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エルダーゲート・オンライン  作者: タロー


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ソウマ編 緑小鬼大侵攻2 新弓の依頼

読んで頂いて有り難うございます。再度見直しをかけるかも知れません。

詰所生活一日目。

この体は余り多くの睡眠をとらなくともいいようで、2時間の仮眠でも熟睡した時と同じ充分な休憩時間がとれていた。

今日はアーシュのお嬢さんと試合形式の模擬戦を行う日だ。

明朝よりも少し早く、ソウマは1人練兵場にて瞑想しながら佇んでいると誰かやって来た。


「おはようソウマ。早いな」


やって来たのはドワーフ族のドゥルクだった。


「お早う。ドゥルクこそ早いじゃないか」


「いや、もう練兵場にソウマがいるような気がしてな…話もしたくて早めに来てみたんだ」


「そうか…俺も話がしたかったし、頼みたい事があったから丁度良かった」


「おっ、頼みたいことか。貸もあるし俺で良かったら相談に乗ろう」


早速頼みごともしたいが、ますは折角話がしたいと来てくれたドゥルクの話を聞くことが先だ。


「アデルの街から別れて3ヶ月。こんな形でまた会えるとは驚いたよ」


「確かに…まさかだったな。店は畳んで冒険者に鞍替えしたのか?」


からかい半分にドゥルクに尋ねると、笑いながら返してくれた。


「店は畳んではないさ。長期休業にしただけだ。元々父の顧客しかいなかったからな。ソウマが来るまで暇だったんだよ」


それから今組んでいるレイナード・ヴァリスと呼ばれる青年と、アーシュと呼ばれる美少女がドゥルクの店を訪ねたのが縁で今日(こんにち)に至るそうだ。


「アーシュの事はすまなかった。詳しいは俺から言えないが…色々と不器用な奴なんだ」




ドゥルクから言える範囲として、彼女が貴族主義なのは幼い時からの父親の育て方の問題だろうと言う。

早くに亡くなった母親は貴族で、何かことある毎に貴族とは…と刷り込まれてきた影響と、同年代の友達が周りにいなかったも考えられていた。


「最初は俺も思うことがあったがパーティーとして一緒に行動し、アーシュ本人を見て行く内に彼女がただそんな風になった訳じゃないと思えた。

本質は悪い人ではないと知ってしまったからな」


「…まぁ、とりあえず彼女(アーシュ)から自己紹介をして貰えるくらいには頑張って見るよ」


そう言うとポカンとしたドゥルクは、間違いないと笑った。


「その件はこれで良いとして、ドゥルク。頼みごとは俺に弓を作ってくれないかって事なんだ」


「弓か?」


「ああ」


アイテムボックスより必要な素材を取り出す。

前世界の弓ガチャ(武具専用)で入手した貴重な素材が多数ソウマの元に集まっていた。

レシピを知る人間でなければ素材だけでは意味をなさないため、あの極上(ハイレア)素材をも扱えた親父さんの息子であるドゥルクならば、レア級素材を使った弓が作れないか知りたかったのである。


