みの武器が作れる。

黒晶装備はbossドロップ素材の中でも性能の破格さと作ることの難しさ、希少さ、外観の格好良さ(男女別)でかなり有名だ。





まぁ、ゲーム中で地道に作っていく様々な武器や防具は人気はあるがそんな時間を割ける人も少ない。


無課金の人もいるが、大概はガチャ素材からそれなりの武具を作るためにてっとり早い一部課金をする人は多い。


俺はハイレア級のガチャ装備(ソウマは弓ガチャコンプと素材集めに夏のボーナスを注ぎ込んだ)を足掛かりに、他の武具も迷宮等や素材を調べ、集めていく予定だった。


戦闘系の多くのプレイヤー達は、いかなる手段を用いても強くなり、いつかレイドbossへの挑戦も視野に入れていくだろう。


この現実となった世界では課金など出来ないから、そんな手段は無理だけどね。








そして先程も伝えたのだけど、黒晶獸が住まうサルバドール遺跡は本来、遥か天空に存在する小島の1つにある遺跡迷宮だ。


あるはずの手順を踏むことで正式なルートが現れる…らしい。

俺は知らないが、高レベルのプレイヤーのみが攻略出来るクエストで入手出来る場所をクリアすることで、行き交う条件を満たすとの噂だった。



そのため、レイナードのお爺さんは間違いなく、前の世界のトッププレイヤー級の1人だと思う。




今後の展開を考えなきゃいけませんよね。

俺とて全てを知る訳じゃない。

どう転んでも、自分の選んだ選択に後悔のないように動くのみだ。












その後、時間をもて余していたので、進化したエルの強さを測るために再度練兵場に向かった。

そこには、先に先客がいた。

大剣を操る1人の女とその連れに槍を操る女が訓練をしていた。

2人ともビキニアーマーと呼ばれる肌の露出が目立つ装備をしていた。

恐らくこの練兵場にいることから、冒険者だろう。朝から勤勉なことだ。


彼女らは入ってきた俺を一瞥するだけで、その後は興味が無さそうに2人で訓練を再開していた。


俺はエルを召喚すると、突然魔物が現れたことに流石にぎょっとした顔を見せていたが、

俺が魔物使いだと明かすと納得してくれた。




これも縁である。簡単な自己紹介をする。


無口な大剣の使い手の女はアンゴラ。ショーットカットの髪型にソウマと同じぐらいの身長がある。

右肩には翼を広げた蛇が刺青のようなデフォルトで描かれていた。


槍を操る女はマリガンと名乗る。

神秘的でエキゾチックな顔立ちで、身長はアンゴラと比べてやや低い程度。

左肩に刺青のような鳥の形のマークが描かれていた。


どちらも美人の類に入る。


両者とも褐色の肌に金髪。

身体には最低限の急所を守るためのレザーに金属を縫い付けた軽装で統一しており、肌の露出が多い装備だ。

そのため彼女達の鍛え上げられた肉体を惜しげもなくさらしている。



彼女達はこの国から更に南下した砂漠の大国ファルコニアから来たと言う。

砂漠の大国と言っても、砂漠自体は国土の4分の1を占める割合だ。

有名な所では巨大な円形闘技場(コロッセオ)が一番の目玉でそこで戦うトーナメント部門や集う剣闘士、捕縛したモンスターとの戦いが人気なんだそうだ。


俺はファルコニア地方には行ったことはないが、闘技場の賞品も良いし、トップランカーには特典として何かしらの国からの援助が受けれた筈だ。



その国の中でも密林に位置する場所に彼女らの故郷はあるとされる。

