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エルダーゲート・オンライン  作者: タロー


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73/88

ソウマ編 再会そしてカタリナのチカラ

見渡す限りの平原。そして青空。

地下へと降りていったはずなのに、最奥のこの階層には不思議な空間が広がっていた。


そんな中、ソウマの目の前に天使のように翼の生えた青年が降り立った。


金になびかせたくせっ毛のない髪は靡き、屈託なく笑う笑顔は見ている者に安心を与える…そんな印象を受ける。


『よっ~ソウマ。待たせたな。そこの超美人さんも宜しく』


片手を上げて軽く挨拶する知り合いに対して、苦笑いしながら同じく手を上げて挨拶する。


「久しぶりAklra…じゃなくて今はケルビムか?まさかとは思っていたけど驚いたよ」


「どうも、はじめまして。カタリナよ」


Aklraことケルビムが草原に降り立つと、手をかざし何事か唱える。

すると、地表から5m付近に魔法陣が現れた。


突然の事に咄嗟に身構える俺達に対して、ケルビムは申し訳なさそうに伝える。


『あ、ごめん。魔法陣(これ)、害は無いから気にしないでくれ』


円形の魔法陣が発光して消え去ったあとの草原には、赤と黄金の縁取りされた見事なカーペットが敷かれていた。



『折角会えたし立ち話も何だからな。座って座って。あ、お茶でも飲むか?』


そういってカーペットから紅茶の茶器セットを取り出してお茶を淹れ始めた。



良い香りが辺りに拡がる。しかも嗅いだことがある香りに思わず顔も緩む。

何だか警戒するのも馬鹿らしい。これが誘いだったとしても、それならそれで構わない。


そう思ったソウマはカーペットへ土足で上がり、ご馳走してもらうことにした。

その様子を見たカタリナも警戒を完全には解かないものの、カーペットへと上がってしずしずと座る。


『ほい、とりあえず飲め飲め。砂糖は好みで入れてくれ』


そう言って差し出された茶は、日本で飲んでいたアールグレイと呼ばれた紅茶に味が似ていた。

記憶と共にしんみりとした気持ちが甦り、思わず、ジーンと目頭が熱くなる。


「美味い…な」


何とか絞り出すように言うと、嬉しそうにケルビムは笑った。


『そりゃあ良かったぜ。なるべくあっちにいる時の味を際限するのは苦労したんだぜ?』


紅茶を楽しむこと暫し。飲み終えると早速本題に入った。


「ご馳走さま。早速聞くけど、これはどういった状況なんだ?」


ケルビムはティーカップを置いて、腕を組ながらソウマへと向くと


『んー、説明しにくいなぁ。

それに簡単に言うとソウマの知ってるAklraじゃない。ぶっちゃければ、その男(Aklra)を元に作られた存在って感じだ』



「どう言うことだ!?」


いきなりのカミングアウトに、驚きを超えて話す男の正気を疑ってしまう。


『おーい、そんな可哀想な人を見る顔で見るんじゃねぇよ。

そのAklraっていう元になった人間はもう亡くなっている。

あ、勿論殺された訳じゃない。この世界でちゃんと寿命で亡くなってるよ』


無言で先を促す。


『うーんとな、この世界で生きたAklraのアストラルの一部と肉体を契約の元で再生(サルベージ)…いや、厳密に言えば転生させたような存在なのさ。