あの時は流星弓があったから必要なかった弓を頼もうと思う。

ハイノーマル級の和弓である【優】もあるのだが、既に限界まで使い、半壊してしまっている。

実は練兵場にて兵士の使ってる弓を見たのだが、どれもノーマル級の弓しかなかった。

指揮官クラスで限られた物はハイノーマル級もあった。

しかし、手にとって見てもどうも何か違う感覚がする。この()は扱う前に壊れる気がしてならなかったのだ。

実際に試しにしてみると、引き絞りの段階でバキィと音を立てて破壊してしまった。

ゾラの目線が呆れと共に痛かったのは記憶に新しい。



そんな訳で鍛治士としても腕の高いドゥルクがこの場にいた。運が良い証拠なのかも知れなかった。


早速ドゥルクにガチャの素材を見せ、この素材で弓を作れないかと尋ねてみた。

ドゥルクも鍛治士である。貴重なレア級素材を手に取り、1品1品に目を輝かさている。


ソウマが欲しいハイレア級の弓のために課金で注ぎ込んだ弓ガチャ素材の言わば余り素材であるが、組み合わさればソウマの知るレア級の見事な弓が作れるはずである。




樹齢500年の古木×1 レア素材

竜の牙×2 レア素材

翼竜の髭×1 レア素材

星の隕石の砂Or隕石 レア素材




星の隕石の砂はアデルの工房から余ったものを拝借してきたものだ。


ゲームではこの弓素材の組み合わせ次第で、レア級だけの弓、ハイレア級だけの弓または混合等といった色々な種類の弓が作れた筈だ。

上記の組み合わせでは確か…レア級でも耐久性がかなり高く、属性攻撃は無いが魔力により無属性の矢を撃ち出せる複合弓【竜顎弓(ドラゴントゥース)】が作れる予定である。






他に


祝福された樹齢500年の古木×1 レア素材

翼竜の髭×1 レア素材

星の隕石の砂Or星の隕石 レア素材



を見せ、この素材でも弓が出来ないか尋ねた。

俺の感覚はこの素材を使えば素晴らしい弓が出来ると囁いてくれていた。

祝福された樹齢500年の古木は一つしかないとても貴重な素材だが、ドゥルクに任せておけば絶対に大丈夫だと思う。



「……最初の素材けらは親父が教材用に残していったレシピに書いてあったが、後から出した素材はわからんの一言だ。

正直、貴重で初めて扱う素材ばかりで倒れそうだが…鍛治士冥利に尽きる。

鍛治士として出来る限りの事は尽くす…が成功出来るかはわからん。俺で良いのか?ソウマ」


「ああ、任せた。急かすようで悪いが緑小鬼(ゴブリン)討伐までに間に合わせてくれ」


「フッ、初のレア級素材で弓作りだ。ドラゴントゥースはレシピもあるし何とかなりそうだが、この不思議で温かな古木の素材の弓は手探りしながら俺の感覚(センス)だけが頼りだ」


