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エルダーゲート・オンライン  作者: タロー


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75/88

ソウマ編 種族進化と大群と

前回話と一緒で後書きに少し文章を掲載しています。


栄光の魔鶏の文章について、つがいで変える→他にも2対のつがいと、訂正させて頂きました。


青空とただ広い草原が続く空間。時折吹く風が涼しくて気持ち良い。

そんな中でカタリナと話を休憩を挟みつつ、俺の話を聞いて貰った。

俺が訳もわからず異世界から転移してきた事を伝えると、驚きながらも納得してくれた。

やはりケルビムとの会話の端々から予測はしていた見たいだ。


「ソウマくん、大切な事を話してくれて有り難う。絶対に秘密にするよ」


そう言って微笑むカタリナに嬉しい気持ちが止まらなかった。


照れ臭さを隠しながら、外へと繋がる転送陣へと2人一緒に入った。

目の前に眩しい光が包み、次の瞬間にはふわっとした浮遊感を感じた。


光がおさまると、木々の香りと森があった。どうやら無事外に出られたようだ。

見渡す限りは見覚えのない景色だった。

俺達が地中へと入った穴付近でもないし…。


「ここは…どこだろう?」


マップを起動させると、近くにココット村の表示が小さく見えた。どうやらここはココット村の山側のようだ。

近くに自動転移なんて便利な機能に思える。時間も無駄にならないし助かったよ。



空を見上げると太陽がてっぺんに昇り少し暑い。どうやら昼のようだ。体感時間的に3日振りの帰還である。


カタリナにココット村に近い場所のようだと伝えると、彼女は驚きながらも「ソウマくんは便利なスキルも持ってるんだね」と、にこやかに告げられた。


カタリナにはプレイヤーと呼ばれる人種について簡単に説明してある。

この世界とは別の住人であり、この世界の住人が持ち得ない便利な能力や戦闘力を有していることを説明した。

因みにあのケルビムも元プレイヤーだと話しておいた。最も本人いわく転生した?とのことでそのまま能力が引き継ぎ出来ているかは不明である。


2人で何だかんだと話ながらココット村へとたどり着いた。


すると、近付くに連れて遠目からでも村が騒がしいことに気付いた。

何事かと思っていると、外の自警団を兼ねるソウマも見知った門番がこちらに気付いた。


驚愕から安堵の表情をした門番は、「急げ、村長を…」と、大声で村長を呼ぶように同僚に伝えていた。


俺達も顔を見合わせて何事かあったのだと思い、急いで村へと駆け寄る。

それほど間を置かずに村へと到着した。


「どうした?何があったんだ?!」


開口一番に尋ねると、門番は切羽詰まった表情で大声で答えた。


「大変なんだよ、ソウマ。どうやら魔物の大群が此方に近づいてるそうなんだ」


門番の泡をくったようにマシンガントークが始まるが、正直興奮しすぎていて良くわからん。


「どういうことかしら?その情報は正しいの?」


背後に来ていたカタリナが横から尋ね返すと、ピタッと喋りが止まった。

そこにはカタリナの顔を見てホッと安心感が増した門番がいた。


「ああ、カタリナ様…間違いありません。

貴女方が出発されてから丁度2日目に、ここから東にある国境の詰所から伝令が飛んできまして…その伝令の兵が言うには国境を見張っている斥候部隊が発見したとの事でして。

どうやら緑小鬼(ゴブリン)らしき大群が此方へと向かってきているそうなのです。

奴等は徒歩ですので、早くとも1週間以内には詰所へと到着する模様」


「そう…有り難う。その兵からも情報を聞きたいのだけどこの村にいるかしら?」


「いえ、既に領主のトンプソン様へと応援を求めて早馬で行かれてしまいました。

この村にも手伝える者や冒険者に臨時の緊急募集がかかっております」


そう話していると、村長が何人かの村人と駆けてくるのが見えた。村人の中には厳しい顔をしたマコットもいた。

マコットはソウマの顔を見ると少し安心した表情を浮かべて話しかけてきた。


カタリナは村長から更に詳しい話を聞くためにその場で話し込んでいる。


必然的にマコットはソウマへと話しかけてきた。


「ソウマぁ、3日振りだな。無事に帰って来てくれて嬉しいぞ」


「マコット、きっちりテイムしてきたぞ…しかし、大変な事になったな」


「おおよ、まさか緑小鬼(ゴブリン)共が押し寄せてくるなんぞ、この村が出来てからも無い話だ。