記憶に関してもある程度は引き継がれる。だからソウマの存在も僅かながらに覚えていた。

さて、この事に関してはこれ以上先は禁則事項に引っ掛かるから言えない』



衝撃過ぎて言葉にならなかった。

ようやく会えた同郷(プレイヤー)は俺の知っている存在では無いよう…だ。

驚きから立ち直れないでいると、カタリナが心配そうに此方を伺いながら質問をする。


「じゃあ、突然現れたこの状況は一体なんなの?」


『あぁ、これはね…複雑な理由も含めて資格者の為の試練なんだ』


「資格者?」


『そっ。これも詳しくは内緒なんだ』


両手を合わせてごめんのポーズをとるケルビム。




「そう…じゃあ次の質問よ。この戦いは何のためにするの?少なくともこの異常な現象…私は聞いたことも見たこともないわ」


『うーん、世界(エルダーゲート)には伝わってないんだと思う。

この試練は資格者が負ければ糧となり、打ち破れば試練の内容の記憶を消されるから、実際には伝わってないかもな』


参加しないって手もあるし…と、付け加えた。


「…つまり、どちらに転んでも平気だから貴方はペラペラと教えてくれるのね」


ケルビムは笑いながら、悪びれずに肩を竦める仕草をする。


『ご名察。で、本来なら資格者とその参加者で俺達の内のどれか一体を打ち破ればOKだったんだけど…ちょっと例外もあってね』


「例外?何かしら」


カタリナを指差し、ケルビムは語る。


『まずは超美人のカタリナさんの存在。

本来ならこの試練は資格者を含め、多人数で攻略してもらう必要が在るんだけど…今回は参加者が貴女だけだった。

しかも、強すぎた。此方が用意した試練に1対1で容易に打ち勝てるほどの…普通は無理なんだけど』


真剣な眼でカタリナを見つめる。


『色んな対応を兼ねる裏の存在であり、監視も兼ねてケルビムの存在はいるんだぜ。

俺はカタリナさんの介入を防ぐために、まず少し様子を見てから用意した隔離空間へと入って待っててもらうつもりだった。

その間に試練の最終bossである雄牛、獅子、大鷲のどれか一体がソウマの実力を測るために』


「そう、だっのか」


ようやく心の整理がついたのか、掠れた声で呟くソウマ。


『ああ、でも結局様子見の為にけしかけた大鷲が即やられちまってなぁ。意味無かったぜ』


アハハと呑気に笑っているケルビムに反省の色はない。


「つまり、もう試練は終わったって事なのか?」


『そう言うことだ。ソウマは文句なしの合格だぜ。

俺に挑まずにこのまま試練を終わらすこともできるぞ』


「その言い方なら、貴方(ケルビム)に挑むことも出来るのよね?」



挑戦的な言い方をするカタリナは、このまま終わらすことはしないと表情で物語っていた。



『勿論だぜ。(ケルビム)に勝てれば隠しboss専用の豪華(スペシャル)商品GETのチャンスだ』


実は普通の者ならば耐えきれない程の重圧をカタリナだけに意識的に放っていた。

それにカタリナは気付きながらも臆した様子は一切見当たらない。


寧ろ、それが普段よりも好戦的な態度へと繋がっているようだ。


恐れずに立ち向かう姿勢を気に入ったようで、ケルビムは戦意をみなぎらせる。


だがよ…と、少し声を落として真面目に語る。


『因みに前の資格者とその参加者達も同じような状況だった。人数は前の方が圧倒的に多かったけどな。

生き残れた者達で試練は乗り越えたが…調子にノッて(ケルビム)に挑んで全滅したぜ?