「無茶を言ってる自覚はある。報酬はどうする?」


「貴重な鍛治経験が出来るからタダで良い…と言ってもソウマは引かないだろう?」


「ああ、勿論」


「なら、厚かましいお願いですまないが報酬の一部として先程の中のレア級の素材が1つ欲しい。可能か?」


「モノにもよるが構わないぞ?どれだ」


ドゥルクは星の隕石を1つ選び、ソウマから受けとると大切そうにポシェットへと入れた。


「うむ、内包する魔力が美しい輝きを放つ鉱石だ。これがあれば…有り難うソウマ。報酬を貰った以上必ず弓を期限内に仕上げて見せる」


「頼む。今回は嫌な予感がしているからな。弓のあると無しじゃ戦闘も違ってくるからな」


一安心した所で、ドゥルクから忠告される。



「それになソウマ、先程のやり取りでアーシュの言ってた事は傲慢でもなくてだな…レイナードの事だ」


「彼に何かあるのか?」



「まぁ、俺も詳しくは知らないが相当上の貴族のようだ。何故冒険者をしているのか解らない程の…らしいな」



以前、とある町の領主の貴族からの冒険者ギルドの依頼で街道付近に現れた厄介な魔物を討伐して欲しいとあった。

町へ出入りする行商人の馬車を襲い、馬と物を奪って山へと逃げる集団で群れをなす【ジャーキエイプ】という魔物がいた。

集団で襲ってくる厄介さと、不利と判断したときの逃げっぷりの良さは討伐するに当たって日数もかかるし厄介な魔物だ。

物流が滞れば町も活気がなくなり、食品や必要物品も高くなり消費が落ち込む。税収減でもある。

つまり、低迷が長ければ長いほど町全体として懐は潤わないって事だ。




冒険者ギルドには滅多に貴族絡みの依頼は出さない。

貴族絡みの依頼となると、下手な実力の冒険者では問題になるし失礼に当たるため、指名依頼が専らなのだ。


しかし、その依頼を出した貴族は曲者であり、自身の兵を使えば損耗するし戦えば武具も修繕する必要もある。

それぐらいならば、費用がかさむ兵よりも冒険者共に任せた方が安く上がると思っての依頼であった。


当然、指名依頼は知っていたが最初から難癖をつけて正当報酬をケチるつもりで、一般枠に混ざって依頼が貼ってあるのだ。


度々出されるその貴族の依頼はマトモな金額を支払わないとギルド側にも報告が行われていた。

冒険者側にもそんな噂も広がれば当然、誰も受けようとしない。当然ギルドも斡旋しにくいし、本来ならば断りたい依頼主に認定されつつあった。




今回の街道沿いの魔物討伐依頼は、余りにも長い期間放置された。

誰も依頼を受けないことに貴族側からクレームが入った所で、当時Cランク冒険者に昇格した俺達のパーティーがその依頼を偶々受けることになった。


その依頼場所が単純に他で完了した依頼の際の通り道にあっただけが理由で…そんな評判も知らずについでで請け負ったんだ。

町へ向かう道中、襲ってきたジャーキエイプの群れを街道沿いでかなりの数を狩ることが出来た。


報酬の受け取りはその依頼した貴族の町で行うこととあったので、討伐証明部位を持って直接依頼の達成を報告しに行ったんだ。

そこで討伐証明を鑑定すると散々待たされた挙げ句に、依頼したのはジャーキエイプの全数の討伐であると言われ、この依頼は不完全だと一方的に伝えられた。


よって、これで満足しろと子供のお小遣い程度の金額しか報酬が貰えなかった。

二十歳にも満たない子供のパーティーだと侮られたのだ。


その結果、アーシュがキレる。


あわや…と言うところでリーダーであるレイナードが抑え、そのまま報酬も受け取らずその場を立ち去った。


ギルドへ報告すると、何故かギルドマスターの部屋に通されて真っ青な顔で謝罪された。


その後日、件の貴族は不正を理由に統治権を剥奪されて町から追い出された。住民からの評判も悪かったので誰も悲しむ者もいなかったという。


「あり得ないことだけど恐らくレイナードの影響だ…と、考えてもおかしくないと思ってな。

アーシュの方が詳しいだろうが、少なくとも伯爵家以上の上級貴族であるのは間違いないと思うぞ」


「上級貴族ねぇ…何故冒険者なんかしてるんだろうな」