大群と言ってるが、数は目算で300は下らんらしい」


「300か…緑小鬼(ゴブリン)自体はそれほど強くないとは言え、数は多いな」


「…東の詰所は帝国と小国を結ぶ境にある。大小の村落を納めるこの地の領主様は東の詰所の兵も兼任している。この地を抜ければ直ぐに王都まで一直線だからな。

地形的に山に囲まれた天然の砦と化しててな、流石に要塞ほどしゃないが常時100名の兵が待機していると聞いている、が…」


一端言葉を詰まらすマコット。辛そうな表情に戻る。


「大丈夫だとは思うが、そこを抜かされれば俺達のココット村まで一直線だ。最悪村が無くなることや俺の家族、村の知り合いやお隣さんが犠牲なるかもしんねぇ。恥ずかしいけどよ、それが怖いし、我慢出来ねぇんだよ」


「…マコット」


心の内を吐き出したマコット。幾分すっきりとした表情と、年下であるソウマに打ち明けた気恥ずかしさとで照れ笑いを浮かべていた。


「へへ、すまねぇなソウマ。話したら少しすっきりしたぜ」


「無理もないさ。俺に話して、少しは不安が無くなるのなら構わないさ。

で、この村はどんな方針なんだ?他の村や王都に移住するのか?」


「ソウマ達がいない間に村中で決めたんだが、俺達はここから離れることはしない。先祖代々の土地もだが、王都や他の村にも知り合いなんぞいやしねぇかんな。

もし、緑小鬼(ゴブリン)達がここに来て死ぬとしたら、女子供は逃がして男衆は精一杯抵抗して一匹でも多く道連れにしてやらぁ」



「そうか…それが村の総意なんだな?」


「おう、それにここは詰所へと向かう領主様の部隊の最後の休憩所になる。

兵隊に頑張ってもらわなぁならんからな。精一杯温泉や料理でもてなすさ」


「逞しいな…ん、そう言えばテイムしてきた鳩鶏をだすぞ。繁殖力の強い魔物だから、卵はすぐに産むだろう」


温泉卵にでもする準備も兼ねて、魔獣紋のネックレスを2つ取り出す。

魔獣紋のネックレスの登録者(テイマー)は、きちんとマコットの名前になっていた。


マコットに魔獣紋のネックレスの使い方を簡単に説明して、鳩鶏を出して貰うと…。


「ソウマ、なんだこの魔物は!お前さんが言ってた魔物と随分違う感じじゃねぇか?聞いてたより何だかでかいしよぉ」


「ああ、おかしいな?しかし、コイツはまさか…」


そう、魔獣紋のネックレスから出現した魔物は当初予定していた小型の鳥型の鳩鶏ではなかった。

鳩鶏より一回り以上は大きくなり、鋭い目付きと嘴、コココッと鳴いている。

ソウマが予想した通り鳩鶏から進化していた【栄光の魔鶏】と呼ばれた魔物であった。



どうやらテイムしたことにより、ソウマの経験値の一部が鳩鶏にも流れていたらしい。

元々が対して強くもない鳩鶏であったため、エンゼルナッツとの連戦やbossである雄牛の経験値の一部でも充分な進化に繋がったのだと考えられる。



【栄光の魔鶏】は雑食であり、大きく野性味溢れる卵を産む。

繁殖力もあるため、日に何度も卵を産むことだろう。


魔物ギルドに行けば、相場は解らないが数をどんどん増やすためにも、他にも2対のつがいとなる雄の【栄光の魔鶏】がいたら買えるかも知れない。

今はこれだけしかいないがそうなると数は増え、適切に牧場として管理していけば安定した供給が見込める訳だ。

その算段もとっくにマコットはついているのだろう。

先程の厳しい表情から頼もしい商人としての表情へと変わり、自らの考えを述べる。







そんな中、村長から情報収集と話し合いを終えたカタリナは、思ったより厳しい状況にあると踏んだ。


緊急事態であることに変わりはない。

本来ならばカタリナも王国の騎士として東の国境沿いの詰所へと向かわねばならないのだが…今回は恐らくだが王国から帰還命令が下されると感じていた。


ココット村に立ち寄った詰所の兵に村長はカタリナがいることを伝えたのだと言う。

それは当たり前の事であり、一人でも優秀な者が戦力となれば自分達も助かる率が上がるからだ。


しかし、今回に置いては其れが裏目に出る可能性が高い。

王国にとってカタリナはダークエルフの里から()りている貴重な戦力なのだ。

しかも、一人騎士団と異名をとるほどの武勇を誇る。それゆえ、王国からの扱いは慎重を極めていた。


流石に国対国ならば問題は無かったのかも知れないが、軍の上層部が緑小鬼(ゴブリン)程度の戦力に最高戦力の1つである一人騎士団(カタリナ)を当てるとは考えにくい。事実、契約した何十年かはそんな事が何度もあったのだ。