それでも()んのか?』



発生条件も判明せず、滅多に起こらない【生命樹の実使い】イベント。

その人達はそんなイベントに遭遇して生き残れただけでも儲けものだと思う。

しかし、欲望とは際限のないモノ。



前の資格者は第2職業者で魔法使いあったが、大規模なパーティー組んでいた所でこのイベに遭遇したそうだ。

資格者が冒険者としてギルド登録していたこともあり、24人(6人4組)が偶然にも参加者として参戦することになる。

このギルドを率いる引率者のリーダーは第3職業の剣士で、この世界での超一流の領域に達した人物だった。

そして、パーティー全員がこの地中へと潜り、進んでいく内に未知の迷宮として勘違いして攻略へと動き出したそうだ。

最終階層に着くまでに何人かは死亡したが、人数にモノを言わせてクリアする事が出来たのだ。


苦労して獅子を倒したあと、宝物が無かったことや倒した魔物も光となって消えていくことで、素材もなにもないと相当腹が立っていた様子だ。

まあ、何人も死者をだし、尚且つ得るものがないと解れば腹もたつのかも知れない。


そこへ試練の終了を伝えるためにケルビムが空から現れると、いきなりの罵詈雑言が絶えずに話を聞かなかった。

また、一見して解るほどの逸品の装備品を身につけていたので、奴は魔物だと一方的な宣言をしてから、殺して奪い取ろうと襲いかかってきた。


結果、誰一人残さず全滅した。


彼等はケルビムに挑むだけの実力があったのかは解らないが、見極めがつかなかったゆえに全滅したのだと推測される。


命を大事にした方がいい。


それを踏まえてなのかケルビムから、先程の倍以上の重圧が波動となってカタリナに迫る。

気の弱い者ならばそれだけで恐慌に陥り、下手をすれば死んでしまうほど重く、苦しい重圧であった。



カタリナはその全てを真っ直ぐに受け止めた。


明らかな強者の威圧…そんな相手に巡り会えたのは何十年振りかしら。


ピリピリと眼力だけでも相当強者のプレッシャーを感じた。


言葉など不要。


自身の全てを懸けて戦える相手の出現に、歓喜の武者震い。


それを見たケルビムは、眩しそうに眼を細めてソウマに向き返った。


『だとよソウマ!お前はどうする?美しい女性がこう言ってんだ』


「…戦った場合、倒せばお前は死ぬのか?」


こうなった以上戦うことに最早躊躇は無いが、それはどうしても確認しておきたかった。



『ハッ…いいねぇもう勝てる気でいやがんのか。

心配無用だよ、バカヤロウ。

ここにいる(ケルビム)は仮の身体だ。精神体だけが黄金実に受肉してるだけの存在だ。

例え死んでも天に還るだけで、本体は別にあるから平気だぜ』



サンダルフォンが焔巨人に憑依した時のようなモノか?


「わかった。なら…存分に戦おう」


カタリナは小剣を構え、ソウマもフォースダガーを握りしめて臨戦態勢を維持する。



『ハッ、ソウマ達は死ぬかも知れないってのに…嫌いじゃないぜそう言うバカはよ…じゃあ、ちょっと待ってな。

魂子結合…っと、よし、魂装変換(アニマチェンジ)


莫大な魔力をその身から発し、魔力の渦と魔法陣が複数ケルビムを覆っていく。

白と紺のローブを脱ぎ捨てたケルビム。




ローブの下から現れたのは青色(ブルー)で縁取りされ、防刃、耐魔法に優れた聖銀で編まれた戦闘服だ。

その背部からは白翼が覗かせていた。

両手には清らかな魔力光を放つ聖銀甲で出来た金属のグローブタイプの手爪、下肢には膝下や脛を守る聖銀脚絆のセット。


その武具らは魔力を纏い、どれもが精緻な紋様が刻まれた匠の逸品揃い。

これをセットで集めるとなると、その素材の希少さと金額からA級冒険者でもない限り1つとして集められないだろう。


しかし、ケルビムの顔は浮かない。寧ろイライラしているようだ。



『チッ、折角アチラに干渉して変換してもやっぱり聖銀級の劣化武装かよ。

顕現した黄金実(カラダ)だけじゃあ、俺本来の武装の聖王銀級までの顕現は難しい…か』


ジャンプしたり、軽く動いて動作を確かめている。


『武装はイマイチだけど仕方ねぇな』


「イマイチって言ってるけど聖銀製の武具…祝福を受けた錬金術師が長い時間をかけてようやく僅かな聖銀を作ってると聞いたことがあるわね」


更にその上位金属である聖王銀などカタリナは初めて聞いた。

つまり、それらを装備出来るだけの実力者なのだと感じた。

それに見たこともない魔法?魂装変換(アニマチェンジ)なんてどの文献や伝承にもないジャンルの魔法。


天使族特有のなのかしらね?


「相手に不足な無いようね…ソウマ」


「だな。どうやら俺の知ってる以前の職業と同じような格闘メインの戦闘スタイルのようだ。

でも、魔法も自在に使えるようだし、天使系なんて初めて戦う。うん…全く油断は出来ない存在だな」


「私も天使と呼ばれる存在と戦うことは初めてだよ。

彼等は滅多に姿を表さないし、今回の事がなければ架空の存在だと思っていたよ」



『そりゃあ、俺も自分がこんな存在にならなきゃ知らなかったぜ…準備はいいか?』


ケルビムが会話に加わり、俺は無言で頷き返す。


『お互い、初めて同士の闘いだ。楽しみだぜ。

…手加減はできねーから、死ぬなよ。俺を倒してみせろーー』


それが合図となり、戦闘の始まりとなった。
























『我が身を守れ、聖衣(ホーリーコート)