女性のみで構成された屈強な女傑アマゾネスが支配する場で、彼女達は強き雄を探しにここまで旅してきた。

強き雄の種を貰い受けるため、若いながらも自身を鍛え上げた結果、C級冒険者(ベテラン)まで辿り着いた。

肩にあるデフォルトされた刺青は、彼女達のアマゾネスの部族の戦士の証だと言う。





「…アタイ達は強さこそが絶対」


「そういうこと。この討伐依頼(ゴブリン)を受けたのは強い雄がいそうだったからよ」


今のところビンとくる雄はいないそうで、こうして日課の朝練に来ていてのだと呟く。




「どうせだったら、エルと対戦していってくれないか?」


じっくりと召喚されたエルを観察する二人は、満足そうに微笑んだ。



「未知の魔物との対戦か…いいね。腕がなりそうだ」


「と、言うわけで構わないわよソウマ」


アンゴラとマリガンの許可を得たソウマは、エルを見やるとゆっくりと頷いた。


「エル、精神接続(アストラルリンク)が使えない今、好きなように戦ってごらん。HPは20%を切れば指輪に戻るように設定しておいたから」


そう言って送り出す。


ずんぐりむっくり。低身長だけどその身に似合わぬ筋肉を宿す新種族である牛木族(モーギュー)


「ハッ、良いねぇ。アタイ達と同じ近接戦闘派の臭いがするよ。小さいが牛のような魔物。

ミノタウロスの亜種か何かは知らないが楽しみだよ」


そう言ってマリガンがニヤッとして呟いた。


アンゴラはその呟きに返すことなく無言のまま、背負う大剣の柄に手を置き接近していく。


アンゴラとエルが激突する。


先に仕掛けたのはアンゴラ。

ダンっと、大剣の重量を活かして踏み込んだ一撃は、大剣に振り回されず、しっかりと鍛えられた技量と力量を示していた。


マリガンは、アンゴラが放った見事な一撃にエルがガードした腕ごと切り飛ばされ、余波で叩きつけられるイメージを見ていた。


当たればフォレストウルフ程度ぐらいならば真っ二つとなるほどの威力を内包したは攻撃。

その鋭い一撃を逃げず、エルは十字に腕を組んで構えた。

ガッガッッと硬質なモノを削る音が聞こえるが、エルはその場で踏み留まり、十字にクロスさせた両腕でガードしている。

両腕にはうっすらとかすり傷が縦に刻まれていた。

アンゴラがいくら大剣を押してもエルはそれ以上後退しない。


「珍しいわねアンゴラ、いくらなんでも手を抜きすぎじゃないか?」


「…マリガン」


「何よ」


「手加減などしていない…久しぶりに楽しめそうだ」


無表情なアンゴラが嬉しそうに笑う。ギュッと大剣を握りしめる手に力がこもる。


その後、アンゴラが振るう大剣の攻撃を弾きながら前へと進む。



エルの頑強さの証。

金属ような防御力を誇る天然肉体のスキル【牛皮殻(モォーギューシェル)】は、触れば柔らかく叩けば軽いと言った不思議な質感があった。

エルの身体は攻撃によって無数の傷が付いていたのだが、致命傷は無かった。もしかしたら下手な金属よりも堅いのではないか?


つまり、今回戦う予定の緑小鬼(ゴブリン)程度の力ならば武器で攻撃を受けたとしても弾き返せる可能性が高い。





全身が同じ強度で保たれているため、関節など狙われても切り飛ばされる心配は少ない。



それに例え傷を負っても、防御を固めていればスキルで【回復力】の高いエルは、装備品である聖牛面(マスクドギュウ)自動回復機能(リジェネ)(中)が付いているので持久戦に強い。