念のための後詰めとして王都付近まで後退させられる可能性が高いと思われる。


伝えてなければ、巻き込まれた者として最初から参加出来ていたのかも知れないのだが…今更言っても仕方の無いことだった。

それを村長に伝えておくと、良かれと思ったことが裏目に出ていたと知って真っ青な顔をして倒れそうになっていたが、村を率いる者として何とか己を奮い立たせて気丈に振る舞おうとしていた。


領主の納める街まで早くて半日、更にその先の王都は馬車で2日かかる行程である。

時間的に既に領主の街には早馬が到着し、準備を整えた部隊がここへと到着するとしても早くて明日以降だろうと考えたカタリナは、ソウマはどうするのか聞いて見たかった。

多分、予想通りの答えだとは解っていたとしても本人の口から聞きたかったのだ。


「正直迷ってたんだが…俺は参加するよ」


ここで戦わないと、温泉旅館化計画が頓挫してしまう。

それに、ここで少しの間だけだがお世話になった人達が泣く姿を見るのが何より嫌なんだよ。


この世界に来て助けられたり、助けたりと本当に色々な思い出が増えた。


だから、俺は戦おう。



「そう、やはり君ならそう言うと思ってたわ。なら今日くらいは温泉に浸かってゆっくりと休みましょう。それくらいの時間的余裕はあるはずだわ」


ソウマは冒険者登録はしておらず、今回は傭兵枠としての参加となる。

王都の冒険者ギルドや近隣からも戦力として冒険者が集まるはず。

それらと共に動くことになるのは間違いない。寧ろ傭兵枠と言うことで冒険者ギルドの後ろ盾もないことからより危険な役割を押し当てられる可能性もある。

傭兵とは対人戦闘のプロとしての顔もあり、より危険な戦場をくぐり抜け高額な報酬を頂くハイエナのような存在だと貴族や軍から思われてることも事実。

ハイリスク&ハイリターンな側面が在ることを知っているからこそ、そこに快楽を見出だす戦闘狂の存在が忌み嫌われている。


そんな連中とソウマを一括りにして欲しくない。


カタリナはペンと紙を取り出して何事かを簡単にしたためた。その後領主軍の第一陣が来るのを待った。










カタリナの予想通り、翌朝には増援部隊として東の詰所に向かう領主軍の第一陣部隊が到着した。

先触れ兵が村へと到着しており門番から村長へ、村長からカタリナへと到着が伝わり、領主軍の第一陣が着く頃には村総員でお出迎えの準備が整っていた。



兎も角迅速な対応をすべく速さを優先した騎馬(トルーパー)隊で構成された総勢100騎。

それを率いるのは今回の総司令官をつとめるトンプソン将軍55歳。

栗色髪を綺麗にオールバックに撫で付けてある。

中肉中背のがっちりとした体型で、名工が打った鋼鉄製と思わしき全身鎧に身を包み、立派な軍馬に跨がっていた。

鞍には馬上槍が配置され、本人の腰には長剣が一本。


この地を納める貴族であり、今回は副官として倅のナルサスも同行していた。彼は父親譲りの栗色髪だが体型は違い、細身ながらも鍛えられた肉体と爽やかな青年だった。

騎士兜に父親と同じく名工の手によって製造された全身鎧には、実は魔力鉄を混ぜて軽く丈夫な作りとなっていた。