その依頼達成で今回、レイナードはB級冒険者の(ランク)をギルドから授かったそうなのだ。


「さてな?身の上は俺にもわからない」


「僕にも事情があるんですよ。余り詮索しないで下さいね」


と、話しこんでいると横から苦笑しながらレイナードが加わった。アーシュと手を繋ぎながらの登場だ。


「お待たせしましたね。昔からアーシュは朝が弱くて申し訳ないです…ほら、しっかり起きなさい」


「…私はしっかりおきてるもん」



半目を開けながら、こっくりこっくり縦に頭を揺らしているアーシュがいた。あ、すやすやと寝始めた。


おお、幼児口調になってるぞ。


「まだ寝ぼけている…申し訳ありませんが、こんな調子なのでアーシュとの勝負はまた後日でも構いませんか?」



「ああ、それで構わない。じゃあ、解散するか」


「いえ、ちょっと待って下さい。

アーシュが駄目なら、僕と実戦(・・)を想定した稽古(・・)に付き合ってくれませんか?」


「俺とか?俺は弓士だから剣士とはまともな稽古になんてならないぞ」


「そんな事はないでしょう?ドゥルクから貴方の噂は度々聞いていましてね。滅多に笑わないドゥルクが嬉しそうに話すのでいつかお会いしてみたいと興味があったんですよ。

確かソウマさんは余り職業としていない戦弓師(センチネルアーチャー)と呼ばれる第2次職業持ちの方で、剣士も兼ねられる弓士だと伺っています」


「…なるほど、俺の情報は元々持っていたのか。それと訂正だが今の俺は第3次職業になっている。

剣と弓…専門は違うがレイナードは剣に特化した職業持ちなんだろう?」


第3次職業者と聞いた瞬間、レイナードの眼の鋭さが変わった。


「素晴らしい、ソウマさんは第3次職業者なのですね。僕はもっと強くなりたい…これは是非お相手して下さい。

ええ、僕は剣を主体として戦う第2職業者です」


ドゥルクの話ではレイナード、アーシュともに全員18才だったか?その若さでもう第2職業者か…。


多くの者が人生において第1次職業者としてそこから上に上がれない。

一握りの者達が才能があって第2次職業となっても、途中でレベルが上がらなくなったり、第3次職業に上がりきる前に経験値が貯まらずに亡くなることも珍しくない世の中だ。

第2次職業者とは一流の領域に立つ者。その者しかなれない狭き門なのだ。

ドゥルクといい…才能ある天才は身近にいるもんだな。


「良かったら剣の補正スキルを教えてくれないか?因みに俺は片手剣の補正で【D】だ」


「弓士で剣補正が【D】もあるんですね。僕の剣術補正スキルは【B】です」


剣術補正で【B】もある職業は限られてくる。恐らく剣特化型の職業持ちに間違いない。

勿論、本人の資質もあるだろうけど。

第3次職業でようやく弓術補正【C】の俺には羨ましい。

ゲームの時とは違い、レベルアップ以外でもスキルは成長するみたいだし頑張らないとな。




「そこまで言ってくれるのなら…観客もいるししようか。おい、そこの壁の向こうの3人。出てこい」


えっ?と、ドゥルクとレイナードが振り抜くと、ばつが悪そうにゾラを先頭にトンプソン将軍とナルサスがやってきた。


「いやーソウマ偶然だな」


「白々し過ぎるぞゾラ、偶然で済ますなよ…トンプソン将軍まで」


「いや、聞けばカタリナ様の推挙したソウマ殿の実力を見ることの出来る良い機会と思ってな。バレたのだし堂々と良い席で観させて貰うぞ」


そう言って最前列 に陣取った将軍は豪快な笑いを上げた。

ナルサスは申し訳なさそうにしているだけで、父親を止める気はないらしい。

詰所と緑小鬼(ゴブリン)の状況はグランに一任せてきたので、ゆっくりやってくれとのこと。



思わず溜め息が出るが、遅かれ早かれ緑小鬼戦で解ることになる。

将軍達は本番前に実力を確認しておきたいのだろう…決して本音は面白がってそうな表情は忘れよう。


「それにな、あのヴァリス家の者が来とるんだ。ソウマ殿も気になるから模擬戦を受けたのだろう?」



「将軍、私はこの国の出身出はないので失礼はご容赦下さい。先程から言われているヴァリス家とは何なのですか?」


「知らなかった…だと!?