そのため、エルと聖牛面(マスクドギュウ)の装備とは非常に相性が良かった。



アンゴラの攻撃を充分に耐えるエル。

最初はぎこちない防御姿勢も、経験を得ることで徐々にサマになっていく。

スキルの【防御の心得】のサポートもあるのだろうと推測する。


全く攻撃が効かず、僅かな傷も再生して回復するエルに精神的、肉体的に疲労してきたアンゴラは大剣を引き上げる動作が遅れる。


それを隙として捉えたエルは攻撃に転じる。


両手を突き出し、一気に突進する。


当然の行動に驚くアンゴラ。今まで攻勢に来たことなどなかったため、対応が数瞬遅れた。




スキル【殻盾】を顕現させると、エンゼルナッツ時代の全身を殻で覆った殻を彷彿とさせる、つるりとした大殻が両腕から出現した。

これで更に防御を増したエルは、容赦なく攻めるアンゴラの体力を削っていく。


通常の魔物ではなく、ボス格の魔物の魂を宿したエルはあの雄牛の生命力を受け継いだのだ。

そのエルの表面に傷を付けられるアンゴラも只者ではなく、流石にC級ベテラン冒険者だ。

しかも、かすり傷程度の傷しかつけられてないのに心が折られておらず、寧ろ嬉々として攻撃が増すばかりだ。

疲れは見え始めたがどうしたら効率が良いのか体感を盛って探っている。

困難に出会ったとき、諦めるか否か…それが彼女達が死線を潜り抜け、今の実力に至らしめているの結果なのだと解る。




因みにエルの使う【殻盾】スキルは、体から盾を生成するスキルなのだが、その盾の強度や耐久性はエルに依存していることが判明した。

未だに精神接続(アストラルリンク)は繋がらず、エルがジェスチャーで必死に盾を構える振りなどで、懸命に何か伝えようとしてようやく、わかったのだ。


あぁ、そういう所は外見はリアルミノタウロスでも、仕草も含めて可愛いかもしんない。

気になる木魔法などは今度精神接続(アストラルリンク)が繋がったときにでも聞いてみよう。




その後の訓練は続き、エルにとって【防御の心得】の熟練度を大いに上げたアンゴラの攻撃は、非常に良い経験になった。

僅かに剣先が煌めく時がある。きっと戦技を用いているんだりうと思う。

なかなか順番を変わらないアンゴラに痺れを切らしたのか、途中からマリガンも加わると、連携によってエルの体勢を崩されることも多く、攻撃を阻む難易度が上昇した。


稽古にしては実戦形式過ぎていたような気もするが、他の訓練者達がちらほら現れた始めたし、もう一戦と粘るアンゴラを諌めて朝練は終了した。


「いや、朝から良い訓練になった。有り難う。またしよう」


無表情なアンゴラは、この時ばかりは汗だくで笑顔になっている。

反対に疲れた顔をしたマリガンは、苦笑しながらも運動量に満足していた。


びっしょりとした汗が装備と衣類にまとわりつき、健康的かつピタッと肌にくっくつくことで妖艶さも醸し出している。


(なんせ、ここまで叩いても切ってもダメージが与えにくい魔物なんて初めてだよ。

まぁ、でも、お陰でアンゴラとの良い連携訓練になったけどね)


純粋な肉体のみに限れば、このミノタウロスの亜種であろうエルと言う使役魔物は非常にタフな相手だった。

武器を持つ手が痺れる感覚は、いついらいだろう。

ダメージが与えにくい相手でも衝撃は通る。エルがその衝撃をいなす前に畳み掛けるように連撃を加えていけるかが、今後の課題になりそうだと思う。

また攻撃箇所を更にピンポイントに絞ることで、何とかダメージは与えられていた。

アンゴラとマリガンは戦いの中で自身の成長する手応えを感じていた。


それに彼女達の奥の手を使えばまた状況は違っていたかも知れないが、流石に生死を別つほどの戦い以外に切り札は見せる訳にはいかないとも感じていた。


(思ってもない強敵相手にもどかしい限りだけどねぇ。ソウマは弓を扱うと言っていたし、この魔物を前線に立てて後方から魔物使いであるソウマが援護する戦法か…いや、)


自分の推論に違和感を感じたマリガンは、その考えを打ち消す。


(ソウマはかなり鍛えられたイイ身体付きをしている。従える魔物があれほどの強さを誇る以上、かなりの腕前なのは間違い。

まさか弓使いで魔物使いで共に前線に立ってるとは思えないけど…アタイの勘を信じるなら剣の腕前も相当なはずだよ)