上位の聖職者のみが使える聖属性魔法で、聖護防御(ホーリープロテクション)よりも高い防御力を個人に与える薄い膜状の魔力がケルビムを覆った。


それと同時にカタリナが中距離から木弓を引き絞り、可能な限り速射を始めた。


高速で放たれる矢をケルビムは華麗なステップて舞い踊るように避け、ジリジリと此方へと寄ってくる。


カタリナも当たらないと悟り、弓を仕舞い接近戦へと切り替えた。


ソウマはと言うと、そのカタリナの行動をじっと見守っていた。








実は戦闘開始の直前に小声でお願いされていたのだ。


「ソウマくん、これは命がけの闘いだとは知ってるけど、どうしても一人で戦いたいんだ」


お願いする眼は真剣。

恐らくカタリナはこの世界(エルダーゲート)でもトップクラスの実力者だ。

ケルビムの実力は未確定だが…Aklraと言う元プレイヤーであり、天使族にも変更していることからVRゲーム時代よりかなり強くなっているに違いない。

カタリナも相手の強さを感じ取っているはず…なのにソロで挑みたいのであれば信じるしかないだろう。


「…わかった。でも、ピンチになれば助太刀に入るからな」



「フフッ、有り難う。悪いけどそうなる前に自信満々の君の友達をへこませてきて上げよう」



そんなやりとりが交わされていた。


既にカタリナは小剣を構えて、ケルビムと近距離で切り結んでいた。

ケルビムの両手にはめられた聖爪手甲は火花を散らしながら、カタリナの小剣を手甲を使って器用に捌くケルビム。



そしてソウマが攻撃に参加せずに観戦している事に気付く。


『ソウマぁ!!いいのかっそれで?』


大声で確認してくるケルビムにソウマは真剣な顔で頷きを返す。


『ふんっ、通じあってるってことか!

いくら恋人ったってそこまで信頼関係を築けるたぁ…いい人を見つけたなぁ』


「こっ…恋人。いやいや違う~まだそんな…早いわよっ」


赤い顔で必死に否定するカタリナの剣速はブレず…寧ろ徐々に速くなっていく。


『まだか…そんな照れなくても良いじゃねえか。

ただの知り合い程度の関係じゃこんな命のやりとりに参加なんて出来ないぜっ…と』


カタリナが盛大な勘違いを正す前に、今度はケルビムからの両手を使った嵐のような攻撃が始まった。




余りの手数の多さに小盾だけでは対応しきれず、小剣も活かして防御に徹する。


(これは思っていたより激しい攻撃だわ。認識修正しなきゃ)


手数は圧倒的にケルビムの方が上。聖爪が魔力を帯びて光輝き、鋭さを益々上げる。

しかも、時折フェイントが織り混ぜてあるので常に集中力が求められていた。

この嵐のような苛烈な攻撃にカタリナは反撃の隙もなく防戦一方になっていく。


稀にゾクッと危険信号が走り、瞬間ケルビムが両手を交差させる。

その感覚を信じ、多少身体に怪我を負ってでも回避に徹した。

今回もその感覚に従って全力で真横に避けると、その場所が突然空気が割け、草原に抉られた痕だけが残る。

マトモに小盾等で受けていれば装備ごど真っ二つになっていただろう。


ケルビムは翼を使い、飛翔する。

身体の至るところに大小の傷があるものの、それすら美しいカタリナに向かい声をかけた。


『流石ソウマの選んだ女性だよ。美しいだけの存在じゃねえ。

俺の武技すら、ここまで防がれるのはなかなかねぇ経験だよ』


その声には紛れもない称賛が込められている。

事実、前回の者達は資格者、参加者を含めてもこの攻撃ラッシュに耐えることすら出来ずに全員沈んだのだから。



「ふぅ…お誉めに預り恐悦だよ。でもまだ終わっちゃいないからね」


距離が出来た間に精霊門を開き、木精霊(グリーンウッド)を身体に宿らせた。

傷の修復が始まっていく。ケルビムは空中で余裕そうに待ち構えていた。


(うーん、このままだと決め手にかけるわ。じり貧になりそうだし)


身体の怪我はすっかり治ったがケルビムの一撃一撃が重く、神経と精神をすり減らされていくため、気だるさは残っている。

攻撃を受け続けた装備は至るところに破損が広がっていた。

特に酷いのは苛烈な攻撃を受け続けた小盾だ。

破損し割れていないのが不思議なくらいの損耗を抱えていた。



それから幾度となく切り合う。


戦いの中でわかったことがある。およそ人間ではなく魔物かと思うほどのチカラを有しているケルビムの筋力。

力では負けている…が、純粋な技量ではカタリナが上だ。

その証拠に神業のような技量で針の糸ほどの隙を作らせ、ケルビムの攻撃をかいくぐって何度かダメージを与えることにも成功していた。

しかし、精霊の小剣の切れ味を持ってしてでも身体を覆う薄い膜状況の防御魔法である聖衣(ホーリーコート)の魔法に阻まれて、致命傷は与えられずにいた。


時折挟んで攻撃の聖属性の魔法を使い始めたケルビム。


聖属性魔法の低位に位置する聖杭(ホーリーニードル)が2本が上空より襲いかかる。

1本目をかわし、2本目は小盾で何とか弾く。しかし、それによって体勢を崩した瞬間を狙い、ケルビムが召喚した一本の聖光に輝く槍がついにカタリナの防御を突破して脇を貫く。