レア級までとはいかないが、ハイノーマル級の良品として只ひたすら耐久を上げた自慢の一品である。

この度王都の軍学校を卒業し、帰ってきて間もない頃にこの緑小鬼(ゴブリン)さわぎである。

いずれ領地の民を導く者として今回副官という立場で父親と共に参加してきたのだ。


村長とトンプソンは何やら話し込んでいる。

領主自ら先頭をきってやってくる辺り、フットワークは軽い感じだと思える。


それが終わりトンプソンはカタリナを見付けると、厳つい顔を綻ばせて配下数名と息子を引き連れて挨拶に近寄る。


「おう、カタリナ殿か。田舎貴族で礼儀も知らん儂だが、貴女はいつみてもお美しいままだな」


「あら、有り難う。少しは口が上手くなったのね?トンプソンくん」


苦虫を潰したような表情でトンプソンは笑った。

若き頃から知っている相手で密かに思慕した相手でもある。

この王国を長年守るカタリナにとって、領主であるトンプソン将軍は若い頃から知っている相手であった。


「ハハッ、親父殿もカタリナ様の前では形無しですね。そして、お久しぶりです。私の事を覚えてますでしょうか?」


「ええ、トンプソンJr.のナルサスくん。

貴方の生まれたときに招待を受けてあっているのよ、忘れないわ。

でも、私をお年寄り扱いするのは止めてね?」


可愛くウインクされると、美の化身のような美貌を誇るカタリナに見惚れつつ背筋がサーッと冷たくなる。

忠告の通り絶対に地雷は踏まないでおこうと思ったナルサスだった。話題を変えるためにも、背後に立つ男性に意識を向けた。


「ところでそちらの御仁は何方でしょうか?私たちにご紹介して頂けますか?」


この場に立っていると言うことは今回の件に関係があるのだろうと推測したナルサスは、ここぞとばかりに話題をふった。

そしてそれは正解だった。カタリナから放出されるプレッシャーが霧散した。


「この人は知り合いのソウマくんよ。今回の緑小鬼(ゴブリン)退治に参加してくれるから宜しくね」


そう言うなり、トンプソン将軍の耳元にカタリナは小声で短く何か話す。それを聞いたトンプソンの表情が一変する。


その行動にいぶかしむ間もなくカタリナから1通の封書が取り出された。

カタリナの行動に戸惑いつつもトンプソンの配下が受け取り、中を開いた所で眼を大きく見開いていた。


声をかけるも、本人は固まったままだ。


いい加減トンプソン本人も固まったままの配下から封書を奪うと、中には簡潔にこう書かれていた。






推薦状


カタリナ・ブラッドレイの名において、彼の者ソウマの身元と実力を保証する。

今回の緑小鬼(ゴブリン)討伐戦において一切の責任を負うものとする。


署名 カタリナ・ブラッドレイ





つまり、一人騎士団の異名を持つ人物からの推薦状。

このような事は前代未聞であり、ソウマが何か失態を起こせば全て私が責任を取りますよ…と言う内容であった。


それを教えられたソウマもカタリナの影響力を甘く見ていたと痛感した。

何故ならその場の全員から一斉に胡散臭い目線は消えたのだから。


厚い信頼に応えたいと思うのと同時に、カタリナさんや、こういうものを書きましたと俺にも教えておいて…下さいね?