思わず舌なめずりをするマリガンを見るアンゴラは、また始まったか…と無表情の中に諦めの色を宿していた。

非常に気に入いりそうな()がいた時に見せる表情だとわかっていた。





目のやり場に困ったソウマはそんな視線に気が付かない。



マリガン達に明日もまた同じ時間に訓練するので、また一緒にしようと朝練に誘われた。

弓の製作も今日頼んだばかりだし、特に予定のないので了承して別れた。











朝食を迎えに来たゾラに、今朝の事を謝られ、宥められながら食堂へ向かう。


「いや、本当にすまなかったソウマ。こんな面白いこと親父が放ってかないんだよ。一応止めたんだぜ?わかってくれよ」


「…はぁ、解った、もう解った。そう何度も謝らなくていいさ」


本日の朝食は黒色パンに肉の挟んだモノ。他には野菜スープもある。

後は、外での炊き出しによる冒険者の食事も一緒で、薄味のスープと固めの黒色パンだ。



「ふぅ、やれやれ腹も満腹になった。

今日の昼過ぎには後続の部隊もこの詰め所へと合流する予定だから、明日はもっと混雑してるな」


ゾラは面倒くさそうに答える。


「そう言えばゾラは緑小鬼(ゴブリン)と戦ったことがあるのか?」


「ああ、勿論何度もあるぜ。ここ領地は山野も多い。

人間が生活圏としていない場所も多くあるからゴブリン達にとっても生活しやすいって訳だ」



緑小鬼と呼ばれるだけあってゴブリンとは肌の体表が緑に包まれている。身長は子供のような100~120㎝程で前屈みで歩き、醜悪な容貌をしている。

知能はかなり低く、目先のことに囚われやすい。


集団としては少なくても20~30、多くとも50くらいの集団が一グループとしてコミューンを形成している事が多い。

力や知能はそれほど驚異ではないが、繁殖力に長けるゴブリンは放っておくと短期間で驚異の数へと増殖した。

また同種以外でも雌と交われば子を孕む程の繁殖力ゆえ、度々他の種族の雌が狙われる事が頻発する。


しかし魔物の中では最下層の実力の魔物ゆえ、基本的に襲われ餌さとなる。

それを乗り越えながら、力の弱く浚ってきやすい人間種がターゲットとなっていることが多いので、町を守護する領主は定期的にゴブリン狩りを行い、また冒険者ギルドでは常に討伐依頼を張り出されている魔物としても有名だ。



「今回見たいに百を越える数が攻めてこりゃあ脅威かも知れないけどな。

ゴブリンの中には集団を率いるゴブリン・リーダーや、戦闘に長けたレッドゴブリンなんかは上位種で厄介だが数はそんなにいないし…マジシャンいがいはゴブリンはゴブリンだからなぁ」


ゴブリンリーダーとは、その群れを纏める主の事だ。一般的に他のゴブリンよりは体格も一回りは良い。知能も僅かに上昇しており、悪知恵も働く。


レッドゴブリンは、ゴブリンが進化したとされる一種のゴブリンだと言われている。

体色は赤く染まり、より攻撃的な体格へと進化したゴブリンだ。

剣と弓の才覚を持つゴブリンが進化しやすいのか、レッドゴブリンへと至るゴブリンはそのどちらかの武器を装備している事が多いし、魔物使いギルドでテイムしたゴブリンもそう進化に対応することが多いと聞く。