…それは失礼した。ヴァリス家とはこの国で近衛将軍の家柄の大貴族だったんだが、跡取りがいなくて断絶していた家なのだ。

所が最近、ある戦にて戦線を左右するほどの目覚ましい活躍をした冒険者を召し抱えるために王がその性を与えた男がいた」





トンプソン将軍が話してくれた情報はこうだ。


話は40年も昔に遡る。

当時、大地震が国を襲った。

調査を開始した国の情報では、あるはずのない地域に遺跡がたっていたと報告があった。

突如出現した帝国と国の境に出来ている遺跡。

直径400mほどの大きさを誇る遺跡群だ。

調査団が中へ入ると魔物がそこを守っており、投入した調査団と騎士団の戦力では、ある程度先に進むことすら出来なかった。


そのため当時の王が冒険者ギルドにも依頼して、高名な冒険者達が挑む。

彼らは調査団を守りながら強力な魔物を倒し、着々と遺跡を進んでいく内にどうやらこの遺跡は迷宮の一種であると判明した。

出現した未知の遺跡の周囲を軍隊が取り囲んで警戒しているのだが、この取り囲む軍隊の兵士達よりも、遺跡の中の空間的に広さが広すぎることが結論に至った。


その遺跡は各階層区画に別れ、遺跡にある赤い門を通り抜けると異空間のように次の区画に入ったことになり、魔物の強さもがらりと変わる。

当然、中に入れば1区画の広さも外目から見る400mだけであろうはずがない。

調査団と冒険者達は苦労しながら20階層区画まで進むことに成功した。


20階層に足を踏み入れると、遮蔽物の無い広い空間に、地面全体が光り、巨大な魔法陣が描かれていた。

警戒しながら中へはいると、そこには…。




「と、まあここから先はサルバドール遺跡内部情報は一般公開情報以外は一部機密扱いだから遺跡の事は言えん。

だが、長年どの冒険者チームや大型のギルドの者達が挑んでもそこから先へは進めなかったのだ」






しかし、遂にそこを通過し、更に進めて遺跡を攻略した冒険者パーティーがいた。

その遺跡は攻略者によってサルバドール遺跡と呼ばれた。

レイナードの祖父はその遺跡迷宮を()めて攻略した冒険者パーティーのメンバーの1人でもある。





人族で魔杖剣を操る魔導戦士アシュレイ、後にその妻となる高位回復師(ハイプリースト)のシエラ。

ドワーフ族で豪拳主体とする格闘家、拳豪のライオネットに、纏め役として彼らを率いた土属性の殲滅魔法を操るエルフの女性魔法使いのミュリテ。


そのメンバーでも一際目立つ人物がいた。

突如新星の如く現れた黒晶剣の使い手こそが後にレイナードの祖父であり、戦争で目覚ましい活躍をした事が認められ王の8番目の娘と結婚。

王位継承権こそないが現在筆頭将軍のヴァリス将軍その人である。


「じゃあ、王族なのですか?」


「いや、そこはちと複雑でな。厳密言えば王族ではないのだ。大公爵には間違いながな」


トンプソン将軍は苦々しい表情を浮かべながらレイナードを向くと、頷くのかわかった。


「はぁ、仕方ありませんね。知って頂いた以上お話しします。幸いここには関係者しかいませんから。

僕はヴァリス家の家名を名乗る事が許され、その血筋を引きますが貴族ではありません。

ついでに言えば実家とは余り関係のない人物だとご理解して頂けたら幸いですね」


そう言ったあと、まだ寝ぼけているアーシュを見やり微笑んだ。


「ついでに言えば彼女はお祖父様の所属した魔杖剣のアシュレイ様のご息女です。

偶々武者修行の旅に出ていて、奴隷商人に騙されていた所を助けたのがキッカケです。

幼い頃から僕と面識もあって、行動を共にするようになりました。今では僕の大事な家族だと思っています」



なーる、アーシュはあのアデルの町の冒険者ギルド長の娘だったのか。

そりゃあ、喧嘩も吹っ掛けてくるほど腕も立つだろう。


複雑な過去を持ちそうなレイナード。

ドゥルクが側にいることから人格も悪くない。

イケメンで頭の切れるし、腕も立つ…あれ、俺にない要素が満載で目が霞んで涙が溢れてきそうだ。





いかん、気持ちを切り替えねば。


そんな事を考えながら、目の前に立つレイナードに声をかける。




「じゃあ、時間もかなり経過したしそろそろ始めようか。模擬武器でいいかな?」


「いえ…ソウマさんさえ良ければお互いの武器を使いましょう。真剣での限りなく実戦形式でお願いします」


僕はもっと強くなりたいので…と、小声で伝えられた。


「…わかった。俺の武器はこの短剣フォースダガーだ。弓は今ないからドゥルクに頼んである」


「僕はこの剣です」


すらっと鞘から抜いた剣身は鋼の色ではなく、黒かった。

剣の柄頭には美麗な装飾。ガードの鍔には一粒の宝石が嵌め込まれていた。


「剣身が黒とは…ヴァリス家の者が持つと言うことはあれが噂の黒晶剣なのか」


トンプソン将軍は驚愕し、思わず独白するように話す。

側にいたナルサスとゾラは興奮したかのようにあの黒い剣身を持つ剣を見つめていた。


「いえ、これは祖父の持つ黒晶剣(オリジナル)ではありまさん。各所に同じ素材は使われていますが全くの別物です」


鞘にしまい直し、訂正するレイナードの口調は固い。


ほう、黒晶剣とな?

