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エルダーゲート・オンライン  作者: タロー


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ソウマ編 緑小鬼の大侵攻 出会い

現在、与えられた個室の中で呆然とした表情で座り込んでいるソウマがいた。


ソウマの種族はハイヒューマン・エリヤとなった。

その影響から不可思議な事に新たなスキルが増えていた。

しかも、上位スキル【戦弓眼(センチネル・ゾーン)】と【セフィラ】。

【セフィラ】に至ってはチート過ぎる。弓装備の際の効果2倍ってなんなのさ。





福音?誰が何のために…暫く混乱していたのだが、アナウンスの伏せ字が解らなくて、一旦思考を放棄した。

取り敢えず、授けられました…と、ある以上害のあることではないよな?

何方か存じませんが有り難うございます…と深く感謝して、頂いておこう。

機会と時間があれば新スキルを後で検証していきたいな。



一先ず落ち着いてきた所で、ドアがノックされた。

部屋を出るとそこにはゾラが立っていた。

ソウマを一見して少し訝しそうにしたものの、直ぐに気のせいだと感じたのか用件を伝える。


「ソウマ…親父が呼んでるから今すぐ来てくれるか?」


「トンプソン将軍が?わかった。少し準備を整えるから待っててくれ」


悪いな…と、すまさそうに両手で拝むゾラ。

道中此所へ来るまでに敬語ではなく、タメ口を聞けるほど気安い関係となっていた。

準備と言っても方便で、少し身なりを調えるだけだったが。


ゾラに案内されて司令官室前へと到着した。


「ゾラであります。ソウマ殿をお連れしました」


「ご苦労、入れ」


「失礼致します」


初めてゾラの敬語を聞いた。

仕事は仕事できちんと分けているんだと、少し感心しながら促されるまま部屋に入った。


部屋の中をさっと見渡す。

大部屋には中央にトンプソン将軍が椅子に腰掛けており、左右にナルサスともう一人武装した人物が立っていた。


執務室も兼ねているようで、中央に大きなテーブル1つと椅子が他にも複数ある。

天井高めに窓が配置されており、部屋の両脇には国旗がそれぞれ飾られていた。

アデルの町のギルドマスターの部屋を彷彿とさせた。


「カタリナ様の推薦人をお呼び立てして申し訳ない。儂は堅苦しいのは苦手でな…まずは座ってくれ」


「お言葉に甘えさせて頂きます。では」


「呼び立てたのは他でもない。現在の作戦状況と情報をお伝えするためだ」


横目でトンプソン将軍が見慣れぬ人物に目線を配ると、ずいと中年の男性が前に進み出る。

顔に刻まれた傷が本人の渋味を増させている。グランさんからは歴戦の戦士を彷彿とさせた。


「お初にお目にかけます。私はこの詰所の責任者であり、歩兵部隊の連隊長を勤めるとグラン申します。

お見知りおきを」


グランが簡単に説明すると、現在緑小鬼(ゴブリン)の数は500をくだらないと言う。

合流して数を増やしながら最終的にあと3日程で戦場ポイントまでやってくる。


現在この詰所の街道の先にある、戦場となる予定の広く開けた場所にて部隊を展開させており、暫くしたら騎兵隊と入れ換える予定でそこで迎え撃つ形になるとのこと。

