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エルダーゲート・オンライン  作者: タロー


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ソウマ編 ケルビム戦の終わり

一部文章を改変させて頂きました。

「『ソウマ(くん)、本当にごめん(なさい)』」


結果、2人が揃って謝る姿が重なった。


何故こんな状況になったかと言うと…









あのあとの戦いを解説すれば以下のようになった。


変身を遂げたカタリナがケルビムへと近付いていく。


カタリナの半身体から太く鋭い蔦が剣のように伸びてケルビムを絡めとるために蠢く。

触れてはいけない…危険察知がケルビムに伝える。

それを信じまずは上空へと逃れるが、次から次へと生えてなお迫る剣蔦。

剣蔦の先端から更に生えた大きな花の蕾が、芳しい香りの花粉を噴射。


複数の花粉が死角から次々と迫る。ばらまくように噴射する花粉と直射してくる花粉。

かわしきれないと判断したケルビムは咄嗟に口をつぐむが、吸い込まずとも体表に当たれば効果はあるようでぐらりと視界が揺れる。

天使の一定水準以下の状態異常耐生値を超えて身体が痺れてきた。


逃げるスピードが失速して遂に剣蔦に囲まれて絡めとられそうになったその時、力を振り絞って武技【連爪撃】を放ち、剣蔦の囲みを強引に切り裂いて突破した。


しかし、もはや飛ぶことは叶わず地表へと滑り落ちるように降り立つ。このまま止まれば死ぬ。

その予感を信じ、ケルビムは反撃にでた。

ふらつく視界と思考を無理矢理意思の力で捩じ伏せ、大規模魔法陣が空中にて描く。

魔力で編まれた聖光の槍が20ほど、順次カタリナへと雨のように降り注ぐ。



撃ち込まれた聖光の槍は地面を穿ち、大きなクレーターを作る。直撃すれば城壁くらいならば崩れ落ちそうな威力があった。

そんな攻撃魔法が次々とカタリナへと着弾し激しい土煙と爆音、振動が暫く鳴り響いた。


状態異常もその間に徐々に快復してきていたが、万全ではなく長時間はかけられないと判断する。


ラストアタック。

全身が黄金の炎の化身と化した。4枚に翼が増え、太陽の輝きと熱量を武器にその身で特攻する。


精密な魔力制御と魔法構築。集約された凄まじい熱量かカタリナのみを襲う。


触れるだけでも灰塵と化す恐るべき攻撃は、正にケルビムの乾坤一擲の最後の手段だったのだろう。

土煙が晴れた頃には、防御体勢を整えていた黒の半身が崩れかけて原型を何とか保っている状態のカタリナがいた。


カタリナは半身から無数の影の大盾を常時展開して防いでいた。

聖光の槍こそ全て防ぎきっていたが、黄金の炎による攻撃は影の大盾のリカバーを大幅に超え、新しく展開するもダメージ量が上回り過ぎてカタリナ本体に決して浅くないダメージを与えていた。



その事に気付いたケルビムは再度攻撃に移ろうとしたのだが…何故か身体が動かないことに気付いた。


知らない間に自身の影から黒き剣蔦が生えており、ケルビムの翼と手足に絡みついていた。


勿論ケルビムは黄金の光炎に身を守られている。

しかし、煙を上げて影剣蔦が燃やされてもそのダメージを上回るほどの再生能力を活かして、炎ごと徐々に徐々に侵食していったのだ。


いや、炎のエネルギーや魔力が喰われていると認識した方がいい。



「ツカマエタヨ」


再生されていくカタリナの黒い半身からゾッとするほど美しい男性の声がした。


女帝と貴公子の混合能力。触れるモノを蝕吸(エクスプリス)する。

瞬く間に全身に這った影剣蔦が一気に栄養(エネルギー)をカタリナに送り、欠損させた身体を瞬時に再生させた。


「ビミ…モットヨコシサナイ」


更に逆の半身から恍惚した表情と声色で呟く。

抵抗するケルビムに、カタリナのサブ職業である秘魔騎士(ルーンナイト)の最大威力を誇る範囲攻撃がケルビムを襲い、跡形もなく葬り去ったのだった………。









とまぁここで…あ、れ?俺の出番は?