しかし、ソウマはゴブリンを侮れない存在だと知っている。

そう思えるのは、ゲーム時代の身近な…お世話になったプレイヤーに関係していた。



緑小鬼(ゴブリン)の種類でも別格なのが、貴小鬼(ハイゴブリン)と呼ばれるゴブリン種だ。

驚いた事にそのゴブリンは、人間種と変わらぬ知能を有し、独自の言語を操る。


そして戦闘能力は、上記に記した上位種であるゴブリン・リーダーや戦闘能力特化のレッドゴブリンなどと一線を画する。



理知的なゴブリンであり、容貌は人に近い顔立ちをしている。

とある国では魔物ではなくハイゴブリンは亜人種として認められ、国家を築いている地域もあるのだ。

手先が器用で学習能力も高い彼等は、人よりも進んだ魔法文明を築き上げた。

しかし、その存在は非常に稀であり、詳細もよく分からないのが現状である。






ソウマも詳しくなったのは、前述に話したかも知れないが、プレイヤーとして人種からゴブリン種へ好んで変更した奇人がソウマの知り合いにいること由来した。

名を【松永】と言い、初期プレイヤーの頃にお世話になった鍛治士の師匠でもある人だ。

生産職である松永さんは、後に偶然にその貴小鬼(ハイゴブリン)と関わりを持つことで、プレイヤー初となるゴブリンへの種族変更をもたらした人物。


(松永さん元気にしているだろうか…元の世界で俺は一体どうなってるんだろう)


と、考え少し暗くなったソウマだった。



「おい、ソウマ大丈夫か?何か顔色悪いぜ」


ゾラの心配そうな表情にはたと思考から現実へと変える。


「すまん、ちょっと考え事してた。何せ、ゴブリン相手でも油断はするなってことだよ」


「ソウマがそこまで言うなら、肝に命じておくよ」


ホッとしたゾラは茶化すように笑った。


この詰所からそんなに離れなければどこに行ってもいいが、どこ

離れる場合は必ずゾラに伝えることを約束する。


この詰所の山岳にある方面に歩いていけば、清らかな水が湧き出て湖となった場所があり、そこを奉った祠があるそうだ。


伝説では大昔に豊富な鉱物が取れる鉱山を根城とした一匹の亜龍の変種が現れた。

伝説ではヒドラであったと言われている。

変種だと判断したのは普通のヒドラよりも体格が大きく、また雑食ではあったのだが、無機物である鉱物も好んで食べていたことも確認されている。

それと普通のヒドラは2つ首だがその個体は3本首であり、全ての首には1つ眼しかついていなかったからである。


変種のヒドラは見境なく大暴れをし、ここ一帯の村人が全て食い殺され動物、魔物すらも例外なく根絶やしにされる事件が起こった。

当時のトンプソン家の軍隊が命懸けで戦うも、亜龍の強大なチカラはモノともしなかった。

軍隊とて成果が何も無かった訳ではない。

ヒドラに傷を付け、首を3本中2本を何とか落としたところで危険を感じ取ったヒドラは、死にもの狂いで逃げてしまう。

逃げに徹したヒドラはより狂暴になり、立ち塞がる人間達を容易く蹴散らしていくのだった。


2ヶ月後、再度ヒドラが出現した時には、類いまれな生命力と再生能力を宿していた変種は時間をかけて新しく再生してしまっていたのだ。

戦ってはあと一歩の所で逃げられ…度重なる戦闘と多大な犠牲に兵はみるみる疲弊し、暗雲が立ち込める。


そして、当時のトンプソン家は竜・龍を専門に狩る竜殺しの一族に依頼をする。背に腹は変えられない。

放っておいては領地に人がいなくなり滅ぶだけだったからだ。

結果、莫大な依頼金を払った事で雇った狩人達はその力を見せつけて変種たるヒドラはダメージ深く、逃げ出した。


ここまでは被害を出しながらも軍も追い詰めることが出来た。


変種ヒドラは鉱山を根城としており、巣があると睨んでいた。

事前に調査をし、怪しいと思わしき場所をマークしておいたのだ。

調査隊も合流して狩人達にその情報を渡すことで、早い時間で更にヒドラを追い詰める事に成功する。

討伐まであと少し…最早瀕死状態となった変種のヒドラはかなり大きな嘶きをすると、突如鉱山が震えだし、地響きを立てて崩落していった。

鉱山から逃げだすも、多くの軍兵と狩人たる竜・龍殺しの一族の何名かは崩落に巻き込まれた。

陥没した詳しい原因は未だに解明されていない。


その地中奥深くに大きく窪んだ大きな穴の開いた鉱山跡からは、濁った水が湧きだし始めした。

やがて時間を得て綺麗な水となり、広大な湖と化したので再調査が不可能になったからだ。


生き残ったモノ達は変種ヒドラの祟りなのだと恐れ、そこをトンプソン家の許可を出した者と竜・龍殺しの一族以外は立ち入り禁止区域として指定した。そして亡くなった人達の為に厳選された素材を使ったしっかりとした祠を立て、奉ったのである。