何処か聞き覚えがあったような気がする。時間が無いから後で調べてみよう。


「固い表情だな。

俺は魔法も武技は使わないが、レイナードは全て使っていいぞ…寧ろ使わないと俺のリハビリ相手にもにならないと思う」


そう安く挑発すると、固い表情はほぐれレイナードは不敵に笑った。


「では、遠慮なくご好意に甘えます。後で後悔するのは…貴方の方ですよっ!!」


そう言って飛び出して来たのが、戦いの合図となった。


















レイナードの踏み込みからの抜剣からの初撃。

繋げての横凪ぎは見事の一言に尽きたが、ソウマを捉えることは出来なかった。


ソウマはレイナードの攻撃が見えているかのように、ギリギリで見切って動く。

重複された破格のステータス補正の向上も加わって、今のソウマならば見切りスキルを使わずとも、レイナードが放つ剣速がゆっくりと動くくらいのスピードに感じていた。



ヒュッ、ヒュッと音を立てて飛び交う剣撃は、理にかない良く組み立てられていた。

非力な人間が強大な魔物に打ち勝つために産み出され、積み重ねた知恵の結晶の1つが剣術なのである。


(荒削りだが、剣の活用が上手い)


ソウマの率直な感想だ。

ソウマにとってゆっくり感じられてもレイナードの剣速は一般の冒険者には目にも止まらない瞬速に見えている筈なのである。

それを踏まえての速いと感じることと、上手いと感じるのは攻撃の組み立て方。

我流ながらに大本の剣筋には癖があるような気がする。誰か高名な戦士に指南でもしてもらったのだろう。


パワーを無駄なく使いきる所に彼の研鑽を感じる。


ソウマが今まで剣を使う相手と戦ってきたのは、修羅鬼や上位炎鬼(ハイフレイムオーガ)だけである。


大柄の肉体から繰り出される豪快な一撃に、実戦では磨かれ鍛えた実利に見合った攻撃が多かった相手とは違い、人間の使う剣術を修めた相手は繊細かつ技術を感じられる。


(これも剣筋や技を見る見とり稽古の勉強になるが…避けてばかりじゃ勿体ない)


これだけの技術を持った相手だ。

脳内でレイナードの評価を上げたソウマはフォースダガーを軽く持ち、簡単に構えた。


雰囲気を変えたソウマに一瞬戸惑うものの、全力を出すことに代わりはないと気持ちに気合を入れ直す。


ソウマが次にどんな手で対応するのか見るため、繰り出された黒剣による突きは様子見。


それを見抜いたソウマは悪戯心が芽生えた。

真剣での勝負に不謹慎な…と思うが自身が負けるイメージが沸いてこない。

誤解しないで欲しいがレイナードが弱いと思っている訳ではなく、こう、強敵と戦ってきたピリピリと死戦を渡る感覚(プレッシャー)がレイナードから伝わらないのだ。

少なくとも今は。


どうしたら度肝を抜かせるか?と一瞬において考え付いたソウマの選択は同じ突きをそのままカウンターで返すことだった。

そう決めれば、見切りスキルによって突きの攻撃を読む。


力加減や黒剣の軌道も寸分の狂いもなく、イメージをのせながらフォースダガーを突きだした。

その判断は刹那の間に近い。


黒剣とフォースダガーの切っ先は見事に重なりあい、両者の力もピタリと拮抗して止まる。


信じられないモノを体験している。周りの観客も静まり返るほどだ。

しかも、レイナードがこれ以上押してもピクリとも動かせない絶妙な力具合で、逆に一瞬でも気を抜けば、此方が持っていかれそうになる。



(第3次職業を持つ相手とは、ここまで僕と隔絶した差があるものなのか…)