ソウマは立ち尽くしていた。








と、言うことで上記にある状況に戻る。

二人がきまずそうに渾身で謝り続けていることになったのだ。



「いや、見応えのある戦いだったし…いいよ」


ソウマとて思うことはある。しかし…そこは外見と違う。心はおっさんで大人だ。

折れねばなるまい。

ええ、手も怪我もしてたし…いじけませんとも。




因みにケルビムの身体はカタリナに吸収され尽くしてもうない。

今はスペアとしての身体…小さな翼の生えた水晶(クリスタル)のような存在になっていた。

戦うスペックは無いそうで、後は説明と褒賞を渡して自動的に消滅するエネルギーしか残っていないことを伝えられた。



そのカタリナは憑依が解除されると、蒼白の表情をしていた。すぐに地面へた倒れ伏した。


どうやら魔力欠乏が著しいらしい。

今回カタリナの里の守り神のような存在を身体に降ろして戦ったようなのだ。あと少し戦闘時間が長引いていたら負けてたよ…と苦笑していた。

ただ、あれほどの戦闘でも一部解放だったらしく、意識はあったとのこと。あの変身?にはまだ秘密はありそうだが、詳しくは語れない…と、カタリナは口を閉ざしている。

今はそれだけでも聞けた事に感謝しよう。




『じゃあソウマとカタリナさん。今回の試練正式突破おめでとう』


ケルビムからの祝福の言葉を受けて今回、生命樹の実使いイベントは無事終了した。


『今回はboss全員のアニマと、最下層に来るまでに倒した魔物のアニマが残ってるからな。過去最大の祝福になりそうだぜ』


嬉々として語るケルビムに、ソウマは先に言っておく。


「俺は別にいいから、寧ろ頑張ったカタリナに褒賞や祝福を上げてくれ」



『ん?ソウマがそう言うなら、規格外(カタリナ)さんさえ良ければいいぜ?』


「ん、何か失礼なことを考えなかったかな?」


瞬間、蒼い顔色のままだったが高速で飛び去る水晶(ケルビム)を余裕で捕まえ手の中に収めた。

ギチギチと負荷が水晶にかかる音がする。


『いやいや、気のせいだよ。なぁ、ソウマ(フォローしていてくれー)』


「はぁ…それじゃ、その祝福とやらの説明でも頼む(自業自得だ、南無)」


さらにピキッと水晶から悲鳴の音があがった所で気がすんだのか、ポイっと手を離した。


水晶で表情などないはずだが心なしかケルビムがやつれているように思えた。


さて、もう失言はしないとばかりケルビムは説明に移った。

祝福の内訳としては、各bossによる宝箱とボーナスがあった。








bossが産まれた黄金実の殻素材はソウマとカタリナの折半。ソウマがアイテムボックス内に一時的に預かることになった。


後は倒したbossのアニマからケルビムが魂装変換(アニマチェンジ)するとのこと。

これはケルビムが自分の意思で装備品を模倣したやり方ではなく、倒した際に残ったアニマで再構築されるので、武具か道具…果ては超レアアイテムになるかは完全なランダムになるとのこと。


雄牛は緑のアニマ、獅子は赤いアニマ、大鷲は蒼いアニマと綺麗に3色に別れていた。

そこからケルビムの魂装変換(アニマチェンジ)で生成されたのは以下の通り。





boss級の3本角雄牛撃破の報酬【聖牛面(マスクド・ギュウ)