また、冒険者も緊急募集クエストで現在もそこそこ集まってきているとのことで、詰所の外に仮説テントを設けそこで寝泊まりして貰っているとのことだ。


そこでソウマの役割をどうするのか聞かれた。

部隊に混じるのか、それとも冒険者と共に遊撃役に回るのか…。


「私は…遊撃に回ります。

弓を専門に扱いますし、集団戦闘の経験もありません。部隊に入れて頂いてもお役に立てそうにありませんから」


ソウマは迷いもなく答えた。

トンプソン将軍の副官ナルサスはホッと安心した表情を覗かせていた。

余程俺の扱いに困っていたのだろうと感じる。


「わかりました。では、冒険者達と同じ遊撃役に回しておきます。

冒険者からの代表者を決めて此方の方針は伝えますが、ソウマ殿の場合はご自身の判断で自由に動いて頂いても結構です。

出撃は3日後の予定です。それまでは自由時間となりますし、食事は此方でご用意させて頂きます」


他にご質問は?と聞かれたので、この詰所以外に利用できる場所はあるのか尋ねる。

この詰所の練兵場と武具の手入れの為の第2鍛治場を冒険者向けに解放しているそうなので、そちらは無料で使って良いとの事だった。


そして、ゾラだけ此方の連絡役として付けるそうなので、何かあればゾラに伝えてほしいと告げられた。


「カタリナ様がお認めになったソウマ殿の実力、期待させて頂いている」


あとはそこそこな挨拶と共にゾラと共にその場を後にした。

普段慣れない緊張する場だった。ゾラも苦手だと苦笑していた。また、内心で厳つい親父(トンプソン)を前に堂々として気圧されないソウマを見て感心していた。


「じゃ、ソウマ。練兵場と第2鍛治場を案内するから着いてきてくれ。そのあと一緒に飯でも食おうぜ」


ゾラの案内の元、2つの箇所を回り食堂で昼飯を済ませた2人。

第2鍛治場へ行った際は他に誰もおらず、武具の手入れは各自で行うことだと教えて貰った。

ゾラもある程度の手入れならば自分で出来るらしい。

興味をもったソウマはゾラから簡単な武具の手入れについてレクチャーを受けた。


そうして時間は過ぎる。夕陽も暮れかけた頃には緊急募集で集まった冒険者達が詰所の周りでたむろしていた。

その中には上位ランクであるB級冒険者が率いるパーティーもあり、D級以下は募集されていないため結構な戦力が集まりつつあった。

近隣から集まったのべ総勢54名。そうして冒険者の代表は、唯一のB級冒険者に決まったとゾラから教えられた。


このまま夜も更けていき、寝ようと思った時に、ドンドンと戸が荒く叩かれる。

何事かと思い、外へと出れば見知らぬ男性と、他にも5人ほどドアの外へと突っ立っている。

戸を叩いていた男を含め、眼鏡のかけた知的そうな男以外は髭もじゃの臭いのきつそうな体臭…ちゃんと風呂はいってんのか?

しかし、それなりに鍛えているであろうことは一見してわかった。

戸を荒く叩いていたであろう男性(ひげもじゃ)が値踏みするような目線でソウマを見ている。


「おう、邪魔するぜ。俺が冒険者代表となったB級冒険者のヌーイって者だ。

将軍から格別な配慮を受けてるっつうお前を見に来たぜ…しかし、何だな。

そんな貧相な身体で戦えんのか?