いきなり過ぎてびっくりを通り越して、ひきつり笑い。手の中は汗びっしょりですよ。



「ソウマです…宜しくお願い致します」


と、頭を下げるのだった。













トンプソン将軍らは先を急ぐので…と伝えられた。

彼等はそのまま騎馬で一足速く向かうとの事で、早々とココット村を立った。

俺だけ置いていかれることはなく、道案内としてあの中で一番歳の若そうな青年が騎馬と共に残された。


名をゾラと教えて貰う。

彼はこの地を納めるトンプソン家の四男坊で、ナルサスが家を継ぐことは決まっている。

彼に残された道は他の貴族に婿入りするか、家を出るかの2択だった。

彼は家を出ることを選択した。

この戦いが終われば騎乗している馬を売り、私財をかき集めて王都で冒険者になる予定のようだ。


トンプソン家は将軍ではあるものの、領地はそれほど広くない。

その為、総勢の兵を集めても1100を下回る。しかし、鉱山を多数所有し財力と資源は豊富にあった。


田舎貴族とトンプソン将軍が言っていた通り、国境が近いこの地では礼儀作法よりも実力のみ優先される事項だ。

その為王都に近いこの領地と言えど礼儀作法は最低限、社交場で活躍する貴族社会とは無縁に近いものだった。

割とフランクな貴族というのが領民の率直な意見であり、貴族らしさの無さが好感を持たれていた。

ゾラにしてはそれでも貴族暮らしが堅苦しいと思っていたとのこと。


色んな所を旅してきたソウマの話や冒険を聞きたがった。


俺も日本人だ。余りコミュニケーションは上手では無くとも低姿勢のヨイショの精神は社会人として経験しています。


そして、そこで初めて俺が第3職業持ちだと明かす。


この世界には滅多にいない超一流の領域に立つ人種。

ゾラにはソウマがそんな凄い人間には全く見えなかった。普段ならば俄でも信じることは出来ない。

しかし、ゾラはだからこそ、ソウマはカタリナ様からの推薦状を受けているのだと勝手に勘違いした。


徐々にゾラの警戒心が薄れていき、「いやーナルサス兄貴からソウマの事を監視も兼ねて情報収集しとけって言われてたんだよ」と、ばらしてくれるくらい仲良くなることが出来て、色んな話が聞けた。



ここへは兵達の立ち寄り休憩のみに訪れたようだ。

この後に歩兵80名と魔法兵2名、補給部隊100名が東の詰所を目指し行軍中とのことで、着々と緑小鬼(ゴブリン)討伐の準備は進んでいく。


詰所約100名と騎馬100名。後続が182名と計382名。


過剰戦力(オーバーキル)では無いのか?とゾラに問うと、緑小鬼(ゴブリン)が予想以上に多く見積もっての投入数なんだそうだ。

多くとも300~400匹範囲内だと想定しているため、敵の殲滅兼此方の生存率と損耗率を考えて領主軍の3分の1程度を目安とし、尚且つ大規模軍事演習も兼ねての出撃。

親父達は緑小鬼(ゴブリン)程度、ハナから負ける要素はないと言い放っていたと言う。


確かに装備と数が揃った人間ならば、同数の緑小鬼(ゴブリン)に負けることはないとソウマも思う。


(しかし、それは緑小鬼(ゴブリン)も解っているはず…なのに、正面から討って出てきたのは何か此方を撃破する為の勝算が向こう側にあるはずだ)


そこは確信をもって感じ取れる。


きっとこのまま、味方の予想通りの展開にはならないだろうと…そんな不吉な予感が心に駆け抜けた。




因みにゴブリンは最弱のイメージが多い。

繁殖が多いために常に定期的に狩られる対象である。それはこの世界でも変わらないようだ。


しかしVRゲームの時の知識ならば、油断できない個体も多数存在している。

それとダンテの槍を覚えているだろうか?あのように高度な武具を持つゴブリン達だって少なからずいるはずなのだ。



因みにプレイヤーでも条件を満たせばゴブリンに種族変化出来るのだ。物凄く人気はないが。

好んでゴブリンへと進化したプレイヤーを一人思い出す。多分、プレイヤーとしてはその人一人だけだったと思う。

ソウマもユウトも随分お世話になっていた人物だ。










とまぁ、考えすぎなら良いけどな、と願いながらゾラに案内されつつココット村に別れを告げて後にする。





ゾラとの道中何事もなく進む。

最初はソウマの徒歩に合わせていたが、本人からの申し出で体を慣らしたいから走る(ウォーミングアップ)と、伝えた。

了承したゾラだったがソウマの走りだした途端、凄いスピードで馬と大きく差が開き始めた。

慌てたのはゾラだ。騎馬を思いっきり走らせると、途中で気付いたソウマが緩めのスピードに戻し追い付くまで待ってくれた。

そのまま騎馬に合わせて並走して走り、汗1つかかないソウマを見てゾラは驚きを通り越して感心と呆れが混ざっていた。


これが第3職業者持ちなのかという感心と味方である頼もしさ。

そして、自分達の想像を超えた身体能力に呆れ…とだ。



3時間くらいで東の詰所まで到着してしまい、ソウマはゾラは到着の報告のために別れ、代わりの歩兵に個室へと案内されていった。

ソウマは知らなかったのだが普通の兵達や冒険者は大部屋で一括りにされるのにされることに対すれば、破格の対応だったと言える。

ゾラから話を聞いて道中のことを知ったトンプソン将軍はかなり驚いて、お茶を口から吹き出したのは、後から教えて貰った話だった(ゾラ談)












一台のベッドに簡素な荷物置きのテーブルが置かれた小さな個室に案内されたソウマは、ようやく一息ついた。


そして、腰から漆黒の短剣を取り出した。

まじまじと眺め、やがてこの世界に来た経緯を思い出した。

数々との強敵に対して助けてくれた短剣に額に当てお礼を伝えた。


(今まで有り難う)