同じく黄金獅子撃破の報酬【獅子光】

大鷲撃破の報酬【ライト・フェザーブーツ】


で、他に


3体同時撃破ボーナス報酬【トリニティ・ロッド】


智天使(ケルビム)撃破スペシャル報酬【光魔剣】





『カタリナさんからだ。こんな感じだな』


カタリナの撃破報酬の【獅子光】はbossであった獅子の鬣をモチーフとしたレア級の体防具であった。

両肩から上半身を覆うようにふんわりした鬣が輝く上質な絹のような手触りが特徴だ。

装備すれば、使用する魔法の魔力分を1回分チャージ出来るスキルが込められていた。




大鷲からの撃破報酬の【ライト・フェザーブーツ】は同じくレア級の足装備だ。

羽のような軽く強靭な魔獣素材で作られ、高度な魔法処理が施された靴である。

装備者に常時スキルとして移動速度上昇のスキルが付与されている。








『じゃあ、次はソウマだな…ん、これはある意味レアアイテムに違いない。

普通は雄牛槍(ホーンスピア)三角鎧(トライデントアーマー)何かが出やすいんだな』


「ああ、ネットで以前見たことがあったよ。

ドロップする確率も低いし、それだけ需要も少ないネタアイテムだって書いてあったな」


入手した者は魔物ギルドに即売りと言われる程のアイテムだった。


ソウマが倒した雄牛の撃破報酬【聖牛面(マスクド・ギュウ)

全頭マスク装備であり、装備自体に邪耐生(小)と自動調整機能がついた品である。そのため、装備条件を満たせばどんな大きさ、小さな魔物でも装備出来た。

スキルに自己治癒力増加(リジェネ)(中)の効果があった。


ちなみにこれはプレイヤー装備ではなく、魔物用の専門装備アイテムの1つだ。


聖牛面(マスクド・ギュウ)】魔物装備の条件は以下の通り。



①聖属性を備えていること。

②人型や獣型であること。

③装備アイテムを使用できない魔物もあり(半霊類、精霊種系統の魔物など)




そして、獅子と大鷲にも同様の魔物専用アイテムがある。

獅子は爪の出し入れが出来る攻撃主体タイプ、大鷲は翼を用いて機動力アップ、雄牛に関しては防御主体の頭装備だ。


これも魔物ギルド単位で検証した結果で、装備した魔物に黄金の爪が装着されたり、大鷲は飛翔は出来ないが翼がエフェクトとして装着されるため結構人気な品でもあった。



しかし、雄牛のアイテムで装備された例では、可愛さが全くなくなったと評判であり、折角装備しても使役する気にならないと嘆いていたそうだ。


因みにベースとなった魔物は、ガチャでしか手に入らない聖属性の妖精種で非常に可愛く有能だったと言う…それが牛主体の外見の妖精種になってしまったようでスクショを見た全員は非常に衝撃を受けていた。



その例一件だけで、雄牛に関しては装備性能はいいが、使う価値の低い不遇アイテムとの噂が絶えず、その後の詳しい能力は解っていない。

イベント自体がレアなので入手が少ないアイテムなのに、外見が微妙になる可能性があるかも知れない…苦労に見合わないハズレと称される由縁である。



ただ、ギルドのNPC商人へと売れば結構な金額に返金でき、低確率でドロップする雄牛魔物用のアイテムは試す価値も無い、売り用の不遇アイテムだとプレイヤー達に敬遠されてしまっていた。






そして前述でケルビムも言ったが、プレイヤー装備としてドロップ確率の良い他の武具である【雄牛槍(ホーンスピア)】や【三角鎧(トライデントアーマー)】は、外装や能力からかなり良品として人気があった。


全身を【生命樹の実使い】シリーズで覆うと、レアな事もあって凄いボーナスが有りそうだ。















カタリナとの話し合いの結果、3体同時撃破ボーナスの【トリニティ・ロッド】はソウマが貰い、智天使(ケルビム)撃破スペシャル報酬である【光魔剣】はカタリナが貰って貰う。