そんな伝説が残る場所。

現代までそこから凶悪な魔物や災害などは確認されておらず、祟りなどは迷信の一種だと認識していた。


現領主たるトンプソンも、そこに眠った勇敢な先達と狩人達に畏敬の念を込めて一晩祠にて泊まる事にしているのも有名な話だ。

湖で取れた魚や、山の山菜、動物を食すことで供養も兼ねているのであった。


地球では限られた場所でしかお目にかかることの出来ない、全く人の手が入っていない神秘的な美しさがそこにはある。

また山に囲まれた景観の美しい場所であり、珍しい動植物も無数ある。一般開放はされていないが、ソウマが行きたいなら許可をとるそうだ。

暇なら気分転換にどうだと進められたので、気晴らしに早速向かうとしよう。


それとゾラから後続の部隊は早くても今日のお昼前には着くそうだと聞いている。

将軍達は編成を行ったあと、グラン連隊長を先行させて万全の準備で迎え撃つ。

後続部隊と合流する2名の魔法使いの内1名は、老練な魔法使いの男性で中規模の殲滅魔法を得意とする2次職業のソーサラー級との使い手とのこと。もう1人はその弟子で将来有望な若者と期待されている初期職業のマジックユーザー。

彼等2人は本陣の将軍の元で、戦況を判断しながら魔法を使ってもらうそうなのだ。


大まかだが討伐作戦予定を何となく頭に入れながら、山岳方面に向けて1人詰所を出発した。

詰所の料理人に黒パンとスープを容器に入れてもらい、アイテムボックスへとしまった。そして、発行して貰った許可証も忘れずにしまう。


(釣りでもまったり楽しもうかな)


久しぶりにのんびりとした気分で出掛けていくソウマだった。






【とあるプレイヤーの出来事】



洞窟のように薄暗い部屋に作業する人がいる。

鍛治を専門とする人族の男である。

タンクトップを着込み、がっちりとした中肉中背の体には無駄な脂肪は見当たらない。

30~40代ほどの外見で鋭い眼光に口髭は頑固一徹な親父を想像させるが、実際は厳つい外見と違って愛想も良いただの親父なのである。


部屋に設置された炉から漏れる炎の灯りだけがその部屋の一角を煌々と照らし出していた。

カーン、カーンと1人の男の手に持つ鎚が金属の塊を叩いていく。


尋常ではない汗が身体中から滴り落ちている。

それでも手を緩めず、ひたすら何度も何度も同じ工程を繰り返して行くことで、面白いようにその都度金属塊が色を変え、性質を変え、形すらも変わっていく。

一心不乱に打ち続け、経験則からある程度まで見切りが付くと男は満足そうに頷いた。

先程までは両手ほどの大きさだった金属塊だったものが、手元に残るのは拳大ほどの綺麗な金属片になっていた。


「うむ、今日も良い出来だった」


作り上げた金属の塊はアイテム名【スチール+インゴット】 ハイノーマル級


普通の鉄鉱石や原石等から作るより遥かに手間と暇をかけたこのインゴットは、他の者達が普通に作るインゴットより性能が良かった。

普通はスチールインゴットが製作出来るのに対して、男のは+の表記が出る程モノが違うとシステムが認識しているからである。


実際に他者が同じ工程と同じ素材でやっても結果は同じにはならないだろう。

そのため、男が作る武具は人気があり個人で店を持てるほどに成長していた。


男はリアルでも自営業を営んでおり実際の鍛治職人の経験あるため習熟度が非常に高い。プレイヤースキルと呼ばれる種類なのだが、知る由も無かった。


リアルで作りたいモノを作れない鬱憤からこのゲームを始めたのがキッカケなのだが…ここまでハマるとは思わなかった。

ここでは採掘を自分で行ったり、他者にクエストとして素材を集める。魔物と戦う事で手に入れる素材もある。

しかも、現実にはない魔力を含む素材は加工に関しては一癖も二癖もあってやりがいが感じられた。


幼い頃から職人の修行ばかりで旅行にも殆ど出掛けたこともない男にとって、至るところに行き、魔物と戦うなどは現実で味わえない部分は少年のように心踊るのも、原因に違いないだろう。