いや、それとも格別な配慮ってやつはあれか?お前が身体で特別な寵愛を受けるからなんだろ?」


ゲラゲラと周りにいた者達も馬鹿にした下卑た嗤いで追従する。あ、知的そうな眼鏡男だけは眼だけは笑っており、と目線で此方を見つめていただけだった。


それを聞いた俺は当然烈火の如く怒…る事もなく、目の前で大声で嗤う男達を冷めた目線で見ていた。


あーあ、良いのかね?雇い主の将軍に対する不敬な発言をそんな大声で言って。誰が聞いてるか解らないんだよ。


それを伝えると、嗤い声がピタッと止んだ。

ヌーイと呼ばれた男は一瞬だけ振り返り、眼鏡男を見た。

眼鏡男はやれやれと言った表情だ。



こんなに騒いでも騎士や歩兵の一人もこないなんて…。


あー、これはテンプレってやつだな。


取り敢えず、面倒なので戸を閉めて鍵をかけた。


流石にそんな反応をとられるとは思っていなかったようで、ヌーイ達は慌てて戸を叩き、喚く。


うん、無視だ無視。関わっても碌なことにならないもんな。

これで戸を壊せば正当防衛で通報出来るし、それこそ儲けもんだ。



暫くわめき散らしていた奴等も俺がどうしても出てこない事を悟ると、捨て台詞と共に去っていった。













夜中にふっと眼が覚める。


何か胸騒ぎを覚えて部屋を出た。


外は真夜中であり、何本ものかがり火の光が夜を淡く彩っている。

小窓から外を窺っていると詰所の外壁…丁度人一人が何とか通れるだけの幅に怪しい影を4つ見つけた。

ソウマは直接外壁にとんでもない握力で壁を直接掴み、摺り足で一定の距離を空けて近付いていく。


警備の兵からはどうやらその場は死角のようだ。

怪しい影は見付かることの無いまま、ソウマの部屋の方向へと進んでいく事を確認した。



近付くと、何だか聞き覚えのある声が小声で聞こえる。

シャリ、シャリと金属が擦れている音が響き、此方へとゆっくり向かってくる気配がした。



「おい、ヌーイ。本当に()るのか」


「当たり前だ。あんなにコケにされりゃ我慢なんねぇぜ」


「しかしよぉ…ありゃ領主のお気に入りらしいって噂されてんじゃねぇか」


弱気になる仲間に向かい、不適に笑う。


「はっ、そんなの心配いらねぇさ。見たろ?あの腰抜けぶりをよぉ。俺達にビビって何も言えねぇでやんの。今頃チビリながら部屋に閉じ籠ってらぁ」


ゲヒヒとひとしきり醜く笑いあうと、仲間達が賛同していく。


「そうだぜ、ヌーイの言うとおりだ。

あんな奴怖かねぇよ。それに何かあっても旦那(・・)が何とかしてる手筈になってんのよ。心配はいらねぇさ」


「まぁ、最初は旦那(・・)に頼まれたからだったがよ…俺らはよぅ、実力が無いくせに生意気な奴が大嫌ぇなんだ。

俺達のように実力がある真の冒険者様が偉ぇんだぜ。偉い奴等はそれがわかってねぇ。

だから、俺達が毎回思い知らせてやんねぇとな」



毎回って…彼奴らまさかこんな暗殺じみたこと幾度となく繰り返してんのか?