「光の魔力を秘めた属性剣なんて王都にもあるかどうか…其ほどの貴重な品なのよ?」



しきりに遠慮するカタリナだったが、彼女の力だけでケルビムを倒したし、この【光魔剣】鑑定すればカタリナこそ相応しい品だと思ったからだ。




黄金の鞘に納められた雅な意匠を凝らされた美しい剣の柄。

ブロードソードとして両手で持って良いし、片手でも持てないこともないので、小盾くらいならば邪魔にならなさそうだ。





光魔剣 特殊レア


智天使(ケルビム)撃破の証。光の粒子が集まって形取り、剣となった。この剣を持つ者は実力を認められた限られし勇者のみ。

光という希代属性を宿した剣は、立ち塞がる害悪を滅することだろう。


装備適正〈イベント攻略者のみ〉


固有武技【光剣解放(フォトンセイバー)









この説明を見た瞬間に、持ち手は俺ではなくカタリナこそ相応しいと悟ってしまった。



誰のためではなく王国民全ての為に戦い続けた彼女だからこそ、持つ価値と必要がある。

試しにカタリナに一振りして貰うと、光の魔力が残像として残り正に勇者と呼んでも差し支えないほど似合っていた。


エルフの里と王国との契約もあと少しの任期だと言うし…強力な武器だからこそ御守り代わりに持っていて欲しい。

そんな気持ちを感じ取ってくれたのか、ようやくカタリナも受け取ってくれたのだ。

代わりにもう1つの撃破ボーナスを頂くことになった。




それに俺の手に入れた【トリニティ・ロッド】もなかなかの良い品だ。

長い棒状の先端は3つに別れており、槍のようにも見える。

各先端には(エメラルド)獅子(ルビー)(サファイア)の頭部が精緻に象られた上位の魔導宝石(魔法処理を施されて加工した特別な宝石)で作られていた。








【トリニティ・ロッド】 特殊レア


生命樹の実使い3体同時boss攻略の証。

牛宝石(エナジー)は意思を司り、獅子宝石(パワー)は気高さ、鷹宝石(スピード)は自由を司るチカラが込められてた品。装備者に特別な魔法(パフ)が授けられる。


装備適正〈イベント攻略者のみ〉


固有魔技【トリニティ・ロッド(活力・筋力・思考反応速度上昇)】




一度に3つのパフを同時にかけることが出来るのだ。効果も大とレア級装備にしては極めて高い。流石は特殊レア級だ。




俺には全身に強化出来る魔法として全強化があるから使わないけど。他者や使役する魔物への強化には使いようがあるし、有り難く頂こうじゃありませんか。















『よし、じゃあこれは俺からの最後の餞別だぜ。1つしか無いからソウマかカタリナさんが使ってくれ』


羽の生えた水晶(ケルビム)が光ると、草原から木が生えて1つの実がなった。リンゴのような形状で白く光輝いている小さな実だった。


分配も終わった所にケルビムからそんなサプライズがあった。



何の実か尋ねると、生命樹の実の欠片だと教えてくれた。

この実はなんと、種族を変更することの可能な生命樹系統のクラスチェンジアイテム。

使えば雄牛、獅子、大鷲の三種類の内ランダムで能力とスキル、外見を受け継ぐことが出来るのだと言う。



クラスチェンジアイテムは種族混合=種族変更→種族進化→種族上位進化の順にレア度が高くなる。



マスクデーターとして種族相性もあると噂されており、その証拠に必ずクラスチェンジが成功する訳ではないとの検証結果もネット上にはあった。

また希少度が高くなる程成功率も少なくなる。これを補うために関連した触媒のアイテムも存在していた。




因みにユウトの魔人族は、種族混合と種族進化が一緒になった非常に希少なクラスチェンジアイテムを使ったのだと言える。





『これが本来の試練突破者の祝福(・・)なんだぜ。突破者の中でも更に優秀な資格者に更なるチカラを…って感じでな。

今回は主催者側に神気が混じったアニマが大量に流れてきてな。何者かは知らないが、この近くで神級かもしくは亜神級の存在を倒した奴がいる。

ソウマ…そんなヤバい奴がいるから気を付けろよ。これこそ何十年振りに無かったことだ』



ケルビムが友を心配して忠告してくれた。

取り敢えず、真顔で頷いておく。

すまん、それは俺かも知れないんだと心で詫びながら…。

神妙な顔で頷く俺を見て、今度は緊張を解すような声色でソウマに語りかける。



『まあ、そのお陰でこのイベント開催分のアニマと余剰分(リサイクル)を差し引いても、この生命樹の実は無理でも、欠片がギリギリ生成出来るくらいにはなったって訳だ』



「種族混合が可能なクラスチェンジアイテムなんて伝説の中にしか存在しない貴重なアイテムだよ。

私はダークエルフと言う生まれついた種族が好き。だから遠慮します。

そう言うことなら、ソウマくんが使ってみたらいいかしら?」




うーん、こういったイベントや、特殊クエストをクリアしないと入手出来ないからな。

俺の種族進化の可能性も今回のことで改めて見つめ直す事が出来た。

【ハイヒューマン・エリヤ】なにぶん初めてのことで不安に思うことが強かったのだが…なんてことはない。

心の奥底ではもう受け入れていたのだから…この世界に来れた事で授かった縁だ。

折を見て種族進化をしよう。

そう決めたら、すっきりとした気分になれた。



【生命樹の実の欠片】


カタリナがいらないのなら、貰っておくにしてもハイヒューマン・エリヤに上位進化可能って以前にステータスで見てなければ、かなり乗り気で使ってたアイテムだけに使い道に非常に迷う。