ちなみにゲーム内の鍛治については、細かい作業や工程は勿論違う。が、限りなく近い。

その辺のギャップや、一定度以上のギルド貢献値があれば2次職から解放されるマスタリーレシピさえあれば、作ったモノを記録する事が出来るため、素材さえあれば際限なく生産する事が可能となる。

ただし、若干の製品の質の低下があることは事実で否めない。


大量受注などする気などない男は、マスタリーレシピに記録はするものの使ったことなど一度も無かった。






先日マスタリーレシピの登録が個人で300を越えた。

これは自分で見付けた鋳造や他の製造法、武具の作り方、これらを含めて全てであるが驚異であることに間違いない。凝り性の性格が幸いしている。

少なくとも他のプレイヤーはマスタリーレシピが100あれば高LVの生産職人と見なされているのだから。





それが理由なのか、300を登録した時に不思議なクエストが突如発生した事を思い出した。




【限定レアクエスト ハイノーマル級のインゴットを大量に生産して欲しい】



相当な腕を持つ職人にのみ、この依頼を見て貰えるように魔法で細工してある。

至急ハイノーマル級のインゴットが100は欲しいのだ。

毎日、ファルコニア地方ググリーム洞窟の最奥にて待つ。

この依頼が見えた者よ、どうか我らを助けて欲しい。



依頼人【???】

報酬【*達成によりEXボーナス変化あり】



Yes/No ?







取り敢えず、至急とあったからリアルでも店を休みにしてスチール+インゴットやアイアン+インゴット、ブロンズ+インゴットなど他にも大量に作り続けていたのだ。

まあ、+とあっても構わないだろう。駄目なら駄目で作り直せばいいしな。







男も昔は始まりの街【ユピテル】で店を構え、プレイヤー相手に自分の作ったモノを販売していたのだが、初期プレイヤーも一段落ついた今は拠点を南国のファルコニアへと移した。

闘技場もあるこの国では武具の消耗も早いし、高水準の武具の質が求められるため、移住してきたのだ。


他プレイヤーの受注も一段落しやることも特にない男は、久しぶりに部屋から出て暑い太陽の陽射しを受けた。


この依頼を受けたのは、たまたまファルコニアにいる事と久しぶりに冒険と言うものに心が踊ったからに他ならない。


しかし、ググリーム洞窟は今のLVではソロで潜るには厳しい。

行けないことは無いだろうが…高確率で死に戻りだろ。

それにいった先で何が待ち受けているかわからんしな。そう思いながらフレンドリストを見ていると、丁度初期に登録したメンバーの二人がログインしているのを発見した。


相変わらず仲がいいなぁアイツらは…と、感心してしまう。

彼等は初期からの付き合いで、まだユピテルで店を構えていたの最初の顧客でもあった。

それが縁で最初で最後の弟子をとって見たり…折角ハイノーマル級まで鍛え上げてやったのにと、思い出には事欠かない。


うむ、あの不肖の元弟子達ならいいだろう。

早速フレンドリストからフレンドコールをすると、すぐに手伝ってくれるそうだ。


確か今は魔導騎士に戦弓師…だったか。

戦弓師は不遇すぎる職として最早アイツ1人しかいないみたいだが…好きでやってる職だし本人がいいなら別にどの()にも不遇なんてないと思うんだがよ。


まぁ、久しぶりの外だ。楽しんでくっかな!


この後、洞窟の最奥で待つ人物に会うことに成功する。

劇的なストーリーと連続クエストによりこの男はプレイヤー初の種族へと変更することに成功するのであった。



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