好き勝手に言いながら、ヌーイ一行はソウマの部屋

へと進んでいく。


馬鹿な奴等だな…と、辟易する。尾行されてることにも気付かないなんて間抜けもいいところだ。


しかし、旦那(・・)か?裏で糸を引くやつが間違いなくいるって事だ。

うーん、心当たりはないが怪しい奴ならいる。

あの知的眼鏡の男だ。

どうして俺を狙うかは解らないが…ね。


そうこう考えている内にヌーイ達はソウマの部屋の前まで到着した。外壁からソウマの覗き見ていた小窓から順々に忍び込んでいく。

そして周りを伺いながら、移動しどうやって入手したのかわからないが準備していたであろう合鍵で部屋の施錠を解除する。


ガチッ…と扉が開いた。そして武器を構えて小さな部屋へと乗り込んだ。


よし、これでアウトだ。

奴等は武器と殺意を持って俺の部屋に侵入した。

殺されても文句はないだろう。


ソウマは上半身の力を使い一瞬で小窓から跳び、転がり込むように部屋に入った。

そして、ソウマの不在を訝しそうにしている4人の意識を瞬く間に刈り取った。


既に人間業では無いほど洗練された動きは、一種の芸術であった。

このまま髭男達を持ち上げ、ひょいと順々に詰所の一番上(・・・)へと運ぶ。

以前も凄かったステータスだったが、種族進化した筋力のステータスは更にとんでもない事になっていた。

何の苦もなく4人は屋根上へと運ばれ、そこでロープでぐるぐる巻きにされた。


そして、一人の頭を小突いて意識を取り戻された。


「……あっ、ここは何処だ…げぇ、お前はソウマ」


「黙れ…大声を上げるな」


「何だと!俺様を誰だと思っ」


そう言う前にアイアンクローでギュッと頭を掴み、体ごと持ち上げた。

人の頭があっという間に潰れんばかりの力が瞬時に込められ、髭男は声すら出せなく息すら出来ない。


顔色がおかしくなった所でストンと手を離した。

酷いむせ込みと息の吸い込みが行われ、暫く咳が止まらない髭男。

少し収まった所でソウマが口を開く。


「状況がわかったか?俺の言う質問だけに答えろ」


冷酷に言い放つソウマに恐怖を覚えた髭男は壊れんばかりに上下に必死に頷く。


「何故俺を襲った。嘘は許さん」



「…そ、そ、そ、そりゃあ頼まれたんだよ。ある男によ。嘘は言ってねぇ」


「ふむ、頼まれた奴は誰だ…お前達が言っていた旦那と言う男か?」


「ひぃぃ、何で知ってやがる…俺は何も知らない。詳しくはヌーイしか知らねぇんだよ」


「外は気持ちいいな…こんな空を飛べたら気持ちいいと思わないか?」


「へっ…何を言ってやが」


最後まで言わせず、髭男の胸ぐらの装備ごと掴んで軽々と持ち上げたソウマは、重ねて問う。


「空を飛べたら気持ちいいと思わないか?良かったら俺に手伝わせてくれ」



ソウマの言う意味を理解した髭男は、顔色が真っ白になった。

つまり…俺が空に飛ばされると言うことだと理解したからだ。このソウマの力は尋常ではないことは理解した。

不可能では無いことが本能的に解ってしまったのだ。


恐怖で声すらも出ない髭男は、失神すら許されない状況にポタポタと下腹部から失禁していた。




そんな状態で他の男達が気付かない訳がなかった。

必死の命乞いが聞こえ、黙れとの一喝でまた静寂が訪れていた。



「お前はB級冒険者なのだろう?そんな立場ある人間に命令出来る人物は誰だ?言え、誰に頼まれた」


ヌーイは激しく後悔しており、自分達が決して喧嘩を売ってはいけない相手に喧嘩を売ったことを絶望と共に感じていた。


「俺はあのレナードって男の口車にのっただけだ!それに、俺はB級冒険者なんかじゃねぇ。

C級何だよ。さぁ喋ったぞ、おでのごとはだずげてくれ」


力のない声で命乞いをするヌーイは、もう恐怖で涙と鼻水で途中からぐじゃぐじゃだった。



こんな姿の人間を見ても、良心の呵責が全く沸いてこない。

前の世界ではあり得ない事だ。

この世界に来てから魔物であっても、例え人であったとしても、自身の命の危機に瀕する可能性があれば容赦など出来るはずも無かった。

そういう判断で気持ちの切り替えが出来るのは、生き抜くための非情さが必要として望んだのか、人として病んでいるのか…はわからない。