ソウマを第3職業者の基準とするのはある意味間違いないのだが、レイナードはそう勘違いしてしまっていた。



短い攻防の中で思わず心に湧いた弱音。


その隙を狙い、ソウマが短剣を突き付けようと踏み出す。

一瞬の隙。慌てて気付いた時には防御が間に合わない。何とか体を捻り、そこから少しでも回避しようとする姿勢は、流石上位の冒険者だった。


しかし、攻撃は当たることはなかった。

ソウマが攻撃を止めて立ち止まっていた。


いぶかしむ前にレイナードはパンっと背中を叩かれていた。


そこにはアーシュがいつもの強気な表情を捨て、泣きそうな笑顔。そして、レイナードをじっと見つめると何も語らず、観客の元へと帰っていった。


その小さな背中を見た瞬間、レイナードの心にかっと火が灯る。


(僕は…バカだった。心の何処かで良い勝負ができる。

いや、もしかしたら勝てるかも知れないなんて考えていた)


己に持った黒剣をギュッと握りしめた。


俯かせた顔を上げたレイナードは、もう先程までの弱気を見せた青年ではなかった。

眼鏡をくいっと上げて、キリッと表情を一変させた。


「…待って頂いて有り難うございました」


「いや、気にするな」


(気配察知でアーシュが動いたのはわかっていた。でも、俺にようがある感じじゃなかったからな)


レイナードにとってアーシュは大事な存在なのだ。

仲間としてか、守るべき存在としてか、あるいは恋人としてかは解らない。

ただ、人間は大切な存在が入れば変わることが出来ると思う。


さて、目の前のレイナードがどう動くのか…楽しみだ。







その後、結果として模擬戦闘はソウマの勝利で終わった。

いくら何でも地力の差までは覆せない。


かと言って、全くの完勝ではなかった。

決まったと思う攻撃を何度かかわし、カウンターまでして反撃してくる反応速度と読み。


放たれる剣閃に無駄な力み等なく、全てが持てる力の一端を出しきって食らい付こうとする姿勢があった。


時折、黒剣がうっすらと輝くとソウマにしてもゾクッと感じるほど危うい感覚が襲うのだ。


(きっとレイナードは化ける。1を知って10を知るってやつか?天才ってのは恐ろしいもんだ)


模擬戦闘中に少しずつ成長していく姿は、ソウマの眼からしても好ましいものだった。





レイナードは模擬戦闘に負けても妙にスッキリとした晴れ晴れとした表情をしていた。

実力を出しきれたのも1つの要因なのだろう。


「ソウマさん、手合わせ有り難うございました。

僕と歳がそう変わらないのにその腕前…自分の未熟具合が良くわかりました」


「此方こそ、剣の活用の仕方を勉強させて貰った。俺は専門が弓だから参考になったよ」


お互いに礼をして去る間際、俺はレイナードに声掛ける。


「もし時間が会えばまた手合わせしよう。今度は模擬武器で…な」


「はい、アーシュ共々宜しくお願いします」


おぅ、最後にかましてきやがった。


この流れでは断りにくいし…まぁいいか。


俺も進化しかエルの訓練もしたいし。


「あ、ソウマさん。以前ドゥルクが言ってたんですがかなり遠くの出身何ですよね?」


そう言えば、そんな事も言ってたような?気がする。


「どこかの地名なんでしょうが【チキュウ】って言葉に聞き覚えはありませんか?

どこの文献を調べてみても良くわからなくて…。

もし旅の最中で何か知っていたら教えて下さい」





ええ、ええ、その言葉は知ってますとも。


智天使ケルビムの言葉がふと甦る。


多分、プレイヤーは他にも存在している…と。




何故かは知らないが、俺はレイナードの言葉から彼の祖父はきっとプレイヤーだと確信してしまっていた。





ソウマとの模擬戦のあと、ヴァリス家の末孫たるレイナードは、自身を鍛えてくれた偉大なる祖父を思い出していた。

祖父と同じ絶対に越えられない壁…そんなモノを思い出させる相手だったからかも知れない。





いつも剣の稽古をつけてくれた祖父。70を越えも短い白髪に鍛え上げられた身体。

にかっと豪快に笑う人で、貴族となっても質素倹約を地でいく人柄だった。


当初他の貴族間からは、冒険者から貴族の仲間入りを果たした故に無作法者…なのかと思いきや、しっかりと教育の受けた人間が行える礼儀作法と言葉遣いは大いに驚かれたという。