「カタリナがそう言うなら俺が有り難たく使わせて貰うよ」



白いリンゴのような種族混合のクラスチェンジアイテムをケルビムから受け取り、アイテムボックスへと仕舞う。


…頭にこうできたら面白そうだな…と、閃きのようにふとした案が浮ぶ。

流石にVRのゲーム時代には出来なかったことだけど。

考えてみたら楽しそうなので、実行に移してみることにした。








それは、テイムした魔物…この場合は該当するのは【エル】のみである。に、クラスチェンジアイテムを使うことだった。


だってこのままだと忘れて使いそうにないし、勿体無いからね。



羽水晶にエンゼルナッツをテイムした事を伝えると驚いていた。

倒せばアニマに変換されるため、この特殊な力場が働くこの場では非常にテイムしにくいのだと言う。


テイムの経緯を説明すると、大爆笑された。

水晶が震えて先程カタリナに微細なヒビが入った場所がパキリと少し欠けた。

そこまで笑わなくてもいいじゃんかよ…。


『いやぁー、笑わせて貰ったぜ。かなり希少なアイテムを使役する魔物に使わせるなんて…初めての奴じゃないか。そんな勿体無いことをする奴はよ。

実例は聞いたこともない。やってみたら良いぜ』


俺の思い付きを楽しそうに推奨した。


カタリナと羽水晶(ケルビム)が見守る中で、エンゼルナッツ種の【エル】を召喚する。


指輪から現れたエルはその場で殻を一部脱いで本体を晒す。のっぺりとして細身の木人形のような本体は俺の前で畏まり、跪く。


「エル、今からこのクラスチェンジの為のアイテムを使う。もし嫌だと感じたら直ぐに返してくれて良いからな」


跪いたままの状態で【生命樹の実の欠片】を恭しく受けとるエルは、そのまま胸元まで実を近付けた。それと同時に再度脱いだ殻がふさがり、丸く閉じていく。



胸の中央部…そこにはエンゼルナッツの魔力源の核がある。


ズプズプ…とそのまま欠片がエルと同化していくと次第にブルルと震えだした。

震えは止まらず、遂に殻は轟音を響かせ破裂。


殻の中には2本足で立ち尽くす魔物がいた。身長は1m程で前よりかなり小さい。

しかし、引き締まった感じが全体的に力強さは増していた。


全身が木目調の木で構成されていることを除けば、ミノタウルスと呼ばれる頭部から2本角を生やした牛人に似ている。

本体を守る大きな殻は既になく、身体の至るところに鎧のように配置されているようだ。

のっぺり顔の木人形状態はかわっていない。

その頭部には角の他に髪の代わりなのか、緑の葉が無数に生え揃い、頭頂に蕾の花が1輪だけあった。


「エル…なのか?」


頷く魔物を見て、ステータスを確認する。





名前【エル】


種族 牛木(モォーギュ)族 New LV0種族混合に伴い、レベルリセット


職業

ーーー


スキル

殻盾生成(E)New

回復力(小)New 盾術(G)


常時スキル

絶対忠誠New 聖属性(小) 光合成New 防御の心得New 蕾の実New 牛皮殻(モォーシェルボディ)New