考えてもきっと答えは出ない。なら、考えても無駄かもしれない。


未だに必死の命乞いを聞き流しながら、こんな事を考えていた。



不意に



「はぁ、やれやれですね。もう話してしまうとはがっかりですよ」


冷たい夜にこの場にそぐわない冷たい声が側でする。

月夜の光に、いつの間にか距離を開いたところに影のシルエットが1つあった。


「ヒュッ…あんだはば、だんな。だずかったぜ。

へへっ、ゾゥマ、おべえばおばりだ」


ようやく、助かったとばかり安堵したヌーイだった。何度も過呼吸を繰り返して少し落ち着き始めた様子が見えた。



ソウマに驚いた様子はなく淡々とヌーイ達から旦那と呼ばれた人物を観察していた。

何故かスキルの気配察知には反応が無かったが、種族進化の際に得た【第6感強化】で何となくそこにいる気配(・・)だけは常に感じていた。


旦那と呼ばれるには若いような気もするがな。

観察した結果、そんな感想を抱いたソウマだった。



旦那と呼ばれた男の非常に冷たい目線に、味方である筈のヌーイの肝が冷えていく感触を味わう。




「やはりお前か…餌で釣った介があったよ」


「見捨てても良かったし、しらばっくれても良かったんですけど…貴方の力を見て気が変わりました。

彼等を僕を誘き出すための餌にするなんて…なかなか知略にも長けているようですね」



そこに現れたのは月光で眼鏡がキラリと輝きを放つ知的な雰囲気を醸し出すイケメン。

歳は二十歳前後。薄いグレーの髪に青とグレーの軽装鎧。黒とグレーの肘まである手袋とお揃いのレッグガードが良く似合っていた。


「レナード…はアダ名でしてね。

本名はレイナード・ヴァリスと申します。どうかお見知りおきを」


不安定な屋根上の足場も気にならないほど、腰をおって優雅なお辞儀をする。


「レイナード…ね。本当はお前がB級冒険者なんだろ?さっきから隠形(おんぎょう)で見事に気配を隠して覗いていたな」


「あらら、バレてましたか…これでも隠形には自信があったんですけどね」


肩をすくめて苦笑する彼は、惚れ惚れするほど絵になっていた。


「ところで彼等を僕に渡してくれませんか?」


「…ん、どうするつもりだ。仲間だから逃がすのか」


「いいえ、僕と彼等は今回初めて会った間柄です。臨時でいただけで本来のパーティーは別にいます。

しかも彼等は罪を犯しすぎた冒険者でしてね。

強盗、恐喝、果ては殺人。

どうしようもない人物なのですが、巧妙に手口を隠すのは上手でこれまで現場を押さえることが出来なくて…でしてね。

いい機会でした。本来ならば貴方に絡むことでターゲットにして利用しながら、現場を取り押さえてどうにかするつもりでしたが…そんな必要は無かったようです」


その口調ぶりにソウマは何となく思い当たることがあった。

映画や漫画で馴染みがある。


「依頼はギルドの暗部か…?」


少し疑問系になったが、ポツリと呟いてみた。


「これは…まさかギルドの裏顔までご存知とはね。

暗部ではありませんが、ソレに近い存在とだけ言っておきましょう。

ギルドから裏の依頼を任せられる程…のね」


冒険者ギルドにとっても特別な存在であることを案に仄めかすレイナード。


「いいや?当てずっぽうの勘だよ。レイナード、嫌だと言ったらどうする気なんだ?」


「フッ、どうにもしませんよ。それにソウマさんならそんな選択はしないはずです」


黙り込んだソウマは考え込む。

その間にヌーイがレイナードに噛みついた。


「ちょとまてや。俺達を騙したのか?ソウマを小突けば大金の約束はどうした!!」


「ええ、でも僕は殺せとは言ってませんし、その依頼の前金はお渡ししましたよね?金払いは良かったでしょ。

それは取っておいて貰って結構ですよ。まぁ、直に必要の無くなる場所へと向かいますが」


「小僧が…貴族だからって舐めやがって」


憎々しげに新しい情報をくれたヌーイ。


更にどうでも良くなってきたぞ。俺、冒険者じゃないし。

面倒になったきた所で更に第3者の介入があった。

ソウマの気配察知スキルと【第6感強化】が捉えた、新たに2人の気配が加わる。隠そうともしてないから、レイナードと違ってスキル系はないのだろう。