マップと気配察知で周りに人がいない事を確認すると、ソウマはクラスチェンジするためサンダルフォンの神血石を手に持った。


クラスチェンジするためのアナウンスが脳内に流れ、yesを選択。

すると、神血石(イコル)から身体中に注ぎ込まれたエネルギー源は血液が沸騰、また冷却を繰り返すような感じを受け肉体が破壊と再生を繰り返させる過程を体験した。

異物が体の中を這いまわる不快感と恐怖が襲う。

体感時間的に何時間…いや、何日も流れた気がする。しかし実際の時間にしたら一瞬。

そして何事からも全て解放された高揚感が支配した時、新しい生命が誕生する。


無事、種族クラスチェンジが完了した。



サンダルフォンの神血石(イコル)は唯一無二の最上位種族クラスチェンジアイテムである。

更にグランドアイテムとして漆黒の短剣で成功率を底上げ、加算している。

気付いてはいなかったがソウマの異界大天使(サンダルフォン)の加護も加わり、成功率を上げていた。



見掛けは殆ど変わっていない。強いて言えば銀髪に美しい紫色が一房混じっている。

これはサンダルフォンの髪色だな…しかし銀髪に一房の紫髪…厨二テイスト満載だな。気に入ってるから別に良いけどさ。


身に纏う微細な魔力までが解るほどしっくり馴染む。驚いた事に魔力量も今までとは桁違いに上がり、魔力自体の質も高い。

より一層筋肉が積層のように収縮され、しなやかさが増した身体は今までの身体が嘘のように軽い。









ついに種族進化したのだと感傷に浸っていると追加のアナウンスが脳内に響いた。


【個体名ソウマがハイヒューマン・エリヤに高位種族進化(ハイオルタナティブ)を確認。

高位存在への進化に伴い、【ー】を司る【ーーーーー】より干渉…波長が一致。

福音が授けられました。

自動書換(オートリライト)します…自動書換(オートリライト)完了しました。


スキル〈魔眼〉〈鷹の目〉を統合し、新上位スキル〈戦弓眼(センチネル・ゾーン)〉の獲得。

また固有スキル〈セフィラ(装備時弓の効果2倍)〉を獲得しました】











…………はい?






















一方、カタリナはと言うと、やはり本人の予想通り、トンプソン将軍から今回の討伐戦には参加せずに王都へと一端帰還命令が下されていた。




仕方がない…と参戦を諦め、カタリナはトンプソンに頼み込んで荷車を一台王都まで借りることとなった。

補給部隊の荷車に生命樹の実使いで手に入れた黄金実の殻と、樹齢500年の古木を載せる。

またココット村のマコットの馬車に協力してもらい、エンゼルナッツの死体とヘブンズナッツの死体を括りつけて王都の魔物専門部署まで運んで貰うことになった。


「ソウマくん、気を付けて…」


「なぁに、(ソウマ)の事だ。きっと大丈夫ですよ」


「そうね…そうよね」


胸に押し上げてくる不安がカタリナを襲う。


ココット村から出発した際、簡単な別れの挨拶をしたソウマを思い出す。


「カタリナ、君には本当にお世話になった。有り難う」


「こちらこそ…ソウマくんの武運を願ってるわ。推薦状も書いたんだしね」


「死なないように頑張るよ。ここでお別れだな。また…会おう」


お互い笑いながら…そんなあっさりとした別れであった。

ソウマ自身はモテる方じゃないし、イケメンではないと思っているから超絶美人とどうにかなる…なんての期待なんてまず思ってなかったし、カタリナと縁があればまた会えると信じていた。