魔法

木魔法(初期)





混合することによってエルのエンゼルナッツ種から生まれ変わったかのようだ。

牛木族…半獣半植物見たい。

bossという格の高い雄牛の方に似たようだ。


知能上昇とbossであった雄牛のスキルの一端の継承され、防御主体の魔物へと変化していた。


スキルも絶対服従から絶対忠誠へと進化?している。

エル本人も嬉しそうに思える。

レガリアは攻撃型兼万能型だから、タイプの違うエルの今後の成長に期待したいとこだ。


人型ってことはある程度、人用の装備品も装備出来るよな?

尻尾もあるし、色々と手直しは必要だろうからレガリアとあった時にでも頼んでみよう。


今、エルが装備出来るのは入手したばかりの【聖牛面(マスクド・ギュウ)】だけだな。

牛型の魔物となったエルに牛の全頭マスクを被せると淡い光と共に自動調整機能が働き装着された。


結果、顔だけ見れば殆どリアルミノタウルスじゃん。まぁ、小さいマッチョのガッチリした肉体に似合ってるから良いけど。


これは可愛い妖精につければ誰だって引くよな。


今更ながら、性能は良いのにこの外装じゃあ…即売りの不遇アイテムと呼ばれた理由を実感するソウマだった。





















別れの時が近付いた。

カタリナは簡単にケルビムとの別れを済まし、回復しきってないので離れた所で休んでいたいと申し出た為、ケルビムが出していった収納マジックカーペットで楽な姿勢で寛いでいた。




さりげなく気を利かせてくれたカタリナに感謝して、2人は最後の言葉を掛け合っていた。



『ん、有り難うよ。最後の最後まで笑わせて貰ったぜ』


役目を終えた羽水晶(ケルビム)は、身体が徐徐に崩れてきていた。


「ああ…こんな所で会えるとは思っても見なかった。同郷の人間に会えて嬉しかったよ」


『俺もだぜソウマ。普通プレイヤーはこの世界でも優遇されているもんだが、お前は何か違う感じがする。

あ、肉体面じゃないぞ?もっと強い何か…を持っている気がしたぜ』


「いや、更にわからないこと言うなよ…じゃ、またな」


『ハッ………………そうだな。

多分、プレイヤーは他にも存在している。探してみるもいいかも知れん。

じゃ、またなソウマ。カタリナさんを泣かせるんじゃねぇぞ』


表情は見えないが、笑っているように思えた言葉を最後に羽水晶は割れ、完全に崩れた。

崩れ落ちた場所から転送用の魔法陣が現れる。


「最期まで勘違いしやがって…Aklra。また会おうぜ」


そう残してソウマはカタリナの待つカーペットへと歩いていく。

カタリナはお茶を優雅に口にカップつけてお茶を飲みながら、こちらへと近付くソウマに片手を振る。


カタリナは何も質問せず黙っててくれてたけど、疑問に思っているはずだ。

この人なら話しても良い。いや、だからこそ話したい。


ソウマも手を振り替えして、己が異世界より来たこと等を伝えようと思いながら。

???