しかも、一人は懐かしい気配だ。

それより先にもう1人の気配が先に来る。


「ちょっとそこの平民。高尚なる貴族(レイナード)がそう言ってるのよ。黙って従いなさい」


腰に手を当て俺に指を指している。

誰だ、この失礼な……ん、小さな少女は。

亜麻色の髪を靡かせ、将来キツメな美人になりそうな少女(・・)は首に真紅のチョーカーを首に付けていた。

まだ未発達な身体で見事なまでに凹凸がない。上質なレザーメイルに武器である朱色の槍は非常に目立つ格好だ。


「アーシュ。それでは誰も君の言うことに聞く耳を持たない」


もう一人が声をかけてきた。その声の持ち主にソウマは心当たりがあった。


しかし、何故こんな所にいる?疑問は尽きないが。



「久しぶりだな、ソウマ。覚えているか?」


「ああ、久しぶりだドゥルク」



それはアデルの町で別れたドワーフ族の青年。第2職業を持つ戦闘鍛治士(バトルスミス)ドゥルクだった。


「色々聞きたいこともあるとは思うが…すまないソウマ。コイツらを一端レイナードに預けてくれないか」


「お前ほどの男が言うなら…良いだろう。ただし、後でしっかり説明してもらうからな。貸1だぞ」


その言葉に苦笑しながら頷くドゥルク。


「な、なんて野蛮人なの…(わたくし)やレイナードの言うことを聞かないでドゥルクだけ聞いて…」


少女は唖然の表情からワナワナと震え出した。


「それは失礼しました。

初対面の相手に自己紹介もせず、礼儀を知らないお嬢さん。俺の名はソウマ。

手伝わないならちょっとどいてて頂けませんか?」


「…む、む、む」


失礼な物言いに口をパクパクさせてみるみる紅潮する美少女は、何かを口走る前にドゥルクに手元を抑えられる。

グッジョッブ!

大声を出されては問題になるからな。

レイナードは顔を片手で押さえながら、美少女の元へと向かった。


その間にソウマは髭男達4人を順々に担ぎ上げ、物音も立てずに悠々と室内へと戻った。


髭男4人を下ろし終えると、ようやくレイナード達は3人揃って屋根上から降りてきた。膨れっ面の美少女は此方を睨むだけに留めていた。


レイナードが開口一番にお礼を伝える。


「ソウマさん、ご協力(・・)有り難うございました。こちらの者が間もなく来る手筈になってます」


バタバタと複数の足音が響き、ゾラを先頭に警備兵がやって来た。


「レイナード殿、お待たせしました。…もう捕縛しておられたのですね。遅れて申し訳ありません」


ゾラがお仕事モードでテキパキと指示を出しつつ、レイナードと話し手続きに入っている。

警備兵がロープで縛られた髭男達を連行していった。首には奴隷が付ける首輪が嵌められる。

彼等は此れまでの犯罪から重犯罪者の分類として戦奴として過酷な戦場に送られるか、終身鉱山で採掘させられるかの2択を選ばさせられるそうだ。


ゾラがレイナード殿との話を終えると、俺の方へ来て聞こえるように話す。


「ソウマ殿もご協力有り難うございます。

まさかカタリナ様の他にあのヴァリス家の方ともお知り合いだったとは…報奨金も届けさせましょう」


「いえ…彼等が動いていてくれたお陰で、他者にも怪我なくすんなりと捕まえられました。

報奨金は彼等に分配して下さい」


等とやり取りをしながら、ゾラはでは…と、去っていった。

余計な情報(カタリナ)を…後で見てろよと表情に出して見送った。


振り返るとレイナード達が待っていた。カタリナうんぬんの件はしっかり聞いていただろう。

代表してレイナードが前に出る。


「ソウマ殿、今回のお礼として簡単な食事を用意しております。どうやらカタリナ様ともお知り合いの様子、お話も伺いたいですし如何ですか?」


先程の状況が分からないゆえの高飛車な態度ではなく、俺も丁寧に対応する。


「ご招待有り難うございます。申し訳ありませんが慎んでお断り致します」


にっこりとお断りを入れて部屋に帰ろうとすると、案の定まったの声がかかった。


「ちょっと…お待ちなさい」


礼には礼を…それ以外には苦い対応をすることがが現在の俺の主義。まぁ正直貴族相手に無用な敵など作りたくはないし、ドゥルクの知り合いかつチームメンバー見たいなので無下にし過ぎることは出来ない。