カタリナは人間達の書く恋愛物語のような展開にもならないし、願ってもなかったけれど。


去っていくソウマの背を見ると、胸が辛く、寂寥感に支配された。

まだ恋愛感情に発展はしてないが、間違いなく彼女の胸の中に新しい感情の欠片が生まれていた。

族長の孫として期待され、特別な加護を持って生まれてきたカタリナは幼い頃から大人に混じって厳しい修行を行ってきた。

里のダークエルフ達には尊敬や妬みを受けたことはあっても、友達になるような気安い人間関係を築ける環境でもなかった。

カタリナもそれが当たり前だと感じていたし、祖父の厳しい中の優しさがあれば充分だったのだ。

時が経ち、美しすぎる女性に成長してからは様々な異性の人種から(主に人族)言い寄られる事が多かったものの、誰一人として心を動かす人はいなかった。


恋愛をしたことがない。

それゆえ、胸に込み上げるくるこの感情を不安だと勘違いしているカタリナ。


その感情を押し隠すようにカタリナは東の方に向けてソウマの無事を祈っていた。


カタリナとの邂逅のあと、100騎の手勢を率いて東の詰所に到着したトンプソン将軍は、馬を預け副官であるナルサスと共に司令官室へと入る。

トンプソンが来るまでの実質の国境監視の責任者である連隊長の話を聞くためだ。


出迎えを受けたトンプソンは、現在の詳しい情報を連隊長から報告を受けた。


「何…だと。それは真か!」


「はい。どうやら他から合流しているらしく、緑小鬼(ゴブリン)共は500は入るものと思われます。

その中には一際大きな個体も確認され、一直線に此方を目指しているのは間違いありません。

現在50名の部隊を一時的に展開して待機させております」


帝国側からこの詰所に来るまでの街道は、手間と暇と莫大な予算を長年かけて整備、舗装された切り抜いた石材で出来ていた。それは資金が潤沢なトンプソン家でしか出来ないことだった。


周りを見上げるほどの壁で強固に覆い、例え他国の大軍を持ってきても一気に展開出来ないようにしてあるのだ。




この街道の他には山崖と絶壁に囲まれており、この街道以外には通ることは出来ない。

その街道に緑小鬼(ゴブリン)が迫っていた。


「連れてきた騎馬兵を休ませたあと、展開させた歩兵部隊を下がらせて交代させる。街道に入る前に叩くぞ」


騎馬を活かすためには整備された街道には余り向いていない。

開けた山道は騎馬が展開出来る唯一の場所であった。


「取り敢えずはそうして…後は歩兵部隊と合流するまで臨機応変に動くしかあるまいな」


「それで宜しいかと思います。

また緊急募集をかけた冒険者も集まってきておりますゆえ、戦力的にも補充がききます」


トンプソン将軍と連隊長の方針話がまとまった所で、ようやくナルサスが口を開いた。


「冒険者で思い出しましたが、親父…ではなく将軍、ソウマの扱いはどうすれば宜しいですか?」


ギロリと睨む父親に慌てて言い直したナルサス。軍務中は公私混同はするなと、先程口酸っぱく言われたばかりだったのだ。


不思議がる連隊長にも話を伝える。すると、次第に扱いに困る表情をした。

何と言っても国の英雄でもあるカタリナ・ブラッドレイの推薦状など初めて聞いた。

前例がない以上、どのように配置すればいいのかわからないのだ。


「あの者か…取り敢えず本人の意向を聞き、何もなければ遊撃に回せば良かろう。どこに回しても戦果はあげよう、何しろ貴重な戦力であるからな」


戦に関して厳しいほどの父親が他者を誉めていた。

これにはナルサス以外にも連隊長も驚いた。


その表情を面白そうに眺めたトンプソンは、カタリナに小声で伝えられた事を2人にも教えた。


「あの者は王国にも数人しかいない程の第3職業者よ。一騎当千とは彼の者やもしれん。

それゆえ個人にしては戦自慢の儂よりも強いであろう。本人(ソウマ)は余り公表して欲しくはないようだから、他の兵達には秘密にせよ」


絶句している2人に対して失礼が無いように徹底しておけ…と、伝えることも忘れない。

しかし、気まずそうにナルサスが報告する。


「将軍、申し訳ありません…そうとは知らずゾラ騎兵に怪しい人物だから情報収集しておけと命令しました。口が軽いゆえもう知れているかもしれません」


まさかそうとは知らずに…と言う言い訳の前に、ナルサスの頭に特大の拳骨が落ちた。


悶絶するナルサスに叱責をしたトンプソンは、ため息を付きながら反省せよ…と告げた。

親子であるゆえにその程度ですんだのだと解るナルサスは、痛みに耐えながら申し訳ありませんと謝罪したあと、後ろに下がった。


そんなやり取りを見て見ぬふりをする連隊長も大変である。


その後、直ぐに報告に来たゾラに道中の話を聞いてナルサスの事を喋ったことと身体能力の高さを知り、頭を抱えたトンプソンであった。


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