白銀に輝く空間に巨大な魔法陣があった。

その中央には半透明の球体のドーム状の結界の中に男は寝かされていた。

歳は20代後半程で、金髪。

甘いマスクよりは精悍でワイルドな感じのイケメンだ。


巨大な魔法陣が突如として光ると、その空間に純白の翼が生えた人間が2人出現し、寝ている男の側に寄り添う。

一人は桃色の長髪を持つ若い美女。もう一人は長身で堀の深い顔立ちの中年の美形だつた。


『そろそろお目覚めになる』


『今回は長い間であったな』


それぞれがそう呟くと同時に、寝かされていた男の目が開かれた。


『『お帰りなさいませ』』


無表情のまま、綺麗に揃って出迎えた。


『…戻ってきちまったか』


そんな一声を放ちながら、やれやれといった様子で髪をかく。

そんな金髪の男の様子の気に止めず、淡々と話し出す桃髪の美女。。


『今回は相当ご無理をされましたね。アストラル・コアの損耗が激しいです』


口調に若干の心配が入っている気がしたが…金髪の男は気のせいだと思い、話を続けた。


『そうたな…今回のケースでは俺も戦ったぜ。しかも負けちまったからな』


流石に無表情がピクリと動く。


『ほう…貴方様が』


『さぞ、大人数だったのですね。相手は何十…いえ、何百人程いたのですか?』


両者がそう聞くのは大袈裟な事ではない。

天界においてこの男性は特異な生まれで天使まで上り詰めたのだ。

しかも、同階級内では敵なしの不動の1位である。


それゆえ、尋ねたのだ。



『いや、今回は二人の内戦ったのは一人だけだ。たがな、車輪のチカラ使っても一対一で負けちまったんだよ』


それを悔しそうにではなく、ハハハッと笑い飛ばすように話す金髪男に悔いや悔しさなど微塵もない。



それを聞いた美女と中年の美形の方が固まってしまっていた。

今回は義体での参加ゆえに本来の実力とは遠くかけ離れたもの。

この男の実力を知る二人は、例え義体であってもそれを撃破するなど信じられないのだ。


それでもあの世界〈エルダーゲート〉に其ほどの強者がいたことに驚きを隠せなかった。



『お前たちもそんな感情があったんだな。天界の人間っうか、天使ってのは誰も彼もが無表情だと思ってたぜ。でも、俺はそっちのほうが好きだけどな』


美女の頬がほんのりと紅くなる。

それを横目に無表情の美形が代わりに答える。


『我らはそのような存在ゆえ…それとご報告があります』


中年の美形から報告を受け取った金髪男は、聞いてく内に顔をしかめていく。

最後まで報告を聞くと、その場で今回のイベントの報告書を簡単に主催者へと送る。

そして、頭の中を整理していった。


『ハッ…俺が寝てる間に状況は悪くなってやがるな。同僚や熾天使(セラフィム)様方はどうしたよ』


『現在別の最前線にて指揮をとっておられます。こちらの防衛にも残っておられますが、複数同時に攻撃を受けており対処されておりますが…』


『正直…同じ階級の天使と言えど貴方様の抜けた穴は埋められず劣勢。天界門はかなりの天使が増員されてますが状況は極めて不利に傾いております』


暫く黙って考え込んだ金髪の男は、よしっと一声あげて立ち上がった。

全身が光に覆われると、六枚(・・)翼を広げ、戦装束に身に包んだ。


『取り敢えずは天界門(ヘヴンズゲート)の加勢だ。そんで次は劣勢なとこに加勢だ。

さぁーてお前たち、副官だろ?俺に負けずについてこい』


『『ハッ』』


凛々しい姿となった金髪男はそういい放ち、心なしか嬉しそうにしている副官2人を伴って新たな戦場へと駆け出した。


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