「何でしょうか?お嬢さん」


アーシュはふんっとした態度だっだが、レイナードから見咎めを受けて仕方なくしゃんとした表情で向き直る。


「平民ソウマ、先程ゾラ殿から教えて頂きましたが、あのカタリナ様のお認めになった人材だとか…。

ソウマに貴族の者と戦うことの出来る名誉を授けましょう。

明日私と試合形式の勝負しなさい。それで許して差し上げます」


「…それでお気がすむのなら」


うーん、結局名乗って貰えなかったな。試合形式とは言え、明日は面倒臭くなりそうだ。

日にちは明日の明朝早く、練兵場でレイナードとドゥルクも立ち会ってくれるそうだ。


折角再開したドゥルクに軽く別れを告げたソウマは、そのまま眠りにつくべくあてがわれた部屋にて休むのだった。







ドワーフ族の中でも最高の鍛治士としての偉大なる父を持つ青年ドゥルク。

鍛治の才能を受け継ぎ、ひたすら努力してきた毎日。若くして父親の持つ店の1つを任される程に成長していく。

しかし、成長する度に過程として壁が立ちはだかる。

苦労しながらも乗り越えてきた何度目かの壁を、今回彼は崩せずにいた。


そんな時、偶然に出会った人族に自身の作品を売った事で出会いがあった。

その出会いは、此れまでの自分の鍛治士としての力量に疑問を持つ機会となった。己の作品ではその人物の力量には相応しく無かったからだ。

果たして自分はこのままで良いのか…と。


答えは未だに出なかったが、作品を回収したドゥルクには1つの目標が出来た。

いずれ、その人物に相応しい作品を打ち、力になる事を…。





アデルの街で別れ、ユピテルの町に戻ったドゥルク。

彼は其処で男女2名の人族に会う。

男は冒険者で若き青年。歳はドゥルクと同じ。

特に女は綺麗で勝ち気な瞳をしていて少女と言っても差し支えのない体型だった。しかし、驚いた事に少女…いや、彼女も同じ年齢だった。


彼等は彼女の武器である槍が折れた事で修復できる鍛治屋を探していたらしい。


見せてもらうと…成る程。


これは綿密な作りと仕上がりで拵えられたハイノーマル級の可変槍と呼ばれている武器だ。

普通の武器と違い、基本的に修復できる鍛治士は極少ないだろう。


しかし、ドゥルクはやって見せた。


ドゥルク自身全ての武器のメンテナンスや作りを幼き頃から父親に叩き込まれていなければ、手に終えなかった武器のジャンルに入っている。


修復と同時に、その芸術的なバランスで作られた可変槍の部分(ギミック)をなるべく弄らずに強化する事を勧めてみた。

幸い手元には仕入れたばかりの良質な鉄鉱石と、赤熱石がある。


修復、調整して仕上げた可変槍は朱色に染まり、美しく輝いた。



その手際にいたく感心した青年と彼女に気に入られ、熱意に共に王都まで旅することになった。


道中、それこそ様々な事に巻き込まれていくのだが…それはまた別の話となる。


同年代の彼女(トラブルメーカー)によって引き起こされる事件は、時に喧嘩、時に友情を育んだりと絆を深める結果となった。


青年はどうやら貴族のようで、その立ち振舞いから相当上の立場の貴族だろうと推測している。

無事王都まで着いた一行は、そのまま冒険者ギルドで固定パーティー登録をする。


たちまち位も上がり、困難な依頼を果たす新進気鋭のパーティーへと成長を果たした。

冒険者ランクも上がり続け、彼らの躍進は止まらない。


そこに目をつけた冒険者ギルドから2通逆指名があった。

1つは東方で起こった緊急募集依頼(ゴブリン)

もう1つは高額の犯罪を犯した冒険者の取り締まり依頼だ。



向かうところ敵なし。

当然、受けない筈がない。

現地では協力者がいるとの事であちらの兵と共に捕縛する予定であり、そう言う所は貴族である青年がいるため、スムーズな交渉が出来るはずだ。


意気揚々と王都から出発した。



そして、思わぬ所で久しぶりの邂逅を果たす。

まだ約束の剣は出来てはいない。

しかし、別の用件でドゥルクは力になると誓った約束を果たすことになるのだった。


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