事実、人前では別人のように振る舞う祖父は、レイナードの目から見ても別人に思えた。


「いや、じゃって後から面倒だもん、儂。貴族は基本嫌いじゃし」


堂々と家族には宣言し、王家の血を引くお祖母様を苦笑させていた。

実際、事務的な領地経営や社交場は殆ど息子に任せ本人は近衛筆頭将軍としての名ばかりの地位だと言い、自由を満喫している。

本来はそうであってはダメなのだが…関係者は既に諦めた。嫌なら辞めると平気でいいだすからだ。


そんな祖父のおかげで末孫たるレイナードに暇を見付けては学問や剣術を見てくれるようになった。

僕には剣の才能がある…と当時は思って舞い上がっていたが、今はきっと暇だったからなのだと何となく解るようになった。

ともあれ、祖父の教えを忠実に守り、邁進してきたお陰もあって若木が大木へと成長するように強くなっていく。

だが、祖父のように只の木剣から衝撃波が出せるまでには至らなかった。

これ(衝撃波)は、漢のロマン溢れる技なのだと言う。



15才の誕生日、祖父から一振りの剣を貰った。


「カッカッカッ、もう15才か。この国では大人の仲間入りじゃ。

それと儂の訓練によう耐えた。これをくれてやるわい。その剣に見合う剣士となれ」


それは剣身が吸い込まれるほど黒く、美しい剣だった。

それは祖父の持つ黒晶剣と呼ばれる剣と同じ素材から作られた剣。特別なチカラを秘めていると言う。


祖父は己の鞘から黒く輝く大剣を抜き放つ。

初剣から発するオーラに気圧される。


「儂の黒晶剣・原型(アーキタイプ)は手に入れてから既に限界が付くほど鍛え上げられておる。

レイナードのはまだ黒剣と呼ばれるほど未熟な剣じゃが…己の成長と共に鍛え、自分なりの剣を作るのじゃ」


黒き輝きに目を光らせながら、頷くレイナード。


人格、実力共に問題なしと判断された人間だけが認められ、祖父と当家一族の秘密がレイナードへと継承された。

最初、話を聞いたときは脳が射たくなるほど荒唐無稽な話だと思ったのだか…。



元々実家には長男たる父がいるし、兄上達も存在している。

祖父からそろそろ旅に出て見聞を広めてこいと言われた。


幸いにして一般人としての教養や社会的なルールも幼き頃から教えてもらい、最低限身に付いている。




祖父からは、当初の目標としてサルバドール遺跡迷宮に入れるくらいの実力を持て…と、アドバイスされていた。

この黒剣の元になった素材は、サルバドール遺跡の20階層区画にいるbossと呼ばれる強力な魔物個体の素材を用いられていると聞かされた。


1人で潜るには無謀だ。まずは冒険者登録して仲間を集めて挑戦できるまで腕を磨く。

決意新たに1人旅立つのだった。








見送るレイナード父と母。俯く母は堪えられないように口を開く。


「貴方、まだ子供のレイナードを1人旅出させるなんて…」


「そんな事はわかっている…だが、君もわかっているはずだ。もう時間がない」


「それは…剣のお告げとは言えあんまりです。黒晶剣が認めし者を15才の日に旅立たせよなんて」


「私も変われるなら変わってやりたい。しかし、私には資格が…無理だった。

あの黒晶剣が選んだのはレイナードだったのだ。ならば、来るべき時が来るまで鍛え上げ、少しでもあの子が生きていられる確率を上げるしかない」


あの黒晶剣は()きている。それも意思を持ち、主人を選ぶ世界でも強大な魔剣の一種だ。


この剣を手に入れた経緯を一切話さない父ゲン・ミツルギ・ヴァリス。

その剣の導きもあってヴァリス家は栄光と共に繁栄したのだ。


「儂がやる分には問題ないんじゃがの…孫を巻き込まねばならんとは…お前達には申し訳ない限りじゃ」


剣の警告。





いずれ招かれる世界を巻き込む大きな災い。


乗り越えるためには選ばれし人間が挑むしかない。

弱ければ全てを失う…と。


成長せよ。そして、汝の全てをかけて災いに挑むのだ。


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