そんな攻防が何度も続き、一進一退が続いていた。





抉られた脇から出血が止まらない。

止血する時間も治療する隙もなく動き続けているため、次第に体力と体温が奪われていく。

一般的な人間であれば、とっくに死んでもいてもおかしくない。


(このままじゃ勝てないわね…)


冷静に判断して、珍しく弱気になっている自分。


でも相手(ケルビム)に降参する、ソウマには助力を絶対に頼まないだろうと思う自分に気付くと苦笑が沸いた。

気持ちとは裏腹にHPとspは底を尽きかけていた。


攻撃がふとした瞬間に止んだ。


これを幸いにソウマから貰っていたマナポーションの存在を思いだし飲んでいると、ケルビムから声がかかる。



『カタリナさん、俺との実力差はわかっただろう?

いい加減ソウマに助けを求めたらどうだい?2対1なら俺に勝機があるかも…だぜ?』


その問にチラリとソウマの方を見ると、平然とした表情で腕を組み、此方を観戦していた。

しかし、良く良く見てみればソウマの手の内からは握りしめている腕から肘にかけて、草原にポタポタと血が斑点のように滴り落ちていた。


(ソウマくん平気な顔して本当は…私の我が儘に付き合ってくれているのね)


それを見てクスッと笑ったカタリナは、緊張感を取り戻し集中力を高めていく。






さぁ…余計な心配をかけさせたお詫びに、カタリナ・ブラッドレイの闘いを見せて上げましょう。




すぅと目を細めたカタリナは、自らに暗示をかける。

禁じ手を使わねば勝てないと覚悟を決めた証。


(お祖父様、カタリナは今一度封印を解きます)


心の中で心配そうな表情を浮かべる唯一の身内(そふ)に詫びて、精神の奥底に眠る何重もの戒めの一部を解除。


一部と言えども、我が身を壊さんばかりにどっと注がれてくるチカラの奔流に逆らわず、ただその身を任せ融和していく。


何かがカチリと噛み合った瞬間、カタリナの意識と深く繋がれた精霊が高位憑依(アストラルポゼッション)した。


それは、かつてカタリナが一人騎士団と異名された戦いに相応しく、禍々しさと神秘的で目が離せない魅了(うつくしさ)のチカラを兼ね備えた最凶を携えて…。















ケルビムはカタリナにソウマへの助力を請うことを伝えると、自らも周囲の魔力を吸って取り込み始めた。

表面上は余裕そうに見えても結構な消耗を強いられていた。

それでも余力はあったし、このまま戦ってもカタリナに勝てるだろうと正確に見切っていた。


それゆえ、突然目の前に現れた存在に最初は気づけなかった。

いや、本能が気付くことを拒否(・・)させていたのかも知れない。



それほどまでに信じられない存在(カタリナ)が目の前にいた。

しかし、ケルビムとて歴戦の戦士なのである。無意識に感じた畏怖を押さえ込み、無理矢理意識を目の前の存在へと、より強く集中させた。



((おいおいおい…何の冗談だこれは))




目の前にいる存在が本当にカタリナなのか?


翡翠色の美しい髪は左右に別れ綺麗に半身が黒く染まっていた。

いや、溶けているような流体に近い黒い染みのアレは…生物が見てはいけない別のナニカだ。


そしてもう半身は目が離せない程の魅了を携えた絶世の美女。

身体を素肌と木葉で覆う扇情的なその姿は、複数の触手が身体にまとわりついて獲物を捕らえて離さない天性の狩人だ。







両極端な存在をその身体に宿したカタリナは、その場に動くことを許さないまでのケルビムにプレッシャーを与え続ける。






ケルビムが臆する存在とは何か?


それは太古の森の番人でもある神森の女帝ドライアド・クィーンと、滅びた月に住んでいると言われている影の貴公子シェイドムーン。


どちらも神話にしか登場することのなく、伝説級の存在であり人が気軽に触れてよい存在ではない。



『ハッ…良くは知らないが、ソレが只者じゃねぇことは畏れ多いほどの精霊格(プレッシャー)を通じて解る。

いやー、只のエルフじゃなかったんだなカタリナさん。前言撤回だ。俺の方が本気出さなきゃ死ぬぜ』



右手には装備していた精霊の小剣が手に同化していた。

左手には小盾が黒い染みのような影となり、幾つも分裂を繰り返して周囲に漂い、大きな盾を形成していた。


艶然と恐ろしくも目の離せない笑みを浮かべたカタリナは、ゆっくりと近づきながらケルビムとの戦いを再開し始めた。




魂装変換(アニマウェポン)→(アニマチェンジ)へと変更させて頂きました。

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